第17話:BOSS戦 戦慄仲間割れの罠!
ふぅ……何度目の溜息だろう。
手に持った剣は、すでに刃がボロボロだ。
チョコは手がプルプルだが。
汗をぬぐって、再度剣を構える。
カナタが俺たちを待っている。
本を読みながら……
おかしいな。
ここ、ダンジョンだよな?
その寝椅子みたいなのは、どこから出した。
マジックバッグからですね。
聞くまでもない。
そうじゃない。
なぜ、あいつはこんなガキンガキンと激しい金属音が鳴り響くなかで、優雅に読書なんて。
本てのはな、高級品なんだぞ?
間違っても、ダンジョンでの暇つぶし用に持ってきていいもんじゃない。
そもそも、ダンジョンで暇つぶしってのがおかしいだろ!
突っ込まないと決めた俺の心は、とっくに粉々だ。
ストレスとイライラが自制心を上回った結果だ。
セーフエリアの中でも休憩所とよばれる安息の地を抜けたら、そう遠くないところにあるもの。
そう、ボス部屋。
これ、ダンジョンのほぼお約束。
ガイーンという音がする。
「うう、手が痺れます」
そして、チョコがメイスを取り落として手を見つめている。
その手は、プルプルと震えている。
ここのダンジョンの中ボスはアイアンゴーレム。
ただのアイアンゴーレムじゃない。
マジックアイアンゴーレム。
魔法を使ってくる。
たまに。
「魔法をしばらく避け続けたらいいよ」
というカナタのアドバイスを信じ、チョコと二人で避け続けた。
何回か被弾して、呆れた表情で緑色の液体をシャバシャバと掛けられたりもしたが。
主にチョコが。
レベルが上がっても、経験が足りない。
チョコは。
何も考えずに避け続けるから、壁に追い詰められたりするんだ。
ほぼ単調な行動しかできないゴーレムの方が、賢いなんて。
いや、なんかあのゴーレム妙に張り切ってたな。
カナタを見たときに、目の部分にあたる魔石が赤く光ってたし。
「あれ? 制御が……」
っていう、俺でもチョコでもカナタでもない声が直後に聞こえたのは、幻聴だったのだろうか。
とにかく避け続けてたら、途中で突進と腕降り攻撃にシフトチェンジしてた。
当たらないからあきらめたのか、次の行動に移ったのか。
違うらしい。
動力も魔力だから、魔法を連発しすぎるとやがて動きにまで支障をきたすらしい。
「プロならそこに気付かせずに魔法を打たせ続けて、気付いたらやっこさん手遅れ。そこをスパンと倒すのがお約束なのに」
どんなお約束だ。
魔法を使えなくても、金属の塊だぞ?
フルアーマーの騎士よりたちが悪い。
なんせ、中身まで金属だからな。
はっはっは。
笑い事じゃない。
俺とチョコの努力の結晶。
それが、いびつにデコボコになったゴーレムの外装。
でもさ……割と、厚みがあるからダメージは入っていない。
何をさせたいんだ。
今回に限りあまり、指示も出してこないし。
「そろそろか……」
ようやく準備が整ったのか?
何か円台状のものを持っているが。
おっ上がめくれるのか。
そして、取り出される二本の棒。
何かの魔道具だろうか?
その棒をおもむろに円台状の何かに突っ込む。
出てきたのは細長い肌色の何か。
というか、パスタだよなあれ?
上というか蓋を開けたらというか、途中からというか。
物凄く良い匂いがしてたもんな。
ゴクリ。
横を見ると、チョコが喉を鳴らしていた。
美味しそう。
俺も、そう思う。
美味しそうな魔道具の中身を……おもむろに口に運ぶカナタ。
「やっぱり、たまに食べるジャンクなもんは美味いな」
ジャンクの意味は分からないが、美味しいのは知ってる。
匂いで分かる。
そして、すでに子供の口調ですらない。
チョコがゆらりと立ち上がる。
その視線の先はカナタ。
手に握られたのはメイス。
そしてその手は力いっぱい握りこんでいるのが分かる。
気が合うな。
俺も、手伝おう。
「そいつ倒したら、一人一個ずつだすよ」
回れ右。
なにっ、チョコがいない?
