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たぎつ瀬の  作者: 夕月 櫻
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十九 藤波

 揺羅ゆらが最後に姉女御と会ったのは七年前の夏、出産のため内裏うちから左大臣家に宿下りされていた時のことだ。

 大きなお腹はそれだけで物珍しく、静かに微笑む姉の姿は神々しいほどに輝いていて見えた。永遠の別れがその数日後に迫っていようなど、揺羅はもちろん、姉自身も思ってもいなかったに違いない。




 左大臣家の一の姫であった姉は十四の時、一歳年上の帝の許に入内した。

 未だ三歳であった揺羅にはだから、姉と共に過ごした記憶はほとんどない。産み月を迎えた姉が亡くなる直前のわずかな記憶のほかは、入内も間近に迫った雪の日に、勾欄こうらんのところで微笑む姉や父母たちの見守る中、兄や邸の女童めのわらわたちと遊んだ幼い頃の記憶だけが、梅の花の香りとともに今も消えることなく残っているのみ。

 権門の家に生まれる姫君たちが皆そうであるように、その日(入内)を迎える使命を背負って左大臣家に生を受けた姉は、あらゆる知識や技能、誰にも負けぬ誇り高さ、ほんの些細な仕草ひとつに至るまで、ただきさきとなるその日のためだけにすべてを叩き込まれた。そうして、身につけたそのすべてを見事なまでの優雅さで包み隠し、主上おかみの御許へと上がっていったのだった。

 入内したその日のうちに女御宣下(せんげ)を受けた姉が、飛香舎ひぎょうしゃ*の主人あるじとして主上の寵愛を一身に受けることとなったのも、なるべくしてそうなったのだと言っていいだろう。帝が足繁く通われるその殿舎は綺羅と麗しくも華やかな雰囲気を纏っていた、と今も語り継がれているほどだ。

 時めく藤壺女御、一の皇子みこの御母君。後宮において誰よりも輝かしい女人───じきに中宮となり、国母ともなったはずの、姉。

 殿舎を彩る藤の花が終わる頃、宿下がりをした姉女御は、出産への喜びと不安がさざめく左大臣家の邸で、生まれてくるはずであった帝の御子とともに世を去った。これ以上ないほどの栄華の日々は、あまりにもあっけなく断ち切られてしまったのだ。

 あれほどまでに幸福と期待に満ちていた邸が一転、悲しみと慟哭に覆われたさまを、揺羅はきっと一生忘れることはできないだろう。

 一様に白いきぬを纏った邸の者たちが絶望的に泣き咽び、安産を祈念していた御誦経みずきょうが空恐ろしい響きをともなって弔いのものに変わった。

 沈鬱な邸の気配から逃れ、遣水やりみずの流れる透渡殿すきわたどのに呆けたように腰を下ろした父は、夕暮れ時、流れに紛れ込んだ淋しげな光を放つ二匹の蛍に、まるで女御と御子の御魂のようだと虚しく手を伸ばしていた。そうして、捕らえることのできぬ指をきつく握りしめ、また新たな涙を零す。いつも朗らかであった大好きな父が、嗚咽を噛み殺して泣く姿をただ傍の柱陰から見守ることしかできなかった揺羅の心もまた、その時ひどく傷ついたのだった。

 やり場のない嘆きと悲しみと怒りをすべてその手のうちに握り潰したかのように、それでも父はその日を限りと決して泣くことはなかったと揺羅は記憶している。そしてその翌年、揺羅は春恒の妻となった。

 一方で、藤壺女御が亡くなって以降帝に新たな御子は生まれず、今も中宮位は空いたまま。母を喪った一の宮の立場は危ういものにもなり得たが、他におのこ皇子みこが生まれる気配もなく、ついに宮が八つになった三年前、東宮立坊*された。尽力したのは今、揺羅が住まう高倉邸のあるじ、右大臣だ。

 その東宮も今は十一、間もなく元服を迎えられる。左大臣家と右大臣家の間も微妙な均衡を保ったまま穏やかに過ぎる今上の御代はすでに十五年目、世は安泰と言っていいのだろう。



