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たぎつ瀬の  作者: 夕月 櫻
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二十六 火種

 一瞬、揺羅ゆらは隣にいる泊瀬はつせに伝えるべきかを迷った。

 春恒はるつねの子ができたと揺羅に泣きつき、身を隠す手助けまでしてもらいながら、ある日を境に姿を消した姉に対し、泊瀬が揺羅以上に複雑な思いを抱いていることを知っている。左近さこんもまた、姿を消して以来一度たりとて揺羅に文すらよこさないのを見ると、恐らくは関わりを断ちたいのだろうと思う。水無瀬みなせと呼ばれ左大臣家で暮らしていたあの頃とは、人も違ってしまったのだろう。

 揺羅はもう一度、細く開けた物見から外の様子を窺った。ちょうど揺羅たちの乗る牛車くるまはまた、人込みに足止めを食らって立ち往生していた。

 左近は、ひどく憔悴した様子で荒い息をついている。初夏の日ざしと人いきれに負けてしまったのかもしれない。笠もつけておらず、かつて左府と右府の両家に仕えたことがあるひとのようにはとても見えぬ粗末な身なりをしていた。

 揺羅は小さくくちびるを噛んだ。

 とても見過ごすことはできなかった。揺羅のために右大臣家に来なければ、左近は……水無瀬はこんなことになったりしなかっただろう。見捨てることなどできやしない。


「……泊瀬。見て、水無瀬が」


 揺羅の言葉に泊瀬は小さく、え、と声を上げ、揺羅の背後から物見を覗く。そして、はっと息を呑んだ。


是親これちかどのに頼んで、様子を見てもらって」


 揺羅の言葉に、しばらく姉の姿を凝視していた泊瀬が首を幾度も横に振った。


「なりませぬ……姫さま、あのような者は……放っておけばいいのです」

「泊瀬」


 揺羅は噛んで含めるように呼びかける。


「あのままではよくないわ。おなかの子にも障りがある」

「でも……」

「おなかの子は右大臣家の血を引いているのよ」


 こわばったまま動けぬ泊瀬の様子に、水の入った竹筒を取って握らせる。


「是親どのにこれを渡して、なんとしても家まで送り届けるようにと。家に辿り着くまでは、決してこちらの身分は明かさぬよう伝えて」

「あ……」


 泊瀬は何かに気づいたように小さく声を零し、揺羅は頷いて見せた。


「水無瀬は恐らく是親どのを知らない。家まで送らせれば、どこに隠れ住んでいるかが分かるでしょう? さかきのことだって心配だもの。早う是親どのに」


 泊瀬はそれでもしばらく何かを考え込んでいたが、やがて意を決したように揺羅から水を受け取り、反対側の物見から是親に声をかけた。

 その横で、揺羅は深い息をつく。

 もはや揺羅ひとりで抱えるには大きすぎる問題となってしまったのだ。

 水無瀬が右大臣家と縁を切り、そのままひっそりと子を産み育てる覚悟ならば、揺羅は陰でいくらでも助けていくつもりでいた。だが、揺羅に居場所を教えなかったにもかかわらず、春恒の姿を見んがためにふらふらと表に出てくるようでは、その覚悟はたかが知れている。やがては、春恒や右大臣家にも子の存在を知らせようとするに違いない。

 どこか裏切られたような情けない思いで、揺羅は考えた。

 どうすればいいのか。父に伝えるべきか。

 揺羅はゆっくりと瞬きをし、それから、すぐに小さく首を振った。

 この六年、父に直接伝えることをしなかった春恒との不和を、今さら、父が信頼して送った乳母子めのとごの裏切りを通してわざわざ知らせることは、決して良策ではない。両家に要らぬ波風を立ててしまうだろう。

