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異世界転生からの異世界召喚~苦労人系魔王の新人冒険者観察~  作者: へたまろ
第1章:仮冒険者と魔王様、冒険者になる!~エンの場合~
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プロローグ

「タ! タナカ様!」


 とある世界の魔王城の一室、漆黒のアクマの目の前で突如それは起こった。

 目の前の至高にして最強無敵の存在、主である魔王タナカが淡い光に包まれている。


「ほお、俺を召喚しようとしている奴がいるのか……」


 だが、当の本人はどこか楽しそうだ。


「面白そうだし、ちょっと行ってくる。戻って来られるかわからんけど、戻らなかったあとよろー」


 えらく軽い調子で、片手をあげて光に全てを任せる魔王。

 自ら飛び込まない限り異世界からの召喚を拒絶していたあたり、流石歴代最強の魔王である。

 いや、大魔王を煽り倒したうえに、おちょくり倒し、その後瞬殺。

 魔神を相手にふざけ倒しその後に瞬殺した、神に等しい能力を持つ者であればさもありなん。


「ちょっ! あとよろーって何ですか! ていうか、仕事! 城下町の噴水の補修! 街灯用魔石への魔力補充は誰がするんですか! ちょっ! タナカ様! タナカさまーーーー!」


 ただし、職務内容は市の職員兼現場作業員のような内容ばかりであった。


「タナカさまー!」


 その魔王を必死に呼び止める彼の名は絶倫……タナカ城の永遠のナンバー2である。

 きっと、彼はこれから他の幹部に問い詰められ、心労の絶えない日々を送るのだろう……

 魔王タナカの次ぐ、この世界NO.2の苦労人でもあった。



 ―――――――――

「ここは?」


 周りに目をやると、数人の神官が俺の周囲を取り囲んでいる。

 神殿……って、雰囲気だな。


「あっ!」

「えっ? なんで意識が?」

「あ……う……えっと、ようこそ勇者様?」


 神官の人達が首を傾げている。

 意識がってどういうことだ? 意識があっちゃまずかったのかな? 


 というか、言うに事欠いて勇者て……残念魔王です! 


「勇者? 俺が?」


 取りあえず乗ってやるか。

 こいつらが何を企んでいるのかも、気になるしな。


「え……ええ、貴方様は勇者になられる方です……よ?」


 なんとも、煮え切らない返事だ。

 何故に疑問形なんだ? 

 というか、もっと自信もって対応してくれよ……こっちが不安になってくるじゃねーか。

 そんな事を思っていると、神官達が集まって何やら相談を始める。


(おい……どうすんだよ! これじゃ、新隷属の指輪改マーク2零式第8試作品が試せねーじゃん)

(どうしましょう……といっても、そもそもこれが効くかも分からないですし)

(今までのだって、ことごとく召還者には効きませんでしたしね)


 うん、丸聞こえだよ。

 その指輪を俺に嵌めたかったのか……だから、意識があったら困るのね。

 本来なら、召喚された時点では意識を失ってるものなんだろうな。

 まあでも、隷属の指輪とか完全状態異常無効の俺に効くわけも無いし。

 ちょっと釘を刺しとくか。


「その指輪俺には効かないからな? というか、たぶん嵌めたら勝手にレジストされて砕けるんじゃないかな?」

「えっ? なんでそれを?」

「いや、隷属の指輪だろ? さっき、そういう会話してだろ! そういうのは、本人に聞こえないところでやれ! あと、俺を従えられる奴なんて居ないからな? ……というか、ここはどこだ?」


 俺の質問に対して、神官達が困ったような表情を浮かべる。

 誰も何も答えてくれない。


「っていうか、なんで呼んだし!」


 あまりにも雑な対応にイライラしてつい叫んでしまった。

 全員が一瞬ビクッとなる。

 メンタル弱すぎだろ! 

 そもそも、勇者って呼ばれた時点で、あっ察し……てな感じだが一応確認大事だしと思っただけだよ。

 はよ答えろや! 


「いや、その勇者様には魔王と魔族を是非滅ぼしてもらいたく「やだ」」


 ほら来た! 

 お約束過ぎるわ! 

 つか、俺が魔王だし。


「いや、そのやだって言われましても」

(ほら、だから言っただろう? 地球とかってとこから来る奴、みんな自由きままに動くからダメなんだって)

(そんな事言ったって、他の世界から呼ぼうにも何故か毎回地球人ってのが来るんだよ)

(ひょっとして、この世界以外には地球ってとこしか無いんじゃないのか?)


