第23話:ペルセウスと北風とバジリスク8~マザーそしてカナタブートキャンプ~
「という事で、そろそろ本命がこっちに来るはずだから……」
そう言ってカナタがヒラリと木から飛び降りてくる。
着地に失敗しろ!
そして足首がグキってなってこけろ!
私の願いも虚しく、物音すら立てずに着地するカナタ。
この実力を隠す気も無い行動が若干イラッとする。
けど、地面に降りた今ならチャンス!
「プレゼントなら、もっと役に立つものが良いかな?」
カナタは私が全力で投げた石を、左手で軽く掴むとその辺にポイッと投げ捨てる。
というか、あんたも私にくれたの石ころだからね?
まあ、普通のじゃないけど。
「なあ?あいつってイースタンだよね?シノビって奴?」
「いや、無職って聞いたけど」
一連の動作を見ていたジャンがカバチに聞いているが、そうかシノビって線もあるか。
あの身のこなしに、察知能力の高さ、正体を隠したがるところか間違いない。
「シノビじゃないけどね。取りあえず、中ボスを倒したら次は大ボスだよね?」
「えっ?」
カナタがそう漏らした直後、地鳴りが響いたかと思うとさらに数体のバジリスクがこっちに走り寄って来るのが見える。
あれ?あの変異種って中ボス?
まだ強いのが居るの?
他の皆も同じことを思ったのか、ちょっと訝し気な表情を浮かべながら向かって来たバジリスクに目を向ける。
さらに奥からバジリスクに囲まれるように一体の大きな個体が現れる。
通常の個体の薄緑の迷彩とも保護色とも取れる鱗と違い、その個体は若干黄色掛かっている。
「まさかマザー?」
クリスがゴクリと喉を鳴らす。
マザー?
「おいおいおい……マザーがこんなところにまで来るとか……」
ジャンがツヴァイハンダーを構えながら、全員の前に出る。
「う……そでしょ?」
テオラも顔が青い。
そんなにヤバい奴なの?
「ねえねえ、あれってそんなにヤバいの?」
「あの鱗は魔法も弾くし、通常の武器ではなかなかダメージも与える事もできない」
「そのうえっ……と!」
私の呟きにクリスが答えるや否や目の前に黒い物体が突っ込んでくるのが、かろうじて見える。
そしてそれをジャンが大剣で受け止めるが、2mくらい後ろに弾かれている。
「早い!」
見ると、ジャンに軌道をそらされたであろうマザーが離れたところの木にぶつかっていた。
「という訳で、アリス以外は下がってね!」
どういう訳かしらないけど、カナタが私の背中を押すと同時にカバチの盾に目配せする。
なんの合図かな?
そして一瞬でジャンの元に駆け寄ると、ジャンの首根っこを掴んでカバチ達の傍に放り投げた瞬間、カバチの持っていた盾が青い光を放って周囲を包み込むドームを形成していた。
えっ?ていうかあの巨人を放り投げるってあんたの腕力どうなってんの?
「ちょっ!何やってんだあんた!」
「おい、ここから出すんだ!2人だけでどうするつもりだ?」
「カナタ!出してよ!」
「師匠!」
「まさか……2人だけで逃げる……いや、無理ね」
「あの?何がどうなってるか教えて。というか、あの人達本当になんなの?」
みんながドームの中から激しく叩いているが、どうやらあの中から出る事が出来ないらしい。
テオラさんは一瞬、自分たちを生贄とか失礼な事を考えたみたいだけど、普通に魔法職と無職が逃げられる状況じゃないことに気付いて思いとどまったようだ。
ただ、バリイさんだけは完全に混乱状態に陥っている。
「さあ、散々楽してきたアリスさんに働いて貰おうかな?この杖貸してあげるから」
「えっ?私?一人で?」
そう言ってカナタが投げ渡してきた木の棒を、思わず受け取る。
うん、普通の木の棒だ。
「世界樹……ユグドラシルの枯れ枝だから、良いもんだよ?」
「ただの木の枝と違うの?てかそこらへんに落ちてる小枝だよね?」
「失礼な奴め、使ってみたら分かるから」
うう……というか、カナタが手を付き出してるだけで周囲のバジリスクがこちらを囲んだまま、突っ込んでこないのが凄く不思議なんですけど?
その手はどうなってるのでしょうか?
「いや、一人はちょっとムリ……かなあっと?」
助けを求めるように、カバチの盾の作り出したドームに目を向けるとアレクが凄い勢いで目を反らした。
ちょっと、あんた何か知ってるでしょう?
「アレク!」
「えっ?いや、もう無理だよ!こうなったら頑張ってとしか言えないから!頑張ってとしか言えないからー!」
何故2回言った!
