それは執着か溺愛か
読んでいただきありがとうございます。
あの澄んだ薄浅葱色の瞳に見つめられると、私は心臓がぎゅっとなる。
そして彼の言葉に従わずにはいられないのだ。
彼はカルロス・ベネム侯爵令息、私の婚約者だ。
婚約は、ベネム侯爵家からの申し入れだった。
伯爵家の家に断る権利は無いし、家としては願っても無いお話だった。
カルロ様は私より5歳年上で、17歳の私とは学院でも一緒になった事は無い、仕事は宰相をしているお父様の補佐をしていて、ゆくゆくはその座を継がれる予定だ。
ただら伯爵家の商会ともかかわりはない。
容姿もプラチナブロンドの短い髪を後ろに流し、クールなあの薄浅葱色の瞳、背も高く声まで素敵。
令嬢達からの人気たるや、学院で私への小さな嫌がらせが止まないほど。
その嫌がらせも、度を越したものは私の知らない間に粛清され、最悪は学院からも居なくなってしまいます。
「ヴィー。早くこちらに来て座りなさい」
「はいカルロ様」
私の指定席はカルロ様の膝の上だ。
それもご家族がご一緒でも。
初めての時は恥ずかしすぎて死ぬかと思いました。
でも、これは婚約者として当たり前のことだとカルロ様がおっしゃるので……。
後でお友達からは、そんなことはないと言われました。
さらに友人たちは、あのクールなカルロ様がそんなこと言うはずないと信じてもらえませんでしたけど。
カルロ様は良くも悪くも注目されていますから、悪いうわさも私に聞こえる様に教えて下さる方がいます。
噂のひとつは。
私のようなお子様ではなく、長くお付き合いする同じ年のきれいな女性がいらっしゃるとか。
今も頻繁にその女性の家に通われていると……いろいろな方が親切に教えてくれるのですが。
…………嘘ですわ。
だって。
カルロ様は婚約してから、私が学院に居る間に働き、それ以外はずっと私と一緒に居るんですもの。
婚約中ながら私の住まいはすでに侯爵家で、それもカルロ様のお隣のお部屋。
通えるはずがないのです。
そのシフトにするために、お義理父である侯爵様とだいぶ揉めていらっしゃいましたが、卒業と同時に結婚しその後は仕事に専念する事と現在の仕事は必ず時間内にやり遂げる事を約束し
私と一緒にいる時間をもぎ取っていました。
凄い仕事量を短時間にこなすなんてさすがカルロ様です。
「さあ。ヴィーそろそろ会場に向かおうか」
カルロ様の手が差し出される。
カルロ様のエスコートを受け、夜会に向かう馬車に乗り込みました。
もちろん移動はお膝の上です。
「ヴィー。今日のドレスも似合っているよ」
何度お膝に乗せられても、この距離の近さにはなかなか慣れません。
それに馬車の中だとしっかり腰をホールドされていてさらに近い。
背の小さな私は、すっぽりカルロ様の腕の中におさまってしまいます。
「髪型もこの形にしてよかった」
カルロ様がハーフアップにした私の髪に顔をうずめる。
「ヴィーのいい香り」
んぎゃ~。恥ずかしすぎます~。
「カルロ様 恥ずかしくて、私の心臓が破裂してしまいますわ」
あまりの恥ずかしさに、少しカルロ様の胸を手で押し返すと、カルロ様の腕にさらに力が入り私を澄んだ薄浅葱色の瞳がじっと見つめてきます。
視線を交わしたまま10分ほど。
もう無理です、これ以上眼を合わせていたら本当に心臓が大爆発ですわ。
私はカルロ様のまなざしに耐えられなくなり眼を閉じました、するとカルロ様が耳元でささやきます。
「本当は顔中にキスを落としたいけど、これから夜会だからしかたない」
ちょうどその時ドアを御者がノックしました。
「着いたようだね、さあ行こう」
✿ ✿ ✿
今夜は王宮で開かれるいちばん大きな夜会です。
いろいろな方が来るでしょうから……心配ですわ。
カルロ様にエスコートされ、会場に入ります。
もうすでに多くの方が、会談や飲食を楽しんでいらっしゃいます。
「おい。カルロス遅いじゃないか。王子殿下がお前に伝えたいことがあるそうだ、ステートルームでお待ちだ。」
慌てた様子で、お義理父さまが、声をかけて来た。
「では、ヴィーと一緒に」
「まてまて、ヴィロー嬢は私がそばに居ることにしよう」
「はい。お義理父さま。カルロ様行ってきてください」
「父上、ヴィーに何かあったら、ただでは済まされませんよ」
「わかったわかった」
お義理父さまは、あきれたようにひらひらとカルロ様に手を振る。
凄い不機嫌な顔で、カルロ様が去っていきます。
王子殿下の事が心配になりますわ。
「しかし、ヴィロー嬢、本当にあの息子でいいのかい?
