5・アラキ ケンシン ~その2~
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送信者:<夕陽から眼球を守る会>
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<ゆうひ会>のみなさんこんにちは!
クスノキです♪
すっかり寒くなりましたね~(*>_<)
みなさん風邪などはひいてませんか?
クスノキは毎日ホットレモンを飲んで体をポッポさせてますよ☆
さて!
次回の<ゆうひ会>会合の日時が決定しましたので、お知らせいたします!
次回の会合は、12月23日の午後2時から行いますぅ~!
はい!クリスマスの直前にやっちゃいますよー
まだクリスマスの予定が決まってない方は、次の会合次第で決まっちゃうかもしれませんよー♪
むりに予定を空けてでも(笑)、12月23日はぜひ<ゆうひ会館>まで起こしください♪
★ここ注目!★ 最後に嬉しいお知らせです!
我々<ゆうひ会>に、新しい会員さんが入会されましたー!パチパチパチ☆
33歳の男性の方で、独身さんです~!
みなさんへのご挨拶のお言葉をご本人からいただいておりますよー♪
ここに掲載させていただきますね♪
====ここから====
<ゆうひ会>の皆様
はじめまして、荒木 謙信と申します。
以前から<ゆうひ会>には興味を持っていまして、ついに念願であった<ゆうひ会>の会員になることができました。
「会」に関しては右も左もわからない若輩者ですが、諸先輩方のご指導をいただき、<ゆうひ会>のさらなる繁栄に微力ながらお手伝いさせていただく所存です。
硬い文になってしまいましたが、みなさんよろしくお願い致します。
====ここまで====
荒木 謙信さんありがとうございました~!
そして<ゆうひ会>へようこそ!
クスノキはまだお会いしていませんが、荒木さんはイケメンとの情報を入手しておりますよー!
荒木さんは次回の会合にご出席していただけるそうです!!!
参加される<ゆうひ会>の女性陣のみなさん、12月23日をお楽しみにー☆
―― 夕陽から眼球を守る会 ―――――
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近所のスーパーに売っている冷凍食品の中で、「大きな焼きおにぎり」という商品がある。文字通り大きめの焼きおにぎりが6個入ったものだ。
わたしは夜に小腹が空いたときなどには、よくこの焼きおにぎりを食べている。
お気に入りの食べ方としては、電子レンジで温めた状態のものをそのまま食べるのではなく、これに「永谷園のお茶漬けの素」と熱湯をかけてお茶漬けにして食べる。
温めた焼きおにぎりをそのまま食べてももちろん美味しいけれど、そこからさらにお茶漬けにすることで、より一層満足度が高くなる。
とくにわたしは「永谷園のお茶漬け海苔」が一番のお気に入りだ。
これが常にダイニングテーブルの上にあると、妻と喧嘩したときや妻が実家に帰っているときなどに、某携帯電話会社の言葉を借りれば、「あんしんサポート」てきな役割となる。
そんな「焼きおにぎり茶漬け」を食べながら、わたしは先週に近所のスーパーで遭遇した元ラグビー部員のことを考えていた。
あの男との事件から1週間が過ぎた。――わたしにとっては事件だった――
あれ以来、元ラグビー部員の姿を見ていない。
彼について調査をしようと思っていた矢先に、姿を見せなくなってしまった。
そもそも、あの男が近所に住んでいるのかどうかさえわからない。
たまたまわたしが住んでいる近所のスーパーに居合わせただけなのかもしれない。
そんなことを考えていたとき、わたしの携帯電話から、スーパーマリオブラザーズというゲームのコインを取ったときの「ピコーン」という音が鳴った。
メールを受信した音だ。
着信メールを確認すると狼さんからだった。
「会のメルマガみました??」
<夕陽から眼球を守る会>から今朝届いていたメールマガジンのことだ。
「見たよ。12月に会の集まりがあるみたいだね」とわたしは返信した。
すぐに狼さんからの返信。「なんでクリスマス直前なんですかねー? 会の集まり、スナちゃんは行くんですか?」
狼さんは自分のことを「狼」という名字で呼ばれるのを嫌うため、わたしは彼女のことを下の名前で「夏帆ちゃん」と呼んでいる。
その反復作用なのか、彼女もわたしのことを「新田 直」という姓名の下の名前で、「スナちゃん」と呼んでいる。
「ぼくはその日は都合が悪くてねー。行けそうにないよ。夏帆ちゃんは行くんだよね?」わたしは狼さんの問いに返信した。
さらに狼さんからの返信。「そっかー。わたしは行こうかと思ってまっせー。新しい会員さんも入ったみたいだしね♪」
そういえば、会のメルマガに新入会員のことが紹介されていた。
荒木 謙信という男だ。
メルマガに記載されていた彼の挨拶文からは、誠実そうな人柄がうかがえた。
わたしが返信するよりも先に、狼さんから続けてメールがきた。
「新会員の荒木さんはイケメンらしいですよ! よかったねスナちゃん♪♪」
さもわたしがホモであることを臭わせるような彼女の文面に、わたしは憤慨しながら返信した。
「言っとくけど、ぼくはホモじゃないから! 荒木氏はどうか知らんけどね!」
狼さんから即返信。「はいはい♪」
わたしは愕然とした。
狼さんにさえも、わたしがホモだと誤解されているというのか。
いったいわたしのどこにホモだと誤解するような要素があるというんだ? まったく意味がわからなかった。
男として見てもらえていない自分が、とてもちっぽけな存在に思えた。
そんなことを考えているあいだに、また狼さんからのメール。
「スナちゃんのために、荒木さんがどんな人なのか見てきてあげますよ♪ 楽しみにしててくだせー旦那ー♪」
荒木という男はどうなのか知らないが、わたしはホモではない。狼さんにそんな誤解をされているというのがショックだった。
そもそもわたしには妻がいるというのに、ホモなわけがない。
どう考えても理不尽だった。
狼さんはもちろん、わたしに妻がいることを知っている。
「スナちゃんの奥さんがどんな人なのか知りたい」、と狼さんにせがまれて話したこともある。
わたしは「男女間の友情は成立しない」と考えているクチだが、狼さんはわたしのことを「マブダチ」だと言う。
彼女がそう思ってくれているのなら、とくに否定する理由もないので、わたしのほうも「マブダチ」の関係を続けている。
いくらマブダチといえども、ホモ疑惑は払拭しておかなければならない。
12月にある「会の集まり」のときに、狼さんは荒木という男と会うだろう。
彼女がよけいなことを荒木に吹きこまなければ良いのだが……
わたしにとっては、「魔の12月23日」になってしまった。
そんなことばかりに気がいっていたわたしは、元ラグビー部員のことなどすっかり頭から離れていた。