 そうなると、揺羅が頼れる人はほとんどいないと言ってよかった。

 深い深い息を、揺羅は吐き出す。脳裏に浮かんだ残る一人の面影を追い払うように。

 そう───夫の兄ならば。

 基冬もとふゆならば、春恒の失踪のことも知っている。あのお方ならば、これ以上何が起こったとしてもきっと驚かれぬだろう。そう考えた一瞬ののちには、揺羅はやはりだめだ、と思い直す。頼っていいわけはない。

 心が揺れる。消えてくれぬ浅ましい考えを拒みながら、どこかで頼ってしまいたい己の弱さが暴れている。

 揺羅がそっと泊瀬の方を窺うと、ちょうど物見から水を差し出しているところだった。揺羅は心の惑いを振り切るようにもう一度、泊瀬、と呼びかけた。


「……送り届けたあとは、わたくしの名を言ってもいい。ただ、できることならば宰相さまには内密に、と」


 言った端から、そんなことはできぬだろうと思った。是親は基冬の腹心の従者なのだ。同じ言葉を是親に伝える泊瀬の声を聞きながら、揺羅はぎゅっと目を瞑った。

 これ以上義兄に頼ることになれば恥以上の何ものでもないが、こと右大臣家の血を引く子の問題でもある以上、揺羅ひとりではもうどうすることもできない。

 仕方がないのだ。揺羅はそう、幾度も幾度も己に言い聞かせた。

 市中のざわめきが牛車のうちに流れ込んでくる。よかった、気をつけて行くんだよ。そんな声が外から聞こえてくる。

 揺羅はもう一度、外の様子を窺った。

 是親が、うずくまった左近を抱え起こしているところだった。なんとか立ち上がった左近はやがて、よろめきながらも歩き出し、それから一度、揺羅の乗る牛車の方を振り返った。

 揺羅は思わず首をすくめて覗き見ていた物見から身を離し、それでも今の一瞬で脳裏に焼きついた左近の姿に打ちのめされる。

 ふくらんだ腹。確かにそこにある、ひとつの命。

 間違いなく夫の血を受け継いだ命の存在を目の当たりにして、言葉にできない衝撃が揺羅を貫いた。

 まわりに集まった人々が興味を失ったように散っていくざわめきの中、揺羅だけがそこに取り残されたような心地で、動き出した牛車の揺れにぎゅっと目を瞑った。



     *****



「お呼びでございますか?」


 いつものようにひそりとした低い声が勾欄こうらんの下から聞こえてきて、基冬はゆっくりと視線を上げた。半ばまで巻き上げた御簾が、わずかな風に揺れていた。


「近う」


 これまたいつものように同じ言葉を口にする。

 いつもと違ったのは、一度の呼びかけで是親がすぐに御簾のすぐ側まで寄ってきたことだ。

 祭見物を終えた後のどこか気だるげな雰囲気が漂う東の対には、ちい姫の健やかな寝息だけが規則正しく聞こえていた。

 基冬は、そんな娘の寝顔を見ながら是親に問う。


「……どこに行っていた?」


 見物客で賑わう一条大路から早々に引き上げた、弟の妻の牛車くるまにつき従っていたはずの是親が、基冬よりも後に高倉の邸に戻ってきたことに気づかぬわけはない。

 一瞬言い淀んだ是親を御簾のうちから鋭く見遣る。言えぬか、と心のうちで呟いた。


「……道端で倒れていた女を見かけた東北の御方さまが、介抱せよとおっしゃられましたゆえ」

「ほう……それで、面倒を見ていたのか?」

「はい」


 ふっと鼻で笑い、そなたらしゅうもないことをと呟いた基冬は、しかしそれ以上は問わなかった。

 多くを語らぬには何か理由があるに違いない。必要になれば言ってくるだろう。その点で、基冬はこの乳兄弟である従者に全幅の信頼を置いている。


「分かった。そのようなことならば、そなたも休め。……わたしも疲れた」


 そう言って、手元にあった文箱に蓋をした基冬は、ああ、と思い出したように顔を上げた。


「そこにある花を……先ほど戻ってきた時にちい姫が摘んだものだが、東北ひがしきたに届けたかったようだ。代わりに持っていってはくれぬか? 恐らく姫は明日まで起きぬだろうし、そなたはもう一度東北に行くであろう?」