執着しすぎて、君が苦労しているのではないかい?」
「お義理父さま、ご心配いただきありがとうございます。
時々、優しくされすぎて心臓が持たなくなりそうな時もありますが、私は、大丈夫です」
「宰相閣下、ご歓談中にすみません。
急ぎ確認していただきたいことが。」
補佐官が二人、お義理父さまに声を掛けます。
「や。しかし……」
「お義理父さま、わたしなら友人達も来ているでしょうから大丈夫ですよ、夜会中までお仕事お疲れ様です」
「いや、そばを離れたら息子に殺されそうだが。
んー。誰か警護に当たっている女性騎士を、直ぐに彼女のそばに居られるよう手配してくれ」
「はい。早急に」
補佐官の一人が急ぎ対応に向かった。
「少し離れるがすまない。ヴィロー嬢、直ぐに女性騎士が来るからね、ここで待っているんだよ」
そう言ってお父様は会場を後にした。
「だれか来ていないかしら……」
私は周囲に知る顔がいないか見回と、同級生のマエルと目が合った。
「やあ。今日はあの執着男とは一緒じゃないのかい?」
「あら、マエルも来てたのね。リーシャは一緒じゃないの?」
「もちろん一緒だよ。今、髪を直しに行ってる」
「戻ってきたら、少し一緒に居させていただいていいかしら?
今、カルロ様は王子殿下に呼び出されて席を外しているのだけれど」
「ああ。一緒に来てるんだな。
二人きりだと俺の命がなくなるからな、リーシャを呼んでくるよ」
「ありがとう。マエル」
マエルは化粧室の方へ手を振って去っていった。
命がなくなるなんて、私は思わず笑ってしまったが、あながち間違いでも無いわね。
「あの。ロニダ伯爵家のヴィロー様でいらっしゃいますか?」
「はい」
今まであまりお話しした事のない令嬢に声をかけられました。
たしか……
「私、カロライナ・シベクトと申します」
「まあ。シベクト伯爵家の」
あまり良い噂をきかいな家ね。
「はい。今年学院に入りました。以前からヴィロー様とお話ししたいと思っていて。突然声をかけてしまいすみません。ちょうど友人ともはぐれてしまい、心細くて……」
「そうなのね。カロライナ様とお呼びしてもいいでしょうか?」
「はい。ヴィロー様」
「ご友人のご令嬢は何色のドレスで来ていらっしゃるの?」
周囲を見渡す。
「えーっと、あ!あそこの角を曲がりました」
「見つかって良かったですね」
そう言ってお暇しようとする私の手を、カロライナ様は突然握り「一緒に行きましょう」とぐいぐい進んでいく。
角を曲がるが誰の姿も無い。
「あちらの廊下かしら?」
さらに私は、カロライナ嬢に連れていかれる。
もう一つ角を曲がるとすぐそばの扉が開き、背の高い男性が現れた。
「ライアン兄様!」
「良かったご家族がいらしたのね。それでは私はこれで」
二人にお辞儀をし、その場を去ろうとすると、急に腕を掴まれた。
「ヴィロー嬢、初めてお話しさせていただきます。
私、シベクト伯爵家嫡男、ライアンと申します。以前からヴィロー様と懇意にしたいと思っておりました」
「あの。腕を離していただけますか?」
「そうおっしゃらず」
ぐいっと体を引き寄せられる。
「ヴィロー様。是非 兄と仲良くなってくださいませ~。
そうすれば私が、カルロス様と婚約できますわ」
この人たち死にたいのかしら?
そんなことを考えていると、空いた扉に引きずり込こまれそうになる。
私は掴まれた反対の手で、髪飾りをひとつ引き抜いた。
これはカルロ様が、万が一の時のためにといつも髪に刺して下さる髪飾り
先端を何かにあてると、中から太い針が飛び出す仕組みになっている。
使うのは初めてですが。
「えい」
ライアン様の手に髪飾りを突き立てます。
「痛い、何するんだ」
うまくいきましたわ♪
ライアン様の手が離れると同時に、複数の足音が聞こえます。
「ヴィー。伏せろ」
カルロ様の声がして、慌てて頭を下げるとその上を
大きな花瓶が飛んでいきましたわ。
ガジャーン。
派手な音と共に、花瓶はライアン様の頭を直撃。
見事に後ろに倒れ、ライアン様は気を失われました。
「ヴィー。大丈夫か」
カルロ様に強く抱きしめられる。
ああ。カルロ様のぬくもりに安堵する。
「カルロ様、わたくしちゃんとできましたのよ、カルロ様から
頂いたこの髪飾りで」
私はカルロ様に自慢げに髪飾りを差し出し、にっこり微笑んだ。
あら。安心したら、何だが涙が出てきてしまいました。
私の涙を見たカルロ様は、私を抱き上げ立ち上がりました。
その背中には誰も恐ろしくて声がかけられないほどの黒いオーラが出ていたみたいです。
「カルロ様、大好きです」
執着だとみなさん仰いますが、私もカルロ様をすごーーーーく。
愛していますから。
これは執着ではなく、溺愛ですわ。
~ 終わり ~
その後
=ヴィローからの追伸=
シベクト伯爵家は、きれいさっぱり家ごと影も形もなく消えました。
お義理父さまは次の日、平謝していただきましたが
顔色が悪く憔悴しきっておいででした。
何があったかは聞かない事にいたします。
(*^-^*)