「地球以外にも世界はあるぞ?」

「ほら見ろ! こいつら想定以上に基本能力高すぎなんだって! めっちゃ小声で話してるのに、なんで聞こえるんだよ!」


 神官なのに口が悪いな。

 というよりもう捨て鉢になってるのかもしれないな。

 こいつらって言ってる時点で、今までも何人も召喚してるのかもしれないし、そのことごとくが隷属に失敗したんだろうな。

 というか、勝手に召喚しといていきなり隷属しようだなんて、ふざけた奴等だ。


「そんな下らん用事なら、もう行くぞ」


 そう言って元の世界に戻ろうと転移魔法を発動させようとするが、上手く反応しないな。

 どうも世界の軸が大幅に違いすぎて、前の世界に置いてきたアクセスポイントが見つからない。

 まあ、時空間の歪みにでも飛び込んで、探せばすぐに見つかるだろうし。

 うん、気長に行こうか。

 最近の俺って、働きすぎだと思うんだ。

 だから、これは現実逃避(ロングバケーション)ってやつだな。

 現実からの逃避(異世界旅行)って意味でも。

 元居た場所も、産まれた場所からすれば異世界だったけどな!


 さて、移動はどうするか……飛んでもいいが、少しだるいな。

 元の世界に行けないだけで視界の範囲内なら転移は出来そうだし、恐らくこの世界の中なら一度行った場所への転移もそう難しくないか。 

 つまらないからやらないけど、世界眼と瞬間記憶を使えば世界中の地理を把握してどこでも行けそうだけど。

 自分の目で見える範囲を楽しみながら、開拓する方が楽しいし。

 

 うん、最初はのんびり行こう。


「こ……これは魔力? すでに魔法が使えるというのですか?」

「使えたら悪いのか? 元居た場所に帰るにも時間が掛かりそうだから、少しこの世界で遊んでいくか」


 俺が魔法を発動させようとしたのを感じ取ったのか、神官の1人が驚いている。

 そんな事はどうでも良い。

 というか俺にとって、この場合元の世界というのは、転生した場所か地球かで悩みどころだが。


「ついでに魔王を滅ぼしたり「しないよ?」」


 食い気味に否定したら、すげーゲンナリした顔してて笑える。

 まあ、もうここには用は無いかな? 

 こいつらスゲー偏った思想してそうだし。

 見るからに怪しい宗教団体だよな? 


「くっ! ならば強制的に指環を」

「【荒狂業火(イフリート)】」


 取りあえず試しにちゃんとした、魔法っぽい魔法を使ってみた。

 普段ふざけた魔法しか使わないけどせっかくの異世界召喚でテンション上がって、恥ずかしくて前の世界で絶対使わないようなちょと臭い魔法だ。


 地面に現れた魔法陣から、火の魔人を象った火炎が飛び出し周囲を焼き尽くす。

 勿論人には向けてないよ? 

 まるで意思を持ったかのような火炎が、人を避け調度品や、壁、天井を焼き落としていく。

 さらに人に向かってその破片が落ちそうになると、そこに向けて次の火炎が襲い掛かり一瞬で蒸発させていく。

 その途轍もない熱量で神官達が焼け死なないように、ちゃんと結界を張ってあげてある。

 優しいな俺。


 数分もしないうちに辺り一面が瓦礫と化した状態で、神官達がその表情を恐怖に固めたまま動こうとしない。

 うん、ちゃんと魔法は使えるみたいだ。

 って事は【三分調理(キューピー)】も使えそうだ。

 これで、食料の心配は無くなった。


 【三分調理(キューピー)】……俺の記憶になる料理を、完全再現する魔法。

 記憶に無い料理も、食べたいと思ったら料理名やフワッとしたイメージだけで再現できる魔法。

 俺の後任の魔王が、死に物狂いで修練してようやく味がしない劣化版を身に着けていたが。

 某テレビ番組で見た、超有名店のラーメンを再現出来て小躍りしていた。

 そして、一口すすって死んだ目をしていた。


「味がしない……あと、食感が砂を噛んでるみたい……」


 魔王やめたあの頃が、一番楽しかったかもしれないな……


 物思いに耽っていたら、ようやく周囲がざわざわとし始める。


「神殿が……」

「というか、なんで私達は無事なのでしょうか……」

「魔法陣が……これじゃあ、もう召喚が出来ない」

「ああ、先人達になんとお詫びすれば」


 ああ、期せずしてこれからも、こんなところに召喚される不幸な地球人を生み出さないようにすることが出来たのか。

 それは、良かった。


「それじゃ、俺はもう行くからな」


 俺はそう言うと、遠くの景色に向かって転移を発動させる。

 5回も繰り返せば、相当遠くまで離れる事が出来た。

 というか、ここはどこだろう? 

 森だという事は分かったけど……取りあえず飯にするか。

 俺は【三分調理(キューピー)】を使って、サンドイッチを作り出す。

 やっぱり、森でハイキングって言ったらサンドイッチだよな? 


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