空時の神力 現世編
【現世】 クラス失踪
気が付いたのは救急車の中だった。僕とミナミちゃんが並べられ、ストレッチャーにくくり付けられていた。僕が目を覚ましたことに気づいた救急隊の人が声をかけてきた。
救急隊員「気づいた。いま救急車で病院に運んでいる。吐き気とか、痛い所はない?」
僕「ありません」
救急隊員「あと5分くらいで病院に着く。そのままジッとしていなさい」
僕「はい。僕、どうしたんですか?」
救急隊員「倒れていて意識が無かった。何があったの」
僕「何があったのかな。ミナミちゃんから体操服を受けとったのは確か。でもそのあとは覚えてない」
救急隊員「もう病院だよ。後はお医者さんに任せるから」
僕「ミナミちゃんは大丈夫ですか」
救急隊員「隣の子かな。呼吸も脈拍も正常だよ。大丈夫かどうかはお医者さんにみてもらおうね」
病院に着くと沢山の医者や看護師さんに診てもらった。ミナミちゃんも意識を取り戻しているはずだ。僕はミナミちゃんが心配で、話がしたかったのだが、一緒になる機会はなかなか訪れなかった。そんな時レントゲン撮影を待っていると、撮影室の中からミナミちゃんが会話する声が聞こえてきた。僕はその声を聞きホッとした。
家からは母さん、それに姉さんが駆け付けて来た。ミナミちゃんのお母さんとお兄さんも病院に来ていると姉さんから聞いた。今日は入院が決まったようで、病室に案内された。病室は僕もミナミちゃんも個室で、少し離れているが同じフロアであった。
午後3時を過ぎると検査も診療も終わった。ミナミちゃんに会いに行こうとしたが、トイレ以外の外出が禁止されてしまい、会うことができない。暇になったのを図ったように、最初は教頭が、次に警察の人が僕と話したいと面会に来た。僕は正直、何も知らないし分からないと話した。教頭の話ではクラスメイト全員が行方不明のようであった。ホームルームに来た先生が僕とミナミちゃんが廊下で倒れている所を見つけたと教えてくれた。
警察は僕が家を出た時刻や教室を出た時刻、ミナミちゃんと話していた時間などを聞かれたが、大体の時間しか分からないので、覚えている限りを伝えた。
病院に入院して2日目からは検査もなく、診察もない。ミナミちゃんへの面会が許されたので、ミナミちゃんの病室に遊びにいっていた。
この病院は僕の記憶喪失の診察をしてくれた病院であった。昨日まで僕は小学4年生以前の記憶を無くしていたのだが、今は記憶を取り戻している。だが、そのことはだれにも言っていない。下手に話して、また検査やなにやらで入院が長引くのが嫌であった。
記憶を取り戻したことで、僕はあの事件のことを思い出した。奴は僕から体の成長も、考える力も奪った。更に僕や姉さん母さんの記憶を改ざんし、事件自体を隠ぺいした。漠然とだが、この時僕は奴と決着を付けるときが来ることを予感していた。
姉「ゆう、服が小さくて着れないってホント?」
僕「うん。着れないほどじゃないけど小さいから窮屈なんだ、一番大きい服持ってきてくれた?」
姉「持って来たよ。ゆう、ちょっとこっちにきて」
姉さんに呼ばれ、前まで行くと、姉さんは僕の頭のてっぺんに手をかざし、自分の身長と比べた。
姉「ゆう、ほんと大きくなってる。いつ大きくなったのよ」
僕「分かんない。それにさ、チンチンも大きくなった。前の3倍くらい」
姉「おバカ! でも良かったね。私、ゆうが大きくならないからほんと心配したんだから」
僕「僕も嬉しい」
姉さんが泣きそうな表情だったので、ちょっとバカなことを言って、泣くのを止めた。僕は病院に来て体が成長していることに気づいた。それに、考えることができるようになっている。姉さんとも普通に喋れる。そのことが本当に嬉しかった。
病院からは3日で退院がゆるされた。退院前、教頭と警察の人が来て、状況の説明というか注意を受けた。僕のクラスの全員が行方不明になっている。今、ニュースになっていて、テレビや雑誌で色々報道されているという。僕が気を失っていたことも同級生の親がマスコミに漏らしたため、話題になっているとのことだった。ただ、ミナミちゃんのことは知られていないそうだ。警察は僕の家を護衛する警察官を派遣してくれる。しかし、しばらくは外出は控えて欲しいとお願いされた。
教頭からは取りあえず2週間は学校に来なくて良いと伝えられた。授業はネットで行うそうだ。それともう一つ、同級生の親が僕と話したいという。行方不明直前まで一緒にいた友人である僕に直接確かめたいことがあるという。僕は何も知らないと言ったが、教頭からは強くお願いされた。僕はイラっとした。同時に腹をくくることを決めた。もう逃げるのは嫌だった。教頭にはクラスメイトの僕に対するイジメを話した。2年になってからクラスメイトから無視されていたため、彼らとまともに話をしたことが無いこと、教科書は落書きされ読めない状態であること、上履きや体操服が隠されること・・・、すらすらと十件ほどを教頭に話した。担任にも助けを求め2回相談したことも話した。僕はイジメを理由にクラスメイトの親との話し合いを断った。途中、姉さんが僕の話に泣き出してしまった。
教頭は対処する時間が欲しいと言い、クラスメイトの親との話は立ち消えになった。
【現世】 転校
僕は父さんから借りたパソコンを閉じた。時間は2時30分、今日の授業が終わった。授業はネットで受けている。学校の先生が教室の後ろからカメラで取った画像と音声をパソコンで見れる。学校に行く手間が無いので楽であった。教科書やかばんは学校に残して病院に連れていかれたため、先生が家に届けてくれた。教科書は落書きで読めないものではなく新品のものをくれた。まあ、イジメの証拠は隠したいよね。
家に帰った翌日、ミナミちゃんが僕の家に訪ねて来た。ミナミちゃんは体操服と靴を届けてくれた。体操服はクリーニングされていた。
ミナミ「ミナミが着てたのはゆうちゃんのだよね。どうしてか覚えてる?」
僕「さあ、ミナミちゃんが体操服を届けてくれたことしか覚えてない」
ミナミ「ミナミも同じ、警察にも話したんだけど、フーンで終わりだった」