「……は」

「退がれ」


 基冬がそう言えば、是親が珍しく言葉を継いだ。


「殿からの文は?」


 基冬はしばし黙り込み、やがて絞り出すように問い返す。


「文? 何ゆえ?」


 基冬の手許にある文箱をちらと見遣り、いえ……と口の中で呟いて、是親は黙ってその場を辞した。

 ぶっきらぼうに花を手にして去っていく是親の背を見送りながら、基冬は眉をひそめて小さく唸る。


「……文?」


 言いながら、基冬もまた手許にある文箱に視線を落とし、合点がいったように頷いた。


「ああ……」


 これのことか、と基冬はその文箱を投げやりに脇へ寄せた。それは叔父である大納言 彰良あきよしから久々に届けられた文だった。

 例の伊勢の御方───叔父の妹の死を伝えてから、もうずいぶんと日が過ぎていた。恐らくは動揺の大きさに返事を書くこともままならぬのであろうと予想はついたが、今日届けられていた文を見れば、叔父は思った以上に堪えているようだ。またも出仕すらせず、床に就いているのだという。

 一度訪ねねばならぬか、と基冬は胸のうちで苦く考える。

 感情に振り回されてばかりの叔父の姿は、基冬にとってもどかしいことこの上ない。ただ、それほどまで感情を持て余した経験のない己が、叔父を容易く批判すべきでないことくらいは理解しているつもりだ。きっと、当の本人にとってはすべてを投げ出してしまいたいほどに辛いことなのだろう、想像の域は出ないことだが。

 やはり似ている、と基冬は思った。

 叔父と甥という間柄である彰良と春恒は、その気質が似ている。感情を理性で抑えられず、感情に支配されてしまうたちが。

 それは基冬にはなく、そして、基冬の母にもない部分だ。そのある種の冷静さ、言い換えれば冷淡さがあったからこそ、この右大臣家を守ってこれたのだと自負してもいる。

 そんなことを考えながら遠く庭に目を遣ると、今日、祭行列の中から一度たりともこちらに目を向けようとはしなかった春恒の姿が、わずかな苛立ちを伴って基冬の脳裏に浮かんだ。我知らず息をつく。

 もうわらわではないのだ。いつまで身内に感情の刃を向けるつもりか。

 そんなに今の状態が嫌ならば、中将の職を辞して右大臣家を出ていけばよい。そうできるだけの禄は手にしているのだ。それすらもせず、今の恵まれた立場に甘んじながらこれまでのような態度を取り続けるのなら、帝も言っていたようにもはや後はないし、救う手立てもなくなるだろう。

 時間的にも、そして基冬を始めとするまわりの人々の感情も、徐々に限界に近づきつつある。

 基冬が目を瞑り深々と息を吐き出すと、隣でちい姫が小さく唸りながら寝返りを打った。

 今日はもう目覚めぬだろう。褥へ移さねばと乳母めのとを呼ぶ。


小宰相こさいしょう


 しばらく待ってみたが、人の気配はない。


「小宰相はおらぬか?」


 あまり大きな声で呼ぶと姫を起こしてしまう。

 基冬はまたしばらく気配を窺い、やがて諦めたように座を立つと、眠ったままのちい姫を抱え上げた。

 今日の祭にも同行しなかった小宰相の態度に、ちい姫の祖母でもある母が不快感を抱いていることは分かっている。このところ感じる、白梅邸にいた頃には覚えなかった小宰相に対するかすかな違和感への答えは、基冬にもまだ見つけられていない。

