第13話:第10階層~一休み、一休み~
「本当に限界です」
チョコが10階層に降りてからしばらく進むと、地べたにへたりこむ。
「心が……心が痛いんです! 生物の命を奪った時のグチャっとした手の感触とか」
さっきまで、ヒャッホーとかって言ってたやつのセリフじゃないな。
とはいえ、レベルも大幅に上がって戦闘に余裕が出て来たんだろ。
ようやく、意識して魔物を狩れるようになったわけだ。
恐ろしい成長速度だ。
「えー……でも、まだまだダンジョン制覇するには足りないし」
「まあ、良いじゃ無いか。しばらく行ったら休憩スペースがあるから、そこまでは俺が戦闘を受けもとう」
「せっかく、ノって来たのに」
「私は……なんて罪深い存在なのでしょう」
うんうん。
流石に冒険者を何十年とやってきたら、そんな感覚とっくの昔に置き去りにしてきたが。
チョコみたいな、駆け出しにはこれだけ大量の魔物を狩るってのは、くるものがあるだろうな。
「一人で戦うことにようやく疑問をもったわけだ……少しぬるかったかな?」
それに引き替え、このクソガキは。
なんだって、人の気持ちが分からねーかな?
チョコは女の子なんだぜ?
しかも回復職。
そんな子に、メイスを持って敵に特攻させておいて、ちょっとした弱音を吐く事も許さないなんてこいつは血も涙もないのかよ!
「ギクッ」
……
なんだチョコ、その冷や汗は?
いや、待て待て。
俺まで疑心暗鬼に囚われてどうする。
ここは、チョコの頑張りを認めてだな。
「途中から、悲鳴が若干わざとらしいなとかって思ったんだよねー……結構、余裕あったんだ」
「ギクギク」
スススっと、カナタから視線を外すチョコ。
「まあまあ、良いじゃねーか。思ったより、サクサク進んで……まだ8時間と取るべきか、もう8時間と取るべきか……休みなしで頑張ったほうじゃね?」
「回復魔法があるからね?」
「いや、傷は治っても体力までは治らないから!」
チョコの言葉に対してジトっとした目を向けるカナタ。
「ああ、もう終わり! 取りあえず休憩スペースまでは俺がやる! 決定な!」
「わーい! ジュブナイルさんかっこいい!」
「やっぱり、お人好しだった」
っていうか、このままだと俺が居る意味ないしな。
チョコとカナタの二人で制覇しそうな勢いだし。
「30階層あたりから、戦士向けカナタブートキャンプ用意してたのに」
「怖いな! まあ、ウォーミングアップもかねてってことで」
それから、俺が先頭で剣を構えて休憩スペースまで向かう。
一応、職持ちのコボルトやらゴブリンを警戒してたが、特に魔物が出てくる気配が無い。
いや、さっきまで角を曲がるごとに居たんだけど……
「ズルいですジュブナイルさん。ここ、あんまり魔物が居ないの知ってましたね?」
「ちげーよ! たまたまだって! 大体、階を潜る事に敵の数が増えてくるはずなんだけどな?」
チラッと、カナタの方を見る。
特に、変わった様子は無い。
結局、微妙な職持ちゴブリンを数匹倒したところで無事に休憩スペースに辿り着けた。
パティシエゴブリンとか、ユニーク種じゃないかな?
初めて聞いたんだが?
測量士ゴブリンも、今まで目撃例がないんじゃないか?
そして、驚くほど弱かったが。
「お疲れ様」
「ああ、ようやく一休みできるな」
「ふーん……」
カナタが物珍しそうに周囲を見渡す。
部屋の四隅に置かれた石像が気になるのだろう。
「魔物避けのお守りだ。これがあるから、この部屋では安心して休養が取れる」
「まあ、魔物は来なくても人は来られるっぽいけどね」
「そうだな……」
カナタの言う通りだ。
休憩スペースだからといって、パーティ全員で熟睡してしまうと性質の悪い冒険者にふん縛られて、持ち物全部奪われたりしたりする。
という事が一時期横行してたため、基本的には交代で睡眠をとる。
そんなのは最初のうちだけで、警戒されはじめてからそんな事を考える輩は居なくなったが。
だからといって、全員で爆睡は流石に怖い。
「取り敢えず食事にするか」
「わー、これがほぼほぼ最後の晩餐だからねー! 私も豪華にしたよ!」
チョコの鞄から取り出されたのは、干し肉とサラダ……流石に鞄に8時間。
サラダはしなしなだけど、生の野菜が食べられるだけでもありがたい。
パンに挟んで食べるんだろう。
ちょっと豪華に白パンだ。
それに対して俺は、スモークチキン。
それと申し訳程度の野菜と、スープ。
火を起こして、革袋からスープを小さな鍋に移して火にかける。
この鍋はここで捨てていく。
最初のスープのためだけに購入した、安物だ。
ここ一番という冒険では、いつもこれを用意している。
知り合いの金物屋の弟子が作った失敗作を、タダ同然で譲ってもらっている。
ところで、カナタは……
……
……
……
「えっと、カナタさん?」
思わずチョコが敬語になってしまったのも頷ける。
カナタは、鞄からよっこらせと言いながら平らな石で出来た大きな板を取り出す。
縦横3mくらいか?
