1 男なんて滅びればいいのに
世の中、大抵のことは突然起こる。
赤ん坊が生まれてくる時も、女の子の生理が始まる時も、男の子の精通が始まる時も、たまに人を好きになることも。
病気になることも、お気に入りの洋服を見つけることも、そう、大抵のことは「突然」で済まされる。
しかし、いくらなんでもあれはないだろうと、ユカリは後から思い返すだにため息をつくのだった。
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つるり、がさがさがさ、ざばん!
その時の状況を音で説明するならこうだろうか。
とりあえず、ありえないとだけ先に明言しておこう。
彼女が落ちた小さな崖の下には、池はおろか水たまりなどないはずなのだから。しかも温かい――お湯だなんて!
何だかいい香りのするお湯の中でざぱざぱともがいていると、力強い腕で引き上げられた。
「珍しいこともあるものだ。――人間ではないか」
「ほう、どれ」
「なるほど。確かに人間の乙女だ」
咳きこむ合間に、そんな会話が頭の上でされている。それにつられて、ユカリはそろりと顔を上げた。
そう、上げてしまったのだ。
それがすべての始まりとも知らずに。
「…………っ、きゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
そこにあったのは、男の裸、裸、裸、裸、見渡す限りの男の裸体。視界に強烈な肌色の嵐に、彼女は反射的に悲鳴を上げていた。
動きにくいお湯の中を必死に逃げ回っても、腕は次から次へと伸びてくる。
顔を上に上げればにやけた男の表情。下を向けば人生で初めて見る性器の群れ。
伸びてくる腕は時折その性器を握らせたりもして、未知の感覚に全身鳥肌が立った。
ユカリはといえば、花の高校生、青春真っ盛り。上から下までびしょ濡れで、身体の線がはっきりと目立ってしまっている。
それがまた恥ずかしくて、必死でもがき続けた。
「はははは、初々しい」
「やはり乙女は愛らしい」
そこ! 下品に笑ってる場合じゃないから! こっちは本気で嫌がってるから!!
心の中で盛大に罵倒しつつ、ユカリはもがき続ける。
「そのままでは動きづらいだろう」などと言って、服を無理矢理剥ごうとする腕もあった。言葉だけでは思いやりだが、声が完全におもしろがっていた。
犯される。
その単語で頭がいっぱいになった。力の限りに悲鳴をあげる。
「誰か……助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」
忌まわしくも記念すべき、ユカリが男嫌いになった瞬間だった。