第12話:ビルドのダンジョン9階層まで……モンスタールームへようこそ
「フフフ……このメイスの錆になりたいやつ、前に出ろ」
「チョコが壊れた」
「お前のせいだ!」
ようやく9階層まで降りてきた。
ここまで、戦闘を一手に引き受けていたチョコだったが、実はひとつ前の階層で最後の最後でトラブルが起こった。
「あっ! ごめーん!」
「ちょっ、掴むな!」
「キャッ! カナタ?」
カチッとという聞き覚えのある音。
そして、俺とチョコの袖を掴むカナタ。
光る床。
有難うございます。
転移の罠です。
「なんで、お前は罠感知を……ここ……」
「あちゃー、モンスタールームだね?」
「いや……凄い光る眼がいっぱいあるんですけど?」
よりによって、最悪の罠を引き当てやがった。
いや、なんかエイって声が聞こえた気がしないでもないけどさ。
「おじちゃーん、ぼくこわーい」
「嘘つけ!」
カナタが子供っぽく、俺にしがみついてくる。
いや、若干楽しそうに見えるのは気のせいか?
表情も口元が緩んでるし。
「おじちゃんは僕の護衛ね?」
「えっ?」
「チョコちゃん頑張って!」
「はっ?」
そう言うと、カナタがドンッとチョコを突き飛ばした。
「キャー――――!」
こちらにいつ襲い掛かろうかと身構えていたコボルト達が、一人突出したチョコに対してイヤらしい笑みを浮かべる。
そして生贄宜しく、コボルト達が一斉にチョコに飛び掛かる。
その背後にはスライムが大量に居るのが見える。
ゴブリン達もちらほら。
「いや、これチョコ一人じゃ無理「おじさんはここ! あっ、チョコちゃんメイスの遠心力を利用して一回転して?」
「はいっ!」
カナタが俺を引き留める。
っていうか、なんて馬鹿力だよ!
全力で引っ張ったのに、体重が俺よりも軽いカナタがピクリともしない。
そして、チョコは見事に一回転で周囲のコボルト達を引かせることに成功。
「あっ」
と同時に手からメイスがすっぽ抜ける。
「ギャッ!」
そして、右斜め後方のコボルトに思いっきり突き刺さる。
幸いコボルトがチョコの方に倒れ込んだため、すぐ目の前にメイスの柄がある。
「すぐ引っこ抜いて、あっ、お尻にヒールね? メイスはしっかり握ってて!」
「はいっ! キャッ!」
「ギャッ!」
「ヒール!」
「すぐ立ち上がる」
「はいっ!」
引っこ抜いた勢いで、チョコがメイスを頭の上まで掲げた状態で後ろに倒れ込む。
そして、背後のコボルトの脳天に竜の翼が突き刺さる。
さらに、ちょうど尻もちをついた瞬間にヒールを掛けたため、ノーダメージですぐに体勢を整える事が出来た。
というか、嘘だろ?
立ち上がった勢いと倒れ込むコボルトという状況で、コボルトの頭から割とあっさりとメイスが抜けて……
「おっとっと」
今度は前によろめいて、尻もちをついたところを狙ったコボルトの脳天にメイスが……
これまでのカナタブートキャンプ(?)の成果か、ほぼノータイムでカナタの指示通りに動けるようになったチョコが周囲に埋め尽くすように群がるコボルトを次々に倒していく。
「はいメイスを上に~、爪先立ち!」
「はいっ! ってむりー! こける」
ザシュッという音を立てて、また一匹コボルトが天に召される。
「おじちゃん、ちゃんと守ってよ! 僕の後ろから一匹来てるじゃん!」
「おおっ! マジだ!」
ゆっくりとカナタに近づいて来て、間合いに入った瞬間に飛び掛かって来たコボルトに剣を突き立てる。
っていうか、いまこのコボルトの爪ってカナタの頭上を超えて俺を狙って無かったか?
さらに言えば、なんでこいつはチョコの戦闘指示を出しながら背後の接近に気付けたんだ?
「回れ右! 足を大きく開いて、バンザーイ!」
「はいっ」
「ギャッ!」
「ボックスステップ踏んで、はいっ一回転」
「ギャ!」
「グワ!」
「ギャー!」
ボックスの動きに合わせて、チョコの身体すれすれを3匹のコボルトの同時攻撃が掠めていく。
だが、当たらない。
そして、回転運動に合わせてメイスの直撃を喰らったコボルトが他の2体を巻き込む。
ついでに、それぞれの手にした武器が刺さりあっている。
駄目だ……
これ以上、カナタとチョコを見てたら脳みそが腐る。
「右肩にヒール」
「はいっ!」
「両手でメイスを胸の前に~」
「はいっ!」
ガキン!