僕「1クラス全員が行方不明と比べると、びっくり度が違うのかな」
ミナミ「そうかも、ミナミの制服なくなっちゃった。母さんが近所の卒業生の家からもらってきてくれた。ちょっと大きいと言ったら叱られちゃった。でも大きいと可愛く見えないのにね」
僕「ミナミちゃんのせいじゃないのにね。そうだ、まだ時間あるよね。ゲームしない」
ミナミ「テレビゲーム、ゆうちゃん下手だったよね。ミナミが勝っちゃうよ」
いや、勝ったのは僕でした。悔しがるミナミちゃんから背中をガンガンたたかれました。ミナミちゃんの柔らかい拳がちょっと気持ちよかった。僕は変態かもしれない。
僕とミナミちゃんの関係はクラス集団失踪以降、急激に緊密になったように思う。
ミナミちゃんは事件以来、2日とあけずに僕の家に来るようになった。僕も外出できないので、ミナミちゃんと遊べるので大歓迎だ。ミナミちゃんと中学1年生の教科書で勉強しているが、ちょっと教科書を読むだけで、何を学ばなければいけないか理解できるし、覚えることもできた。勉強することが楽しい。勉強が楽しいなど思いもよらなかった。
家でのネット授業は更に1カ月続くことになった。世間でのクラス全員疾走の盛り上がりがまだ続いていて、学校や警察から夏休み前までの延長をお願いされた。僕に反対する理由はなかった。
今日は土曜日の午後、ただ、いつもと雰囲気が違った。父さん、母さん、姉さんが僕の前に座った。何か重大なことが始まる我が家のフォーメーションである。
父さん「優斗、詩織から聞いた。学校でイジメられていたそうだな。気が付かなかった。すまなかったな」
詩織は姉さんの名前だ。もうすでに母さんと姉さんが涙目になっている。マズい、下手な話はできない。泣かれてしまう。
僕「僕こそごめんなさい。隠してました。立ち向かおうにも、僕は弱くてできなかった。それに皆に知られると心配されちゃう。それがいやだった。でももう大丈夫だよ。僕は強くなった。これからもっと強くなるつもり、それに鍛錬とかして体も心も鍛えたいと思ってる」
父さん「家族なら心配するのが当然だ。優斗が勇気を出して話してくれたから、対策が取れる。今から対策を話すから聞きなさい」
父さんの話は学校の転校であった。私立の中学校に転校できるとのことだった。夏休みが終わる時点での転校であれば無試験で許可してくれた。町の教育委員会もクラス失踪事件とイジメ問題を丸く納めるために協力してくれたという。また自転車で通学できる距離のため不便はない。僕にとってもイジメと決別できるだけでなく、クラス失踪の話題からも離れることができ一石二鳥であった。
もう1つ、僕が転校した場合、ミナミちゃんも同じ学校に転校するそうだ。ミナミちゃんと遊ぶのは楽しいので、僕にとってはこちらも歓迎であった。
もうすぐ夏休みという日曜の午後、5名ほどのクラスメイトの親が僕と話をしたいと家に詰めかけてきた。父さん母さんは用事で外出中で、家には姉さんと僕しかいなかった。
姉「ゆう、2階の自分の部屋に行きなさい。部屋から出ちゃダメ。命令だからね」
僕「わかった」
そう言うと姉さんは押しかけて来た親の対応にでた。僕は部屋から様子をうかがっていた。「だから優斗は合いません。引き取ってください」、姉さんの大きい声が聞こえてくる。玄関で押し問答しているようだ。暫くすると護衛の警察官が駆け付けてくれた。さらに2台のパトカーが家の前に駆けつけてきた。最後はパトカーで押しかけた親たちを連れて行った。
突撃してきた親を返り討ちにした姉さんにお礼を言おうと声を掛けた。
僕「ありがとう。姉さん」
姉さんは僕を抱くと大声で泣き出した。姉さんには怖い思いをさせてしまった。自分の家族くらい守れる人間になりたい。その思いが強くなる。暫く泣いて落ち着いてきた姉さんをソファに座らせ、お茶を入れて飲ませた。ちょっと熱めのお茶にした。
父さん母さんが帰って来たあと、警察の人が訪ねてきて状況を説明してくれた。色々理由はあったが、結局のところクラスメイトの親たちはクラス失踪から1人だけ逃れた僕が許せなかったようだ。子供が失踪した寂しさや怒りを僕にぶつけることで、紛らわそうとしたのだろう。警察署で頭を冷やし、二度と今回のような騒ぎを起こさない誓約書を書かせ、引き取らせたそうだ。
【現世】 封印解除
学校はもうじき夏休みに入る。夏休み明けから僕とミナミちゃんは新しい私立中学に通うことが正式に決まった。今日は新しい中学校へミナミちゃんと僕、それぞれの両親の6人で来ている。私立中学の担任となる先生2人と事務主任が出迎えてくれた。もう通う学級も決まっていた。ひとしきり、学校を案内され、最後は校長との面談が行われた。
元の中学から僕ら2人がクラス集団失踪から逃れた生徒であることと僕がイジメにあっていたことはは伝えられていた。学校からは、僕とミナミちゃんがクラス集団失踪の関係者とは生徒には話さないと言われた。もし聞かれても言う言わないは僕やミナミちゃんに任せるとのことであった。しつこい生徒がいる様であれば担任に伝えて欲しいとも言われた。あとイジメであるが、もしイジメがあれば担任に、担任があてにならない場合は校長に伝えて欲しいとのことであった。中学は神道系の学校で、イジメは建学の精神に反するので見逃すことは無いと明言した。
夏休みになって初日、僕とミナミちゃんは十王堂にお参りにいった。母さんから家で育てた切り花をもらい、水桶と柄杓を持ってお花を手向ける。まづ、十王堂の裏手にある道具入れから箒と塵取りで十王堂の周りを掃除した。次にハタキで十王様の埃を払った。床に落ちた埃を塵取りで集め捨てる。最後は花筒の掃除と切り花の飾りつけで終わる。掃除を終え、2人揃って手を合わせ十王様にお祈りを捧げた。僕は新しい中学で馴染めますようにとお祈りをした。ミナミちゃんは何をお祈りしているか分からないが、僕より念入りにお祈りしていた。暇になった僕はミナミちゃんの横顔を眺めていた。