しかも、めっちゃ可哀想なものを見るような目で。
「ちょっと、あんたふざけるのもいい加減にしろ!そこの嬢ちゃん一人でどうにか出来る状況じゃないだろ!」
ジャンが大剣で思いっきりドームに斬りつける。
キーンという音が鳴ったかと思うと、ジャンが手を押さえている。
「硬すぎるだ……ろ」
「ああ、ドラゴンのブレスにも耐えられる劣化イージスの盾の守護結界だからね?まあ、効果は残存魔力から見たところ20分くらいかな?ということで、アリスさん……制限時間20分!バジリスク100人組手といきましょうか?100人居ないし、人でも無いけど」
「えっと、なにがということかさっぱり分からないんですけど……」
そしてカナタがバジリスクに向かって手招きすると、1体だけゆっくりとこっちに歩いてくる。
うん、1体ずつ来てくれるってことかな?
というか、なんでそのバジリスク達は襲い掛かってこないのかな。
「意味が分からないんだけど」
「では、健闘を祈る」
「祈らないで!そして手伝って!」
私の叫び声虚しく、カナタが手を上げて振り下ろした瞬間、バジリスクが凄い勢いで突っ込んできた……
「キャー!」
「アリスちゃん!」
「アリス!」
「嬢ちゃん!」
「おい、お前いい加減にしろ!」
「ねえ、なにこれ?」
かと思ったら吹き飛ばされた。
ぐはっ!
早すぎませんか?
そしてみんなが焦っているなか、何故アレクだけ腕を組んで黙って頷いている!
「0点……」
空高く打ち上げられた私を、お姫さま抱っこの要領で受け止めたカナタが緑色の液体を振りかけながら呟く。
「まずは、魔法職なんだから攻撃を受けちゃだめでしょ?」
「うう……痛くないけど、さっきめっちゃ痛かった。もう無理です……」
「はやっ!」
一瞬で心折れた私に、カナタが呆れた表情を浮かべる。
知ってますか?
回復薬で治るのは身体の傷だけで、心の傷までは治らないんですよ?
「取りあえず、避けるか魔法で受けるかしないと……」
そっとカナタが私を降ろして少し離れた瞬間に、またバジリスクが突っ込んでくる。
ちょっ!まっ
「ぎゃっ!」
「キャー!」
「ちょっ、もう見てられない!」
「おい、カバチ何とかできないのかこのドーム」
「さっきからお願いしてるけど、解除してくれないんだもん」
「あれ大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ?師匠が居ればまず死ぬことは無いですし」
だもんって、本当になんとかする気あるのかカバチ?
そして、アレク……全然大丈夫じゃないですから?
もう、2回死んだ気になってますから。
「はあ……本当に学習能力が低いな」
「うう……もう無理……」
またも私に緑色の液体を振りかけて離れようとするカナタに縋りつく。
「行かないで……」
「うん、そういうのはもっと違うシチュエーションで使うと良いよ?それと……」
上目遣いで懇願する私の手を、カナタは冷たいセリフと共にサッと振りほどくと耳元でなにやら囁く。
そしてまたも突っ込んでくるバジリスク。
「キャー――!」
そして叫び声をあげて目を塞ぐ、テオラ。
「【氷弾】!」
「グワッ!」
だが、今回は今までとは違う。
カナタに言われた通り氷弾の魔法を上から下に向けて放つと、自分でも信じられないくらいの氷の塊が降って来て地面に突き刺さる。
そしてそこに突っ込むバジリスク。
「すぐに攻撃しないと」
「いや……今ので魔力が殆ど……」
「じゃあ、杖で目を刺すとか、喉を付くとかいろいろと方法あるじゃん!」
「ええ?……」
「はあ……これ飲んで」
「えっ?」
「いいから!」
カナタに言われるがままに、手渡された青い液体を飲み干すと一気に魔力が漲って来るのを感じる。
まさか、マジックポーション?
「これで使えるだろ?」
「魔力が……よし、【ファイアーボール】!って、嘘!」
私の手から出たのは火の玉と呼ぶにはあまりに大きすぎた。
目の前のバジリスクを焼き尽くし、さらにその後方のバジリスクを3体ほど巻き込んでようやく消えた。
そして、バジリスク達から何やら抗議の声が上がっている。
「アリス!組手なんだから1対1でやってるのに、他のに攻撃しちゃだめじゃん」
「いや、手加減が……そして魔力も……」
今の一撃でまたも魔力が殆ど空っぽになってしまった。
「今の……」
「なんだ、あの嬢ちゃんもちゃんとやったらすげーじゃねーか」
「アリス凄い凄い!」
「ねえ、あの人一体いくつポーション持ってるんだ?」
「いや、分からないけど、俺に使っただけでも3桁いってるけど」
「というか、いい加減俺に誰かちゃんと説明して!」
急に後ろの集団から緊張感が消えた気がする。
カバチだけは、キラキラとした目を向けてくれているが。
ジャンはほほうといった感じだし。
クリスさんの興味は、カナタの持ってるポーションの数だし。
っていうか、アレクあれ100本も使ったの?
マジで何やらされたのアンタ!
そして、バリイさんが若干切れ気味だ。
「じゃあ、次から3対1で?」
「良いわけ無いじゃない!」
というか、本当にこいつは何がしたいんだ……




