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Αの女神とΩの娘  作者: 真咲 楓
本編
33/38

33 自覚

『おのれ――おのれ! 再び我らを裏切るか、プロメテウス!! 今再び、我が覇権を阻むか!』

「別に私は、神々の覇王が誰でも構わないんだけど。あなたの凶暴性には共感できない」



 額に脂汗をにじませながら、それでも飄々と言い放つプロメテウス。彼の掲げた手から、光の膜が生まれていた。



「そして、ゼウスの好色さにも共感できない。――さて、ユカリ。最後の選択肢だ」



 光の膜は優しくユカリ達を包みこみ、クロノスの攻撃から守ってくれている。



「アキレウスを助けたいか?」

「当然でしょ!」



 即答。

 一瞬の迷いもない、まっすぐなユカリの声。



「それによって、今までの君自身の全てを捨てることになっても?」

「…………」



 今度は、即答できなかった。

 彼の言いたいことはユカリにも痛いほど理解できる。自分の変化に敏感なのは、誰よりも自分自身だ。


 人の器に、神の魂。

 その状態のユカリに、人であることを捨てろと言っているのだ。


 育ててくれた両親。何だかんだ言って優しかった姉。ふざけあった友達。秘密を共有し合った親友。

 その全てを、なかったことにできるのかと。



「今ならばまだ、引き返せる。不安定なその状態でも、所詮は人の器。いつかは滅びる定めにある。魂が輪廻に入れば、あるいは君が元いた場所に、再び生まれ落ちることができるかもしれない」



 けれど。



「神になってしまったら、可能性を全て捨てることになるよ。それでも君は、アキレウスを助けたいかい?」



 ――アテナ達との生活は、ユカリに平穏と幸せをもたらしてくれた。


 帰りたい。

 帰りたい。

 帰りたい。


 ……どこへ?


 不意に浮かんだ疑問に、ユカリは答えを持たないことに気づいた。その事実に愕然とする。

 何故すらりと、答えが出せないのか。誰が、何が原因なのか。

 大きく目を見開いて固まったユカリに、プロメテウスがささやくように告げる。



「君は癒しの神。アキレウスに君の血を与えればいい。――そうすれば、彼は助かるよ」

「やめ、ろ。ユカリ」



 即座にアキレウスが反応した。弱々しく彼女の腕に手をかける。

 簡単に振り払えるほどのその感覚に、ユカリが唇を噛みしめる力が強くなった。

 鉄の味が口の中に広がる。


 咆哮が空間を震わせる。プロメテウスの顔が苦しげに歪んだ。



「……所詮、一柱としての私の力は及ばぬ、か」



 自嘲するように一人ごちたプロメテウスの視線が、ひたりとユカリをとらえる。



「君の力は強い。だからこそ、クロノスも君に執着する。――ぐっ!!」



 光の膜が揺らいだ。クロノスの腕が、じわりじわりと浸食してくる。

 ――プロメテウスの守りが、壊れようとしている。



「逃げ……ろ」

「決断を、ユカリ」



 アキレウス。

 右も左もわからない、やっかいな事情持ちのユカリを、めんどくさがりながらも匿ってくれた唯一の存在。


 本当は嫌だったろうに、女装をして彼女の心の負担を軽くしてくれた。

 危険な旅にも、自らを省みず付き合ってくれた。

 プロメテウスを助ける時は、凶暴なハゲタカを一人で引き受けてくれた。


 ――男は誰一人信用できないこの世界で、アキレウスだけは安心して接することができた。



「アキレウス……」



 やっと気づいた。

 私、あなたのことが好き。守られるだけは嫌、助けたい。

お気に入り500件……!ありがとうございます(( ;゜Д゜)))

後4~5話で終幕となります。最後までお付き合いいただければ幸いです。

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