それをおもむろに地面に下ろすカナタ。
あぶねっ。
ドーンという音を立て……ない
えっ?
フワリという感じで、地面に置かれる石の板。
そして、カバンから出て来たのはテーブル?
テーブルクロス?
椅子?
「ほ……本格的だな」
「このくらいは、ダンジョン探索には必須でしょ?」
「いや……その小さな鞄にどうやって入ってた?」
「普通にだけど?」
くそっ。
これだから、イースタンは。
マジックバッグ、ズルいぜ。
いや、それだけじゃない。
取りあえず、石のでっかい板をゆっくりと下すことが出来る時点で、こいつの腕力俺以上じゃね?
「ゴクリ……」
チョコの生唾を飲み込む音が、いやに大きく聞こえる。
うん……なんだろう。
幻惑魔法とかか?
ダンジョン内に幻を作り出して、気分だけでも満足しようって魔法使いも居るしな。
寝袋に入って自分の部屋を再現する幻影を作り出すだけで、ストレスが大幅に軽減されて翌日の疲労が全然違うらしいし。
そういった一環だよな?
基本的に、食べ物に幻惑魔法を掛けてリッチに……
熱量とかって、再現できたっけ?
目の前のテーブルに置かれたスープ皿から、湯気が立ち上っているが。
どう考えても幻じゃないよな……あれ。
匂いが……
そして、鉄板とともに現れるジュージューと音を立てて肉汁や油が跳ねている肉厚なステーキ。
イースタン御用達の、ライスと呼ばれる白いつぶつぶ。
シャキシャキと子気味良い音を立てそうな、ピンと張った葉野菜。
「ど……どうやってそれ出した?」
「えー? 鞄からに決まってんじゃん」
そうか……
鞄から出来立てっぽい料理が出てくることは、イースタンの中では決まってるのか。
だがな……
こっちの大陸の常識からすれば、そんな事ありえるわけがない。
「うーん、美味しい」
「ゴクリ」
「ゴクリ」
カナタが匙でスープ掬ったとたん、周囲を柔らかなとうきびの薫りが包み込む。
た……たまらん。
「なに?」
「いや、なんでもない」
「美味しそう」
カナタに怪訝そうな視線を向けられて、慌てて目を反らした……横で、チョコが涎を垂らしながらゆっくりとテーブルに近付いて行ってる。
「美味しいけどさ……自分の分あるじゃん?」
「そ……そうですけど! 折角のクエスト最初の自分的に豪華な食事も、目の前でそんなもん見せられたらただの保存食にしか見えないです!」
チョコが完全に、カナタの下についたっぽい。
ようやく、こいつの規格外の奇妙さに気付いたか。
自然に敬語で話しかけるレベル……ね。
「僕、食べ物を粗末にするの嫌いだな!」
「全部食べます! 全部食べますから! 食べ終わったら、少し分けてください!」
こいつには、恥も外聞も無いのか!
年下の冒険者にたかろうだなんて。
恥を知れ!
「おじさんも、なんでちょっとずつ近づいてきてるの?」
「あれっ? あははは……おかしいな」
そりゃ目の前でそんないい匂いさせられてたら、気になるじゃ無いか。
「はあ……まあ、これからも頑張るなら「頑張ります!」」
「俺もだ!」
「はあ……」
言葉尻を食ってチョコが返事をする。
出遅れたが、俺もそれに追従して即座に応える。
「分かったよ」
「……」
「……」
カナタが軽く手を振った瞬間に、机の上に同じ料理が現れる。
……
とうとう、鞄から取り出すことすらやめやがった。
やばい。
絶対に関っちゃ駄目なやつだった。
初めて会った時、なんで無視しなかったんだろう。
こいつなら、余裕で一人でこのダンジョンを歩き回れたんじゃなかろうか。
「美味しいです!」
そんな不安も、チョコの能天気な声にかき消されていった。
ようやく活動再開した矢先にインフルB型に……
評価してもらえると、インフルに打ち勝てそうな悪寒が……
しますん!
少しずつ感覚を掴んでいこうと思いますm(__)m




