雨の降る夜-2-
俺の家は下級だが貴族で、親は医者だった。だから不自由はしなかったし、十人程の使用人たちも皆いいやつばかりで何時も暇をみては相手をしてくれた。俺が可愛かったということが大きな要因だ。だから遊び相手には困らなかったし、学校には行くもののつまらない内容、つまらない人間関係が面倒で友達を作ることはしなかった。
それでも大人は勉強の出来る俺を咎めることもなく、生徒もちょっと上の位の貴族のボンボンが絡んでくるだけで、大して問題もなく生活していた。
まあ、成績はトップなんだから何か言われる筋はない。
前に高齢で辞めていったメイド長のばあちゃんに聞いた話、俺の両親は大恋愛をして結ばれたらしい。元々母親の家が立派な位の貴族で、父親の家とは到底埋めることの出来ない壁があった。勿論実際に壁があったんじゃなく、貴族としての立場上って意味で。でも二人は誰に止められようと一緒になることを望んで、色々無茶もしたらしい。所謂駆け落ち。今の二人からは想像出来ない大胆さだ。
結局、母親は自分の家から追い出されるようにして父親のところに来たらしい。それでも一緒になれて、本当に幸せな時間を手に入れた。そして二人で医者として沢山の命を救い、最後を見届け、皆から慕われる存在になった。
そんな頃…俺が産まれたんだって。
働く姿を誰よりも傍で見てきた俺は、親の後を継いで医者になると幼い頃から決めていた。だから医療や人体関係の本は片っ端から読み漁った。学ぶのも楽しかったし、何より親が誉めてくれたから。調子に乗っていたと言えばそうかもしれない。でも、その意思は年々ハッキリと、確実になっていく。
誰に何を言われようと、俺は医者になってやる。そしていつか、両親の下で働いて…ずっとずっと一緒に暮らすんだ。そして俺も二人みたいな恋愛をして、家族と笑顔が増えていく。この国で、いや、世界で一番幸せな家庭を築くこと―――なんてことはない。でも、これが俺の夢。
夢を目指して進んでいく毎日はとても充実していた。気のいい使用人たち、優しい両親…。恋愛とかはまだいい出会いがないだけさ。焦ることはない。勉強して、誉められて、たまに叱られるけど、最後は皆でぎゅっと抱きしめ合う。
ああ、あれが幸せだったんだ。当たり前だからと思っていたけど、どんなに恵まれていたのか今なら分かる。痛いくらいに…。
――――――それは突然だった。