第7話:アンダーザマウンテン5~魔法具屋『魔女っ娘萌え萌えキュンキュン』~
意味無し回が続いてます。
「という訳で、ここがこの街唯一の魔法具屋の魔女っ娘萌え萌えキュンキュンだ!」
「いつもという訳でで始まってるけど、どういう訳かは置いておこう……その店名言うの恥ずかしくないおじさん?」
「ん? 何故だ?」
カナタがニヤニヤと聞いてきたが、普通に返したのにムスッとされた。
解せん。
というか、ただの店の名前だろ?
魔女っ娘の燃え燃えキュンキュンだから、炎熱系を得意とした店主の店だしな。
キュンキュンというのは、なんだか早そうな擬音だしな。
「まあいいや、中に入ろ?」
「あの、このメイスなんですけど~……凄く色々なものを感じるのですが~?」
「えっ? ああ、まだメイス見てたの? うーん? 良く分からないけど、袋の奥に入ってたもんだから大したもんじゃないと思うよ?」
ああ、チョコってしっかりと話した事無かったけど、マジで緩いわ。
ちょっとイライラしてくる。
どうりで、こいつと話す時他のメンバーが間に入ってた訳だ。
アーチャーの女とか、よく考えると完全にこいつ無視してたし。
というか、こんなもんが袋の奥に入ってたとか言うけどそれ、お前が持ってた袋より大きいからな?
それになんで袋に入ってるもんを把握してないんだ?
はっ! もしかして!
「衛兵さーん! こいつです!」
「あっ、おじさんこの袋も中身も僕のだからね? 中身が多すぎていつ入れたもんとか覚えてないだけだし」
大声で衛兵を呼んだが、無視された。
何故だ?
「ああ、【静寂】かけたから」
「はっ? お前、無職じゃ無かったのかよ! 魔法使いか?」
「ちょっと器用な無職です」
それは無理があるだろう。
というか、そんなちっちゃな袋の中身が把握できないとか……これだから、不思議道具持ちって奴は!
チクショー! 羨ましくなんか無いんだからな!
「いらっしゃい! チッ、野郎連れかよ!」
魔法具屋の中に入ると恰幅の良い男性が、こっちをチラッと見て舌打ちをする。
ここの店主のフェイクだ。
ちょっとした顔見知りでもある。
そう顔見知りの俺も居るんだけど?
その態度は無く無いか?
というか、俺が居なくても客に対する態度じゃねー。
お前、商売する気あるのか?
思わず溜息が漏れる。
「はあ……俺も居るぞ?」
「ああ、ジュブちゃんか……生憎とおっさんに用は無いけど世話になったから、仕事してやるよ。本日ハ何ヲオ求メデ?」
クソ豚野郎が!
それが客に対する態度か!
こいつは最初冒険者になったのだが、即行でビルドのダンジョンで仲間とはぐれて……まあ、実際は置てけぼりにされて半べそで喚いてたところを拾ったんだが。
ダンジョンでは揉み手をしながら後ろを付いてきてた癖に、出た瞬間に掌返したかのように馴れ馴れしくなりやがった。
ジュブちゃんってなんだ?
これでも、新人共からは泣く子も黙る疵顔って呼ばれてるんだぜ?
まあ、弱いから顔に傷を負う訳でもあるが……
「それが客に対する態度か!」
「痛い! 痛い! 痛い! それマジで痛いんだから!」
取りあえず頭をグリグリする。
毎回グリグリされるくせに、本当に懲りない奴だ。
まあ、嫌いじゃないけどさ。
「ってことは、そっちの二人はジュブちゃんの弟子? ああ、そこの男の子……ってイースタン?」
「ああ、そうだ!」
フェイクがカナタを下から上まで品定めするように見た後、後ろに居たチョコのところで目が留まる。
「な……なんですか?」
「ふふっ、私は貴女をお待ちしておりました。どうやらジュブちゃんとは知り合いの様子。そこのクソおガキ様はお付き合いするにはガキ過ぎますし。フリーとお見受けしましたが?」
「えっ? えっ?」
「クソおガキ様って僕の事?」
無駄に白い歯をキラリと光らせながら、デブの癖に身軽にカウンターを飛び越えてチョコの前に歩いて行く。
「ようこそ魔法具屋、魔女っ娘萌え萌えキュンキュンへ。何かご入用ですか? 貴女様だけ特別に全品9割引きで「馬鹿たれ!」
「痛いいい!」
チョコの前で片膝を付いて手を取ったフェイクの頭に拳骨を落とす。
「何するのジュブちゃん!」
「何するのじゃねー! 今回はそのおガキ様がメインの客だ! それと、これっ!」
「んー?」
フェイクのおでこに武器屋のジジイの紹介状を叩き付ける。
「ああ、うわぁ……ジュブちゃんご愁傷様~」
紹介状にざっと目を通したフェイクが心底お気の毒そうな表情を向けてくる。
うぜーー!
「という訳で、魔法の補助頼むわ」
「まあ、帰って来る訳無いからタダ働きになりそうだけど、まあいっか。俺とジュブちゃんの仲だし」
悪い奴じゃないんだけどな……悪い奴じゃないが、それはあんまりな言い種だろう!
帰って来る事を祈れ!
「で、そこのクソガキは……はあ、まあ小さいのにこんなとこに飛ばされて可哀想じゃあるか。なんか要るもんあったら言えよ? 都合付けてやるぞ?」
「えっ? クソガキってやっぱ僕の事かあ~……まあ、いいや! お兄さんってさ? 本当はイー」
「おいっ!」
「人だよねー?」
ん?
