感想欄のネタバレをどこまで許せる? 言語化してみた(推理小説編)
エッセイっぽいタイトルですが、コメディーです。
少しでも笑っていただけたら嬉しいです。
俺は推理小説が大好きだ。
だが最近は、書店で本を買う金もなければ、図書館へ通う時間もない。そんな推理小説欠乏症に陥っていた俺の前に、ある日、一筋の光が差し込んだ。
──小説投稿サイト。
いつでも手軽に読めて、しかも無料。素人の作品が中心とはいえ、中にはプロ顔負けの作家もいる。
その中でも、俺のお気に入りは“もじゃもじゃオイル先生”だった。
◇
「ふぅ……夕飯も食べたし、食後の“もじゃもじゃタイム”といきますか!」
夕食後に、もじゃもじゃオイル先生の作品を読む──それが最近の俺の日課だった。
もじゃもじゃオイル先生の作品数は、とにかく多い。推理ジャンルだけで、連載作品が50作以上ある。
「それでは、記念すべき10作品目!」
今回読むのは、もじゃもじゃオイル先生の10作目だった。
さっそく読もうとした、その瞬間。
俺はスマホの操作を誤り、うっかり感想欄を開いてしまった。
そして、見てしまったのだ。
『まさか、山本が犯人だなんて意外でした。今回の作品も素晴らしかったです。
投稿者:ピーヒョロピータロー』
……おい。
おいおいおいおい、マジか!?
ピーヒョロピータロー!!
なんでネタバレすんねん!!
しかも犯人を!!
推理小説の醍醐味ってのは、主人公と一緒に犯人を推理することだろうが!!
なんでや……。
なんでネタバレするんや……。
ワイの……ワイの“もじゃもじゃタイム”を返せぇぇぇ!!
その日、俺は風呂にも入らず、枕を濡らしながら眠ったのだった。
◇
翌日。
まあ、ピーヒョロピータローにも悪気があったわけじゃないのだろう。
実際、もじゃもじゃオイル先生も『いつも感想ありがとうございます』って返信していたし……。
……ん? いつも?
まさか……ピーヒョロピータロー、これ以前の作品にも感想を書いているのか!?
俺は急いで、これまで読んだ作品の感想欄を確認した。
『予想を裏切られました。犯人もトリックも意外でした。次回作も楽しみにしています。
投稿者:ピーヒョロピータロー』
……うん。これは大丈夫だよね?
ピーヒョロピータロー、ネタバレはしていない。実際、この作品の犯人もトリックも意外だった。
推理小説の犯人なんて、大抵は意外な人物だ。いかにも怪しい奴は、大体ミスリードだし……。
そして、別の作品の感想欄も見てみた。
『まさか、まさか! 今回の犯人も意外でした。でも、主人公にとっては悲しい結末ですね(泣)
投稿者:ピーヒョロピータロー』
……ギリギリセーフ?
確か、この作品の犯人って主人公の親友だったよな? でも、他にも友人キャラは出てきてたし……大丈夫か?
いや、待て。
それだと犯人候補、8人から3人くらいに絞られちゃうじゃん……。
やってんなぁ、ピーヒョロピータロー。
地味にやってんなぁ!
こいつ、もしかして……もじゃもじゃオイル先生のアンチなんじゃないか?
……まあ、いい。
感想欄さえ見なければ済む話だ。
「さあ、今日のもじゃもじゃタイムだ」
俺は未読作品のタイトルをタップした。
第1話を開こうとした、その瞬間──
また操作を誤り、感想欄を開いてしまう。
『まさか、犯人の飯塚が殺人現場の山小屋ごと取り替えてしまうなんて……。斬新なトリックでした。
投稿者:ピーヒョロピータロー』
……おい。
ピーヒョロピータロー、またお前かよ!
犯人、書くな!!
しかもメインであろうトリックまで!!
なんでネタバレすんねん!!
マジでなんなんだ、こいつ!!
ピーヒョロピータローとかいう楽しげな名前しておいて、読者の楽しみを奪う悪魔やないか!! デビル・ネタバレに改名しろ!!
……でも
……気になる。
『山小屋ごと取り替える』って、何?
どういうこと?
飯塚、お前なにしたの!?
めちゃくちゃ気になるんですけどぉぉぉ!!
その夜、俺はその作品を読破した。
◇
その次の日。
「今日こそ、感想欄を開かない! 絶対に開かないぞ!」
しかし──
またまた誤って開いてしまう感想欄。
そして、当然──
『安田を犯人だと特定するのに、ダイオウグソクムシを利用したのは、意外すぎます!
投稿者:ピーヒョロピータロー』
やっぱり……
またかよ……ピータロー……
もう、止めて……止めてくれよ……。
……でも
……気になる。
なんで? なんで、ダイオウグソクムシ!?
どうやったの? どうやったら、ダイオウグソクムシで犯人分かるの?
そして、俺はその作品も読破してしまった。
◇
また次の日。
俺は、ある可能性に気付いた。
もしかすると、もじゃもじゃオイル先生は、ピータロー対策をしているのではないか?
ファンを大切にする、もじゃもじゃオイル先生。ピータローの感想は、悪意が明確なわけではない。だからこそ、簡単には削除できないのだろう。
推理小説において、ネタバレは楽しみを半減させる。だが逆に、そのネタバレを利用して、読者の興味を引く作品を書いているのではないだろうか……。
夕食後。
俺は未読作品を開こうとして──今回は思い切って、先に感想欄を見てみた。
『犯人が、あの渡辺だなんて意外でした。
投稿者:ピーヒョロピータロー』
……ん? これだけ?
ピータロー、どうした?
今回はずいぶん大人しいじゃないか。
そして、もじゃもじゃオイル先生。
これでは“ネタバレで読者の興味を引く作戦”になってませんよ……。
俺は、その作品を読み始めた。
舞台は、とある山奥の洋館。
そこで開かれたパーティーの最中、殺人事件が起きる。
容疑者は、主人公を除く5人。
県議会議員の渡辺。
弁護士の渡辺。
IT企業役員の渡辺。
写真家の渡辺。
銀行員の渡辺。
……渡辺しかいねぇ。
その後の作品では、ピーヒョロピータローの感想を見かけることはなくなった。
きっと、もじゃもじゃオイル先生が削除したのだろう。
……うん。これでいいんだよ、たぶん。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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