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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

神の使徒(笑)は生贄を求めるようです

作者: 満水玉

「日が沈むまでに生け贄を5体用意するように」

 私はそんな神の啓示を受け取った。その余りの衝撃に目は血走り、鉛筆を持つ手に力が入り無惨にも真っ二つに折れた。

 そうだ、私はこれから生け贄を用意しなければいけない。神のお役に立てる名誉に比べれば、偉そうな人間が講釈垂れる空間に居続ける私がひどく滑稽に思えた。堪らず立ち上がり、凡人共の呆気に取られた姿を見つつ扉を開けて自由になる。

 そう、私は今鳥になった。どこまでも行ける、どこまでも飛べる。背中に生えた翼は私に勇気と希望とその他有効成分を与え、最高に良い気分になった。

 さて、自由とは最高の美徳であり、同時に無限の選択肢の中から最良を選択すると言う高度な精神的試練を与えてくる、いわば試験だ。凡人共は自由の圧倒的難易度を前に膝を突いて目の前の板を擦り続ける事しかできないが、私は違う。何故なら私は神に選ばれし圧倒的高度な人材であり、それ故に自由の関門を突破し得るだけの能力を所持していることは太陽を見たら失明するくらい当たり前の事だ。

 超光速移動式要塞に揺られること数刻、私は人里離れし集落へと辿り着いた。神がうんこしてその上に造られたかのように木々が生い茂り、その一つ一つからは神性を存分に感じることができる。ああ、神の存在証明にまたしても成功してしまった。

 神の威光を存分に堪能していると、生け贄候補が近付いてきた。


『汝よ、貴様は何故そこに居る。未だに太陽が登りし時、悪魔の僕たる貴様は封印されているべきだ』


 ……この私を悪魔の僕だと?笑わせてくれる。生け贄候補は3つの足を持ち、頭上からは後光が差している。恐らくは信徒の中でもそれなりの地位に着いているのだろう。だが、所詮は凡人。真の神の僕である私の本質を見抜けないとは、彼の人生の浅はかさを憐れざるを得ない。


「我は貴様如きに計れる存在では無い。強いて言えば同胞ではあるが。まあ、そんなことは些事に過ぎない。何故なら貴様は神への貢ぎ物として選ばれたのだからな。喜ぶが良い」

『汝からは何も感じぬ、神の使徒を名乗る悪魔め。今より尖兵を招集し異端審問にかけてやる』


 はあ、言っても分からぬ愚か者。しかし愚かな人生の最後に神の供物となればその罪は浄化され、死後神の国へと招待されるだろう。

 奴は薄型の板に意識を預けている。くくっ、この私を野放しにした事を後悔するがいい。革袋から聖なる刃を取り出し、7つの臓目掛けて一撫でする。む、存外に生け贄の防壁は厚く、心の臓まで刃が届かない。それでも奴からは生命の源が刻々と失われ、魂の入れ物としての役目を果てようとする。


『何故だ、何故私を誅する。さては、生け贄を探し求める訳では無いだろうな!?』

「ほう、死の間際に自らの使命を理解したか。そうだとも、神は生け贄を欲している。一つや二つではない。神は静謐なる強欲家だからな」


 刃は滅びつつある肉体の内側を冷酷に蝕み続け、やがて完全な生け贄へと昇華を遂げた。魂の器としての肉体は役目を終え、神の山の一部として取り込まれる事だろう。

 ふう、これで一体目か。想定よりも骨が折れる。

 全ての生命の源である神の汗で喉を潤し、凡庸な信徒の集う集落へと向かう。すれ違う信徒共が生贄に志願するような瞳でこちらを見つめるが、唯の信徒に生贄は務まらない。神は高潔で、愚かで、美味な魂を欲する。故に、生贄選びは厳密な選定が不可欠だ。

 

『汝、しばし貴方の時を私にくれないだろうか?』


 何奴だ?この私を呼び止めるのは。先程の生贄のような信徒であれば歓迎するが。

 しかし、我が結界内に侵入を試みたのは悪魔の尖兵だった。聖なる力を拒絶する衣装をその身に宿た奴の腰には、禍々しい瘴気を発する死神の鎌がこれ見よがしに納められている。我の、ひいては神の凱旋を阻害したいのだろう。

 許容できぬ。神と、神の僕以外の存在は万歳例外なく破壊せねばなるまい。


『神の山にて生贄と化した人間が発見された。其方は神の僕と名乗り、人間の肉体を侵す力を有していた。故に、其方を邪神の尖兵として認定する』


 くくっ、奇妙な一致というやつだな。信条も、人種も、魂の形態までも異なるというのに眼前の存在の排除を試みる意志は同質の物なのだから。

 信仰に忠実に従い、敬虔な信徒のみが真の生贄へと昇華されうる。それ故に奴を死に追いやった所で神はお慶びにならないだろう。

 これは、私の自己満足に過ぎない。


「我は悪魔ではない。邪神の僕でも無い。唯神に仕える存在であり、神に仇なす者共を滅ぼす為に生まれた存在だ」

『理解できぬ。が、更なる混沌を阻止するためだ。制御装置を外させてもらおう。悪く思うなよ、小娘』


 奴は滑らかな所作で封印を外し、死神の鎌が真の姿を現した。ほほう、噂には聴いていたがこれほどまでの威圧感とはな。凡人であれば地に頭を擦り付け無様に許しを乞うだろう。

 我は違う。誇り高き神の使徒であり、神の力の代行執行人だ。生贄の血を吸い紅に輝く刃を見て、奴は目に見えて動揺した。動揺、つまりは恐れている。我に倒され、苦しみの中死後の世界を彷徨う事に。

 死神の鎌が風を切り、我の心臓を狙う。皮膚を裂き、内臓を掻き分け、骨を断ち斬る。

 ああ、これが痛みか。これが悪魔の力か!我の肉体は邪悪な力に蝕まれ、もはや指先を動かす事すらままならない。

 ああ、神よ。私をお許し下さい。役目を果たさず神の御許に馳せ参じる醜態を、どうか、どうか……



警察には勝てなかったよ

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