ミナミちゃんはお祈りが終わったのか目を開け、僕を見つめて来た。ミナミちゃんと目が合った瞬間、僕は全てを思い出した。クラス召喚のこと、十王様のこと、宝珠神力のこと、ナビのこと、異世界のこと、8か月に及ぶ冒険のこと、十王様に記憶を封印して頂いたこと、何もかも思い出した。心臓の鼓動が聞こえる。妙な寒気がした。ミナミちゃんを見ると僕と同じようにふるえていた。
僕「ミナミちゃん、思い出した?」
ミナミ「うん。全部」
僕「僕も全部」
ミナミちゃんは震えていた。僕はミナミちゃんの手を取り、家に急いだ。家についてもミナミちゃんの震えは止まらなかった。リビングのソファに座らせるが、僕から離れようとしない。体をピタリと僕に着け、しがみついてくる。そうすると体の震えは止まるようだ。
僕は母さんの手前、とても恥ずかしかったが、母さんは何も言わなかった。お昼の食事はミナミちゃんと一緒に食べた。ミナミちゃんに抱き着かれていると食べられないので、僕が食べる間、ミナミちゃんは母さんに預けた。母さんはミナミちゃんを抱きながら、スプーンでご飯を食べさせていた。まるで幼児のように、口を開けさせ、スプーンでご飯を口に運んでいる。母さんは何か嬉しいことがあった時のような笑顔になっていた。ミナミちゃん、異世界のことショックだったのか。ミナミちゃんはまるでコアラのようだ。ミナミちゃんのコアラ状態は姉さんが帰った後も、夕食時も続いた。母さんがミナミちゃんの家に電話し、ミナミちゃんは僕の家に泊まることとなった。お風呂は姉さんがお世話した。夜も姉さんがミナミちゃんと一緒に寝てくれた。僕はミナミちゃんが心配で一睡もできなかった。
次の日、朝起きると、ミナミちゃんはいつものミナミちゃんに戻っていた。僕は本当にホッとした。母さんに聞くと女の子にはそういう時があるとのこと、だとしたら姉さんがコアラ状態になることはあるのだろうか。まったく想像できなかった。
ミナミちゃんは朝食を食べると、今日は自分の家に戻るという。
異世界でのこと、ミナミちゃんはどう思っているのだろう。僕としては秘密にしてほしいのだが、またコアラ状態に戻るかもしれないと思うと怖くて聞けなかった。しかし、ここで聞かないと一生聞けない気がする。僕は勇気を振り絞る。どうにか、ミナミちゃんを家に送っていくことを切り出した。
【現世】 婚約
僕はミナミちゃんを家に送る途中、異世界のことに話を振った。
僕「異世界のこと思い出したよね。異世界のこと怖かった?」
ミナミ「うん、怖かった。でも、もう大丈夫」
僕「そうか、良かった。でもまた怖くなったりしたら、言ってね。僕で良ければミナミちゃんのそばにいるよ」
ミナミ「ありがとう。あの時助けに来てくれたのも、ゆうちゃんだもんね」
僕「そのさ、異世界のこと、僕は秘密にしたいんだ。話しても誰も信じないと思う。本当のことを話しても嘘つき呼ばわりされる。今でさえ、クラスメイトの親は僕が助かったことが気に食わなくて家まで押しかけてきた。本当のことを話すと、もっと酷いことをされそうで怖い」
ミナミ「うん、いいよ」
僕「ありがとう」
良かった。これでクラス集団失踪と異世界は結びつかない。僕の心配が1つ消える。
ミナミ「あの時の話、聞きたい?」
僕「ミナミちゃんが話したいなら。でも無理して言わなくても良いよ」
ミナミ「ゆうちゃんには聞いて欲しい。でもミナミとゆうちゃんだけの秘密だよ」
僕「うん、わかった」
ミナミ「最初、寝てんだと思う。気が付くと男子や女子、みんな騒いでた。周りにムチをもった男が沢山いて、私達をムチでたたいた。打たれると痛いだけじゃない、痺れたみたいになって動けなくなった。ミナミも打たれて動けなくなっちゃった。男に担がれて馬車に乗せられた。馬車から下りたら、服を脱がされちゃった。少し動けるようになってきたから、暴れたけど、たたかれて、痛くて泣いちゃった。次に首輪をハメられた。最後は牢屋に入れられた。怖くて声も出なかった。泣いたり騒ぐと男が来て棒で突かれるから、みんな静かになっちゃった。家に帰りたくて泣いてたら、ゆうちゃんが来てくれた。最初、だれだか分からなくて、怖くて、ゆうちゃんをたたいて、ごめんなさい」
僕「体操服を届けさせたばかりに、ミナミちゃんを巻き込んじゃった。こちらこそ、ごめんなさい」
ミナミ「いいよ、ミナミも届けたかったし」
僕「良かった」
ミナミ「ゆうちゃん、私の裸見たでしょ」
僕「見たかな?でもさ、あの時は急がないといけなかったしさ」
ミナミ「見たでしょ」
僕「はい」
ミナミ「どうだった?」
僕「どうと言われても」
ミナミ「また見たい?」
僕「はい」
ミナミ「責任取ってね」
僕「責任?」
ミナミ「ミナミをゆうちゃんのお嫁さんにしてってことです。今すぐじゃなくて、その、ゆうちゃんが大人になったらで良いからね」
ミナミちゃんは真っ赤になっていた。僕は感動してしまった。ミナミちゃんは勇気がある。勇気を振り絞って告白したミナミちゃんにこたえたかった。僕は今の気持ちを言葉にした。
僕「僕で良ければ、ミナミちゃんをお嫁にします」
ミナミ「約束だからね」
僕「はい。でもイトコどおしで結婚できるのかな」
ミナミ「え〜、イトコどおしはダメなの」
僕「調べてないの?」
ミナミ「うん」
僕「調べよっか」
僕はこの歳で婚約しました。
【現世】 あの時の夢
今日は東神社にきている。姉さんが巫女に推薦された。来年の大祭では巫女として舞を舞う。東神社の巫女には誰でも成れるというものではないらしい。地域のおばさん連合の推薦がいるという。巫女さんは中学2年生以上の決まりもあるようで、中学2年生になった姉さんは巫女服の着付けに呼ばれた。本当は母さんと姉さんで行けばいいのだが、僕も一緒に連れて行ってもらった。僕の目的は神社の池の鯉だ。クラスの裕太が東神社の池に人面魚がいるといっていた。それを確かめようと言うわけだ。姉さんの着付けは1時間くらいということなので、暇つぶしにちょうどよかった。
僕達は神社の社務所に行き、挨拶をした。今日は神主さんが不在で、若い神職さんと美人な巫女さんが対応してくれた。社務所の人の話では伊勢の大学で神学を修め、東神社で研修中の神職さんだそうだ。美人な巫女さんも同じく伊勢の大学の学生さんだという。
