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琥珀色の秘密〜ウィスキーとお惣菜の癒し時間〜  作者: 山いい奈
1章 わたしたちのお城「TOMO」
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第5話 妹だから

(たもつ)さん、今日のお惣菜に苦手なもんとかありましたっけ?」


 好き嫌いが少ない保さんである。パクチーが苦手なことだけは、那津(なつ)も把握済みなのだが。


「あれへんよ。全種類普通にちょうだい」


「はい、ありがとうございます」


 那津はお惣菜をそれぞれ小鉢に盛り付けて、割り箸とともに「どうぞ」と保さんに出した。メニューは黒板に書いて、カウンター席から見えやすいところに掲げてある。


「ありがとう。今日も美味しそうや。やっぱりなっちゃんは料理のセンスがあるよなぁ」


 そんなお世辞がするりと言えてしまうのも、イケメンたるゆえんだろうか。那津は思わず照れ臭くなってしまって。


「ありがとうございます」


 そう言うので精一杯だった。


「そうやで、保。昔っから家の手伝いをしてたなっちゃんの料理は美味いからな。噛み締めて食えよ」


 お兄ちゃんは嬉しそうだ。女装をしているお兄ちゃんだか、少しばかり口が悪く、見た目とのギャップがある。それを魅力だと捉える人も多かったりする。


「分かってるって」


 保さんも楽しそうだ。保さんとお兄ちゃんはこうしてほぼ毎日会っているのに、飽きたりしないのは、やはりお付き合いをしている人同士だからなのだろう。


 お兄ちゃんは中性的な見た目で、女装をしていてもあまり違和感がなかった。保さんはイケメンなわけだが、きりっとした男性顔で、中学と高校のときはサッカー部でエースストライカーだったそうなのだ。もてないわけがない。


 那津は高校から保さんとお兄ちゃんとは離れてしまったので、高校のときのことはあまり詳しくないが、ファンクラブがあったとかなかったとか。


 過去は親友、今は恋人。そんなふたりはとてもお似合いである。


 ここはバーなので、お客さまが来だすのは19時以降が多い。今はまだお客さまは保さんだけだ。


 こんな穏やかな時間は、あと1時間もすれば終わる。それまで3人でこうしてのんびりと過ごすのだ。那津はこの時間が好きで、大切にしている。


 時間がある今のうちに、那津は5個の玉ねぎをみじん切り器でみじん切りにし、オリーブオイルで炒め始める。明日のお昼の下ごしらえだ。


 やや強めの火で、飴色になるまで炒め続ける。その間も甘い香りが店内に漂っていた。


「ええ匂い。明日のカレー用やんな?」


 保さんが鼻をひくつかせる。那津は「そうですよ」と応える。


「今のうちにやっといた方が楽ですからねぇ。なかなか時間が掛かりますから」


「ぼくもなっちゃんのカレー食べてみたいけど、昼は外出るん面倒なんよなぁ」


「在宅のお仕事やと、そうかも知れませんね」


「保は出不精になったよな。前はもっとアクティブやったのに」


「そうかも」


 保さんとお兄ちゃんが微笑み合う。なんだか甘やかな空気が醸し出される。那津は(お邪魔でごめんやで〜)と思いつつも、微笑ましい気持ちになる。


 保さんとお兄ちゃんの関係は、きっと全ての人に歓迎されるものではないのだろう。今でも偏見はあるし、気持ち悪いと捉える人もいるだろう。


 だが、那津はお兄ちゃんの妹だから。


 いつでもお兄ちゃんの味方でいるし、全力で応援する。今は那津がお兄ちゃんの唯一の身内だから、当たり前のことだ。そうした身近な人から反対にあったりすることはきっと、辛いことなのだ。


 お父さんとお母さんが生きていても、きっとお兄ちゃんの意思を尊重していたと思う。


 ゆっくりゆっくりと、玉ねぎが色づいていく。きつね色、そして飴色になったら火を止めた。それ以上火が入らないように濡れぶきんの上に移し、あとは粗熱が取れたらお鍋ごと冷蔵庫へ入れる。


 その間に瓶ビールを飲み干した保さんは、キープしてあるボトルで、お兄ちゃんに水割りを作ってもらっていた。


 保さんがキープしているのは「ジャックダニエル」。アメリカ生まれのテネシーウィスキーだ。バニラのような甘い香りを持ち、まろやかな飲み口である。


 実はこのボトルキープ制度、その始まりは大阪だと言われている。当時の大和(だいわ)実業さんが大阪市内の洋酒喫茶「BEBE(ベベ)」さんで導入した。ただ、今のようにお店側が提供するのではなく、お客さまが持ち込んだボトルをお店が預かったとのこと。


「うん、美味しい」


 水割りを傾けた保さんは、しみじみと呟く。閉店までいてくれるので、徐々に薄めになっていくだろう。それはお兄ちゃんも心得ている。


 そして、その日ふたり目のお客さまが来店した。


「いらっしゃいませ」


「いらっしゃーい」


「にゃあ」


 那津とお兄ちゃん、スイは、笑顔でお客さまを迎え入れた。

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