第6話:カナタさんって何者?
カナタのステータスが明らかに!
後ろで固まっている4人組を無視して前をスタスタ歩いて行くカナタさん。
かっけーっす! とでも言うと思ったか!
ちょっと、カナタさんも人が悪いなー……
トップクラスの冒険者が気を遣うような大物なら最初からそう言って下さいよ。
「あっ……カナタさん、荷物持ちましょうか? 受付はこっちですよ! わたくし、エンがご案内させていただきます」
ここでカナタさんに気に入ってもらえれば、もしかしたらギルド内でも便宜を図ってもらえるかも。
えへへ……なんてことを思っていたら、ニコニコとした表情を向けられる。
だが、その目はまるで汚物を見るかのように冷たい。
「うん……知ってると思うけど俺手ぶら。それから、気持ち悪いからいつも通りでいいよ」
グサッ!
気持ち悪いとか……とうとうストレートに悪口言い出した。
アカン……どんどん、カナタさんの中のエン株が下がってる気がする。
「ですよねー……でも、本当にカナタさんって何者なんですか?」
聞いた! 聞いてやった!
ストレートに悪口言って来たから、ストレートに質問してやったぜ。
「ああ、魔王だよ」
「えっ?」
ま……魔王?
「フフッ……冗談だよ。というか、もうそろそろ受付だよね?」
うん……そうです。
この案内クソ役に立たねーって顔やめて貰えませんか?
いや、顔は相変わらずクソ爽やかな笑みを浮かべているんですけどね。
その……目が……
「そうですね……あそこが受付です。カナタさんは冒険者の登録をするんでしたよね?」
「うん、そのつもり」
じゃあと言って、先に受付に行って事情を説明する。
カナタさんはイースタンで、身分証を持っていない事。
それと冒険者に興味があるということを取りあえず伝えておく。
情けないけど、割と長い事薬草を提供してきたから、今じゃギルド職員さんのほとんどが顔見知りだ。
僕より後から入って来た子達が、先に冒険者になる度に無言で、食べ物や飲み物を差し出してくれるほど仲が良い……あれ涙が……
「ようこそ、冒険者ギルドレイクポート支部へ! 一応冒険者ギルドのギルドカードは全ての都市で共通ですので、ここで作ったとしても世界中の冒険者ギルドで使えますのでご安心を」
「なんでエン君がそれ言っちゃうの?」
受付に居たユリアさんが苦笑いしながら、こっちを見ている。
うん、何回も新人さん案内してきたからね。
覚えちゃった。
「で、貴方がカナタさんですね。イースタンという事で宜しいですか?」
「うん、たぶんそうなんじゃないかな?」
そこ言い切ってよ……
ユリアさんも、微妙な顔してるから。
「ああ、イースタンの方は良く突拍子も無い事を言って、人を笑わせる事があるんでしたっけ? 普通に驚いてしまってすいません」
うん、ユリアさんも謝らなくていいから。
流石真面目か!
ちなみに、ユリアさん……年齢は23歳、腰まである青い髪が特徴で、その目もブルーサファイアのような綺麗な青色をしている。
肌も白く、とっても整った顔をしていて男性冒険者からの人気も高い。
ぷっくりとしたピンク色の唇と、長い睫毛がチャームポイント、絶賛恋人募集中! でもBランク以上の優しい人限定。
スリーサイズは上から……めっちゃ睨まれてる。
なんで?
「エンさんいま、何か変な事考えてませんでした? これでも私D級冒険者だったんですけど?」
うん、そうでした。
この人、現場担当で採用されたのに、品と見た目の良さで受付嬢に回されたんだった。
なんでこんなに色々知ってるかって?
それはギルド職員と仲良しだからだよ。
こういった、美人なギルド職員さんの情報って、金を出してでも欲しいって冒険者の人達居るんだよね。
まあ、僕の場合は本人から情報渡されて流しといてって言われたんだけどね。
なんか、ナンパ目的の人達が多いからって、あらかじめ防衛線としてBランク以上の優しい人ってところを特に強調してくれって言ってた。
別に、気に入った相手なら職業もランクも関係ないらしいけど、僕の場合は完全に気楽に話せて頼みもしやすい友達ポジションだけどね。
この関係が気に入って、壊したくないから、これ以上近寄るなって暗に言われてる気がしなくもないけど。
「それでは、こちらでステータスの確認を行いますので」
おーっと、物思いにふけってたらいつの間にかカナタさんとユリアさんのやり取りが終わってた。
2人から何やってんだお前はって言われてます……表情だけで。
これでも年下の新人からは面倒見が良くて、頼れる(最初だけ)って定評があるんですけどね。
まあ、カナタさんの場合は自分でなんとか出来るだけの器はありそうですけどね! ははは、はあ……
溜息を吐いてボーっとしていたら、カナタさんをステータス鑑定室に連れて行ったユリアさんが戻って来た。
「で? アレ何者なの? さっきの見てたわよ」
戻って来たユリアさんに、いきなり問い詰められる。
ちなみにこっちがユリアさんの素の口調だ。
さっきまでの柔らかいってカナタさんとのやり取り聞き逃したけど、普段の物腰柔らかい丁寧な口調は、余所行きらしい。
僕にはそんな気を遣う必要はないって事で、2人のときは大体こんな感じだ。
喜んでいいのやら、悲しんだ方がいいのやら。
「それが出会ったばかりで僕も良く分からないんですよ。いや、ただ一つとんでも無い金持ちでただ者じゃないって事は分かってますけど」
「情報収集が得意なエンにしては珍しいわね。案内するほどには仲良くなったのに素性が分からないの?」