その2人に姉さんを預け、社務所をあとにした。母さんは近くの友人に挨拶に行くというので、僕は池の人面魚を探しに行くと言って別れた。母さんから1時間後、必ず社務所前に居ろと厳命される。僕は夢中になると時間を忘れるので注意されるのも仕方ない。
僕は池を巡りながら人面魚を探した。水質が透明なので鯉の柄が池の淵から見ても良く見えた。僕は「人面魚、人面魚、人面魚・・・」と口ずさみながら探した。池の3分の2は探したのだが、それらしい鯉がいない。池の3分の1は神社の脇殿の敷地の中だった。脇殿の敷地には門はあるが扉はない。池の淵の石畳は門の先まで続いている。入って問題ないか、ちょっと躊躇したが、叱られることはないと思い、淵沿いに鯉を探した。
池全部を探したが人面魚などいなかった。僕はがっかりした。やっぱりか。裕太の話など最初から信用はしていない。騙されたことが悔しかった。もう鯉など見たくない。僕はゲームウオッチを時計モードにし、時間を確認する。30分しかたっていない。脇殿の敷地を出ようと顔を上げた時、脇殿の中が見えた。
姉さんがいた。姉さんは裸でしかも宙に浮き横たわっていた。神職は姉さんの足元に居て口を動かしていた。何か喋っている様だ。巫女が姉さんの頭を手で掴み、顔を近づけようとしていた。不思議な光景だが、僕には禍々しく恐ろしいものに見えた。次の瞬間、今助けないと姉さんに二度と会えない、そんな思いが沸き立ち、居てもたってもいられない気持ちになった。
僕「姉さんが危ない、助けに行くよ」
僕は姉さんに向け走り出す。とっさのことで何をしようと考えて行動したわけではない。体が動いたのだ。僕は脇殿を土足で駆けあがり、巫女に頭から突っ込んだ。頭突きを食らわせたのだ。巫女は1回転して転がった。僕は十分な手ごたえを得た。僕も痛かったが、それ以上のダメージを巫女に与えたはずだ。
僕「姉さんを放せ」
神職「ラド神さま」
僕は巫女に駆け寄る神職とにらみ合いになる。巫女はピクリと体を震わせると目を開け、僕を睨んだ。そして口を開き何かを喋った。何を言ったか聞き取れなかったが、喋り終ると同時に、巫女から赤い光る煙のようなものが僕に向かってきた。僕はその煙に弾き飛ばされてしまった。僕の体が宙を舞う。スローモーションのように池の水面が眼前に迫る。
僕はそこで目を覚ました。夢を見ていたようだ。体は寝汗でびっしょりだった。心臓がバクバクしている。僕が愚鈍の呪いを受けたあの日の夢を見たのだ。
ナビ「起きたのですか」
僕「夢を見て、怖かったから起きちゃった。いま何時」
ナビ「もうすぐ3時になるところです」
僕「まだ起きるには早いよね。でも寝られそうにない。ナビ、少し話を聞いてくれる?」
ナビ「はい、聞きます」
僕「夢を見てさ。僕が愚鈍の呪いを受けた時のことだけど、細かいことまで思いだした。僕に愚鈍の呪いをかけたのは巫女だった。伊勢の大学の学生とか言っていた。それに顔もバッチリ思い出した。神職がね、巫女のことをラド神さま(・・・・・)と呼んでた。ラド神て聞き覚えあるよね」
ナビ「はい、異界の神の名です」
僕「あと、巫女は姉さんに何かしてた。僕みたいに姉さんも何か悪さを掛けられてないか調べられないかな?」
ナビ「可能です」
僕「じゃあ、今すぐ調べて」
ナビ「広目の神力発動」
頭が焼けるぐらい熱い。今日はとびっきり熱い。
ナビ「終わりました。体長1mm程の疑似生命体が頭の中をゆっくりと魂の台座に向け移動しています。速度と距離で計算すると、あと600日で魂の台座に到着します」
僕「僕にわかるくらい簡単な言葉で説明して」
ナビ「巫女はお姉さまの頭にアメーバのようなものを植え付けました。アメーバはあと600日でお姉さまの魂に到達します。ここからは推測ですが、アメーバは姉さまの心、魂を破壊します。魂を破壊したあと、体を乗っ取るつもりではないかと推測します」
僕「とんでもないことするな。そのアメーバを取り除くことできない?」
ナビ「優斗の現在の力では危険が大きすぎます。空色の神力で取り除くことは可能ですが、アメーバのみならず、取り除いてはいけない体の細胞まで取り除いてしまいます。ここは十王様にお願いするのが良いかと思います」
僕「そうか、十王様にお願いしてみよう。十王空間に姉さんを連れていけば良いのかな」
ナビ「いきなり行っては十王様に驚かれます。行く前に十王様に電話しましょう」
僕「電話?」
ナビ「天聞の宝珠を使えば、十王様に電話できます」
【現世】 姉さんの香り
十王「分かった。連れてこい」
天聞の宝珠を使い十王様に連絡を入れたところ、即座に返事が返ってきた。僕は何も喋っていないが、天聞の宝珠は僕の言いたいことをダイレクトに十王様に伝えてくれた。便利なようだが人間相手では使えない。だって嘘吐けないじゃん。嘘吐く気はないけどね。
十王様には甘えっぱなしだ。何か一つでもお返ししたい。なにかないかなぁ。
僕「ナビ、姉さんは寝てる?」
ナビ「はい。ぐっすり寝ています」
僕「そのさ、姉さん、裸とかじゃないよね」
ナビ「大丈夫です。パジャマを着ています」
僕はコピー用紙に転移用の十王曼荼羅を書く。前のように1mの十王曼荼羅ではなく10cmの十王曼荼羅だ。空色の神力を使えばコピー用紙の十王曼荼羅を空間転移、拡大転写できる。デメリットは1回使うと消えるので使い捨てである。メリットは空間に書くと1日しかもたないが、コピー用紙の場合は5年はもつ。まあ書いても10分なので今のところは、作り置きはしない。
僕はコピー用紙を持って、姉さんの部屋に入る。姉さんはぐっすり寝ていた。
姉さんの体の下に空影の神力でベッドを作り、少し持ち上げた。次に僕はコピー用紙の十王曼荼羅を空間に展開する。姉さんの腕にそっと触り、十王曼荼羅に手を伸ばす。手が十王曼荼羅に触れた瞬間、僕と姉さんは十王空間にいた。
姉さんはまだ寝ている。姉さんを空影の神力で作ったベッドに乗せたまま十王堂に入った。
僕「十王様、姉をお願いします」
十王「うむ、お主はそのおなごを支えていよ」
