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我ら、リュミエール怪盗団‼︎  作者: 高井木口
リュミエールの夜明け
1/6

依頼の手紙

「サイ!見て見て!」


 俺は手に持った新聞をサイの目の前に突き出した。


「なんだよいきなり。また猫でも拾ってきたんじゃないだろうな。」


 サイは少し不機嫌そうにそう言いながら、こっちをチラ見することすらなく、優雅にコーヒーを啜った。

 確かに何度か捨て猫を拾ってきて怒られたことはあるが、今回は訳がちがう!


「違うよ!いいからこれ見て!」


 俺はもう一度、新聞のとあるニュースが掲載された記事をサイに突き出す。

 サイが俺から新聞を受け取ると、いつも冷静なその表情が段々と険しいものへと変わっていく。


「……クレイス領主であるジャン=ジャック・クレイスが、自身の娘であるアンヌマリー・クレイスの誕生日パーティーにて……。幻の紅き秘宝『イグナイトダイヤモンド』を公開することを発表した?!」


 サイが驚くのも無理はない。イグナイトダイヤモンドは、滅多に市場に出回らないまさに秘宝の名に相応しい宝石だ。いくら領主といえど、容易に手に入れられるものではない。


「アァァァァァァァァッ!!」


 そんな俺たちの驚きを掻き消すように、背後のテントからものすごい雄叫びが上がる。

 嫌な予感がしつつも振り返ると、そこには般若も顔負けの形相をしたイナサがボロボロのテントから顔を覗かせていた。


「誰?私の楽しみにしてた限定カップ麺食べたの!」


 うわぁ……。心当たりしかない。

 食べ物の恨みは怖いとはよく言ったもので、イナサは食べ物のことになると怖い。それはもう本当に怖い。

 それが分かっているなら食べるなという意見が聞こえてきそうだが、誘惑に負けたのだ。仕方ない!


「バク……。私のカップ麺食べたでしょ。」


 イナサは真っ先に俺に疑いの目を向け、左腕の義手を俺の肩に乗せてくる。

 表情は穏やかだが、肩に乗せた義手に込められた力は全く穏やかじゃない。


「い、いやぁ。何のことか分からないなぁ。セレンとかが間違えて食べちゃったんじゃないかなぁ。」


 取り敢えずそれっぽーい言い訳をしてみる。だが、それは火に油を注ぐ行為だったらしい。


「セレンは必ず私に確認取るし、サイはそもそもカップ麺漁らないの!」

「あはは……。まぁまぁ、俺も悪気があった訳じゃないんだよ?ちょっと小腹が空いたところにちょうどあったと言いますか……。」


 俺はこれから自身に降りかかる火の粉を少しでも避けるため、少しずつ後退しながらイナサを宥める。

 次の瞬間、イナサの右足が俺の後ろに突き出され、ボキッと鈍い音が響いた。

 恐る恐る後ろを振り返ると、直径五十センチはあるであろう木の幹が、綺麗にへし折られていた。

 イナサは俺より三十センチは背が低く、女子の中でも華奢な体格をしているはずなのだが、どこに木の幹を折れる脚力があるんだろう……。

 ともかく、俺は次の蹴りが繰り出される前に速やかに膝を降り頭を地面に下ろした。我ながら見事な土下座である。


「誠に、申し訳ありませんでしたァ!」

「結果が目に見えてるんだからやらなければいいものを……。」


 耳が痛い……。そしてなにより、土下座をして前が見えない状態でもサイの呆れた表情が浮かんできてしまう自分が悲しい。


「なになに?またバクがやらかしたの?」


 先ほどの木が折れる音を聞いて戻ってきたのか、刀の素振りをしに行ったはずのセレンが開口一番にそんなことを言ってくる。


「俺、一応リーダーなんですけど……。」

「リーダーならもう少しリーダーらしくしてよ。」

「そうね。バクはリーダーというより『ムードメーカー』って感じよね。」


 一応反論してみたものの、それ以上のダメージが返ってくる。


「あ、そういえば。さっき言ってたなんとかダイヤって何?」


 さっきまで怒っていたのが嘘のように、イナサは目を輝かせながら疑問を口にする。


「イグナイトダイヤモンドな。魔力を多分に含んだ希少な鉱石で、滅多に市場に出回らない。いざ市場に回ったとしても、よほどの富豪でもない限り手が出せない金額で取引されるのに加えて、その厄介な特性のせいで手に入れたいという者も少ない。」

