ダンジョンの秘密
街への帰り道を歩きながら、僕たちは目を見合わせて笑った。
「これでゴブリンの耳が6つで60ルア。ナイフが2本で10ルア。そして銅貨が3枚で30ルア」
「全部で……100ルアね!」
レインが指を折りながら、目を輝かせて答えた。
「すごい。目標達成どころか、100ルアだよ!」
「ふふふ、これはもう贅沢していいレベルかもね。晩御飯はご馳走ね!」
嬉しそうにスキップするレインを見ながら、僕も自然と笑みがこぼれた。
今日の戦闘は、確かにうまくいった。
――特にあの瞬間。
「そういえば、ハルトの《ウォークライ》、本当にすごかったわよ」
「えっ、そうかな。ありがと」
褒められて素直に嬉しい。だけど――
「でもさ、なんていうか……ちょっと残念な気もするんだよね」
「どうして?」
「ほら、ウォークライのあの叫び声ってなんだか獣みたいでしょ。もうちょっとこう……シュッとしたやつがよかったな。剣から光が出て敵をビシッと威圧するとかさ」
自分でもちょっとバカっぽいこと言ってるなと思った。
「なに言ってるの、ハルトは召喚“獣”なんだから、獣みたいな咆哮はピッタリよ?」
レインは目を細めて、いたずらっぽく笑った。
「ギャップがいいのよ、普段は落ち着いてるのに、いざとなると“ガオー!”って叫ぶところ」
「……いや、それ絶対馬鹿にしてるよね」
「ふふふ、さあ? どうかしら?」
やれやれ、と苦笑いしながら歩き続ける。
ふと、レインがダンジョン内で言っていたことを思い出した。
「そういえばさ、ダンジョンの中の死体は“ダンジョンが吸収する”ってレイン言ってたよね。
あれってどういうこと?」
「ああ、それね」
レインは少しだけ歩くペースを落とした。
「ダンジョンって、たぶん……生き物に近いんだと思う。前にそう言ったのを覚えてる?」
「生き物?確かに最初の日にそんな話をしたね。」
そういえば、そんな話を召喚された直後にしたような気がする。
あの時は色々といっぱいいっぱいだったので記憶が曖昧だ。
「うん。だから、倒された魔物や冒険者の死体は、ダンジョンが“消化”するんじゃないかって」
「……人間も?」
「人間も」
短く答えたレインの横顔は、いつになく真剣だった。
「だからこそ、死体をそのままにしておくとダンジョンの糧になる。魔物だろうと人間だろうと」
僕は思わず、ダンジョンの方を振り返った。
なんだか、背後に巨大な生き物の口が迫ってるような、ゾッとする感覚がした。
「そういえば、あのダンジョンって最近“湧いた”ばかりだって前に言ってたよね? なんでいきなり地上に現れたりするの?」
「それもね、ダンジョンは地下でずっと“成長”してて、ある程度まで育つと地表に“開く”らしいの」
「つまり、あれは成体ってこと?」
「まだ“若い”けど、十分に育ったってことよ」
「……ってことは、ダンジョンに潜るって、でっかい生き物の体内に入るようなもんじゃん……こわ」
「怖いでしょ。でも、面白い説もあるのよ」
「面白い?」
「ダンジョンって、昔の人が作った“畑”だって言う人もいる」
「畑?」
「うん。魔物は作物で、冒険者は収穫者。つまり、あれは人が“意図して”作った構造体なのよ。魔物という作物を“育てる場所”ってこと。だから死体は肥料として消化される」
「……ええ、そっちも十分怖いね」
「でしょ?」
レインは肩をすくめて笑った。
「結局、どっちにしても“資源でもあり、リスクでもある”ってことよ。前に言ったでしょ」
「なるほどね。勉強になったよ」
考えれば考えるほど、ダンジョンというものの奥深さに触れた気がした。
「ともかく、今日は勝って、生き残って、稼いだ。それだけで十分よ」
「うん、確かに」
「だから、今日は食べるわよ~!」
レインは拳を突き上げて、元気よく言った。




