第22話:29階層~いきなりすぎやしませんか?~
「普通に美味いな」
カナタさんが食卓に座り、すでに料理を食べ始めている。
やはりというか、ここに辿り着くまでメルスさんに監視されているらしく、食卓にはちょうど3人分の食事が置いてあった。
コーンポタージュとサラダ、レッドブルのステーキにホカホカのパンだ。
誰が作ったのかが、凄く気になる。
まさかとは思うが、メルスさん本人という事はないだろう。
だって、彼ゴーストだしね。
っていうかさ、普通にカナタさんが無警戒で食べているのには驚いた。
確かに、ここでの食事がちゃんとしたものだというのは都市伝説的ではあるが、ほぼ間違い無い情報とはいえ、昨日今日この街に来たばかりのカナタさんが知っているとは到底思えない。
「ん? 毒の鑑定くらい簡単に出来るぞ?」
僕の疑わし気な様子に気がついたのか、カナタさんが説明してくれる。
うん、まさかの鑑定魔法持ち宣言ですか?
ギルド職員でも専用の魔道具を使って行うもので、触媒無しで発動させるには相当な才能と訓練が必要だって聞いたんですけどね。
あっ、でもイースタンの人は普通に使える人が多いんだった。
やっぱり、カナタさんはイースタンなのだろう。
「それで、ご飯を食べたらすぐにボス部屋に行くのですか?」
レイドが食事をしながら、カナタさんに質問している。
うん、出来れば少しというか、しっかりと休養を取りたいんですけどね。
「自分も、流石に体力の限界なのですが……精神的にも肉体的にも」
主に精神だけどね。
モンスタートライアルをひたすら受けて来て、あげくに勝手に戦う兜を付けられたり、魔物に積極的に向かっていく魔法を掛けられたりと碌な目にあってはいないが。
その効果は着実に表れている。
レベル23
HP249
MP14
筋力181
魔力20
体力292
敏捷121
スキル
剣術レベル3
見切り
身体操作レベル1
狂戦士化
猪突猛進
剣技
五月雨突き
強突き
一文字
スキルに猪突猛進というのが顕現したが、この効果が地味に凄い。
死や恐怖を超越してひたすら攻撃を行った場合、速度と威力が5割増しになるらしい。
うん、臆病者な僕には一生使う予定の無いスキルだな。
ちなみに同類に捨て身というのがあるが、こっちは死を覚悟して攻撃した場合、速度と威力が5割増しになる。
猪突猛進は死を超越しなければならない……ある意味簡単らしい。
何も考えずに突っ込んで、ひたすら攻撃をすれば一撃一撃が全て5割ましだ。
って使えるか!
人間は臆病なんだよ。
ステータス的には一部D級に届きそうなものもあるが、総合力的にはE級の上位くらいにはなったかな?
圧倒的に経験が少ないけどね。
いや、実際には相当な戦闘経験を積んだともいえるけど……いえるのか?
地道に時間を掛けて培った技術に対しては、ちょっと不誠実というか……ほぼオートモードだった感じで実感が沸かない。
身体で覚えろと言われでも……
「ああ、そうだな……じゃあ、ポーション飲んで体力を回復させてすぐに行くか?」
「えっ?」
「はっ?」
カナタさんの言葉に、僕もレイドも呆れ気味だ。
ただでさえ高額なポーションを時間節約の為に使おうとしている。
いや、そこのベッドで軽く7時間くらい仮眠を取らせてくれればかなり体力が回復出来るのですが?
「いや、あの出来れば少し眠って精神的な疲れも癒したいのですが?」
「そうですね……僕もここまで来るのにかなり心が疲れました」
「なんで?」
なんで? って言われましても。
主に貴方のせいなんですけどね。
というか、結構心にくるものがあったんですけど?
レイドだって心が疲れたって言ってますよ?