     *****



 揺羅は、いつものように脇息の上に広げた古今集をそっと指で辿り、小さく息をついた。

 もうじき春も終わり初夏を迎えようかという季節、明るい日ざしが御簾の向こうの簀子すのこに揺らめいている。時折そこはかとなく甘い香りがするのは、ここ数日の暖かさで一気に花開いた藤が満開を迎えているからだ。

 春恒はるつねが突然邸に戻ってきて五日ほどが経った。

 あの夜以来、夫とは一度も顔を合わせていない。未だ出仕もしておられぬようだと、泊瀬はつせは言っていた。ただ、昨夜はどこぞにお出かけであったとか。

 いつものことだ、これまでと何ら変わらぬ日常が戻ってきたに過ぎぬ。

 揺羅の中に、夫を想う気持ちはもはや欠片も残っていなかった。かすかに燻っていた最後の燠火のような思いすら、あの夜を境に無残に消え去ってしまった心地がする。もう、夫のことで煩わされるのはうんざりだ。

 なのになぜなのだろう、春恒の向こうに見え隠れする見知らぬ女君の気配が、なおも揺羅の心を不快に苛んでくるのは。そんな己の心が揺羅には浅ましくて不可解で、情けなさは募るばかり。

 ふいに、春恒が揺羅の手から奪い戻した朽ちた藤の花房が脳裏に浮かんだ。あの花がいったい何なのかは分からぬけれど、春恒との関係を決定的にする何かである気がしてならなかった。それが揺羅にとっていいことか悪いことなのか───そこまで考えて、揺羅は幻を追いやるように小さく首を振ると、手許の草子を繰って、藤の歌が並ぶあたりを開いた。


「わがやどの 池の藤波咲きにけり 山ほととぎす いつか来鳴かむ*」


 薄墨を重ねて描かれた藤から伸びた蔓が、揺羅の口ずさんだ歌に絡みついているさまに、帝の遊び心が窺われる。揺羅はその蔓を指で辿り、それからゆっくりと視線を上げると、御簾越しにわずかに見える藤を眺めた。

 姉女御に帝から寄せられた想いは真実だった。それは、遺品に残された気配からも明らかだ。ここかしこに残る主上の手による絵はどれも美事で、想いに溢れている。それはもう、羨ましいほどに。

 ……羨ましい? ふいにそう思ってしまってから、揺羅は思わず眉をひそめる。

 お姉さまはまこと、お幸せであったのだろうか。幼い頃には信じて疑わなかった女御としての栄華の幸運に、今、揺羅は初めて違和感を覚えた。

 数多あまた侍る女君と帝を争う内裏での暮らしが、いったいどれほど幸せだというのだろう? 記憶の中にある姉女御の姿がいつも微笑みを浮かべている、そのことが実はどれほどまで切ないことか───

 揺羅は胸をつかれたように、その視線を歌集に落とした。

 今、揺羅のうちに渦巻く感情はひどく醜いものだ。

 振り向いてもくれぬ夫への想いは冷えびえとしたものに変わったというのに、それでもなお、己の手に入らなかったものを得たのやもしれぬ、知りもせぬ女人を羨んでいる。そう、この感情は紛れもなく嫉妬だ。

