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12.01

アリス「あっ、懐かしいなぁ〜!」


叶人「どうかしたのか?その本が」


アリス「あのね、この本はハロルド童話の【少女とクリスマス】っていう、アル・ミドル大陸じゃ有名な童話なんだよ!私も小さい頃よくママに読んでもらったの♪」


「へえ、そうだったのか。どんな話なんだ?」


「えへへ、それが私もうる覚えで」


「うろ覚えな?……それにしても内容が気になるな」


「じゃあ一緒に読んでみよっか!」


「なんでそうなる……まあそこまで長そうな本でもないし構わないが」


「うんっ、読も読も!」


「クリスマスって言うくらいだから十二月の話なのか」


「そだね、確かそーだった気がするよ。えーと、最初のページは……あっ、ここだよ!」


「よし、じゃあ読むか」


『 少女とクリスマス』

『 作者:ウィリアム・ハロルド』

『 第一章……』

私は小さい頃から、クリスマスツリーが大好きだった。


自分よりも大きいモミの木に色んな飾り付けをする。小さい私は、それを家族みんなでするのが楽しみで、12月に入ると毎日クリスマスが待ち遠しかった。窓の外に積もる雪を見ながら、「まだかなぁ、まだかなぁ」とよく言って何度も溜息をついたのは忘れられない。そしてそのクリスマスの日、飾り付けはとても綺麗に見えた。キラキラのレースに色とりどりのボール、鈴やお菓子の飾りとてっぺんのお星さま。それにプレゼント交換はいっつも大騒ぎだった。お父さんとお母さん笑っていて、とっても楽しかった。今でも鮮明に思い出せる記憶。本当の宝物。なにもかも華やかな一日、ホワイトクリスマスに家族三人いつまでも笑い声が絶えずーーー




今日は珍しく早く起きた。いつもならお父さんに起こされないと絶対起きない私だったけど、今月の私は生まれ変わったの!今月だけね?

なぜって、今月は12月1日。クリスマスのある12月!私は寝間着のままベッドから飛び出す。部屋にはカーテン付きの窓があるので、カーテンを開けてみる。すると、外は綺麗な雪化粧で真っ白。朝焼けが雪で反射して陽の光が目に飛び込む。


「わっ!ま、まぶしい……」


耐えきれなくなって目を逸らしてしまう。けれど、顔は蔓延の笑み。11月はほとんど雪が降らず、ちゃんと雪が積もるか心配だったのだ。しかし、地面いっぱいに敷き詰められた雪を見て、やっと安心した。すると木の扉から快い音のノックが聞こえた。


「キャロル〜、起きているか?」


「お父さん!ちゃんと起きてるよー!」


そう、キャロルって言うのは私の名前、キャロル・ハート。カナダのアルバータ州、ラクームという街に住む14歳の女の子なのだ。1000万人の人が住むこの大きな街を、私は割と気に入っていた。

そして、ドアが開いて男の人が顔を覗かせる。この人は私のお父さん、スティーブン・ハート。ピンクのエプロン姿に、右手にはフライパンを持っていていい香りが漂ってくる。私とお父さんはこの家で暮らしていて二人暮らし。お母さんは、二年前に私がお母さんをギャグで笑わせていた時に、笑いすぎて死んじゃったの。それ以来、あのギャグは永久封印中……


「朝御飯を食べに来なさい」


そう言って閉められた扉に向かって私は大声でかえす。


「はーい、着替えるからね!」


私は寝間着を替えて、普段着になった。11月も十分に寒かったのに、12月になってさらに冷えこんだ気がする。いつも暖かい格好にしていたけど、今日は上からもう一枚着込んだ。

私はドアを開け、ペコペコのお腹を抱えながら、寒い廊下を小走りで駆け抜ける。靴の音が木の廊下にリズムよく響く。

私はそのまま台所に入る。そこにはお父さんがいて、皿に料理を並べていた。暖炉の火がパチパチ音をたてている。暖炉のおかげで体もポカポカしてきた!


「あ、ごはんの用意できた?よし、食べようよ!」


「キャロル、少し話があるんだ」


お父さんの声はいつもより真剣味がこもっていて、私は少し驚く。何か大事な話でもあるのだろうか。ごはんを食べかけようとしていたが、そのまま座り直す。


「え、どうしたの?急に改まって」


「俺が『シルバークリスマス』の管理人の仕事をしているのは知っているな?」


その単語に、私は目を輝かせた。


「うん、もちろんだよ!あんな有名な木のお世話してるんでしょ?忘れるわけないね!」


私は窓に駆け寄って、外を覗く。窓の外にシルバークリスマスはある。

シルバークリスマスは、ラクームにあるとんでもなく大きいモミの木の名前だ。五大世界樹の一つで、全長は3000mを超える高さ。スカイラの大陸よりもさらに高い、伝説の木だ。クリスマスには飾り付けがされ、その美しさは見る人の心を奪うクリスマスツリーとなることから、銀雪の老樹・シルバークリスマスと呼ばれるようになった。私もその虜の1人なの。そして、私のお父さんはそのシルバークリスマスの管理人の仕事に就いている。私も仕事場に行っては、お手伝いしたものだった。懐かしいなぁ……


「それなら話が早いな。今年もお父さんが飾りの点検をしているのだけれど、昨日、その最中にちょっと足を挫いてしまったのさ」


「足を!?大丈夫なの?」


シルバークリスマスの飾り付けは11月から準備される。とても大きい木なので、飾り付けも大きくなってしまって時間がかかるからだ。今はそれも終わり、いよいよ点検して確認する作業中。なのに怪我なんて……


「ああ、二ヶ月あれば仕事に戻れそうなんだが、クリスマスまでもう一ヶ月を切ってしまった……点検も終わったし、後は不具合のある飾りを直さないといけないんだが、この足ではそれも上手くできなさそうで」


お父さんの言いたいことに私はピンときた。とても重大なことを私に……


「そこでーーー」


「私に代わりに直してほしいってこと!?」


「そういうことだよ、キャロル。でも、キャロルはまだ子供だしそんな仕事をさせるのはーーー」


「何言ってるの、お父さん!」


私は興奮して思わず立ち上がる。あんまり慌てて立ったものだから、座っていたイスが倒れちゃいそうになったくらいだ。でも、今の私にはそんなの気にしてられない!


「世界中の人がシルバークリスマスのツリーを待ってるんだよ!?ずっと楽しみにしてた人とか、あの木の電気が付けられる瞬間を見たいって人はたくさんいる!世界中のみんながライトアップを楽しみにしてるのに、それを最後までしないなんてダメに決まってるじゃん!お父さんがピンチなら、娘の私が頑張らないでどうするの!」


私の剣幕に圧倒されたように、お父さんは口を開けて呆然としている。けど、その目はしっかりと私の目を見ていたのは分かった!お父さんはしばらく言葉を失っていたけど、ぽつりぽつりと口を開く。


「……やってくれるのか?」


「何度言わせるの?任せといてよ、なんたって……」


私はそこで言葉を切って思い切り空気を吸う。部屋の空気は暖炉のおかげで暖かく、少し冬のひんやりしたのも混じっていた。


「私は、お父さんの子どもなんだから」


その言葉を言った瞬間、私の大忙しの十二月が始まったの。

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