第9話:ビルドのダンジョン~いざビルドのダンジョンへ!~
「てめえ、よくも騙しやがったな!」
翌朝ギルドの中に入ると、居たよちっちゃいおっさん。
可愛い面して、新聞広げてコーヒー飲んでるカナタ坊っちゃん。
そして、その横に顔を真っ赤にして怒鳴りつけてるジェフ。
何があったと聞くまでも無いか。
「お前、F級冒険者だったんだってな? 何が依頼者だ! よくも騙しやがって!」
「うん? いきなりどうしたの?」
いきり立って文句を言うジェフに対して、新聞を呼んだまま返事するカナタ。
良い度胸してるわ。
ランクはF級だけど、強面のジェフ相手に一歩も引かないカナタに感心するわ。
「いかにも金持ちそうな恰好して、どうせ冒険者資格だって金で買ったんだろうが!」
「う~ん、まあ、そうでも無いような、そうなような」
興味が無いと言った様子で、新聞から目を離さないカナタ。
周囲の他の冒険者も静観を決め込んではいるが、興味はあるようだ。
見ようによっては、ジェフが怖くて新聞から目が離せないようにも見える。
……けど、カナタだからな~。
「クソが! 大人を嘗めたらどんな目に合うか教えてやるから、ついてこい!」
そう言ってジェフが、カナタの新聞を払いのけて胸倉を掴む。
ギルド職員も止めに入ろうか悩んでいたようだが、胸倉を掴んだ瞬間に立ち上がる。
「ふふっ、金で資格を買うような坊っちゃんだって思ってるんだよね?」
「ああ?」
「じゃあさ……金持ってそうな子供が冒険者なんだよ? 冒険者でも依頼人になれるとは思わない? お金があるんだもん」
「ん?」
カナタの言葉に対して、ジェフが意味が分からないといった表情を浮かべている。
だが、その一言を聞いた数人が何事も無かったかのように臨戦態勢を解く。
ギルド職員も、もう少し様子を見る事にしたようだ。
「はあ……例えば貴族が冒険者になった場合さあ……最初の頃はどうする?」
「ああっ? あっ!」
カナタにそこまで言わせて、ジェフが何かに合点がいったような表情を浮かべる。
だからお前は駄目なんだ。
「ああ、えっと報酬とは別にお金を払って、一緒に依頼もしくはクエストを受注しますね。えっとパワーレベリング的なもので、格上の冒険者を雇ったりとか?」
「うんうん、そこまで分かっててこの手は何?」
貴族の道楽で冒険者になるガキは居る。
もしくは冒険者としてのランクで箔が付くと思って、上位の冒険者を雇ってランクを上げる連中も居る。
金持ちのボンボンのガキが冒険者だからと言って、依頼者じゃないという事は無い。
冒険者だってギルドに依頼することもある。
そんなの、割と有名な話だからな。
チョロそうな依頼人だと思ってたら、正体が冒険者だと知って頭に血が上ってしまったんだろう。
「えへへ、襟が乱れてましたんで直して差し上げてたんですよ。坊っちゃん今日も良いお召し物ですね」
「はあ……なんでそれで誤魔化せると思ったのだか? まあ、面白い人だとは思うから別に良いんですけどね」
「いやあ、流石坊っちゃん! 懐が広い!」
まあ、たぶんスキルを使えばあっさりと逃げ出せたんだろうけど、そこをせずに口で態度を変えさせるあたりこのガキは良い性格をしてやがる。
とはいえ、あまり放置してても良い事になりそうにないな。
「おいジェフ!」
「はっ! ジュブナイルの旦那じゃないっすか? どうしたんすか?」
「あっ、おじさん待ってたよ! ジェフに絡まれた時から」
クソガキが!