 揺羅は、脇息から押しやるように歌集をどけ、深くため息をついてそこに突っ伏す。紅躑躅くれないつつじ*の袖に顔を埋めて、呻くように吐息をついた。

 お姉さまは、どれほどまで帝の想いを信じておられたのか。どれほどまで、帝のことを想うておられたのか。なぜ、いつも微笑むことができたのだろう。

 姉女御が一の皇子を生んだ、その歳になった揺羅だからこそ訊きたいことはたくさんあるというのに、今となってはそれも叶わぬことが口惜しい。


「───姫さま」


 背後で、控えめに呼ぶ泊瀬の声がした。


「なに?」

「それが……」


 言い淀むその声音に、揺羅の心の臓が嫌な風に軋む。


「殿がなにか?」


 ゆっくりと、脇息から顔を上げる。顔に零れかかる下がりの向こうに、慌てて首を振る泊瀬が見えた。


「いえ、いいえ、そうではございませぬ。東の御方さまがお呼びと」

「お義母かあさまが?」


 揺羅は少し驚いたように瞳を見開き、髪を払った。時折揺羅を訪ねてくれることはあっても、東の対に呼ばれることなど今までほとんどなかったからだ。

 泊瀬も揺羅と同じように思っているらしく、どこか不安げに眉を下げた。


「分かりました、すぐに参りますとお伝えして」


 その声を聞いた泊瀬が再び妻戸から出て行くのを見遣り、揺羅はのろりと身を起こす。

 煌めく日ざしと甘やかな藤の香り。揺羅は、藤は嫌いと心に呟いた。



     *****



「揺羅さま!」


 東の対へと赴いた揺羅を最初に迎えたのは、駆け出してきたちい姫だった。

 春恒の帰還を聞かされて西の対へと向かったあの時以来、会えていなかった幼い友の様子を見て、揺羅はどこかほっとした心地でその小さな手を取った。


「ちい姫さま、ご機嫌よろしゅう。お目にかかれず寂しゅうございました」


 ひそりとそう言うと、揺羅の手を早く早くと引いていたちい姫はくるりと振り返って言った。


「もう、大丈夫? お父さまが、揺羅さまはお加減がお悪いから行ってはなりませぬ、っておっしゃったの」

「宰相さまが?」


 そう問い返して思わず足を止め、ちい姫に向けていた視線を上げる。御簾の下ろされた向こう側、ひさし基冬もとふゆの姿があり、揺羅は我知らず小さく息を呑んだ。

 基冬に会うのも、あの日以来だ。この場にいておかしいわけはないが、あの日起こったことを思い出すと申し訳なさと恥ずかしさとで居たたまれない気持ちになる。

 ふと、頬に感じる強い視線を感じた。思わずそちらを見れば、常と変わらず冷ややかな気配を漂わせた小宰相こさいしょうがふいと視線を逸らした。

 何ごとであろうかと揺羅の心は重くなる。

 ちい姫はだけど、そんな揺羅の様子などお構いなしに、はしゃいだ声で到着を告げた。


「お祖母さま、揺羅さまがいらした!」


 品のある藤色のうちきを纏った右大臣の北の方がゆるりとこちらを振り返り、小さく笑って言った。


「まあまあ……ちい姫は、揺羅さまなどと呼んでいるの?」


 それから、そば近くに置かれたしとねを示し、こちらへ、と手招きした。


「わざわざお呼びだてして、申し訳なかったわ」


 いいえ、と揺羅が腰を下ろすと、女房の手で几帳が置かれて基冬との間に隔てができた。ほ、と息をついた揺羅と北の方との間に、ちい姫もすとんと座り込んだ。


「お加減が悪かったのだとか?」


 気遣わしげにそう訊ねられて、揺羅は思わず視線の届かぬ基冬の方を窺う。

 あの日、不覚にも夫の前で気を失い、夫の兄である基冬に助けられた、という外聞の悪い出来ごとをこの優しい夫の母に知られるのは恥ずかしかったし、たとえ知られているのだとしても、そのことに触れられたくはなかった。

 宰相さまはいったいどこまで話されたのだろう、お義母さまはどこまでご存じなのだろうと言葉に詰まった揺羅に、北の方はほ、とため息をついて言った。


「ほんに、中将のことでは心労をかけました。具合が悪うなっても当然のこと……あなたには申し訳もないと、今も宰相と話していたところ」


 北の方はその出来ごとには深く触れず、ただ、揺羅をまっすぐに見る。そうして、艶やかな藤色の袖から揺羅に手を伸ばし、どこまでも静かな声で言った。


「どうすればあなたに笑っていただけるのかしら、と、ずっと考えているの」


 思いもよらぬ言葉に、揺羅はえ? と視線を上げる。


「本当なら中将がそれを考えねばならぬのに、あの子はいつまで経っても愚かなまま。口を挟むまいと思うてここまできましたけれど、こたびのことはわたくしも腹に据え兼ねて」