「流石に魔物とはいえ、命を奪う行為というのは……」
「くだらん事を言うな……魔物を殺すのが嫌なら、テイマーにでもなればいいだろう?」
なんでしょうね……とあるイースタンの女性が飢饉のあった村で言った台詞みたいだ。
彼女は飢えた村人を前に、小首を傾げてこう言い放ったらしい。
「パンが食べられないなら、ケーキを食べれば良いじゃない」
その場に居たイースタン以外の全員が殺気を放ったらしい。
イースタンにしか伝わらないジョークらしく……実際に言い出したのは彼女では無いらしく引用したセリフらしい。
彼女的にはああいう場面で使うからこそ、ウケると確信して言ったらしい。
実際にウケていたのはイースタンだけで、村人達は漏らさずイラッとしていたのは言うまでもない。
―――――――――
どうしてこうなった……
飯をダッシュで食べ終わると、まだカナタさんがゆっくりと食事を食べながらティータイムに入っていたので、僕はチャンスとばかりにさっさとベッドに逃げ込んだはずなのに。
何故かベッドに座って、ヴァンパイアと対峙している。
てか、中ボスがヴァンパイアとかいきなり難易度上がりすぎじゃないですか?
「安心してください……私は消滅すると中ボスが居なくなるので、基本降参……もしくは対人なら勝利と判断できる状況に追い込んでくれれば合格です」
うん……合格て。
ダンジョンのボスなんて倒してなんぼだろ?
「あっ、私はメルス様の元配下ですのでダンジョン産じゃないですよ? なので、死んだらリポップしませんからね?」
「なんだ……つまらん」
カナタさんは足を組んで椅子に座って居る。
今回も見学ですか……そして……
横に目をやるとベッドがもう一つ置いてあって、そこでレイドがスヤスヤと眠っている。
「いや……なんで、休憩室に中ボスさんが居るんですか?」
「あっ、私はヴァンパイアのキアラですので、キアラと呼んでください」
「偉くフレンドリーなダンジョンボスも居たもんだ!」
思わず突っ込んでしまったが、その前に僕の質問に答えてくれませんか?
「ああ、ちなみにここは休憩室ではなくボス部屋ですよ? そこの男性がベッドごと運んできてましたよ?」
はっ? 何してくれてんのあんた?
「褒めるなよ……照れるじゃねーか」
いや、褒めてないし。
っていうか、言葉に出てた?
心を読んだ?
「でさ、もう十分睡眠もとっただろうし、起きてからも体力使わなくていいようにここまで運んで来たんだからさ……もう戦えるよね?」
いや、寝起きに戦えとか無茶もいいとこでしょ?
というか、しかも相手がいきなり中ボスとか……ウォーミングアップ的な何かが足りない。
「ちなみにここまで運んでくるのに疲れたから、俺は見学ね?」
「それは良かったです……正直、ベッドごと人を運んでくるような人を相手にどう戦えば生き残れるか不安でした」
キアラさんがあからさまにホッとした表情を浮かべている。
彼がそこまで怯えるようなカナタさんの行動を是非とも見てみたかったのですが……
「取りあえず、防具だけでも付けさせてもらっても?」
「構いませんよ? 基本的にここまで来ていただいた方には、私の攻撃で死なない限りは生きて帰ってもらいますので、是非生存率はあげておいてください」
うん……てことは殺すって事もあるってことだよね?
でもまあ、魔物と違って多少は手心を加えてくれるって事かな?
「ちなみにお亡くなりになられたら、アンデッドになってもらって脳みそが腐るまでメルス様の世話係をしてもらいます。考えられなくなったら下層で冒険者の方の相手をしてもらうのですが……考えられなくなったら、何も気にならなくなるので安心してください」
うん……何も安心できないよね?
徐々に脳みそが腐っていくって事?
徐々に記憶が曖昧になって、意識が混濁していって……そして人と戦う日が足音を立てて近付いてくるのを感じろと?
それなんて拷問?
絶対に死ねないよね?
「それかなり嫌なんですけど?」
「フフッ……皆さんそうおっしゃられるのですが、大丈夫ですよ……最後は喜んで玉砕していきますから」
なにそれ?
死んだ後になってまで、死ぬこと前提で行動しなきゃなんないの?
マジ、洒落になってないんだけど。
「ちなみに生存率は72%とわりかし高めなんで安心してください」
うん……D級以上の冒険者を基準としても4人に1人以上は死ぬわけだ。
オワタ……




