表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Αの女神とΩの娘  作者: 真咲 楓
本編
35/38

35 姉上、と呼ばれて

 どれくらいタルタロスにいたのだろうか、時間の感覚がよくわからない。ただ、まぶしい光は久しぶりだと感じた。

 青い空を見上げ、ユカリはその澄んだ色に眼を細めた。


 足下に咲き乱れる花々。あちらこちらに見える、豪奢な白亜の宮殿。頬をくすぐる風も、優しくて甘い香りがする。

 ――天界に戻ってきたのだ。



「ユカリ」



 懐かしく優しい声が、ユカリの耳をくすぐる。自然に涙がこぼれるのを感じながら、彼女は迷うことなくたおやかな腕の中に飛びこんだ。



「アテナ様、アテナ様、アテナ様!!」

「ユカリ……あなた、声が――」

「お会いしたかったです! ずっとずっと、お会いしたかったです!」



 驚いているアテナにすり寄り、強く抱きつく。

 声が出るようになったこともそうだったが、やはりアテナに再び会えたことが一番嬉しかった。



「私も会いたかったですよ、ユカリ。どんなに心配だったか」



 元気そうでよかった。

 とろけるような微笑みでユカリの頬をなでたアテナは、顔を引き締めるとプロメテウスに向き直って深々と頭を下げた。



「貴方には本当に感謝しています、先見の神よ。知らせを送ってくださったこと、心より御礼申し上げます」

「なに、ユカリには私も助けられたからね。ヘルメスに送ったにしては、動きが遅かったようだけれど?」



 からかうようなプロメテウスの言葉に、アポロンを張り倒していた男神が肩をすくめる。



「どこかの馬鹿が、ユカリユカリと騒ぎたてたものでして。暴走をくい止めるのに少々手間取りました」



 ヘルメスについては、アテナから伝令神だと聞いた記憶があった。同時に「あのアポロンの親友をしているなんて、気が知れないわ」などと呟いていた記憶もある。

 なるほど、あの酷い扱いにも納得である。


 恨めしげに見ているアポロンを華麗に無視しているあたり、ヘルメスの性格がうかがえた。同時にそれを冷ややかな目で見ているあたり、ユカリの変貌具合もうかがえる。


 アテナに寄り添っていたユカリに、横から声がかかった。



「姉上」



 緊張で張りつめた声音。

 彼女が振り向いた先には、ゼウスが小さく震えながら立っていた。



「名前を授けられる前に、父上によって奪われてしまった貴女。だから私達は、貴女を姉上としかお呼びできません」

「あの、もうちょっと離れてください」



 シリアスな場面をぶち壊す発言だったが、あまりにも距離が近すぎる。

 男性恐怖症が治ったわけではないので、控えめにお願いしてみると、意外にも数歩離れた。



「最後の兄弟がいると知った時、私がどんなに悔しかったことか。全ての兄弟を救い出せたのだと自負していた自分の傲慢さに、やっと気づきました」



 ゼウスの目が潤んでいる。震えは徐々に大きくなって、わななきへと変わっていた。


 ああ、わたしのかわいいおとうと。


 ごく自然に浮かんできたその言葉に、ユカリは激しく動揺する。

 いい歳をした大人に向かって、弟とはこれいかに。しかも相手は最高神だ。

 けれど、その言葉を口に出せば、きっと目の前の男は喜ぶのだろうとわかった。



「不本意ながらも、父上によって貴女がここに喚ばれたと知った時の、あの歓喜。どれほどのことか、きっとお分かりにはなっていただけないでしょう」



 ゼウスが、片膝をつく。全能の神が跪くことの重大さは、神になったばかりの彼女にも充分にわかった。

「やめてください、ゼウス様。他の神に示しがつきません」

「お帰りなさいませ、姉上――ユカリ」



 慌てるユカリの前で深々と頭を垂れたゼウスは、晴れ晴れとした表情で立ち上がる。



「これより、ユカリを正式に神の一員として認める。この決定に異議がある者は申し出よ」



 誰も、何も言わなかった。ふと目があったヘラは、気まずそうに視線をそらす。



「では……姉上。ヘラの呪いも解けたことですし、一緒に参りましょ――ぐはあっ!?」



 きらきらと輝かんばかりの笑顔が、不自然なところで絶妙に歪んだ。

 見れば、ヘラがヒールの踵でゼウスの足を踏みつけている。



「元はといえば、貴方がきちんと説明をせなんだせいで――!!」

「ちょ、ヘラ、悪かった! 一人で舞い上がっていた私が悪かった! だから足をどけてく痛たたたたたたた!!」



 ……ヘタレ属性か。

 やられキャラなのか。


 アポロンと血がつながっているのだと、ユカリは今初めてはっきりと認識した。

更新箇所を著しく間違えておりました…!!ご指摘いただいた皆様、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