第14話:ネクストフォレストのカナタ3~レイクポートのカナタ~
「まあ、ハゲの事は放っておいて、貴方達は何故集まっていたのですか?」
カナタは取りあえず謝罪を受け取った事で、いつもの偽爽やか少年に戻って質問している。
その笑顔は本物なのだろうか?
なんだか、そういう仮面型の魔道具を使っているような気がしてきた。
思いっきり引っ張ったら剝がれないかな?
っと、睨まれちゃった。
「っと、その前に」
そう言ってパチンと指をならすと、ミザリーが口をパクパクさせる。
「喋れますよね?」
「え……ええ、というか、貴方さっきから黙って聞いてたら!うっ!」
早速解放されたミザリーがカナタに突っかかろうとして、目の前に突き出された指の前に思わず口ごもる。
まあ、余計な事を言ったらまた言葉封じられちゃうかもしれないからね。
「ミザリー……」
その様子をジョシュア様が呆れた表情で見ている。
はあ……カナタも最初の頃はこのくらい爽やかだったのに。
いや、現在進行形で私以外には概ね爽やかだが……もしかして、これって気になる子についつい意地悪しちゃうっていう男の子特有の?やだどうしよう。
そんな事を思ってカナタをチラッと見ると、先のジョシュア様以上に呆れた表情をしてた。
やっぱり、こいつ素は性格悪そうだわ。
「アリス……」
「何よ!ジョシュア様の真似する気?」
「違うよ……歯に茶葉が付いてる」
「うそっ!」
慌てて口元を隠すと、カナタが手鏡を渡してくる。
うわぁ……どこをどうやったらこんなに小さくて、キラキラした鏡を作れるんだろう。
というか、そんなの持ってるとか、あんた絶対良いとこの坊っちゃんでしょ?
そして、ついてたよ茶葉……
でも、犬歯にちょっと付いてるだけだし、これに気付くなんてあらやだ私の事やっぱりよく見てるんじゃない。
ついニマニマしてたら、眠そうだったカバチから今度こそ本当に気持ち悪そうな視線を向けられた。
死にたい……
「あの……ミザリーには沈黙耐性の指輪を持たせてるのですが、どうやって魔法を?」
「ん?魔法じゃないですよ?催眠術ですから、これは」
はっ?
おっと、私以外も全員がはっ?っていった表情になってたわ。
いや、付くにしてももっとマシな嘘があったでしょうに。
だいたい、いつ催眠導入使ってたのよ!
「な……なるほど、催眠術であれば魔力を使わず直接意識に働きかけるので、可能という事ですか?これは盲点でした。まあ、魔物に催眠術を使うものは居ないとは思いますが。勉強になります」
素直か!
ジョシュアさんが、感心した様子でカナタを褒めているがそれ嘘だからね?
ギルド職員も魔力を感知してたからね?
そもそも、思いっきり【沈黙】かけたって言ってなかったっけ?
「まあ、そんな事より貴方達の事情を聞かせてくれませんか?」
「そんな事?いや、そうですね。えっと、私達のクランのパーティの1つが1週間ほど消息不明になってまして、最後に受けた依頼の確認と捜索の手配にと思いまして」
おう……ノブレス・オブリージュ所属のパーティが消息不明となると結構な大事かもね。
うちのギルドって、彼等に頼りっきりのところあるし。
もしかして、新参のパーティが調子乗って無茶な依頼受けたとかかな?
でも、そういう場合は受付で止めるだろうし、それでもごり押しする場合は一応クランの責任者に話は通すはずだよね?
あらあら、マスターの顔が頭まで青くなってるわ。
「それは本当か?」
ハゲが少し焦った様子で話しかけているが、ジョシュアさんも静かに頷くだけだ。
「よしっ、すぐに緊急依頼で手の空いている冒険者に声を掛けよう!モッズ君!手配を頼む」
「はっ?そんなものノブレス・オブリージュのメンバーだけで十分手が足るでしょう?だいたい、いちいち消息が知れなくなったパーティを探していたら、ギルドの掲示板は捜索依頼だらけになっちゃいますよ?それに報酬はどうするんですか?」
「報酬はこちらで用意します」
ハゲの言葉にモッズと呼ばれたナイスミドルが訝し気な表情を浮かべる。
モッズさんはどうやら権力に屈しないタイプのようだ。
本当に、とっととハゲと代わればいいのに。
「それで、不明になったパーティというのは?」
「ペルセウスです」
「ブッ!」
パーティ名を聞いたカナタが思いっきり噴き出していた。
まあ、もしかしたらカナタでも知っているかもしれないか……
たしかB級冒険者のクリスを筆頭に4人で構成されたパーティで、ノブレス・オブリージュの中で3位の実力を誇るパーティだったと思う。
「その中にイースタンは居るのですか?」
「えっと、カナタ殿もご存知だったのですか?いや、たしかイースタンのメンバーは居なかったと思いますが、クリス……あ、リーダーなんですけど、彼が一度会った事があると聞いてます」
「なるほど……、で彼等が受けた依頼というのは?」
「はい、私が代わりに応えましょう。エストの森にて目撃情報のあったバジリスクの確認と可能であれば討伐ですね」
ジョシュア様の代わりにモッズさんが答えてくれたが、その言葉を聞いたカナタがハゲを睨み付ける。
怖いよ!
