表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

コメディー短編(現代社会)

感想欄のネタバレをどこまで許せる? 言語化してみた(推理小説編)

作者: 多田 笑
掲載日:2026/05/23

エッセイっぽいタイトルですが、コメディーです。

少しでも笑っていただけたら嬉しいです。

 俺は推理小説が大好きだ。


 だが最近は、書店で本を買う金もなければ、図書館へ通う時間もない。そんな推理小説欠乏症に陥っていた俺の前に、ある日、一筋の光が差し込んだ。


 ──小説投稿サイト。


 いつでも手軽に読めて、しかも無料。素人の作品が中心とはいえ、中にはプロ顔負けの作家もいる。


 その中でも、俺のお気に入りは“もじゃもじゃオイル先生”だった。



「ふぅ……夕飯も食べたし、食後の“もじゃもじゃタイム”といきますか!」


 夕食後に、もじゃもじゃオイル先生の作品を読む──それが最近の俺の日課だった。


 もじゃもじゃオイル先生の作品数は、とにかく多い。推理ジャンルだけで、連載作品が50作以上ある。


「それでは、記念すべき10作品目!」


 今回読むのは、もじゃもじゃオイル先生の10作目だった。


 さっそく読もうとした、その瞬間。


 俺はスマホの操作を誤り、うっかり感想欄を開いてしまった。


 そして、見てしまったのだ。


『まさか、山本が犯人だなんて意外でした。今回の作品も素晴らしかったです。

 投稿者:ピーヒョロピータロー』


 ……おい。

 おいおいおいおい、マジか!?

 ピーヒョロピータロー!!


 なんでネタバレすんねん!!

 しかも犯人を!!


 推理小説の醍醐味ってのは、主人公と一緒に犯人を推理することだろうが!!


 なんでや……。

 なんでネタバレするんや……。

 ワイの……ワイの“もじゃもじゃタイム”を返せぇぇぇ!!


 その日、俺は風呂にも入らず、枕を濡らしながら眠ったのだった。



 翌日。


 まあ、ピーヒョロピータローにも悪気があったわけじゃないのだろう。

 実際、もじゃもじゃオイル先生も『いつも感想ありがとうございます』って返信していたし……。


 ……ん? いつも?

 まさか……ピーヒョロピータロー、これ以前の作品にも感想を書いているのか!?


 俺は急いで、これまで読んだ作品の感想欄を確認した。


『予想を裏切られました。犯人もトリックも意外でした。次回作も楽しみにしています。

 投稿者:ピーヒョロピータロー』


 ……うん。これは大丈夫だよね?


 ピーヒョロピータロー、ネタバレはしていない。実際、この作品の犯人もトリックも意外だった。


 推理小説の犯人なんて、大抵は意外な人物だ。いかにも怪しい奴は、大体ミスリードだし……。


 そして、別の作品の感想欄も見てみた。


『まさか、まさか! 今回の犯人も意外でした。でも、主人公にとっては悲しい結末ですね(泣)

 投稿者:ピーヒョロピータロー』


 ……ギリギリセーフ?


 確か、この作品の犯人って主人公の親友だったよな? でも、他にも友人キャラは出てきてたし……大丈夫か?


 いや、待て。


 それだと犯人候補、8人から3人くらいに絞られちゃうじゃん……。


 やってんなぁ、ピーヒョロピータロー。

 地味にやってんなぁ!


 こいつ、もしかして……もじゃもじゃオイル先生のアンチなんじゃないか?


 ……まあ、いい。

 感想欄さえ見なければ済む話だ。


「さあ、今日のもじゃもじゃタイムだ」


 俺は未読作品のタイトルをタップした。


 第1話を開こうとした、その瞬間──

 また操作を誤り、感想欄を開いてしまう。


『まさか、犯人の飯塚が殺人現場の山小屋ごと取り替えてしまうなんて……。斬新なトリックでした。

 投稿者:ピーヒョロピータロー』


 ……おい。

 ピーヒョロピータロー、またお前かよ!


 犯人、書くな!!

 しかもメインであろうトリックまで!!


 なんでネタバレすんねん!!

 マジでなんなんだ、こいつ!!


 ピーヒョロピータローとかいう楽しげな名前しておいて、読者の楽しみを奪う悪魔やないか!! デビル・ネタバレに改名しろ!!


 ……でも

 ……気になる。


『山小屋ごと取り替える』って、何?


 どういうこと?

 飯塚、お前なにしたの!?

 めちゃくちゃ気になるんですけどぉぉぉ!!


 その夜、俺はその作品を読破した。



 その次の日。


「今日こそ、感想欄を開かない! 絶対に開かないぞ!」


 しかし──

 またまた誤って開いてしまう感想欄。


 そして、当然──


『安田を犯人だと特定するのに、ダイオウグソクムシを利用したのは、意外すぎます!

 投稿者:ピーヒョロピータロー』


 やっぱり……

 またかよ……ピータロー……

 もう、止めて……止めてくれよ……。


 ……でも

 ……気になる。


 なんで? なんで、ダイオウグソクムシ!?

 どうやったの? どうやったら、ダイオウグソクムシで犯人分かるの?


 そして、俺はその作品も読破してしまった。



 また次の日。


 俺は、ある可能性に気付いた。

 もしかすると、もじゃもじゃオイル先生は、ピータロー対策をしているのではないか?


 ファンを大切にする、もじゃもじゃオイル先生。ピータローの感想は、悪意が明確なわけではない。だからこそ、簡単には削除できないのだろう。


 推理小説において、ネタバレは楽しみを半減させる。だが逆に、そのネタバレを利用して、読者の興味を引く作品を書いているのではないだろうか……。


 夕食後。


 俺は未読作品を開こうとして──今回は思い切って、先に感想欄を見てみた。


『犯人が、あの渡辺だなんて意外でした。

 投稿者:ピーヒョロピータロー』


 ……ん? これだけ?

 ピータロー、どうした?

 今回はずいぶん大人しいじゃないか。


 そして、もじゃもじゃオイル先生。

 これでは“ネタバレで読者の興味を引く作戦”になってませんよ……。


 俺は、その作品を読み始めた。


 舞台は、とある山奥の洋館。

 そこで開かれたパーティーの最中、殺人事件が起きる。


 容疑者は、主人公を除く5人。


 県議会議員の渡辺。

 弁護士の渡辺。

 IT企業役員の渡辺。

 写真家の渡辺。

 銀行員の渡辺。


 ……渡辺しかいねぇ。



 その後の作品では、ピーヒョロピータローの感想を見かけることはなくなった。


 きっと、もじゃもじゃオイル先生が削除したのだろう。


 ……うん。これでいいんだよ、たぶん。

最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想欄から開くミス操作を連発する主人公の理由が一番の推理要素になってるのが、本作ですね(なんでやねん)
渡辺だらけの登場人物に吹いてしまいました ハヤカワや創元文庫の最初に出ているような作りだったら、初っ端から笑いを取りにきているとしか思えないですわ ピータロー対策が万全すぎて推理ではなくコメディにな…
今回の作品も素晴らしかったです。 まさか犯人があの渡辺だなんて意外すぎました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