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「……大丈夫か?」

「ええ、大丈夫ですわ」


心配そうにする夫に微笑みかける。

あれから、一年の月日が経っていた。







あの日、そのまま結婚を続けることになった私たちは、現状を宰相様から説明された。

名前を変える、となっていても子爵の娘であるリーレンが辺境に嫁いだことは周知の事実だったはず。

そう思って不安に思っていた私の杞憂を吹き飛ばすように、宰相様は鮮やかにすべてを解決して去って行かれたのだ。


まずは結婚相手について。

これは、そもそも辺境ではまだ名前を正式にお披露目していなかったので関係なかった。

辺境においても妻である私が魔法使いである、そこまでは公表されていた。

だが、あり得ない威力の魔法を使った事といい、優雅な立ち振る舞いといい、一般の魔法使いとはかけ離れた存在に王族ではないか? と疑う下地はすでにできていた。

そこで来た相手の公表に、周りの人々はああやっぱりなーで済んでしまったのである。

辺境の人はあまり中央の様子に興味はなかったのだろう。

私としてはそんなものなのかと逆に拍子抜けであった。


そして王宮内であるが、内密に王女が辺境に嫁ぐことは決まっていた、と発表された。

陛下との婚約はあくまで妹姫を守るためで事実はなく、子爵令嬢であるリーレンの名前を借り王女の希望に沿うように王が取り計らっていた、ということに。当然リーレンの出奔も王の命令であるとされた。

公爵家の没落直後の出来事であったため、おそらく王女の身を案じた王が辺境に送っていたのだろう、ということになったようだ。

没落前から結婚していた事にすれば王女の身は保証されるし、刑罰を受けることはないと国民も納得したようだ。

実際問題辺境コクロの主の出現と、王女による撃退は事実である。

王女があくまで国を守るために望んだ結婚であることにくわえ、辺境夫妻の仲睦まじさは各地に散った傭兵によって噂話として散布されていたため、反動が最小限に抑えられて事実が受け入れられた。


勿論、宰相や国王の暗躍はあったのだろう。

だが、表向きはすべて平穏に済まされ、終わった。

そして姉姫と陛下の結果が発表され、無事、物語は終幕したのである。


事実とはかなり異なり紆余曲折はしていたはずだけれど、そのあたりは吟遊詩人たちが好き勝手に語るだけで私たちが声高に叫ぶ必要はない。

そうして私は、元通りの辺境の暮らしを手に入れたのだった。



―――――そして。



「おめでとうございます!」

「まぁまぁ、お可愛いらしいお子様ですこと」

「これで辺境も安泰ですわね!」


私は待望の第一子を生んだ。

性別は男の子。

そして、間違いなく魔力を持った――跡継ぎ。


荒く息をしながらも、満足そうに抱きかかえる私にフェイクス様はおろおろしっぱなしだ。

何度も大丈夫か、と訊かれるがそのたびに私は大丈夫ですから、と返す。

子供のような夫の反応に、私は苦笑するしかない。

そのうち乳母がやってきて、一度お休みくださいと横のベッドに息子を寝かされる。

それを見送りつつフェイクス様を見れば、彼はベビーベッドの横まで一緒に移動していた。


「……かわいいな」


すでに息子は綺麗にされ初乳も飲んだので、後は少し休むだけだ。

とろとろとまどろむ息子の様子に飽きずに見つめるフェイクス様に苦笑しつつ、私は背もたれに体重をかける。


「――フェイクス様」

「ん? なんだ?」


私の視線に気づきよってくる夫に、そっと手を差し出せば握り返してくれる。

その手は大きく、暖かい。

そっと頬に寄せれば、いつもの通り彼は近づいてきて撫でてくれる。


「疲れたか?」

「ええ、そうですわね……」


寝なくてはいけない。

そう思うのに、今目の前にある光景があまりにも幸せで。

寝てしまうのが勿体なくて何度も瞬きすれば、フェイクス様は苦笑しながら私を横たわらせた。


「君が寝るまで傍にいるから。――休みなさい」

「でも」

「リー」


宥める様な声に頬を膨らませれば、その頬をつつかれた。

諦めて目をつぶれば、降りてくるのはあの日からは彼が言ってくれるようになった言葉。



「――――」



私も、と呟いた言葉はやっぱり出ずに塞がれてしまった。






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