 基冬は幾度か瞬きをし、それから立ち上がると眠ったままのちい姫を抱き上げ、御帳台へと運び込む。


「……申し訳ございませぬ」


 ひそりと背後から声がして、ようやく小宰相が現れた。

 静かに娘を褥に横たえた基冬はそっと振り返り、あとを頼む、と囁く。小宰相は、足音を忍ばせて御帳台の中へ入った。

 手慣れた様子でちい姫の身を抱え起こし、薄紅梅のあこめを脱がせて襟元を整える。その小宰相が纏うにびうちきは、薄暗い御帳台の中でより一層その色を暗くした。

 基冬は、何を言おうとしたのか無意識に口を半ば開き、しかしそのまま言葉を呑み込むと静かに御帳台を出て、日の陰った簀子から庭を眺めた。そうして、ふと考える。

 蛍はもう、そろそろ飛び始めるだろうか?



     *****



「姫さま、是親どのが戻られました」


 久々の遠出に疲れ果てた揺羅が脇息に臥していると、泊瀬がこそりと耳打ちをしてきた。気だるげに顔を上げ御簾の向こうを見ると、普段ちい姫の手を引いて来る時には簀子にいる是親が、日の落ちた庭先の砂利の上で頭を下げていた。

 揺羅は眉をひそめたまま幾度かまばたきをして、それからゆっくりと身を起こす。


「……あのような場所におらずとも。こちらへと伝えて」


 そう囁きながら、頬にかかった下がりを直す。いつの間にかうとうととしてしまっていたらしい。菖蒲*の袿の肩を直すと、涼やかな衣擦れの音が揺羅の耳元で鳴った。

 泊瀬は御簾の向こうに揺羅の言葉を伝え、初めは拒んでいた是親もやがて簀子に腰を下ろした。どこか疲れた様子も漂わせる是親に、主人あるじの代わりに声をかけようとする泊瀬を制し、揺羅は申し訳ない思いで御簾の向こうに語りかける。


