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琥珀色の秘密〜ウィスキーとお惣菜の癒し時間〜  作者: 山いい奈
2章 それは、あなたなんです
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第9話 関係を築くために

「ちょっと呆れられるかも知れんねんけどね」


 出口(でぐち)さんはそう前置きをして口を開く。まず、今の(たもつ)さんファンクラブのメンバーは、中学のころからのグループなのだそうだ。そのまま揃って同じ高校に進学した。


 そして、保さんを見初めたのが、深川(ふかがわ)さんだったそうなのだ。深川さんはグループでもリーダー的存在だった。2年のときだった。


 高校のサッカー部はさほど強かったわけではないが、人気球技なこともあり、部員さんは多かった。そんななかで2年でレギュラー、背番号10番をもぎ取った保さんは、イケメンということもあり、校内での人気が爆発したのだ。


 深川さんはガチ恋と言ってもよいほどに保さんにご執心になり、グループの子、出口さんたちにも同意を求めた。確かに保さんはイケメンだしサッカーをしている姿は格好よいと思ったので、出口さんは「そうやね」と返事をした。するとあれよあれよとそのグループは、保さんファンクラブと化していったのだった。


 深川さんは出口さんたちにも同じ熱量を求めたので、それに合わせるしかなかった。そうしてサッカー部が活動している放課後、応援しているときに、出口さんはお兄ちゃんに恋心を抱いてしまった。


 だがそんなことは、口が裂けても言えなかった。仲間はずれにされるのが怖かったからだ。グループ化した若い女子は排他的なところがあったりする。自分たちと同じでないと、排除したりする可能性があったのだ。


 特にそのとき、出口さんたちのグループは「保さんのファン」というところが絆になっている側面が大きかった。実は出口さんがそうではないと知られたら。


 確かに女子高生の身分で、グループから放り出されるのは怖いかも知れない。しかも中学のときからの仲良しなのだから。


 クラスはばらばらだったそうだ。なので自分のクラスにお友だちだっていたのだが、それでも中学のときから培ってきたグループを、出口さんは大事にしたかったのだ。


「さすがに大学からはばらけたけど、それでも遊んだりは続いてて、(ふか)ちゃんはずっと松比良(まつひら)くんのファンで、いつまでも熱が冷めんで。正直ね、ほかのふたりも深ちゃんと一緒になってきゃっきゃしてるけど、実際はどうなんか分からんのよ。あたしらももう30に近いんやから、彼氏がおったり、それこそ結婚しててもおかしくないやん? でも、今でもこんなんで」


 出口さんは苦笑いを浮かべる。話を聞いた保さんは「うーん」と考えるような素振りを見せた。


「確かにさ、学生んときって人間関係っちゅうか世界が狭いから、そうなってもしゃあないかなって思うんやけど、やっぱり今でもこだわりたいもんなん?」


「せっかくのご縁やからって思うから。もう15年ぐらいかな? それぐらいの付き合いやもん」


「でもさ、出口さんの話を聞いてると、友だちなんやろうけど、深川さんに振り回されてるような気もするんよなぁ。リーダー格なんやろ? ファンクラブ会長やし。出口さんも含めて、イエスマンみたいになってへん?」


「……そうかも」


 出口さんは落ち込んでしまう。言いたいことも言えない、誰かが我慢をしている、それが大きい関係は、決して健全とは言えないように思える。


 人同士のお付き合いなのだから、気遣いや思いやり、多少の我慢は必要になってくるだろう。だがそれがしんどいと思ってしまえば、もうそれは歪なものなのだ。


「無責任なこと言うとさ、ぼくは、出口さんがほんまに好きやったんは(ほたる)やった、ちゅうか別の人やったって、言うてしもてもええ気がするなぁ。それで壊れてまうようなら、強いもんやなかったんやと思うわ」


「そう、なんかな」


「ぼくが中学から一緒やった蛍と今でも続いてて、関係性がこうなったんって、言いたいことが言えるからやねん。もちろん傷つけたくはないから、言葉とか言いかたを選んだりはするけど、好きなもん、苦手なもん、思ってること、それがいい合えん関係ってどうなんかなって、ぼくは思う」


「そう、かも」


 出口さんの頬がほんのりと赤みがかる。保さんの言葉に心が動かされたのだろうか。


 人と人とのお付き合い、触れ合いというのは、難しいことだと那津(なつ)は思っている。それぞれに思い、考え、価値観があり、まずはそれを尊重しなければならないのではないだろうか。そして自らのそれを押し付けないことも大事だ。人を自分と同じだと決めつけて接するのは、歪みを生むと思う。


「あの、お話が聞こえてしまっていてごめんなさい」


 那津は出口さんに話しかける。カウンタ内の調理関係は奥に集まっているので、どうしても那津の定位置になり、聞き耳を立ててしまっていたとはいえ、そうしなくても聞こえてしまっていた。


「わたしと兄、血が繋がってないんですよ」


「え、そうなんですか? めっちゃ仲のええごきょうだいと思ってました」


 出口さんは驚いたように目を見張る。吹聴することでもないし、親しくなければ話すことでもない。出口さんが知らなくて当然だ。


「でも、わたしが兄ときょうだいをやれてるんは、さっきの保さんのお話のように、互いを偽ってないからなんやと思うんです。もちろん全部をつまびらかにはしてないです。そこはプライバシーもありますし、デリケートな部分もありますからね。でも、互いに相手を信用して、尊重しているから、保ててる関係性やと思ってます。それは誰に対しても、同じやと思うんですよね」


「尊重……」


 さっきまで揺らいでいた出口さんの目に、光が戻ったように思える。保さんファンクラブとの関係性を、見直すきっかけになってくれれば。


「ありがとうございます。あたし、考えてみますね。大事な友だちですけど、あたし、我慢してたかも知れんから」


「はい。生意気言ってすいません」


「いえ、とんでもないです」


 明日、この「ウィスキーバー TOMO(トモ)」にファンクラブの面々が揃う。保さんの言葉にどういう反応を示すのか、出口さんはどうするのか。那津にはなりゆきを見守ることしかできないが、少しでもよい方向に行ってくれたらよいなと思う。


 そのとき、スイがのそりと顔を上げた。そしてじっと那津を見て、また丸くなったのだった。スイはなにか言いたげのように見えたのだが、気のせいだったのだろうか。

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