十王様は歌われる。同時に薄く姉の体が光りだす。暫くすると本当に小さい赤い塊が頭の上に現れた。赤い塊の周りに光が集まりだし、光は赤い塊をくるみ赤いビー玉に変化した。
十王「療術は終わった」
僕「姉は無事でしょうか」
十王「安心せよ、無事である」
僕「ありがとうございます。本当にありがとうございます。あの、僕いつも十王様に甘えっぱなしで心苦しいです。十王様のために、僕ができることはありませんか。なんでもします」
十王「そうか。では1つ頼むとしよう。異世界より現世に転移した悪神、ラド神を退治せよ」
僕は一瞬、ウワッとなった。神を退治するのか。僕には荷が重すぎる。そもそも僕に神を退治する力などあるのだろうか。一瞬断ろうと思ったが、自分から申し出ておいて、ちょっと難しいから断るなど、ダメに決まっている。僕の十王様への感謝の心が待ったをかけた。僕の命など十王様に頂いたようなものだ。ラド神討伐で僕の命が失われようと、十王様に命をお返ししたと考えれば良いか。僕は決断した。
僕「お受けいたします。そのうえで教えて頂きたいのですが、人間の僕が神を退治して良いのでしょうか。そして僕に神を退治する力はあるのでしょうか」
十王「悪神と言っても単なる生命体だ。お主達と違うのは母体をプラズマとマナで構成する点だけだ。病気も怪我もする。知恵も人間と大差ない。多少寿命が長い故、神などと持ち上げられておるだけだ。現世の人間を狩った時点で、悪神との話し合いの余地は消えた。町中に猛獣が現れたなら、退治するしかあるまい。退治の方法は宝珠たちが知っておる」
僕「分かりました」
十王「お主に悪神羅針を与える。悪神羅針は悪神の場所を教える」
姉さんの頭の上に浮かぶ赤いビー玉に何処からともなく現れた十王曼荼羅が絡みつき融合していく。融合が終った赤いビー玉は僕の前まで移動して来た。僕はビー玉を受け取り、影倉庫にしまった。
僕「悪神退治頑張ります。では姉さんを連れて帰ります」
十王「期待している。ただ、焦るでないぞ」
僕「ありがとうございます」
そう言い終わったところで、目の前の景色が変わる。僕達は姉さんの部屋にいた。十王様が転移してくださった。僕はベッドの布団を持ち上げ、姉さんをベッドの上に移動させた。姉さんに布団を掛けたところで姉さんが起きてしまった。僕を確認した姉さんは驚いた表情を浮かべたが、すぐにいつもの優しい顔になった。
姉「ゆう、怖い夢でも見たの」
僕「ごめんなさい。勝手に部屋に入って」
姉さんは枕元にある時計を確認する。時刻はまだ3時半だった。姉さんは体をベットの端に寄せ、布団を少しまくる。
姉「寒いから早く入りなさい」
僕は言われるまま姉さんのベットに潜り込んだ。久々に姉さんと二人で寝る。確か保育園の時以来だな。姉さんは母さんにはない香りがする。僕は姉さんの香りを楽しみながら眠りに落ちた。幸せな夜だった。
【現世】 悪神討伐の準備
翌朝、僕は早朝に目覚めた。ナビに頼んで起こしてもらった。時刻は4時50分、カーテン越しに確認すると外はもう明るくなっている。姉さんを起こさないようベッドを抜ける。まだ母さんも起きてはいない。水をコップ2杯飲み、トイレを済ませる。僕の水筒に水道水と氷を入れる。自分の部屋に戻り運動服に着替えた。食卓テーブルに「運動してきます 優斗 帰宅:7時」と大きく書いたコピー用紙を置いて、家を出た。
僕は十王様に「悪神、ラド神の退治」を誓った身だ。十王様の期待に応えたい。まず、十王堂までランニング、1分で着く。十王様にお参り、展望公園まで4Kmはジョギングで30分、麓から展望台まで坂道ダッシュ3回で計15分、公園のアスレチックの雲梯で30分、汗を流す。僕はこんな朝早く展望公園まで来たことが無かったが、公園にはお年寄りから成人の人、中学、高校生くらいまで沢山の人が運動やら散歩、ジョギングを楽しんでいた。異世界でレベルが上がったせいか、体は思うように動いてくれたので楽しかった。楽しいことは継続したい。取りあえず夏休み中、イベントがない限り早朝の運動は続けよう。
午前中は勉強に費やす。僕は小学5年生から中学2年まで勉強できる状態でなかった。小学生の教科書の算数と英語、国語の漢字を中心に学びなおしている。ミナミちゃんが来たときは中学1年の5教科も復習する。読めば理解できるということが、こんなに楽しいことだとは知らなかった。午後からはミナミちゃんと2人で外に遊びに出る。姉さんにくっ付いて近くのショッピングセンターに行ったりもする。たまに母さんの車に乗せてもらってドライブに行ったりもしている。
夕食後は寝るまで、ナビと一緒に戦い方を勉強する。悪神には物理的な攻撃は効きにくいようだ。戦うとすれば空影の神力か空色の神力なのだが、どちらも攻撃というより防御する力なので、どうやって攻撃するかが問題となる。
僕「十王様から戦い方は宝珠が知っていると聞いたよ。どうやって戦うのかな」
ナビ「優斗には光沢紙を用意してもらいましたよね。そこに攻撃できる十王曼荼羅を書きます。戦う時は影倉庫から取り出し、空色で展開し、発動します。取りあえず、攻撃の練習用に100枚十王曼荼羅を書きましょう」
僕「L版の光沢紙が攻撃のお札になるのか。陰陽師みたいでカッコいいね。でも100枚か、大変だ」
ナビ「陰陽師も陰ではコツコツと地道に努力しているのです。それを言わないところがカッコいいのです」
僕が100枚入りの光沢紙を買おうとしたところ、ナビは400枚入りのを勧めてきた。それも2個だった。ナビは僕に800枚書かせるつもりだろう。まあ、1枚書くのに10分なので100枚であれば1週間で書き上げられる。
宝珠たちが提案した攻撃用の十王曼荼羅は下記のものだった。名前は僕が付けた。最初はナビたちに名前を付けてもらったがムズ過ぎて覚えられなかった。仕方がないので自分で名付けた。
1種類目はシャドス、指定空間内の全てを影空間に転移させる。
2種類目はセミコン、指定空間内の電気抵抗値を増加させる。
3種類目はマナトラ、指定空間内のマナを奪う。
4種類目はマナボム、指定空間内のマナを暴走させる。
5種類目はフリーザ、指定空間内の熱エネルギーを奪う。
