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Αの女神とΩの娘  作者: 真咲 楓
番外編
37/38

麗しき変態の君

とんでもない変態だと思っていたのに、書いてみたら案外変態じゃありませんでした。

私の中のアポロン、もっと変態だと思ってた。意外すぎて(  д ) ゜ ゜

白亜の神殿のひとつ。

美しく整えられたそこで一人、美丈夫が物憂げに琴を爪弾いていた。細い指が動く度に、繊細な音色が静かに響く。

おもむろに手を止めた彼は、切ない吐息をもらした。



「ユカリ……」



あのたおやかな手足。折れそうなほどに細い首。珍しい黒髪と黒い瞳は、いつ見てもしっとりと潤っている。

惜しむらくは、彼の友人と同居していることか。


ユカリに近づこうとする彼をことごとく返り討ちにし、もう来んなの一言と共に追い払われる。友人でなければうっかり殺していたかもしれない。

ユカリもユカリであの男に頼り切っている素振りを見せるし、腹立たしいことこの上なかった。頼るならこちらを頼れ。


びしりと鈍い音がして、琴を爪弾く指が止まる。

切れてしまった弦を苛立たしい気持ちで見やり、小さく傷を負った指を持ち上げながら、ふとユカリの目の前だったらどうなっただろうと考えた。


彼女は争い事に慣れていないようだった。白くすべらかなあの指は、籠に囲われて大切に育てられた証だろう。慌てて手当の道具を持ってくることが目に見えている。


その指先をとらえて、口の中で存分に味わってみたい。蜜のように甘い味がするだろうか。いや、もっとほのかな甘さだろう。


ああ、彼女の艶を含んだ小さな声まで聞こえてきそうだ。

指の間も丁寧に愛撫して、手のひらには口付け。脈打つ手首は甘噛みをしよう。柔らかな腕をゆっくりとたどっていって――。



「妄想もその辺りにしろ。だだ漏れだ」

「痛いっ!誰だ、無礼者!」



楽しい想像は痛みと衝撃を道連れに、唐突に遮られた。

すぱこーんといい音をたてた頭を押さえながら犯人を睨みつけ――一転顔を輝かせる。



「ヘルメス!」

「アルテミスを始め、女神達からの苦情が殺到しているぞ。いい加減自重しろ」

「ユカリの魅力をわかってくれるのはお前だけだ、我が親友よ!」

「話を聞け」



もう一度頭に衝撃が走るが、理解者を得た今の彼には些末な問題だった。いかにユカリが愛しい存在か、聞いてくれるのはこの親友しかいない。

けして彼女の魅力を否定しない親友に、幾度惚れるなと釘を刺しただろうか。


幸い、賢い親友は一度もユカリに会いには行っていないようだ。ユカリから彼以外の男神の話題が出たことはない。

代わりに彼の話題も滅多に出ないが。



「ユカリは恥ずかしがりでな、私の顔を見るだけで目を潤ませるのだ」

「単純に嫌がっているだけじゃないのか」

「あの表情を見るだけで、むしゃぶりつきたくなるのを我慢するのに必死になる」

「お前の思考回路がつくづく理解不能だ。が、好いた女を前にして我慢するとは珍しい」

「うるさい!アキレウスが邪魔をするんだ、くそ、あの優男め」



何故か生温い視線の親友に愚痴をこぼすと、今の状況を保っておけと助言された。どうやら、恥ずかしがりの彼女には、このくらいの距離がちょうどいいらしい。


本音を言えば、一時も彼女を手放したくはない。

細い腰を絡め取り、艶やかな髪の香りを楽しんだ後に、じっくりねっとりと可愛がりたかった。


手の中に閉じこめて、どろどろに溶けるまで味わい尽くして、彼一人しか見えなくなるように。



「ああ……ユカリが足りない。ユカリがほしい。ユカリを食べたい」

「変態発言は私のいないところでしてくれ。私まで同類に見られかねん」

「うるさい。文句があるならユカリを攫ってこい」

「断る」



親友ながら冷たい男だ。


よし、そろそろユカリが寂しがる頃合いか。ヘルメスは放っておいて、彼女に会いに行こう。きっとあの甘い声で出迎えてくれるだろう。


アキレウスが邪魔をしたら殺す。今度こそ殺す。

毎回返り討ちに遭っている事実は闇に葬っておいた。



「よし!今日こそはユカリをこの手に!」

「行くな馬鹿者!昨日追い返されたばかりだろうが!!」

「ユカリが恋しがっているだろうが!」

「自重しろ!」



言い合っている間に、予言を詠む時間になってしまった。その後も執務が詰まっている。今日はもう会いに行けそうにない。



「ユカリー!!」

「うるさい、さっさと神殿に行け」



背中を蹴飛ばした親友は、今日も容赦なかった。

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