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第39話 護送路、回復と役割


出発は昼前だった。


追放――そう呼ばれているのに、手配はやけに丁寧で、馬車はやけに上等で、護衛はやけに多い。


ロウは馬車に乗り込みながら、喉の奥で息を吐いた。


(……捨てられてる感じ、しねぇな)


それが逆に気味が悪い。


馬車の中。


クラリスは紙束を膝に置き、封蝋の状態を一つずつ確認している。


レナートは薬箱を開け、包帯と瓶を並べた。


並べ方が、いつも通りだ。


いつも通りの手つきが、状況の異常さを薄める。


ロウは座席に腰を下ろし、足を動かした。


痛い。


でも、動く。


動ける。


(……動けるってことは、仕事できるってことだ)


ロウは窓の外を見た。


護衛の兵。


すれ違う荷車。


道端の人影。


視線の動き。


癖。


(あれ、神殿のやつだ)


(あっちは王家の兵、でも配置が変だ)


情報は勝手に入ってくる。


入ってくるのに、黙って座ってるのは性に合わない。


ロウは言った。


「俺、動ける」


レナートは視線を上げない。


「座ってろ」


ロウは噛みつく。


「は? 舐めんな」


「情報収集くらいできる」


「得意だし」


クラリスが紙から目を上げずに言う。


「得意なのは分かります」


「だからこそ、今は座っていてください」


ロウが眉を寄せる。


「なんでだよ」


クラリスは淡々と言う。


「得意な人が動くと、相手が警戒します」


「相手が警戒すると、情報が濁ります」


「今ほしいのは“濁ってない情報”です」


ロウはぐっと言葉を飲み込む。


(……理屈は分かる)


でも、ムカつく。


ムカつくけど、納得もする。


ロウは窓の外を見たまま、ぼそっと言った。


「……じゃあ、俺が動かない方が、取れる情報が増えるってことか」


クラリスが頷く。


「はい」


ロウは舌打ちして、背もたれに寄りかかる。


「……チッ」


その舌打ちは、不満というより切り替えだった。


馬車が揺れる。


傷がうずく。


ロウの眉が一瞬だけ動く。


その一瞬を、レナートは見逃さない。


何も言わずに薬箱を寄せ、包帯をほどき始めた。


ロウが反射で言う。


「……見んなって」


レナートは淡々と言った。


「見ないと治せない」


ロウは視線を逸らす。


腹が立つのに、安心する。


指が速い。


巻き直しが、正確だ。


痛みの逃げ道だけ残して、きつすぎない。


ロウがぼそっと言う。


「……過保護かよ」


レナートが一言。


「当たり前だ」


ロウは返す言葉を探して、結局、ため息をひとつ落とした。


クラリスが紙を揃えながら言う。


「痛みで顔が曇ると、相手に“弱点”として渡ります」


ロウがむっとする。


「じゃあ治せってことかよ」


クラリスは淡々と言う。


「はい」


ロウは舌打ちしながら、腕を差し出す。


差し出してから、自分で腹が立つ。


(……従ってんじゃねぇ)


でも、従う。


勝つためだ。


レナートが薬包を置く。


「飲め」


ロウが受け取る。


「……苦ぇやつ?」


「苦い」


「最悪」


言いながら、飲む。


飲んでから、小さく言う。


「……俺、仕事する」


レナートが包帯を押さえたまま言う。


「ダメだ」


ロウが即座に噛みつく。


「なんでだよ!」


「俺、足動くし」


「目も耳も生きてるし」


「こういうの、昔から――」


言いかけて止めた。


昔の話は、余計だ。


言ったら、空気が変わる。


ロウは鼻から息を吸って、ゆっくり吐いた。


一回で終わらせる。


レナートはロウを見る。


視線だけで、全部分かってるみたいな目。


そして、言う。


「仕事は、こっちがする」


ロウが睨む。


「……俺だって」


レナートの声が低くなる。


「ロウ」


短い。


それだけで、ロウの喉が詰まる。


レナートは続ける。


「君の仕事は、治ることだ」


ロウは言い返せない。


言い返したいのに。


悔しいのに。


その悔しさが、変な方向に熱くなる。


クラリスが、横から淡々と刺す。


「治らないと、次の国で証明ができません」


「証明できないと、また隔離されます」


ロウは目を逸らした。


「……わかったよ」


言い方は不貞腐れてる。


でも、受け入れてる。


馬車は国境へ向かう。


道は次第に荒れていく。


護衛の兵の数が増える。


すれ違う者の視線が鋭くなる。


そして、坂の途中。


馬車が一度、止まった。


外で短い怒号。


兵の足音が走る。


クラリスが顔を上げる。


レナートが窓に手をつく。


ロウは反射で身を起こしかけ――


痛みが走って、歯を食いしばる。


(……くそ)


レナートが一歩だけ前に出て――すぐに振り返る。


視線だけでロウを確かめる。


動けるか。


無理をするな。


そう言っている目だ。


ロウは舌打ちして、座ったまま頷く。


(……わかってる)


外で、誰かが叫んだ。


「検問だ!」


「封蝋を確認する!」


クラリスが紙束を抱え直す。


「ここからが、本番です」


レナートが淡々と呟く。


「相手は、ここで手を出す」


ロウが唇を噛む。


(手を出すなら、俺だって――)


でも、今は我慢。


我慢して、勝つ。


馬車の扉が開く。


冷たい風が入り込む。


その先に立っていたのは――白。


神殿の白衣だった。


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