表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我ら、リュミエール怪盗団‼︎  作者: 高井木口
リュミエールの夜明け
3/6

クレイス邸

 明日のパーティー当日に備え、俺たちは作戦会議や潜入の準備をこれでもかと慎重に進めた。

 俺とサイはというと、クレイス家の屋敷に、警備員として侵入することに成功し、現在は見回りという名目で屋敷内を探索中。

 領主の屋敷というだけあって、華やかな装飾や綺麗な絨毯が敷かおり、いかにもな高級感が漂っている。


「なぁサイ。これからどうすんの?」

「遊びに来たんじゃないんだからな?まずは依頼人を見つける。ついでにダイヤの具体的な保管場所がわかれば上々だ。」


 屋敷に入ってからテンションが上がっているのがバレているのか、釘を刺されてしまった。


「まぁ、幸い民間の警備会社も動員してる。よほどのことがない限りは、正体がバレることはないだろう。万が一のことも考えて保険かけてあるしな。」

「保険?」

「さっき警備員の控え室に行っただろ。その時に強力な睡眠薬を混ぜてある菓子を差し入れておいた。食べた奴の目が覚める頃には、俺たちはお宝を頂いた後だ。」


 なるほど。それならいざ戦闘になったとしても相手する数が少なくて済む。

 流石、怪盗団の頭脳だ。


「ここからは手分けして探索を進めよう。もし何かあれば耳につけてる通信機ですぐに知らせろ。」

「了解!」

 

 俺はそれから、サイに言われた通りメイドさん達に聞き込みを開始した。


「え?ジャック様の宝石の場所ですか?」

「はい。明日のパーティーで公開される紅き秘宝の保管場所を知りたいんです。」

「すみません。ほとんどのメイドは宝石類の保管場所を知らないんです。」

「そうですか……。お忙しいところすみません。ありがとうございました!」


 よく考えれば当たり前そうだよな。

 重要な宝の保管場所をただメイドに教えて、万が一盗まれでもしたら大事だ。


「あ、でも!メイド長なら知っているかもしれません。ジャック様のお部屋に入ることができるのは、レオ様とルイーズ様、アンヌ様、そしてメイド長の四人だけなので。」

「その、レオ様とルイーズ様というのは?」

「レオ様はジャック様の執事兼秘書の方で、ルイーズ様はアンヌマリー様の専属メイドです。」


 なるほど。

 つまり、全幅の信頼を置いている奴しか自分の部屋に入れないのか……。これはメイド長に話を聞いてみた方が良さそうだ。


「わかりました。ご協力、ありがとうございました!」

「メイド長に会いに行くなら、メイド長室にいつもいらっしゃいますよ。」


 俺はメイドさんにもらった地図を頼りに、メイド長室へ向かうことにした。

 

 **********


 えーっと、とりあえずノックを三回……。


「どうぞ。」


 返事が聞こえたので静かにドアを開けて部屋の中に入る。


「失礼します。メイド長さん……ですかね?」

「ええ。メイド長のロゼルタ・トライバーと申します。貴方は……警備員の方ですね?どうかされましたか?」


 俺は宝石の保管場所を知りたいことの旨を伝えた。


「なるほど……。実は、私も紅き秘宝の保管場所については詳しく知らないのです。知っているのは恐らく、ジャック様ご本人かアンヌ様だけかと……。」

「そうですか……。」


 目ぼしい収穫はなしかと思っていた時、ふと俺の目の端に荷物を詰め込んだ大きなキャリーケースが映った。


「……何処か行かれるんですか?」

「へ……?」

「あ、そこのそのキャリーケースが目に入って。かなり大きいなと思ったもので……。」

「あぁ。ジャック様が、明日のパーティーが終わったら、メイド全員に休暇を取らせると仰って下さったので、久しぶりに帰省する準備を。」


 重税を課して私腹を肥やすことを最優先に考えている領主が、メイドに帰省ができるほどの長期休暇を与える……?


「以前にもこの様なことが?」

「え?まぁ、はい。ジャック様は定期的にメイド全員に長期休暇を与えてくださるんです。基本メイドは住み込みなのですが『たまには家族に顔を見せてやれ』と言ってくださって。」


 そこまで従者思いの領主もなかなかいないだろう。歴代最高の領主と言われる理由も納得できる。

 だからこそ、領主の豹変が魔宝石の仕業ではないかという仮説が現実味を帯びてきた。


「……あのー。そろそろよろしいですか?明日のパーティーの準備もあるので……。」

「あ、そうですよね!すみません。ご協力、ありがとうございました!」


 俺はメイド長に一礼して部屋を後にした。

 

