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Αの女神とΩの娘  作者: 真咲 楓
本編
7/38

7 英雄は女装がお嫌い

 ふと思った。

 アキレウスはどうして女装が似合うのだろうか。というか、そんなに板についているのだろう。

 化粧も本物の女性と同じくらい、下手をすれば女性よりもうまいかもしれない。


 何の疑問も持たないまま何ヶ月か過ごしてしまったユカリだったが、そんな疑問がわいて、何となくアキレウスに訊いてみた。本当に何となく。

 その問いに、アキレウスの表情が一変した。


 これ以上ないほど凶悪な顔だ。

 訳もなく平謝りしたくなるほど怖い。

 気の強いユカリが、本気で泣くかと思ったほど凶悪だった。



「そうかそうか、俺の女装はそんなに自然か……」



 ふふふふふふふふふふ。

 地底からわき出るような低い声で笑うアキレウス。目が据わっている分、逆に怖い。

 もういい、何も言わないでとユカリが書く前に、彼は語り始めてしまった。



「元々俺はな、母親が『息子は戦争に出ると死ぬ』なんつー予言を聞いたせいで、女しか住まない島に保護もとい幽閉されてたんだよ。男子禁制。もちろん俺も女の姿。小さい頃はまだよかったよ。ああ、よかったさ。けどなあ! 思春期の俺にとって、どんだけ苦行つませりゃ気が済むんだコノヤロウ! てな感じだったな、あれは」



 ふふふふふふふふふふ。

 また不気味な笑い声(もう笑い声ですらない。乾ききっている)を発して、アキレウスが手に力を入れた。

 ちょうど剝こうと手に持っていたリンゴが握りつぶされる。



「島から脱出する手段なんてありゃしない。泳いで逃げるには、周りに島がない。そんな孤島に! 女に囲まれて! 女の振りをする俺って一体何なんだ!? とか腐ってたら、とある国の王にだまくらかされて、戦場へ引っ張り出されたわけ。まあ、島から出られたのは嬉しかったけどなあ。あいつ、やることなすこと破茶滅茶だったからなあ……。戦争もめんどくさかったし」



 アキレウスが遠い目になる。よほどその王に振り回されたのだろう。

 だから面倒見がいいのかと納得してしまうユカリだった。

 彼からはどう見ても、苦労人気質が溢れ出ている。


 ……アキレウス? 英雄アキレウス?

 どこかで似たような名前を聞いたことがあるような――。


 小首を傾げたユカリが、唐突にひらめいた。



(あああああ、アキレス!! アキレス腱で有名なアキレス!)



 え、アキレスって女装してたの?

 しかも、英雄とか言われてる割に、戦争嫌だったの?


 幼い頃に神話で読んで想像していたアキレス像と、今目の前にいるアキレウスにギャップがありすぎて、ユカリの頭の中でどうしても結びつかない。


 どうしようと悩んだ結果、アキレウスが怖すぎるのと、ギャップのせいで同一人物と見なすのは無理だと判断して、アキレスについてはそれ以上考えないことにした。

 後から思い返しても、ユカリのこの判断は賢明だったと胸を張って言えるだろう。


 この先々でアキレウスに女装について言及した男は、例外なくフルボッコだったのだから。

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