6種類目はトースト、指定空間内に熱エネルギーを加える。
7種類目はマグプリ、指定空間を電磁的に遮断する。
8種類目はカレント、指定空間内に電気を流す。
9種類目はグラビテ、指定空間内を重力増加させる。
10種類目はスローリ、指定空間内の時間の進みを遅らせる。
人間や、戦車などの兵器は想定していない。どれも悪神、ラド神を想定した特別な十王曼荼羅だ。人間相手や兵器であれば空影と空色があれば何とかなる。今回はプラズマ生命体を攻撃、退治するためのものなので、物理的な力は通用しないと想定した。電磁気力に関連した攻撃力を用意した。まあ、宝珠達が教えてくれたんだけどね。
実は光沢紙に書いた十王曼荼羅は空色の神力でコピーできるのだが、ナビは時が来るまで優斗には伝えないと決めている。これは書道と同じで、書くことが訓練になるからだ。ナビは愛をもって優斗を鍛えようとしていた。
【現世】 宝珠神力からの贈り物
8月に入り、もうじきお盆になる頃。夏休みも中盤にさしかかった。僕は鍛錬に勉強、悪神退治の準備や訓練と充実した日々を過ごしていた。L版十王曼荼羅も200枚書いた。ただ、練習で半分使ってしまったので、影倉庫には100枚しか残っていない。悪神退治の準備も順調なので、次の段階に進むことにした。
僕は十王様からもらった悪神羅針を影倉庫から取り出し、エナを込めた。目の前、50cmの距離に羅針盤のようなものが浮かぶ。羅針盤には矢印があり、それが悪神のいる方向を示している。羅針盤の中心には数値が浮かんだ。その数値は11642mとある。矢印は東南東、距離は11.6Kmか。僕は距離が近くてホッとした。もっと遠かったり、外国だったら準備が大変だった。この距離なら僕一人でもなんとか対応できるだろう。
僕「悪神は近くにいるね。11Kmくらいなら僕でも一人で行ける距離だ。助かった。どんな場所にいるか地図で確認したいなあ」
ナビ「そうですね。知識の宝珠に地図情報を覚えさせてください。そうすれば確認できます」
僕「地図はパソコンので良いのかな」
ナビ「はい、大丈夫です」
僕「今は夜8時か、父さんが使ってないようなら、PCを借りてくる」
PCのブラウザで起動し、悪神ラド神がいるあたりの地図を表示した。そして操作、表示を繰り返した。
ナビ「もう少し北西の方に移動してください。はい。地図の縮尺を大きくして、移動して見てください」
僕はナビの指示通り操作していく。
ナビ「もう十分です。半径50kmの詳細地図を記憶しました。悪神のいる付近をお見せします」
僕の目の前に地図が浮かび悪神羅針が示した悪神の位置を赤いピンで示してくれた。場所は住宅街、マンションのようだ。僕は姉さんを襲ったあの巫女の顔が浮かんだ。まだこの町にいたのか。逃げられてはたまらない。気づかれぬよう慎重に行動しよう。
僕「この町にいる。人間に化けているのかな。僕に愚鈍の呪いを掛けた巫女なら顔を覚えているから探しやすい」
ナビ「どうでしょうか。悪神のことです。他の人間に姿を変えているかもしれません。先入観は持たない方が良いでしょう」
僕「こちらが狙っていることに気づかれると不味い。慎重に調査だね」
ナビ「悪神は人間以上の感覚や力を持っていると思います。近づきすぎると感づかれる恐れがあります。何とか悪神に気づかれない追跡方法を編み出したいものです。我ら宝珠、神力で検討してみます」
僕「いつも助かる。感謝です」
ナビ「優斗、その感謝を形にしていただけないでしょうか」
僕「形?」
ナビ「我ら宝珠神力が欲する十王曼荼羅を14個書いていただきたいのです。それと優斗が持っている願掛けのネックレスを1つください」
僕「14個か、3日だね。良いよ。願掛けのネックレスもOKだよ。何個かあるから好きなのを選んで」
ナビ「ありがとうございます。では今夜からお願いいたします」
ナビにお願いされた十王曼荼羅は2日で書くことができた。
僕「ナビが欲しいと言った十王曼荼羅は書けたよ。願掛けのネックレスだよね、どれがいい?」
ナビ「毎日付けるとしたら優斗はどれが良いですか?」
僕「そうきたか。僕ならこれだね。僕のセンスの良さがバレるね」
ナビ「ではそれを影倉庫から出してください」
僕は願掛けのネックレスを取り出した。ナビから十王曼荼羅を順次空間に出し、縮小して願掛けのネックレスのマナ石に埋め込むよう指示された。ナビの言う大きさと角度でマナ石に十王曼荼羅を埋め込むのだが、マナ石が小さいのと十王曼荼羅もさらに小さく、苦戦しながら14個全てをマナ石に埋め込んだ。
僕「ナビ、終わったよ」
ナビ「では、マナ石にマナを注いで、優斗の首に掛けてください」
僕はナビの言う通り、願掛けのネックレスを首に掛けた。
僕「ナビ、約束だよ。これが何なのか教えてくれる?」
ナビ「スマホです」
僕「スマホって、電話や動画を見たりするやつ?」
ナビ「はい、そのスマホです。優斗がお持ちでないので、作りました」
僕「電話を掛けたり、受けたりできるの」
ナビ「はい、スマホですから」
僕「電話番号とかないよね」
ナビ「必要ありません。優斗から1回掛けた相手なら、通話できます」
僕「じゃあ、インターネットも検索できるの」
ナビ「はい、スマホですから」
僕「じゃあ、動画もみれるの」
ナビ「はい、スマホですから」
僕「じゃあ、地図もみれるの」
ナビ「はい、スマホですから」
僕「アプリだとかも動くの」
ナビ「いいえ、動きません」
【現世】 制服
8月も半ばを過ぎた。もう来週から学校が始まる。今日は母さんとミナミちゃんのお母さん、ミナミちゃんと僕の4人でショッピングセンターに来ている。来週から通う私立中学の制服を受け取るためだ。お昼が近いので買い物前に昼食を取ることになった。昼食はフードコートでとる。ミナミちゃんがお手洗いを所望したため、先にトイレに向かった。男子トイレはあいにく清掃中だったため、僕だけ少し離れたトイレに向かった。
用を済ませてトイレを出ようとすると、僕はいやな奴に出会ってしまった。中学1年生の時同じクラスだった奴だ。僕はこいつにお金を脅し取られている。こいつはズルいやつで、お金を要求する時、独特の言い回しをする。