 北の方の言う()()()とは突然の春恒の失踪のことか、それともその向こうに見え隠れする女人のことかは分からなかったけれど、それでも左大臣家から来た揺羅の立場を慮り、ともに怒ってくれていることはありがたく、それだけでどこか救われた気持ちにもなった。


「わたくしは……大丈夫です、お義母さま」


 揺羅は静かに言うと、隣に座るちい姫を見た。


「こんなにお可愛らしい友人もできましたもの」


 すると、ちい姫は花が咲いたような笑顔を揺羅に見せた。


「ねえ、お父さまがお返事をくださったの! 」

「まあ、それはよろしゅうございました」


 あの拙い文に返事を書いた、父としての宰相に心があたたかくなる。


「ほら、す……小宰相、あとでお父さまの御文を取ってきて」


 ちい姫は、乳母めのとに向かって嬉しげにそう言うと、揺羅の袖を引いた。


「早く、また御文を書きたいの。揺羅さまのところに行ってもいい?」


 ちい姫の言葉につられて、揺羅もまた微笑み頷く。


「もちろんですとも。いつだってお待ちしておりますよ」

「聞いた? お祖母さま、お父さま?」


 はしゃぐちい姫をちらと見つつ、北の方は改まって、そのことなのですけれど、と揺羅に向き直った。


「姫に手習いをさせてくださったのだとか」

「あの時は、ちい姫さまがお父君を恋しがっておられたので、ならば御文を、と」

「これからも、お願いすることはできるかしら?」

「え?」


 揺羅は驚いて北の方を見返した。


「宰相が申すのです、あなたはとても優れた手蹟をお持ちだと」

「そのような……」

「それだけではない、書もたくさん読んでおいでだそうね」


 北の方の言葉を聞きながら、揺羅は咄嗟に考えた。いったいいつ、わたくしの手蹟をご覧になったのだろう、と。そうしてすぐに気づく。恐らくはあの日、揺羅を抱いて東北ひがしきたの対屋に入った時だ、と。

 認められたことは嬉しい。だが同時に、己があずかり知らぬところで覗き見られていたような心地もして、揺羅はどこか居心地悪く瞳を伏せる。

 だがその時、まるで揺羅の心を読んだかのような基冬の声が、御簾の向こうから聞こえてきた。


「ちい姫が、あなたの書かれた手本を持って帰ってきていたのです。このようなことを言っては失礼かもしれぬが、亡き藤壺女御の見事であったお手蹟を思い出しました。さすがは血のつながったご姉妹であられる、と」


 揺羅は、思いもよらぬ基冬の言葉に目を見開いた。

 まさか、そのようなことを言われるとは思ってもみなかった。確かに幼い頃、姉女御の手蹟を手本に手習いをした記憶もあるものの、手蹟が似ているだなんて父左大臣からも言われたことはない。

 北の方は、手にしていた衵扇あこめおうぎを開き、見るとはなしに視線を落として言った。


「藤壺女御さまは佳人と名高かったお方。主上のご寵愛もそれはまばゆいものであったと聞いておりますよ。その妹御であられるあなたですもの、本来ならばこのようなこと、お願いできるはずもないことですけれど……ちい姫の師となって導いていただけるのならば、これほどありがたいことはありませぬ」