こんなにコロコロと表情が変わるカナタを見たのは初めてだ……ていう程、付き合い長く無かったわ。
というか、カナタって本当に不思議な人だよね?
なんか、昔からの知り合いっぽいくらい馴染んでるし。
いまも、いつの間にかアレクに変わって主導権握って話してるし。
かなり格上相手に。
「それが1週間前……で、俺達がゴブリン退治を受けたのが3日前。F級冒険者にバジリスクの目撃情報があった場所にゴブリンを退治に行かせたと?誰も注意することなく?」
あっ!言われてみれば確かにおかしい!
バジリスクが居るかもしれないという場所に、F級冒険者を派遣するとか死にに行けと言っているようなもんじゃん。
この依頼、最初から怪しいと思ってたのよね……カナタが。
こいつの頭どうなってるのかしら?日頃からこうやって人を疑って生きていくような環境にでも生まれたのかしら?
となると、やっぱりどこかの……いや、東の国の貴族とかなのかな?
ジッとカナタの顔を見ていたら、アリスが頭を使わなさすぎると口パクで言われた。
読唇術なんか覚えていないのに、カナタの言葉ははっきりと伝わるのが不思議。
そして、それ以上に腹が立つ。
「それは、わしは本当に知らんのだ。そもそもF級のような死にたがりの面倒までいちいち見てられんしな」
カナタの言葉に追い詰められたのか、ハゲが言わなくていい事まで言ってるけど本人は気付いていないんでしょうね。
まあ、確かにF級は無謀なそれこそ冒険をしたがるものだから、分からなくもないけど。
「そんなんだから、冒険者の死亡率がいつまで経っても下がらないんだよ!むしろ、C級以上の冒険者に媚びうる暇があったら今後のC級を育てる努力しろハゲ!」
「うっ!お前、本当に覚えてろよ?ここまで暴言を……いや、何でもない」
「ん?」
「なんでもないです……」
ハゲハゲ言われて、とうとうハゲが切れた……と思ったらすぐに鎮火した。
目の前を、映像を記録できると言われる玉が左右に振られた瞬間。
こいつえぐいわ。
パチン!
さらに、指を鳴らす音がする。
一瞬ミザリーがビクッとしたが、「あー」っと言いながら言葉が出るかどうか確認してホッとしてた。
変わりにマスターの方から「ムグッ」という声が聞こえる。
えっ?本当に催眠術?
ハゲが、口を押えて目で必死の抗議をしてる。
「その事ですが……試すような真似をしてしまって申し訳ありません。今回の依頼内容は全てこちらでも把握しております。チェロス!」
「はい!」
モッズさんの呼びかけに反応するかのように、部屋の外から1人の若い男性が入って来る。
「あっ!」
アレクが声を出して、その男を指さす。
ようやく始動し始めた頼れるリーダーは、その場に居た全員の視線を集めてすぐに小さくなる。
「僕に依頼を勧めてくれた方です」
「でしょうね。で?説明してくれますね?」
カナタの言葉にモッズさんが笑みを浮かべる。
だが、笑っているようには見えない。
何か怪しい雰囲気だ。
「ええ、貴方も良くご存知かもしれませんが、先日隣の街のメルスのダンジョンがE級1人とF級2人の冒険者に踏破されました。それも完全攻略という形で」
「あの話は本当だったんですか?」
モッズさんの言葉にジョシュア様が声を掛ける。
そして、ジョシュアさんに向かって頷くモッズさん。
ああ、私達みたいな若い新人パーティにはとっても場違いな大人なやりとり。
憧れるわ。
そして、そこになんの違和感もなく存在できるカナタが違和感の塊でしかない。
「おめでとうございます。カナタさん、D級冒険者への昇格資格を持っておられますので、こちらでも手続き出来ますよ?また、今回の依頼の功績を合わせればC級への昇格も視野に入れておりますが?」
『はっ?』
今度は周囲の全員の視線がカナタに集まる番だ。
射抜かれるような視線から解放されたアレクが「ぶはっ」と息を吐く。
アレク、ずっと息止めてたのか。
「いらない。そんなものは犬にでも食わせてやってくれ」
おおい!
なんで断っちゃうのよ!
