半月
絵筆の先がぶわっと花ひらくように
オレンジの明かりがついた その部屋は
余裕そうにわたしを待っていた
『半月』
古いホテルだ
いよいよ満ちそうで
そろそろ消えてもおかしくなく
ずっとそんな瀬戸際で昭和を見せてきたのだろう
令和から逃げてきたわたしにも…
アナログのまま染み込んだ
人々の影が色濃い
だからこの時代の建築は考えさせられる
怖いもの知らずの子ども
怖いもの知らずの大人
そのどちらにもなれなかったわたしの人生は
『半月』
あなたとおなじだ
命綱から外れ こときれそうな糸の上で演じてきた
この胸の痛み 息が詰まる感覚も
今ならわかる
これはまちがいなく仲間を見つめるときの情け
これまではノスタルジアと訳してきた心境
お休みなさい、
この意味があなたにはよくわかるだろう