すでにゴーレムに肉薄したチョコが、メイスを思いっきり振りぬいていた。
先ほどまでは手のしびれに対する恐怖心からか、そこまで思い切った感じで振っていなかったが。
文字通り渾身の一撃。
そして、ゴーレムの身体が大きく揺らぐ。
「あれっ?」
「完全に振りぬいたら、衝撃が抜けて反動が少なくなるのなんて常識」
確かにな。
振り抜けた相手が、よろめいてくれたらな。
耐えられたら、さらにでかいダメージを負うことになるけどな。
「行ける」
いけないと思うけど、頑張れ。
俺もようやく覚悟が決まった。
「あちゃー」
ゴーレムがドシーンと音を立てて倒れると同時にそんな声が聞こえてきた。
よく分からないけど、勝てた。
レベル的には勝てて当然なんだろうけど。
やけに、動きの良いゴーレムだったし。
流石ボスだな。
そして、カップラーメンと呼ばれる食べ物がご褒美に貰えた。
もらえたけど、必死で戦った後だから暑い。
そして、この食べ物も熱い。
思ったほどじゃ。
「はふっ、はふっ、美味しい! 美味しいです!」
幸せなやつめ。
美味いのは確かだが。
「この先の階層は失敗作なんだって。改装するのも予算の関係で難しいみたいだし」
「駄洒落か?」
「おっさんじゃないんだから、そんな親父ギャグ言わないよ」
時折、おっさんくさいぞお前?
まあ、良い。
その情報の出元が凄く気になる。
「さっき居たじゃん、ダンジョンマスター」
「えっ?」
「はっ?」
いや、ゴーレムしかいなかったと思うが。
まあいい、どう失敗なんだ?
「この壁からむき出しになってるの、全部鉱物なんだってさ」
「へえ」
「好物? ダンジョンマスターの?」
チョコは少し黙ってようか。
俺も理解するのに、一瞬だけ時間が掛かったが。
「レアメタルや、魔石も混ぜ込んでるみたいだけど……」
「だけど?」
「こんなところにピッケル持ってくる冒険者なんていないでしょ?」
「まあ」
「しかも、ここから重たい金属の塊もって戻る?」
「それも、勘弁だな」
どうもボスを倒したは良いけどこれ以上進めない冒険者の為に、褒美もかねて希少な金属や魔石の混じった鉱石のある鉱脈エリアを開放しているらしい。
らしいが……これ以上進めないような満身創痍の冒険者が、元気にピッケル振るって掘削なんかしないよな。
むしろ、鉱石だって気付くのも難しいし。
よしんば気付いたとしても、指をくわえて眺めるだけ。
凄い高度な嫌がらせだな。
そのことに、辿り着いた冒険者4組目でようやく気付いたらしい。
その4組目の冒険者のメンバーにドワーフが居たらしくて、パーティで揉めに揉めたあげく手ぶらで帰ることに。
鉱石が欲しいドワーフと、先に進みたいメンバー。
かといって、そのドワーフのメンバー抜きでは、この先はどう考えても戦えない。
というか、そのドワーフがこのパーティのエース。
結果、ドワーフの男性を頑張って説得したが、どうにもならず。
リーダーがキレたら、ドワーフ逆切れ。
街に戻って、解散したらしい。
踏破まったなしとまで言われたパーティだったらしいが。
酷い嫌がらせだな。
「まあ、僕は持って帰るけどね」
そう言って、ピッケルを取り出すカナタ。
うん、件のパーティと違って、俺はこいつを止めたりしない。
だって、こいつの観光が目的だからな。
俺も、チョコも踏破は望んじゃいない。
むしろ、いやいや付き合ってる。
もし、鉱石に満足して帰るってなったら儲けものだ。
「宝石の原石もあるかもよ?」
「手伝わせていただきます」
チョコの扱い方を、カナタからだいぶ学んだな。
馬鹿と挟みは……