冒険者やってたら、昇格するのが目標みたいなもんじゃない。
「ですか……貴方の目的は分かりませんがチェロスからも悪戯に刺激するなとの忠言があったので、無理強いはしません。今は、ギルドにとって益になってますが、もし害になるようであれば……」
「それはお前ら次第かな?目的は暇潰しの観光だから、心配するな」
「ふふっ……上位鑑定のアイテム破損、年齢不詳、見たことのないステータス、上位鑑定でも隠蔽されたスキル……貴方の何を信用しろと?」
「見たままだな」
なにこれ?
私達もジョシュア様達も、ついでにハゲという名のマスターまで無視して勧められる茶番。
てかやっぱりレイクポートのカナタってあんただったんじゃない!
「怖いですね……これ以上は藪を突かない方が良さそうですな。ちなみに他の3人もE級への昇格が「まだ早い!」
うぉぉぉぉぉぉい!
サブマスの有り難いお言葉をバッサリと切り捨てるカナタさん。
あんたになんの権限があって、そんな事言っちゃうの?
確かに、ジェネラルさんを倒したのはあんたの武器のお陰だけどさ。
「まだ、こいつらは育ってない。こんな状況でE級になんてしたら……なあ?」
「ふふっ、そうですね。資格はあっても実力は無いですからね」
酷い!
モッズさんもカナタも酷い!
アレクなんか完全に死んだ魚みたいな目になってるし。
「受付で勝手に上位鑑定したことも、そこの男がずっと付いて来てた上にジェネラル戦で手を貸さなかった事も、あとついでにそこのハゲの不正も全部黙っててやるよ」
「その代わりに、自身と仲間の昇格を見逃せということですか。いいですよ」
「話が分かる人で良かった。あんたがマスターになれば良いギルドになりそうだな」
「いえ、上司が無能だと部下が育つんですよ」
「ムー!」
モッズさんって見た目の割に毒舌家だったんですね。
人は見た目によらないって、カナタで学習したはずだったのに。
「上司の目の前でそんな事を言って良いんですか?」
「ええ、もう彼には椅子を開けてもらうだけの材料は余る程持ってますから。ただ、私もまだまだマスターになる実力が無いので、もう少し頑張ってもらいますけどね」
すでに弱みを握っていたのか。
ハゲの顔がまた青くなってる。
「それと、もう1つ……ペルセウスの捜索を手伝ってくれませんか?」
モッズさんがペルセウスの捜索依頼を出したあとで、カナタに対して何か耳打ちをする。
その言葉を聞いて、カナタが満足そうに頷いている。
あんたら、かなり黒いよ?
悪徳商人と、汚職貴族みたいになってるし。
「ではこちらも条件がもう1つ、次の依頼もパーティで受けたい」
「げっ!」
「えっ?」
カナタの言葉に対してアレクが驚きの表情を浮かべている。
そして、私も恐らく似たような表情を浮かべているのだろう。
カバチだけが、またカナタと冒険できるんだ!とニコニコとしているのが可哀想だった。
「良いのですか?確かにC級冒険者に匹敵する方の助力が得られるとなると、こちらも助かるのですが」
「大丈夫だよ!カナタは、気配も読めるんだから簡単だよねー?」
「えっ?」
無邪気にカバチが爆弾を落とす。
そしてジョシュア様が今日何度目かの驚愕の表情を浮かべている。
横ではミザリーが胡散臭そうに見ているが、カナタは「そうだな」と言いながら、ニコニコとカバチの頭を撫でている。
モッズさんも黒い笑みを浮かべているし。
ああ、忘れてたわ。
そういえば、こいつの気配探知は変態だったんだっけ。
また忘れてたのか?といった表情を向けられるが、仕方が無い。
なんともない様子で気配を探知してるんだから、ついつい自然な様子に忘れてしまう。
「報酬はいくらほど用意すれば?」
「ああ、ちょっと考えがあるから後で話しますよ。安心してください、払えないものを要求するつもりはありませんし、無理なようなら代わる金銭でこういった依頼の妥当な額で十分ですので」
「そう言って貰えると有難いです。なるべく期待に添えるようにこちらも努力しますので」
「宜しくお願いします」
そう言って、カナタとジョシュア様が手を組む。
ムカつくけど正統派イケメン貴族と見た目イースタン貴族の握手は凄く様になるわ。
その直後にモッズさんとも握手してたけど、どう見ても汚職貴族と悪徳商会のそれだったわ。
ようやく冒険に出れそうです。
スパルタバジリスク狩りに向けて頑張ります。
3章の構成も終わっているので、速足になりそうなところをグッと堪えてしっかりと書いて行きたいです。
ブクマ、評価、感想頂けると嬉しいです。
明日はもう一つの方の投稿予定です。