大体ここに来るまでに、素性を調べて担当の受付にそれとなく伝えているのだが、カナタさんの場合飄々としていて掴みどころがなくなんにも情報を得る事が出来なかった。
あっ、そういえば一個だけあった。
「そうそう、魔王らしいですよ」
「馬鹿にしてるの?」
ですよねー……
でも、ちょっとしか一緒に居なかったけど、魔王って言われてもちょっと信じてしまうほどには正体不明なのも事実だ。
この世界に魔王は7人居る。
つっても、世界を滅ぼしてやるってタイプじゃなく自分で名乗っている人や、純粋に魔族の王だったりする。
魔族とは昔よく戦争をしていたみたいだけど、300年前に大きな戦争をしていらい特にもめ事は無い。
普通に種族の1つとして分類分けされる程度のものだ。
交易も結んでいて、交流もある。
まあ、魔族に排他的な宗教もあるが、魔族側にも人間に排他的な宗教はあるからそこはお互い様だ。
勇者も300年前に戦争で活躍したという話を聞いて以来、存在を確認できていない。
いや、厳密には勇者も居るらしいが、魔族と戦争が無い現在ではメチャクチャ強い人程度らしい。
しかしギルド職員のユリアさんが知らないとなると、良い依頼主説は消えたと考えて良いかな。
振り出しに戻っちゃったよ。
―――――――――
「終わったよー」
そう言ってニコヤカな顔でカナタさんがステータス鑑定室から出て来た。
後ろから青白い顔をした鑑定職員の方が付いて出て来たのが凄く気になるが、人のステータスを聞くのは野暮ってもんだ。
まあ、パーティを組んだならパーティ内ではなるべく共有するのだが。
「レベルとかっていうのがあるんだね。初めて知ったよ」
「あれ? イースタンの方って鑑定のスキル持ちの方が多いって聞いたんですけど」
僕の発したスキルという単語に、過敏に反応する職員の方が気になるけど。
というか、年に数百人から千人近い人を鑑定してる職員が、あんなになるなんてどんなステータスの持ち主なんだろう……
「ほら、これが僕のステータスだ」
そう言ってカナタさんがギルドカードを見せてくれる。
―――
レベル5(10∧12)
HP33(10∧13)
MP21(10∧68)
筋力25(10∧12)
魔力14(10∧68)
体力12(10∧13)
敏捷19(10∧13)
スキル
ナイショ
―――
うん……なんだろう? ステータスはめっちゃ普通かな?
ちょっと体力無い気がするけど。
確か、レベル1の成人男性の平均が10で、女性が8くらいだったかな。
って考えると、レベル5にしてはむしろ体力無さすぎだろう。
右の()の意味が分からないけど、ある一定条件でたぶんなんらかの補助があるって事かな?
(注:数(数)は掛け算です。)
例えば10∧13なら、10から13の間で補正が掛かるって事か?
だとすれば、そこそこ優秀な人だって事は分かった! 少なくとも僕よりは。
こんな魔法職っぽい人に、補正後の筋力で負けてるとか……
(注:数∧数は乗数です。10∧12なら10の12乗で1兆です。)
なんか天の声のようなものが聞こえそうで、聞こえなかったがきっと聞こえなくて良かった気がする。
ちなみに、魔王の平均的な数値は最低でもどれも5桁を越えているらしいく伝説級の魔王ともなると7桁を越えるものも居たとか。
っていうことは、やっぱり魔王っていうのは冗談だったんだな。
少し心配だったけど、良かった良かった……
案外普通っぽいステータスで、安心したよ……むしろ、親近感が沸いて、ちょっと仲良くしたくなったくらいだ。
(注:全然普通っぽいステータスではありません)
「結構いい数字じゃないですか。筋力25あれば戦闘系苦手って言ってたけど、ちょっと訓練すればすぐに強くなれますよ! F級も割と早くなれるかもしれませんね……ただ、スキルが意味分からないですけど」
そうなんだよね。
スキルナイショってなんの冗談だよって、思わずカナタさんのギルドカード地面に叩き付けそうになっちゃった。
「筋力25?」
「ああ、そういえば横に補正値が乗ってましたね。何か種があるんでしょうけど、最大で12補正が入れば37……これって、僕より上ですよ! 僕……戦闘職なのに」
「? うん、そうなんだ……まあ、普通ならエンの方が上って事だね」
なんだろう今の間?
もしかして、僕は何か壮大な勘違いをしてる気がする。
「(さっきの職員も乗数の意味分かって無かったようだし、この世界では乗数って無いのかな? あの人も補正値かなーって呟いてたから……まあ、なら返って都合良いか)」
なんかカナタさんが小声でボソボソ言ってるけど、聞かなかったことにしよう。
というか、聞こえたけど理解出来なかったし。
はっ! 理解出来ないと言えば!
「ちょっ、危うく流されるとこでしたが、このスキルナイショってなんですか?」
「ん? ナイショ!」
なんじゃそりゃー!
答えになってない! いや、答えにはなってるけど、そうじゃない! そうじゃないんだよ!
カナタさんはニコニコと笑いながら、僕を無視してカウンターに戻ると僕の方に視線で合図を送る。
ん? なんだろうと思っていると、額に握りこぶしをあててる……あっ! そうだった!
「そうそう、ユリアさん! これ取ってきました」
僕はそう言って、机に角ウサギの角を転がす。
「ついに! 取ってこられたのですね!」
あっ、カナタさんが居るから余所行きの口調に戻っちゃった。
でも、その表情は驚きに満ちていた。
次回はエンの昇進回の予定です。