「助けてくれ」と言うのだ。「よこせ」とか「貸してくれ」とは言わない。僕が自主的に差し出したことにする。お金を取られた後、担任に助けを求めたが、担任は「彼はお金を要求もしていないし、借りてもいない。君がお金を彼にあげたと言っているぞ。君はあげたお金が欲しくなって、後で先生に頼んでも、先生もどうしようもないじゃないか。中学生がお金を友達にあげるなど、いけないことだよ。これからはダメだからね」と言い、とりあってくれなかった。言い回し1つで恐喝が援助になるなど、詭弁であることは誰でもわかる。先生は自分の保身のために恐喝を無かったことにしてしまった。それも僕の頭の弱さを利用してだ。当時の僕は納得できなかったが、反論するだけの知恵が無く、泣き寝入りであった。今思い出しても本当に嫌な思い出だ。
そいつ「やあ、しばらくぶり。でさあ、今、俺の財布がピンチでね、戸田君、助けてよ。友達だよね。戸田君の財布、見せてくれるよね」
こんな人の多いショッピングセンターでカツアゲ。それもバカの一つ覚えの「助けて」だ。恐喝を援助と言い張れるとまだ考えているようだ。トイレの出口を見ると、仲間らしき連中4人でトイレの入り口を塞いでいた。トイレに入ろうとする人に「今取り込み中、他のトイレにいって」といって誰もトイレに入れないようにしていた。柄が悪い連中に居座られて、だれもこのトイレに近づけない。
僕は気が抜ける気分だった。だって、襲ってきた時のゴブリンの殺気は凄まじかったよ。ビィービに腕を捕まれるだけで腕の骨は簡単に砕けちゃう。ウルフに至っては一瞬でも目を離せば喉を牙で割かれて死ぬ。異世界のコロシアムで自分の生命を賭けて戦わされた経験は僕を変えてしまった。僕がその気になればこの程度の不良など、一瞬で5人まとめて殺せるだろう。しかし、殺すのは不味いよね、と思いながらスキル瞬動を発動した。僕のスキル瞬動は現在5.0。つまり常人の5倍の早さで動ける。僕は移動しながら一人一人のアゴをヒネって行く。普通にヒネると首の骨を折って殺してしまうので、手加減しながらヒネっていった。5人を処理する時間は1.5秒ほど、1.5秒は一瞬だ。不良たちは何も対応できなかった。みんな尻もちをついた。しばらくは立つことができないだろう。脳が揺さぶられると動物は一時的に平衡感覚を失い、行動できなくなる。普通3分もすれば回復する。もし、回復してフードコートまで押しかけてきて、恐喝にくるようだと面倒だが、不良たちが悪事を大ぴらにやるほど壊れているとも思えない。だから放置することにした。ただ、こういう連中はしつこいと決まっている。後で僕を狙うだろう。対策が必要だな。異世界なら殺して終わりなのに、現世は本当に面倒だ。
フードコートで食事を終え、学校指定の服飾店に向かった。今日来ることは事前に連絡してあったので、お店の店員さんは待っていてくれた。
母「ゆうちゃん。ホントに170で良いの。165にしない?」
僕の現在の身長は155.5cm、ホントなら165で十分なのだが、僕は170を母さんにお願いした。中学を終えるまでには身長170cmを目指す。両親、姉さんの身長から考えると高校生までには176cm以上が妥当なのだ。チビだと見下された反動かもしれないが170を譲りたくなかった。
店員「今の身長に合わせて詰められます。直す時は店にお持ちください。5cm刻みで大きくできますから」
僕「僕は170になる。絶対」
ミナミ「ゆうちゃん、そこは僕じゃなくて俺にしてよ、『俺は海賊王になる』みたいにかっこよく言えたのに」
ミナミちゃんが茶化したので、かなり恥ずかしくなってしまった。でも制服の170は譲らなかった。ミナミちゃんは今の身長155cm。だが制服は160を選んだ。少し小さい制服の方が可愛く見えるらしく、自分の身長が160cmを超えてもウエルカムとのことだった。2人の制服の直しに1時間掛かるとのことで、待つために4人でショッピングを楽しんだ。僕は制服に合う新しいスニーカーを買ってもらった。ミナミちゃんは茶色のスリップオンの靴を買った。
【現世】 油断
僕「ナビ、今日、不良に絡まれたろう。奴等はひつこいから、また、絡んでくると思う。殺せば簡単だけど、現世では不味い。警察とかに目をつけられちゃう。対策が必要なんだ。一緒に考えて欲しい」
ナビ「今日の対応はベストではないかと思うのですが」
僕「うん、何も準備がない状態で、ベストだったと思う。でも僕は相手から自発的に手を引かせたい。僕にかまっているより、もっと差し迫ったことが起きて、それに対応しないといけない状態になるというか。上手く表現できないや」
ナビ「優斗にちょっかいを掛けることが、第2順位になるような、第1順位の事項を発生させるということでしょうか」
僕「そうなんだけど、第1順位が圧倒的になるようにしたい。僕へのちょっかいが相対的に0なるくらいの第1順位が必要だ。難しい注文だよね」
ナビ「いいえ、簡単かと」
僕「そうだよね。え!簡単」
ナビ「はい、簡単です。似たような状況を書いたラノベがありました。相手を急性の下痢にすれば良いかと。人間は人前で排泄を忌諱します。それ故に下痢は人間にとって緊急度が高いはずです。また急性の下痢は病気とまでは言えません。排泄が終われば治ったとみなせます。また、人間は意図して下痢を引き起こす力を知りません。原因は自分自身にあると考えます。さらに人間は下痢を知られるのは恥だと考えます。ですから下痢の状態を隠そうと行動します。優斗の目的に最適と考えます」
僕「そうだね。ピッタリだけど。他人を下痢にできるのかな」
ナビ「人間は腸内に多種多様な細菌を宿しています。その中にベロ毒素を出す細菌がいます。この細菌は少量ですが腸内に必ずいます。通常の状態ではベロ毒素を出しませんが、強いストレスを受けると少量のベロ毒素を放出します。人間はベロ毒素に非常に敏感です。ベロ毒素は人間を簡単に殺すのでとても敏感なのです。ベロ毒素はナノグラムのオーダーでも感知され、大腸はベロ毒素を排出しようと、大量の水分を放出します。これが下痢です。