 なにより、姫も懐いておりますしね、と北の方は揺羅に向かって微笑みかける。


「そのように勿体ない仰せ……突然のことゆえ、なんとお返事申し上げればよいか。わたくしなどでよろしいのでしょうか?」


 戸惑う揺羅に、北の方は頷いて見せた。


「ちい姫の父のたっての願いです、どうかお聞き届け遊ばして。ね?」


 基冬のたっての望み。

 揺羅は思わず、几帳のかたびらの隙間から基冬の方を見遣る。

 明るい日ざしを背負った基冬は、いつの間にか簀子に降りて庭を眺めていた。その立ち姿の肩越しに、あでやかな藤の咲き匂うのが見えた。

 もし引き受ければ、毎日でもちい姫と会える。それは今の揺羅にとって、この上ない幸せだ。ただ、ちい姫は右大臣家の唯一人の姫君であり、責任は大きい。

 ちい姫に視線を移せば、不安げに揺羅を見上げている瞳とぶつかった。縋るような瞳が揺羅を追いかける。

 ああ……この瞳を見て、それでもどうして断ることなどできるだろう。


「わたくしなどで、よろしいのであれば……」


 揺羅がわずかに頭を下げて静かにそう答えると、その瞬間、ちい姫は弾けたように立ち上がり、父の許へと駆け出して行った。

 卯の花*の直衣を掴んで父を見上げ、何ごとかを話しかけたちい姫を、基冬はひょいと抱き上げる。

 初夏の明るさに佇む二人の姿は、揺羅の心に幸せだった幼い頃の記憶を思い起こさせた。

 揺羅、ゆら。愛しいわたしのちい姫。そう言って抱きしめてくれた父。

 姉女御を亡くした父が、その悲しみも癒えぬうちに揺羅を手許から離してでも右大臣家へと遣ったのは、揺羅を何かから守ろうとしたからに違いなかった。幼心にもそれが分かっていたからこそ、揺羅も今まで父に何も伝えず、ただ一人で耐えてきた。

 夫である春恒への情も未練も、希望さえも断ち切れてしまった今、揺羅はどこかに生きがいを見出さねばならぬ。父のためにも、真に幸せで在らねばならぬ。

 そして、ちい姫の師としての日々に喜びを見出せる自信は、揺羅にはある。そう思い至った時、基冬が誰に聞かせるでもなく静かに詠った。


惆悵ちうちゃうす春(かへ)りてとどむれども得ざることを*」


 不思議そうに父を見るちい姫をそっと簀子縁に下ろし、胸元から蝙蝠かわほりを取り出した基冬は、何かを促すように揺羅のいるあたりを振り返る。

 帷のはざまから見える御簾の向こうのそのまなざしが、聞いておられたかと尋ねていた。

 求められているものが何か、と考えるより前に、揺羅のくちびるから言葉があふれ出る。


「……紫藤しとうの花のもとやうや黄昏くわうこんたり」


 基冬は、しばらくじっと御簾のうちを窺うように黙っていたが、やがて静かに満足げな笑みを浮かべて言った。


「どうか、娘をよく教え導いてやってください。よろしく頼みます」


 それは多分、揺羅が初めて目にした基冬の笑顔だった。

飛香舎

平安中期以降の後宮 七殿五舎のうち、もっとも格式の高い殿舎のひとつと言われています。

壺に藤が植えられていたため、藤壺とも呼ばれます。


東宮立坊

立太子と同じ意。


わがやどの 池の藤波咲きにけり 山ほととぎす いつか来鳴かむ

古今和歌集 巻第三 夏歌の一首めの歌。読み人知らずとありますが、「このうた、ある人のいはく、柿本人麿がなり」との一文が添えられています。

「我が家の池のほとりに藤が咲いた。山ほととぎすはいつになったらやって来て、鳴いてくれるのだろうか」という意。


紅躑躅の色目

表が蘇芳、裏が白。


卯の花の色目

表が白、裏が青(今の緑)。


惆悵春帰留不得 紫藤花下漸黄昏

『和漢朗詠集 巻上 春』より、三月尽さんぐゑつじんを詠んだ白居易の詩。

三月尽とは三月が終わる日のことで、春の終わりの日を指します。

「三月三十日慈恩寺(じおんじ)しるす」と題されており、白居易はいつもこの長安にある慈恩寺で逝く春を惜しんだと言われています。


慈恩春色今朝尽

尽日徘徊倚寺門

惆悵春帰留不得

紫藤花下漸黄昏

「慈恩寺の春も、今日を限りと終わってしまう。日がな一日歩き回り、寺の門に寄りかかっている。春を引き留めるすべもなく、悲しさは募るばかり。紫の藤花の下も、しだいに夕闇の色が深まってくる」という意。

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