「今日は本当に苦労をかけました。礼を言います」


 いえ、と戸惑ったような声で視線を下げた是親は、それで思い出したように手にした花を差し出した。


「姫君からです。我が主人あるじと東の対の庭で摘んだそうです」

「まあ」


 泊瀬に手渡された笹百合を手に取り、揺羅はそのかぐわしい花に顔を寄せた。


「よい香りに疲れも忘れます。ありがとうとお伝えを」


 は、と頭を下げた是親が、そのまま揺羅の言葉の続きを待っているのは明らかだった。笹百合の花を泊瀬に渡し、意を決して尋ねる。


「……して、かの者の住処すみかは?」


 揺羅の問いかけに、是親はまるで待ち兼ねていたかのように答えた。


「六条坊門でございました」

「六条……」

「荒れた家に住んでおられた。中には年老いた女もおりましたが……あの者がもしや」


 気遣わしげにそこで言葉を濁した是親に、揺羅はちらと泊瀬の様子を窺う。

 泊瀬は眉を寄せ、厳しい顔つきで口を噤んで、睨みつけるように床の一点を見つめていた。

 揺羅は吐息まじりに答える。


「ここにいる泊瀬の母───わたくしの乳母の榊でしょう。もう長く患っているゆえ、心配しております」

「そこまで弱っておられるようには見えませんでした」

「まことに? それならばいいのですが」


 揺羅はまた、ちらと泊瀬を窺い見る。

 主家を裏切った者ではあっても母親なのだ。今の知らせが少しでも泊瀬の心を軽くしてくれればいい。


「どこの者かと問われましたが、答えませんでした。ただ、牛車くるまを見ておられるゆえ、何かお気づきかもしれぬとは感じました」

「……そう」


 左近は右大臣家で働いていた者だ。もちろん何か気づいたかもしれぬ。それは仕方のないことだろう。


「それと……」


 是親はどこか言いにくそうに言葉を選びつつ、続けた。


「暮らしにはかなりお困りのご様子で……」


 揺羅は返事をせず、ただ大きく息を吸い込んだ。

 二人が姿をくらませて幾月になろうか。きちんと月ごとに援助してやるつもりだった。だが、それすらもできぬ状況に自らを追い込んだのだ。困窮するのは当然だ。


「泊瀬、先日の()()をここに」


 床に視線を落としたままだった泊瀬は、怪訝な目を揺羅に向けた。


「あれ、とは」

「女御さまの」


 そう答えた瞬間、さっと泊瀬の顔色が変わった。なりませぬ、とひそめた声が縋りつく。


「構わないわ。わたくしが持っていても袖を通すことはないだろうから。早く」


 それでもしばらく渋っていた泊瀬だったが、やがてのろのろと立ち上がり塗籠に消えた。

 揺羅はまっすぐに視線を上げ、御簾の向こうの是親を見た。

 視線を落として身じろぎもせずにいる是親には、どこか主人である基冬と同じ気配を感じる。寡黙だが、信頼できる者であろうという。

 揺羅は意を決して口を開いた。


「これから時折、あの者の許へ遣いを頼まれてはくれませぬか? 他に頼める者もおらぬゆえ、どうか……」


 あの者に責任があるのです、と続けたその時、泊瀬がはこを持って戻ってきた。御簾の向こうに、と泊瀬に合図を送る。

 泊瀬はわずかに顔を歪ませたが、言われるまま匣を是親に託した。是親は、これは何かと問うこともなく、ただ頭を下げた。


「承知いたしました」

「よろしく頼みます。これでかの者たちも少しは楽になるでしょう」


 是親はもう一度深々と頭を下げ、揺羅の前を辞した。

 姉女御の形見とともに立ち去る是親の背が遠ざかるのを、揺羅はぼんやりと見つめた。外と内とを隔てる御簾を、夕暮れ時の風が静かに揺らしていた。



     *****



 敷かれた玉砂利を踏むたび、音が鳴る。さすがに疲れを自覚した是親が一歩一歩踏みしめるように歩いていると、後ろから名を呼ばれた。

 足を止めてのろりと振り返ると、追いかけてきたのか、泊瀬が匂欄越しにこちらを窺っていた。


「何か」


 そう尋ねた是親に、泊瀬はどこか躊躇うような様子でしばらくうつむいていたが、やがて意を決したように口を開いた。


「こたびは、面倒をおかけして申し訳ございませぬ。これを一緒に持って行ってはくれませぬか」


 そう言いながら包みを手渡した。


粉熟ふずくです。お渡しいただければ。それと、これは是親どのに」

「わたしにまで?」

「心苦しくて」


 泊瀬はそう言うと口ごもった。


「ではありがたく。……何かお伝えすることは?」


 是親は見上げて問うたが、泊瀬はただ首を横に振った。いつもは東北の方付きの女房としてしっかりと立ち働いている泊瀬が、今は頼りない少女のようだった。


「届けていただければそれで。どうぞよろしゅうお願いいたします」


 泊瀬はそう言うと、わずかにうつむいたまま背を向けた。

 是親は何も言わずにただ見送り、その衣擦れの音が消えてから、手にした匣を抱え直した。

 くるりと踵を返して、また東の対の方に歩き出す。

 いつの間にかすっかり日は落ちて、夕闇がひたひたと迫っていた。そびえ立つ東の対屋の影も、覆いかぶさってくるようだ。

 是親はなんとなく歩を早めた、その時だった。


「誰だ?」


 誰何する声が飛び、思わずびくりと身体を震わせた。

 一瞬の間を置いて、是親が答えるより先にああ、と再び声がする。


「そなた、そこで何をしている?」


 遣水のそばに立つ人影が問うた。基冬だった。

下がり端

女性の長く伸ばした髪のうち、前髪の一部を頬から肩くらいの長さで切りそろえたもの。(再掲)


菖蒲の襲

青(今の緑)、淡青、白、紅梅、淡紅梅、白を順に重ねた襲。

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