表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祈りの残響  作者: ゴンザレス清盛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

271/283

『起点の消失』

最初の理由は、自分のものではなかった。


借り物の感情。

借り物の優先。

借り物の行動。


だが。


繰り返される選択は、やがて更新される。


理由は置き換わり、

起点は失われ、

それでも行動だけは残る。


そして最後に残るのは――


説明できないまま、

それでも手放さない一点だけ。

 起点は、借り物だった。


 少年の身体に焼きついていた感情。ネリネへ向けられた、名前を持たない一方向の圧。


 それが、最初の行動を決めていた。


 近くに留まる。危険を切る。離れない。


 理由は説明できない。


 だが、手順だけは正確に出る。


 最初の十年。


 徹底して外側にいる。


 姿は出さない。声も出さない。接触もしない。


 介入は最小単位。


 結果だけを調整する。


 落ちる枝の角度を変える。


 滑る足場の摩擦を一瞬だけ上げる。


 矢の軌道を、風の揺らぎとして逸らす。


 ネリネは気づかない。


 ただ、“助かった結果”だけが残る。


 百年。


 距離の取り方が最適化される。


 遠すぎれば介入が遅れる。近すぎれば気配が残る。


 見えないまま、届く距離。


 常にその位置を維持する。


 この頃から、わずかなズレが生じる。


 ネリネが傷ついた時、処理が一瞬だけ遅れる。


 判断の順序が乱れる。


 原因は特定できない。


 だが、より早く対応するために、わずかに近い位置を選ぶ。


 契約ではない更新。


 理由のない調整。


 三百年。


 依然として、姿は見せない。声も出さない。


 ネリネの認識の中に、アスモデウスは存在しない。


 それでも、介入は続く。


 夜の獣が一歩手前で進路を変える。


 崩れるはずの地面が、半歩だけ持ちこたえる。


 毒の回りが、わずかに遅れる。


 結果だけが積み重なる。


 ここで、選択が変質する。


 助けるか、見送るか。


 切るか、残すか。


 効率だけでは決まらない判断が増える。


 だが、その基準は外に出ない。


 すべては見えないまま処理される。


 五百年。


 離脱を試みる。


 契約は終わっている。


 少年の意識も存在しない。


 外れることは可能なはずだった。


 距離を取る。


 監視を切る。


 痕跡を消す。


 結果、異常が出る。


 ネリネ側ではない。


 自分側の処理が崩れる。


 優先順位が不安定になる。


 無関係な事象への介入が増える。


 本来必要な場面での反応が遅れる。


 戻る。


 元の距離へ。


 元の配置へ。


 回復する。


 ここで初めて確定する。


 離れると、不具合が出る。


 理由は定義できない。


 だが、維持する方が合理になる。


 七百年。


 周囲は変わり続ける。


 ネリネの環境も、人も、場所も、何度も入れ替わる。


 その中で、残すものと切るものを選び続ける。


 すべては残せない。


 その前提が内部に固定される。


 優先順位が再定義される。


 ネリネ。


 それ以外。


 明確な二層。


 それでも、接触はしない。


 姿は見せない。


 認識の外に留まり続ける。


 千年。


 起点は、判別不能になる。


 少年の感情だったものは、もはや原型を留めていない。


 更新され、上書きされ、選び直されている。


 理由が変わる。


 契約だから。


 身体がそうするから。


 放っておくと不具合が出るから。


 失いたくないから。


 段階的に置き換わる。


 最後の理由だけが残る。


 失いたくない。


 定義は曖昧。


 対象は明確。


 それが、最上位に固定される。


 そして――現在へ。


 白い診療所。


 分断された空間。


 アガリアレプトの領域。


 アスモデウスは、ひとり立っている。


 ここで初めて、過去の連続が自分のものとして接続される。


 借り物かどうかは、判定できない。


 だが、選び続けてきたのは自分だと分かる。


 ネリネの位置が、今もある。


 不完全なまま。


 欠けたまま。


 それでも、そこにある。


 そしてこの先。


 初めて、姿を現す。


 森の中での接触。


 ネリネにとっての最初の出会い。


 それは、千年の末に選ばれる行動になる。


 アスモデウスは一歩踏み出す。


 過去の延長ではない。


 今の選択として。

起点は、もう判別できない。


それでも。


選び続けた結果だけが、

現在を決める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