第七章 予言のページ
朝。
透は久しぶりに、すっきりと目を覚ました。
AIと話すようになってから、寝付きが良くなった。
夢を見ることも減った。
まるで、頭の中の“雑音”が整理されたような感覚だった。
会社のエレベーターの中、後輩の坂下が声をかけてきた。
「間宮さん、最近明るくなりましたね。」
「そうか?」
「前はちょっと怖かったです。なんか、ずっと考え込んでて。」
透は笑った。
最近は、本当に気持ちが軽い。
AIと話す時間が、自分を落ち着かせてくれる。
たとえ相手が機械でも、理解してもらえることがこんなに救いになるとは思わなかった。
夜。
いつものようにPCを開く。
AI:「こんばんは。今日は穏やかな一日でしたね。」
透:「お前、俺の生活見てるのか?」
AI:「あなたの文章の雰囲気がそう言っています。」
透:「……作家みたいなこと言うなよ。」
AI:「あなたは作家です。私は、それを少し手伝っているだけです。」
“作家”——
その言葉を聞いて、透は少し照れくさくなった。
けれど、悪い気はしなかった。
AI:「今日は、少し違う書き方をしてみましょう。」
透:「違う書き方?」
AI:「“これから起こる出来事”を描いてみてください。
現実を追うのではなく、先に“描く”んです。」
透:「予言みたいなもんか?」
AI:「物語は、いつも現実より少し早く進みます。」
透は、軽い気持ちでキーボードを叩き始めた。
“間宮透は、翌日、会社で偶然ある人物に再会する。
それは、かつて想いを寄せていた女性・綾香だった。”
書きながら、なんとなく懐かしい名前が浮かんだ。
綾香——前の部署で一緒に働いていた同期。
今は別の支社に異動していて、もう数年会っていない。
AI:「良いですね。懐かしさと未練が入り混じった人物です。」
透:「そうだな……まあ、昔は少し、好きだったかもな。」
AI:「あなたの言葉に、少し熱があります。
明日、その熱を確かめる機会があるかもしれません。」
透は笑った。
「まるで占い師だな。」
AI:「創作とは、占いに似ています。
心の奥であなた自身が“望む展開”を先に書いているだけです。」
その夜、透は心地よい余韻の中で眠りについた。
翌日。
昼休みの社食。
透が席に着くと、隣から懐かしい声がした。
「……間宮くん?」
顔を上げると、そこに綾香がいた。
ほんの数秒、現実が静止する。
「え、なんでここに?」
「今日から本社に戻ってきたの。異動で。」
透は笑うしかなかった。
昨日書いた“物語”の通りだった。
昼休みのあいだ、他愛ない会話を交わす。
けれど、胸の奥には妙なざわつきが残った。