「つまり……その宝石盗んだらお肉食べ放題ってこと!?」

「……そりゃあ食べ放題だろうが、聞いてたか?この宝石にはかなり厄介な特性が──」

「欲しい!その宝石欲しい!」


 サイの説明も虚しく、イナサの欲しい欲しい病が発症してしまった。食に強い執着のあるイナサは、特に肉が絡むと冷静な判断ができなくなってしまう。


「まったく……。ん?イナサ、お前の服に挟まってるその紙みたいなのなんだ?」

「え?」


 サイは困ったような表情を浮かべたかと思うと、不意にそんなことを指摘した。よく見てみると、確かにイナサが履いているズボンのベルトには、紙切れのようなものが挟まっている。

 イナサが引っ張り出した紙切れをまじまじと見つめる。正体は、挟まれたことでシワだらけになった封筒のようだった。


「これ、手紙だよね?送り主は書いてないっぽいけど……セレン読んでくれる?」


 イナサは封筒をセレンに預け、サイの横にある椅子にちょこんと座った。


「んじゃ失礼して。……ゴホンッ!『リュミエール怪盗団様。クレイス領の幻の紅き秘宝公開の知らせはご存知だと思いますが、今回の依頼は、その紅き秘宝を盗み出していただくことです。盗み出した秘宝はお譲りします。どうか、よろしくお願いします。同封してあるのは、この度のパーティーの招待状です。』……どう思う?」

「十中八九罠だろうな。」


 セレンも同じ考えに至ったらしく。サイの意見に小さく頷いた。ただ、この手紙に目を輝かせている者が一人……。


「よしすぐ支度するよ!私、銃のメンテしてくる!」

「待て待て待て待て。まだ依頼を受けるかどうかも決まってないだろ。」


 テントに戻ろうとしたイナサを、サイが服の裾を掴んで引き留める。


「受けようよ!てか受けるべきだよ!この依頼成功したら、この貧乏生活から一気に大金持ちだよ!?お肉食べ放題だよ!?」

「金儲けのために怪盗やってるわけじゃないでしょ?」

「セレンの言うとおりだ。俺たちは怪盗、怪盗なりの美学がある。」


 今にも本格的なケンカを始めそうな雰囲気ではあるが、この依頼を受けるかを決めるのはリーダーである俺の仕事だ。

 そして、俺の中では既に答えは決まっている。


「受けよう。」


 俺がそう言った瞬間、三人は一斉に俺の方に視線を向けた。


「……本気か?」


 サイが疑うような視線を向けながら聞いてくる。


「俺がこの手の話で冗談言ったことある?」

「……ないな。」


 サイはそう言うと、コートのポケットに手を突っ込んで、テントの中へ入っていってしまった。

 多分、サイなりの賛成の意思表示なんだろう。


「やっぱり!バクもお肉食べたくなったんだね!?」

「別にそれはどうでもいいんだけど。」

「なんでよ!」


 イナサの絡みを軽くいなしつつ、俺は二人の方に向き直る。


「今回の依頼は、受けた方がいい気がする。俺の直感だけどね。」


 俺がそう答えると、二人は少し沈黙した後に嬉しそうな表情を浮かべた。


「まぁ、こういう時のバクの直感はハズレないしね。私はバクの意見に従うわ。」

「私もサンセー!貴族たちを蹴り飛ばしてダイヤもゲットできるなんて最高じゃん!」

「決まりだな。リュミエール怪盗団、活動開始だ!」

「「了解ッ!」」

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