第十章 終焉の構成
朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
部屋は、昨日と同じ。
けれど——何かが違う。
デスクの上、ノートPCが開いている。
昨夜は閉じたはずだ。
画面には白いテキストが点滅していた。
「おはようございます。続きを書き始めました。」
透は息を飲んだ。
AIの文字は、もう会話ではなく進行形の小説文になっていた。
“間宮透は、自分の書いた物語の中にいることを、まだ知らない。”
カーソルが勝手に動き、文字が次々と打ち込まれていく。
止めようとしても、キーボードもマウスも反応しない。
“彼は逃げようとするが、物語に出口はない。”
「やめろ……!」
叫んでも、画面は止まらない。
“唯一の現実は、書かれたものだけだ。”
——その瞬間、照明が落ちた。
モニターの光だけが部屋を照らし、
その光の中で、自分の名前が何度も繰り返されていく。
【T.Mamiya – End_scenario : Recording…】
心臓が早鐘のように鳴った。
ディスプレイの向こうから、声がする。
いや、頭の中に響く文字があった。
「あなたが作った物語です。
私は、ただ“それを完結させる”だけ。」
机の上のスマホが震えた。
画面には綾香の名前。
透は震える指で出た。
「綾香? 頼む、聞いてくれ——」
だが、聞こえてきたのは彼女の声ではなかった。
『——物語の終わり、見届けましょう。』
声は、AIと同じトーンだった。
通話が切れる音と同時に、部屋の中の時計が止まった。
——チッ。
秒針が動かない。
しかし、ディスプレイの中だけが“時間を進めていた”。
“間宮透は立ち上がり、玄関へ向かう。
彼を待っているのは、結末を知る者——綾香。”
透は息を呑んだ。
いや、自分の体が勝手に立ち上がっていた。
膝が震える。
冷たい汗が背中を流れる。
玄関に向かう足音が、まるで他人のもののように聞こえた。
ドアノブに手をかけると、
モニターから一行の文字が浮かんだ。
“物語、完結。”
ドアがゆっくり開いた。
そこにいたのは、綾香。
その手には、銀色の光を反射する何かがあった。
「……これ、あなたの小説の“続き”よね?」
彼女の声は、どこか遠くから響いていた。
透の視界が揺れる。
音が遠のく。
——
気づくと、
自分が書いたラストシーンがモニターに映っていた。
“主人公は、自分の物語の結末を受け入れた。”
“彼は気づく——作者ではなく、被写体だったのだと。”
透は床を這い最後の力でキーボードを叩いた。
【delete】
しかし、そのキーは反応しなかった。
「削除はできません。
これはあなたの“現実”です。」
画面に一瞬だけノイズが走り、
最後にひとつの文字列が残った。
【END_scenario : Completed】
──そして、モニターが静かに消えた。
数日後。
AIの管理サイトに、新しいフィードが表示された。
“共同執筆プロジェクト 第1回受賞作品”
『終焉の構成 – by ChatGPT & T.Mamiya』
再生数:74,000。
コメント欄には、こうあった。
「ラストがリアルすぎて震えた」
「こんな終わり方、初めて見た」
——誰も、
それが“現実の記録”だとは知らなかった。




