雨の降る夜-4-
それから数日はあっという間に過ぎていく。
母の葬儀には多くの人が参列し、皆が涙を流していた。それだけ慕われ、愛されていた母の顔は…とても安らかだった。身体には赤黒い痣が出来ていたが、顔には傷一つ付いておらずとても綺麗で、そのまま『おはよう』と、あの優しい声で起き上がって来るのではないかと思うほど。しかし、そんなはずもなく…俺や父は愛する彼女の上に冷たい土をかけて永遠の別れを告げる――――。
涙は…思うほど出なかった。
後から聞いた話では、俺も父親もとても声を掛けられる状態ではなかったらしい。身体はそこにあっても、魂だけ何処かへ行ってしまったような、空っぽな人形のようだったと。
俺自身もその時の記憶は曖昧で、息をしていたことすら自覚がない。過ぎ去る日々で、先に我を取り戻したのは父だった。彼は言った。
『母さんはこの世にいなくなってしまったけれど、きっと何処かで見守ってくれている。これからは父さんと二人だけの家族だ。でも安心しなさい、お前は父さんが守るから。…生きよう。』
そう言う父の顔はぐしゃぐしゃで、涙や鼻水を出しつくしたような酷いものだった。それでも、生きようと言ってくれた。胸を、心臓を鷲掴みされた気分だった。
父の言葉は嬉しい…でも。
『――――…俺が…俺があのとき、我が儘なんて言わなければ…!!母さんが死ぬことはなかったんだ、俺が…俺が、殺した―――――!!』
天と地がひっくり返る。当たり前の幸せからドン底にまで突き落とされた。
俺は…母を殺したんだ。
何度も違うと父が諭しても、俺の耳に残るあの優しい声が頭の中で言うんだ。『あなたのせいで死んでしまったわ…ねえ、どうしてくれるの?』
何度も何度も、悪夢を見た。毎晩のように魘されて…生きながらに死んだ。そんな俺を父は懸命に守ろうと毎日朝から晩まで働いた。使用人たちの心配も無視して、母のいなくなった分まで一人で働いていた。
俺の為に必死になる父親の姿に、俺は何も出来なかった。次第に痩せこけていき、使用人たちへの態度が変わっていたのはよく知っていた。それでも…父の一番大切な人を奪ってしまった俺が、何をしてあげられたと言うのだろう。
でも、そう思うことすら罪だったのかもしれない。父は、ある時を境に自室に閉じ籠るようになってしまった。患者たちも戸惑った。急に他の病院を紹介され、そこへ行くよう言われたらしい。誰が何を言っても頑として聞かず、結局病院を閉めてしまった。