12月2日その一
カバンの中にはお弁当、水筒、点検する飾りのチェック表……よし、全部オーケー!
私はカバンについているジッパーをちゃんと閉める。このカバンは9歳の誕生日に、パパが買ってくれたものっ。薄い赤色のエナメル製カバン、白いレースで飾られていてとてもカワイイ♪14歳の私にはちょっとだけ小さいのだけど、今でも大切な宝物なの。
「キャロル、忘れ物は無いのかい?」
私の背中越しにパパが話しかける。どことなく口調が不安そうなのは気のせいじゃないと思う。あれだけ昨日話し合って、まだ心配だなんて本当に親バカなパパだと思う。それも悪くないと内心考えてしまう私も私だ。と、クスリと笑みをこぼす。
「もう、大丈夫だって。パパ、私もいつまでも子どもじゃないんだからね?」
「ははは、ごめんな。心配性で、キャロルのことやっぱり不安なんだよ。パパにとっては、キャロルはまだ小さくてかわいい愛する娘なんだ」
パパは少し寂しいそうな苦笑いで応じた。自分の娘の成長に何とも言えない心境なんだと思うな。ずっとこれだと私の方が調子狂っちゃいそうになる。私はカバンを肩に掛けて立ち上がる。耳当てと手袋はもちろん付けていく。私は振り返って、パパに笑顔を向ける。
「よし、じゃあ行ってくるね。暗くなる前に帰ってくるから!」
「ああ、しつこいかも知れないが気を付けて行くんだぞ」
「はーい、いってきまーす!」
てぶくろをはめた手で玄関のドアノブを掴み、勢いよく扉を開ける。昨日大雪が降ったにも関わらず、道路の雪はちゃんと除雪されていて綺麗に整備されていた。私は霜の降りたコンクリートに足を踏み出す。ほのかに足下から薄い氷が割れたようなくぐもった音が微かに聞こえる。よしっ、今日は大変な一日になりそうだけど、頑張ってかないとね。
シルバークリスマスの巨樹はの郊外付近の森にそびえ立っている。家から1kmくらいの距離でそこまで遠いわけでもない。森の木がただの雑草に見えてしまうほどなので、見失う人は1人もいないの。私は整備された通りをゆっくり歩く。ここで走っちゃいけない。たとえちゃんと雪かきされていたとしても、道がところどころ凍結しているかもしれないからだ。出だしで滑って、また家に逆戻りする事になったらパパは心配でたまらなくなっちゃうかもだから。
「あら、キャロルちゃんこんにちは。もう12月ね」
反対側から歩いてきた女の人が声をかけてきた。ご近所さんのマクフライさんだ。
「あ、マクフライさん。うん、やっと12月だよ〜。早くクリスマスになってくれないかなぁ」
私の待ち遠しそうに洩らしたつぶやきに、マクフライさんはクスリと笑う。いつも思うけど微笑むところがとってもチャーミングな人だなぁ。
「ふふ、まだ3週間以上あるのに気が早いわよ?まあそれがあなたらしいと言えばそうなのだけれど」
「それで……キャロルちゃんは今日どうしたの?雪遊びでもしに来たの?」
「そんなんじゃないよ。実は……」
私はマクフライさんにいままであったことを全て話した。うまく説明できないところもあったけど、辛抱強く聞いてくれたの!話が終わると、マクフライさんは蔓延の笑みを浮かべた。
「そう、そんなことがあったのね。お父さんのことは心配だけど……代わりにキャロルちゃんが引き継いでくれてるなんて、お父さんも鼻が高いわね」
「う、うんっ。私がやるって聞いて喜んでくれてたっ」
事実とは語弊があるけど、ここで本当のことを言えばまた一悶着起こりそうだもんね……私の心中なんてつゆ知らずに、マクフライさんはニッコリしたままだ。そして、私の頭に手を置くと優しく撫でてくれた。
「大変な時はいつでも言ってくれていいのよ?できる限り私も力になりたいわ。シルバークリスマスの飾り、楽しみにしてるわね」
マクフライさんの手はこんなに寒いなかでも、とっても暖かくて心地よかった。ちょっとくすぐったい気もしたけど、あまり気にならなかった。そう言い残し、マクフライさんは少し雪の積もった地面を踏みしめて去っていった。
よし、みんな楽しみにしてるシルバークリスマス、なんとしてでも最高のものにしないとねっ。私は改めて自分の仕事を再確認する。そして、新雪によってその名の通り銀色之老樹とかした巨木に少しずつ歩いていくのでした。