「屋敷内を探索していて、こんな場所を見つけた。」


 それ以降も特に有用な情報は得られなかったので、一度サイと合流した。

 そして合流して早々、サイはそう言って地図にペンでスペースを書き足した。


「地図には映っていない立入禁止区域だ。これだけ聞き込みをしても手がかりがないってことは、この先にダイヤが保管されていると見て間違い無いだろう。」


 多少の危険を伴うが、標的の位置が分からなければ仲間を危険に晒すことになるかもしれない。

 メイドや他の警備員達の目を掻い潜りながら、俺たちは立入禁止区域へと足を踏み入れることにした。


 **********


「なんか不気味だな……。」


 先ほどの華やかな通路や部屋とは打って変わり、通路全体が薄暗く、重々しい雰囲気に包まれている。

 装飾はさほど変わっていないはずなのに、何か見てはいけないものを見ているような気分になってしまう。

 俺は探索を進めながら、先ほどメイド長から聞いたことをサイに話した。


「どう思う?」

「……やはり今回の豹変騒動はイグナイトダイヤモンドが関わっていると見て間違いなさそうだな。そこまで従者思いの奴がいきなり態度を変えるとは考えにくい。」

「やっぱりそうか。」


 そんな会話をしながらしばらく歩くと、前方からコツコツと足音が聞こえてきた。


「しまった!サイ、隠れ──」

「そこにいるのは誰ですか!」


 遅かったか……!

 足音の主は若い執事らしき人物で、腰にはレイピアが携えてある。

 恐らく、こいつがメイド長の言っていたレオとか言う奴だろう。


「ここは立入禁止区域です。貴方達は何者ですか?」


 レオは、鋭い眼光で俺たちを睨みつける。


「あ、えっと……。」

「我々は明日のパーティーの警備のために雇われた警備員です。パトロール兼屋敷の構造把握のため行動していたのですが、ここが立入禁止区域だとは知らず、申し訳ありません!」


 上手く言葉が出なかった俺をサイがフォローしてくれた。


「そうでしたか。お疲れ様です。念の為、身分証を確認させていただけますか?」


 俺たちは事前に偽造しておいた警備員の身分証をレオに渡す。


「バク・スリカーにサイ・フロイス……。特に問題はありませんね。今回は不問にしますので、他の警備員の方にもここには立ち入らないよう伝えておいたください。」

「了解しました!」


 流石にこれ以上長居はできないので、引き返すことにした。


「レオ、どうしたのですか?」


 俺たちが帰ろうとした時、奥から女性の声が聞こえてきた。

 その声の主は紺色のドレスを身にまとい、色白でどこか少女の面影を感じさせる顔立ちをした美しい女性だった。

 その少し後ろでは、メイドらしき女性が不安そうにこちらを見つめている。


「いえ、アンヌ様。立入禁止区域に入ってきた警備員を追い返すところです。問題はありません。」


 アンヌ。やはりこの人がジャン=ジャック・クレイスの娘であるアンヌマリー・クレイスで間違いないらしい。

 ということは、隣にいるメイドはルイーズって奴か……。

 アンヌマリーは俺たちを見ると、少し目を見開いたのがわかった。だがすぐに目を逸らし、レオへと視線を戻す。


「レオ、お父様からの伝言です。編成した部隊の確認をしたいので、至急自分の部屋に来る様にと。」

「了解しました。この者達をここから出したらすぐに向かいます。」


 すると、後ろに下がっていたルイーズが伊歩前へ進み出る。


「レオ様。この者達は私が責任を持って送り届けますので、レオ様は今すぐジャック様の元へ向かってください。」

「……わかりました。任せます。」


 レオはルイーズの申し出を了承し、その場を後にした。


「……ふぅ。やりましたねアンヌ様!」


 ルイーズはレオが去ったのを確認すると、安堵の表情を浮かべながらそう言った。


「ええ。貴方達、怪盗団の皆様ではないですか?」

「へ?い、いや!そんなわけないじゃ無いですかー!」


 不意にそんなことを聞かれたので、急いで誤魔化す。自分でも無茶だとは分かっているが、ここはなんとかこれで乗り切るしかない。

 だが、俺が焦っているのとは裏腹に、サイはどこか納得した様子で口を開く。


「あぁ。俺達が、リュミエール怪盗団だ。アンタが依頼主だな?」

「バカ!何言って……依頼主?」


 ちょっと脳の処理が追いつかない。

 だが、サイの返答を聞いて、アンヌマリーは目を輝かせた。


「来てくれると信じていました!付いて来て下さい。ここでは怪しまれてしまいます。」


 俺はまだ状況が読めなかったが、とりあえず三人についていくことにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