ジェフに絡まれた時もずっと新聞見てたくせに気付いてやがったか。
まあ、気配探知が化け物どころか神並みのレベルだったからそりゃそうか。
すぐに助けに来なかった事を咎めるつもりだろうが、まあ知ったこっちゃない。
どっちにしろ、争いに発展しそうになったら助けるつもりだったしな。
「ちょっ、坊っちゃん酷いじゃないですか! あっしは単に、今日も良いお召し物ですねって話しかけたかっただけで、旦那の知り合いだったなんて聞いてないっすよ!」
「知り合いっていうか、会ったばっかりだけどね。今日はビルドのダンジョンに行くから付き合って貰うんだ」
「へえ、パワーレベ……パーティ組みなさったんですね! というか、ジュブナイルの旦那はそう言えば新人育成も手掛けてらしたんでしたね」
「まあな……で、俺の可愛い後輩に何か用か?」
揉み手をしながらカナタと俺を交互に見比べるジェフに嘆息を隠し切れないが、暗に帰れと威圧しとくか。
少しは助ける素振り見せとかないと、後でこのガキになんか言われそうだし。
「ああ、ビルドのダンジョンの浅層ならあっしもお手伝いできるかと思いまして」
「制覇!」
「はっ?」
「一応おっちゃんと、もう一人雇って制覇するつもりだけど、ジェフさんも手伝ってくれるの?」
カナタの口から出た制覇という言葉に対して、ジェフがキョトンとする。
それから俺の方を見てくる。
こっち見んな!
「ああ、カナタがギルマスに話をして指名依頼でビルドのダンジョンを制覇しろって言われてんだけど手伝ってくれんのか? 報酬は制覇の際に貰えるビルドの霊薬を適正価格の3割増しで購入してくれるらしいが?」
「えっと……今日ですかい?」
「今日だよ? 手伝ってくれる?」
俺の補足に対して、ジェフが冷や汗を垂らし始める。
まさか、こんなガキがE級の俺を頼って制覇に挑むなんて思わなかったのだろう。
「はっ、今日はいけねえ……先約があるんすよ坊っちゃん! ああ、残念だな~。明日だったらついていけたのに、本当に残念だったな! あっ、いっけね! 依頼主との約束の時間が迫ってるんであっしはこれで、失礼しま!」
「ああ、それは本当に残念だ」
「ええ、ジェフさん来てくれないの?」
「すんませんカナタの旦那! この埋め合わせはいつかしますから、あっしの事は覚えといてくださいねー!」
そう言い残して、凄い速さで消えていくジェフ。
なんだろう……小悪党ではあるがどこか憎めない奴である。
というか、ただの馬鹿だ。
「ふふっ、坊っちゃんが旦那に変わってたよ」
「気にするな。ただの馬鹿だ……というか、お前本当に子供か?」
ジェフの後ろ姿を楽しそうに見送るカナタに対して、問いかけるとカナタの雰囲気が変わる。
「酷いなー! これでもちゃんとした冒険者資格持ってるのに!」
思わず地雷を踏んだかと思ったが、子供扱いされたことに立腹だったようだ。
「毎朝ギルドでコーヒーカップ片手に新聞読んでるガキなんて居る訳無いからな」
「そうだよ! 僕は立派な冒険者なんだからね!」
「いや、そう意味で言ったんじゃないんだが……」
なんとなくはぐらかされた気がする。
それでいて、子供じゃないと認められさせられたような流れだ。
クソッ!
ガキに良いようにあしらわれて、ジェフと大差ねーじゃねーか。
まあいいわ。
取りあえず。カナタがビルドのダンジョンの途中で諦めてくれることを祈ろう。
――――――
ちなみに、チョコは約束の時間から2時間遅れでやって来た。
「すいませーん! 何故か目覚ましが鳴らなくて」
「いや、お前結構酔っぱらってたからな? そもそも目覚ましセットしてなかったんじゃないのか?」
「はっ! 何故それを! もしかして」
そう言って両肩で自身を抱きしめながら、疑わし気な目でこっちを見てくるチョコ!
予想通り過ぎるだろ!
横でカナタも肩を震わせて笑いを堪えている。
お約束な行動過ぎて、呆れを通り越してしまったのだろう。
「馬鹿な事言って無いで、行くぞ!」
「そうだねー! 皆揃った訳だし」
「ちょっ! なんとか言って下さいよ~ジュブナイルさ~ん!」
新聞を折りたたんだカナタが手を振ると、手元から新聞が消える。
そして空になったコーヒーカップの横の伝票の上に、銀貨を一枚置いて歩き始めるカナタ。
地味に新聞消したの凄いし、支払いの仕方がこなれたベテラン冒険者のおっさんみたいだから。
飲食ブースの担当職員も特に気にした様子もなく、すぐに銀貨を回収に来る。
やっぱりイースタンってのはどこかおかしいわ。
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