コボルトの爪がメイス弾かれる。
「そのまま前に突き出して~」
「はいっ!」
ザシュッ!
体勢を崩したコボルトの延髄に翼が突き刺さる。
そして20分後。
「はあ……はあ……ハハハ……ハハハハハハハ! 私こそ、コボルトスレイヤー! この世のコボルト共よ、我にひれ伏すが良い」
「えいっ!」
「あいたっ!」
「終わったよ?」
「えっ?」
とうとう、カナタの指示を無視してメイスを振り回しながら踊り狂うチョコに、カナタがチョップする。
割と早いメイスの動きを、全てかわして的確に額のど真ん中にチョップを叩き込むカナタに若干戦慄を覚える。
額を押さえながら、カナタを恨めしそうに見るチョコが周囲を見渡す。
辺り一面血の海だ。
「まさか……モンスタールームを一人で殲滅するとは……」
「まだだよ? 次はスライム地獄だから」
「あれ……」
「あっ……」
俺の呟きに、カナタが素早く反応する。
そうだった……
まだ周囲にスライムや、ゴブリン……
「キャハハハハハ! 死ね! 死ぬのだ! 死ぬ時だああああああ!」
「あーあ……」
「お前のせいだからな?」
周囲に散らばったコボルトの血や肉に纏わりつくように移動を開始したスライムを、もぐら叩きのようにチョコが叩き潰している。
うん、楽しそうだな……
もう、知り合いやめたくなるような絵だ。
血まみれの回復職が、凶悪なメイスを振り回してゴブリンやスライムを殲滅している。
足で、メイスで、時に拳で。
さようなら、チョコ。
お前、良い奴だったよ……
――――――
「落ち着いた?」
「フフッ! もっと敬っても良いのよカナタちゃん? このレベル21の回復職のチョコ様を」
「すげっ! 入って半日でレベルが10倍?」
チョコの発言に思わず、俺も驚きの声をあげる。
「あら、ジュブナイルさん? 私のことなんて言ってましたっけ?」
「あー……さっきまでは荷物だったが、今じゃそんな事も言えんか……」
どうやら、モンスタールームを一人で殲滅したことで、大幅にレベルが上がったようだ。
とはいえ……ほぼカナタのお陰でしかないが。
いやいやいや。
騙されるところだったわ。
よく考えたら、ここへの転移の罠踏んだのこのガキだった。
「おまっ! 上手くいって誤魔化せると思ったかもしれんが、不用意に罠なんか踏みやがって!」
「だって、綺麗な床だったから少しでも靴が汚れないようにと思って」
「靴だとっ! 綺麗な床ってのはな! 大体が……なんで、お前靴が全然汚れて無いんだ?」
「歩くのが上手だから?」
カナタの靴を見ると、さっき買ったばっかりかってレベルで埃一つ付いてなかった。
こわっ!
このガキ、めっちゃこわっ!
「それよりも、2人とも私に言う事は?」
「レベル上がって、ステータス増えてるはずなのにまだメイスに振り回されるとか……どんだけ、貧弱なの?」
「はあ? 自分の意志で戦えるようにならねーと、レベルばっか上がったところでなんの価値もねーわ! お前なんか、20年前のレベル10の俺でも瞬殺出来るわ!」
チョコが腕を組んで、上から目線で何か要求してきたのをカナタがバッサリ斬る。
ついでに俺も。
「うう……少しくらい褒めてくれても」
「思いっきりメイスを前に振る!」
「はいっ!」
条件反射で、チョコがメイスを思い切り振りかざす。
カナタに向かって。
「馬鹿野郎!」
「あっ!」
慌てて、カナタに向かったチョコのメイスを防ごうとするが間に合わない。
チョコも攻撃対象がカナタということに気付いて、一気に顔を強張らせてメイスを止めようとするがもう遅い。
その重量に逆らえず勢いのあるまま、カナタに向かう竜の翼。
そして時間が凍り付く。
「えっ?」
「はっ?」
今日何度目かの、驚きの声。
もう、一年分くらい「はっ?」って言った気がする。
「せめて僕より、腕力が強くなってから調子にのろうね?」
「……」
「……」
左手の人差し指と中指でその翼を挟んで止めるカナタ。
もうやだ……
――――――
本当は、サクッとダイジェストにして食事シーンに持ち込もうと思ったのですが……
思ったより長くなったので、休憩は次話に持ち越し。