カナタがイーって言った瞬間にフェイクが凄い慌ててた気がするが。
どういう事だ?
「ちょっとこっち来いガキ!」
「フフッ、カナタだよ?」
「チッ、カナタ! こっち来い!」
フェイクがいそいそとカナタを連れて店の奥に行く。
少しして疲れた様子のフェイクと、ニコニコとしたカナタが出てくる。
「おい! カナタ! 俺はタレントに恵まれなかっただけだ! 魔法付与に関しては、この世界で横に並ぶものは居ないくらいにすげーんだからな?」
「それは分かるけどさ? 僕に必要なものはあまり無さそうかな?」
「だろうな! クソッ!」
なんかフェイクが荒んでるが、気にするだけ無駄か。
それにコイツの言う通り、こいつほど魔法付与に長けた人間は見た事無いしな。
こいつのせいで、殆どの魔法具屋が店を畳んじまうくらいにはすげーのは認めよう。
性格は悪くないが、最低だけどな。
「大体さー、萌え萌えキュンキュンって」
「ウルサイ! 魔女っ娘は正義だ! 俺の青春だ! 俺の嫁だ! この世界の全ての魔女っ娘を嫁にするために俺は来た!」
「イタイねー」
「イタイ言うなし!」
何やら滅茶苦茶仲良くなってないか?
はあ……すげー疲れるわ。
「カラコンにブリーチ、認識阻害の魔法具を開発したのは凄いと思うけどね」
「だろ? あんまり、ここで目立つのも色々と面倒くさそうだしな」
「まあ、ほどほどにね? 店の名前でバレバレだから」
「信念を曲げる訳にはいかない!」
カラコン? ブリーチ? 魔法の一種だろうか?
認識阻害だけはかろうじて分かるが。
「でさ、チョコちゃん彼氏とか居ちゃったりするのかな?」
「えっ? 彼氏? あの、男性とお付き合いしたことはありませんが?」
「キャー! ス・テ・キ! じゃあ、好きな魔法具お兄さんがプレゼントしちゃおっかな~?」
「あっ、フェイク……プッ! 彼女魔女っ娘じゃなくて、治療師だから」
「まあ、いいじゃない! いいじゃない! オイラの心も是非癒して欲しいわ~」
「あ、体力回復しか使えませんから……」
チョコがフェイクに真面目に答えているが、まともに相手にするな……疲れるだけだぞ?
ちなみに、こいつがダンジョンで置いてかれたのもパーティの魔法使いの少女に、無駄にベタベタしまくって彼女が身の危険を感じたかららしいし。
本人に下心はあっても、悪気が無いのが余計に性質が悪いが。
こいつ曰く、無理やりは絶対ダメらしい。
惚れさせて、メロメロにして、向こうに尽くされたいらしい。
ただ、アプローチが露骨でキモイらしい。
誤解は解けて、そのパーティも一応謝罪はしたのだが。
「もう、素直じゃないんだから~メ・イ・ちゃ・ん! 好きなら好きって言えばいいじゃな~い? 本当は気になるんでしょ? 置いて行ってから、オイラの事が心配で気がきじゃなかったんじゃな~い?」
とか言いながら魔法使いの少女に近付いて行って、思いっきりパーティリーダーの男に殴り飛ばされていたが。
それでも、ニヤニヤしながら近づいてくるのでパーティ全員で誠心誠意謝って、少女が本当に無理なんです~って泣きながら言った瞬間に、フェイクは大泣きでギルドを後にしていたが。
残念ながらその光景をギルド職員も見ていたため、故意にダンジョンに置き去りにしたことに関しては情状酌量の余地があり過ぎるとして、そのパーティは無罪放免だ。
「で、ジュブちゃん達は明日からダンジョンに挑むんだよね? じゃあ、明日の朝一までに終わらせとくから剣置いてって? それと、チョコちゃんにはこの防御耐性と魔法耐性ガン上げしたジャンプスーツを貸してあげるからね」
「えっ? これ……かなりピッチリしそうなんですけど……」
フェイクの手には、ジャンプスーツ……まあ上下一繋ぎの服があったけど、無駄に身体に密着しそうな素材で作られている。
「ボディコンジャンプスーツだよー! ローブの下に着るのに丁度いいでしょう?」
「そうですね! これだけ着るのかと思っちゃいました~! ローブの下に着るのなら丁度良いかも~」
「うん、無事帰ってきたら返してもらうけど、洗わなくて良いからね」
おいっ!
お前! 絶対よからぬことを考えてるだろう!
「ああ、良いもん貸して貰って良かったな。たぶん相当高いもんだから、戻ってきたら丁寧に洗って返すんだぞ」
「勿論ですよ~」
「えっ? いや、洗わなくても……」
「なんだったら、手に入れた金で最高級の石鹸を買って洗うか?」
「そうですね~。それとリフレッシュの魔法も掛けて貰って」
「あの……帰ってきたらその足で返しに来てもらっても」
「フェイク……諦めなよ。おっちゃんにバレてるから」
カナタの一言が止めになったらしく、フェイクがガックリと肩を落としていた。
本当に、こういう残念な一面が無ければ今頃、魔法使いの女性の1人か2人くらいとは付き合えただろうに。
腕だけは確かだし。
根は良い奴なんだから……
「じゃあ、明日な!」
「まいどあり~」
カウンターに突っ伏して、やる気なく手をふるフェイクを尻目に3人で店を出た。
ふふっ、フェイクと話してちょっとだけ気が楽になった気がする。
まったりですね……
次の次くらいでダンジョンに挑むはずです!
お読みいただき有難うございます。
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