冷たい水
暑い。暑い。暑過ぎる。
連日三十度越えの猛暑。
そのまま温度はろくに下がらず、毎日毎日、熱帯夜。
窓を開けていても、ぬるい風でも吹くならまだマシで、熱した湿気が入るだけ。
じっとりした部屋の空気の中、じわじわと滲み出す汗が止まらない。
それでも明日も予定があるから、とにかく寝ようと試みる。
しかし、人間おかしなもので、寝よう寝ようと思うほど、かえって逆に目が冴えてくる。
横になったまま何もせず、眠ることを諦めると、そのうちいつか寝てしまう。
けれどまた、一時間、よくて二時間もすると、暑くてまた目が覚める。
寝る前に枕もとに置いたペットボトルの水を何口か飲み、また諦めて寝る。
今度は頭の鈍い痛みで目が覚めた。
そういえば、寝たままでも熱中症になると、なにかで聞いたことがある。
いまは、いったい何時なのか。
まだ暗い部屋の中、起き上がる前にペットボトルに手を伸ばす。
たしか、まだ半分くらいは水が残っていたはず。
掴んだ。
冷たい。
部屋の温度から考ると、不自然なほどに。
引き寄せようとした。
動かない。
ペットボトルがビクともしない。
なんでだろう?
当然の疑問に、顔を動かして、見た。
自分が握ったペットボトルの胴の部分。
その逆方向の暗がりから、白い手が伸びていて、底のほうを掴んでいた。
爪に赤いマニキュアが塗ってある。
女のか細い左手。
思わず大きな声を上げて、手を離した。
すると今度は右手も伸びてきて、いま離したばかりの部分を掴む。
こっちの指にはマニキュアがない。
そう思ったが、すぐに違うと気付いた。
五本の指、そのすべてに指先がなく、断面が黒ずんでいた。
二本の手は、大事なものにそうるようにペットボトルを撫でまわす。
動きが止まった。
ペットボトルから離れた右手が、こっちへゆっくり伸びてくる。
近付いてくるときに見た。
指の断面は、すべて黒く焼け焦げていた。
そのまま、意識を失った。
すでに蒸し暑い朝、汗だくで目が覚める。
なんだ。夢か……。
水を飲もうとペットボトルを掴んだ。
冷たい。
氷でも入ってるのかと疑うほどに冷たい。
なのに、ペットボトルの表面がなぜか結露していない。
水はペットボトルごと捨てることにした。