腸内細菌にストレスを与える方法ですが共振を利用します。細菌の大きさで共振を起こす周波数の音波を人間に当てます。細菌は共振を自身への攻撃とみなし、強いストレス状態となります」
僕「すごい!ナビはすごいよ」
ナビ「すみません。この理論はインターネットの情報から組み立てました。人間が作り出した情報を元にしていますので精度がとても低いです。上手く機能しないかもしれません。ダメ元で試してみることを理解ください」
僕もインターネットの情報は玉石混合と聞いたことがある。でもロマンがある。試したい。
僕「ナビ、ダメ元でかまわない。十王曼荼羅を教えて」
ナビ「はい。今投影します」
僕の十王曼荼羅コレクションに新たな仲間が追加された。名前はゲリコイ、指定した人間(複数人可)を下痢状態にする。
現世では一番有効な十王曼荼羅になりそうだ。この時は本当にそう思っていたので、調子に乗って10枚も作ってしまった。僕はバカだった。ゲリコイのことは後で反省することになる。
【現世】 転校初日
夏休みが終わった。今日から私立中学に通う。母さんが初日は学校まで付き添うと言ったが断った。僕もミナミちゃんも中学生だ。僕らは自転車で中学校に向かった。初日は教員室に来てくれと言われていたので、始業15分前に教員室に入った。2人の担任に連れられ、ミナミちゃんは1年2組。僕は2年3組に向かった。
担任「今日から一緒に勉強することになった転校生の戸田優斗君です。戸田君は○○中学から転校してきました。戸田君、挨拶してください」
僕「戸田優斗と言います。前の学校ではイジメられてました。もうイジメられるのに飽きました。だからイジメてくる人とは戦います。でも戦うのは好きじゃありません。僕からは攻撃しません。できれば皆さんとは仲良くしたいです」
僕の挨拶は強烈過ぎたようだ。担任もクラスの生徒も無言になってしまった。これは狙った小芝居だった。○○中学と言えばクラスの集団失踪が連想される。あまりフレンドリーを装うと、クラスの集団失踪の件を聞かれる可能性が高い。近寄りがたい雰囲気を作りたかった。イジメ問題は良いカモフラージュになってくれそうだった。
1限目はホームルームで、内容は席替えだった。席替えは抽選方式、僕は教室の真ん中あたりの席が当たった。今日は4限まで授業で、昼食はない。初日は緊張するので早く帰れるのは有難かった。僕に対するクラスメイトの反応は遠巻きに様子を伺う生徒が8割、1割は敵意を持ったバカ、あと1割は敵意を持たないバカであった。
僕に最初に近づき、声をかけてきたのは敵意を持たないバカであった。こういうバカは貴重だ。敬意をこめ勇者と呼んでおこう。
恵一「僕、葛城恵一、○○中学ってイジメ酷いって聞いたけど本当だったんだ。どんなイジメ受けた?」
僕「足引っ掛けて転ばされる。トイレでバケツの水をぶっかけられる。教科書に落書きされる。抑えつけられて顔に落書きされる。体操服を捨てられた。給食費を盗まれた。最後は恐喝、お金を取られる。まあ、あと50くらい続けれれるけど、聞きたい?」
恵一「先生には言わなかったのか」
僕「○○中学ではイジメは無いことになっている。だからイジメられる奴が悪いと言われる」
恵一「酷いな、まあ先生も人間だからしゃあないか」
次に近づいてきたのは敵意を持ったバカ、この類に敬意は不要だ。愚者と呼んでおこう。彼には悪いが見せしめになったもらった。
「イジメる奴も悪いがイジメられる奴も悪い。イジメは喧嘩両成敗と一緒だぜ」
僕「君は?」
「俺は山田昴流。イジメはイジメられる奴が誘発しているってのがインターネットの定説だ」
僕「イジメられる奴が悪いってこと?山田君はイジメた経験はある?」
山田「イジメられる奴も悪いってことだ、俺はイジメはしない」
僕「じゃあ、イジメられた経験はある?」
山田「それもない」
僕「山田君の意見はイジメる側の理論だよ。1回イジメられてみてから話さないと。イジメられた経験もないのに御大層に言われてもね。イジメられる側に立つと180度、見方が変わるよ」
山田「いいや、変わらないね」
山田が話し終えると同時に瞬動を発動し、筆入れからマジックインキを取り出し、山田のホホに「バカ」と落書きした。最近十王曼荼羅をいっぱい書いているので、字が上手くなっている。バカの文字が達筆だった。一瞬だったので山田はホホに落書きされたことに気づいていない。
僕「今、山田君をイジメちゃった。山田君の理論だとイジメた僕は悪くなくて、イジメられた山田君が悪いんだよね。顔にイタズラしからトイレで顔を洗ってくると良いよ」
山田はイタズラ書きされたことをようやく認識した。教室の後ろにある鏡でホホを確認する。そしてホホを隠してトイレに走っていった。まあ、無茶をしたのは承知だ。こんな無茶は1回しかやらない。この1回の無茶で平穏な中学生活を送れるのであれば儲けものだ。
恵一「山田をやり込めるとは、お前ただ者じゃないな。俺、部活はスポーツチャンバラ部。戸田君は絶対才能あるよ。スポーツチャンバラやろうよ。スポーツチャンバラ最高だぜ」
僕「うん。全く興味ない」
【現世】 僕の立ち位置
私立中学に転校し1カ月がたった。10月の第1週目はテスト週間だった。月火の2日で、前期末テストが行われた。それと、僕は陸上部に入部した。この中学では部活は授業と同列で、必ず部活をしなければならない。火、水、木の午後2時から4時までが部活の時間だ。スポーツの大会にでるような生徒は町のスポーツクラブで活動する。あくまで、学業の一環としての部活であった。ミナミちゃんはダンス部と放送部で迷っていたが、放送部に決めた。リポーターの勉強がしたいそうだ。
教務主任「では1,2学年合同指導会議を始めます。まず期末テストですが何かありますか」
2年1組担任「例の転校生、戸田君でしたか。学年1番でしたね。驚きました」
2年3組担任「はい、○○中学から送られた学業成績では1年はオール1、2年の1学期もオール1でした。どんな学業不良生徒かと思いましたが、驚きです」
教務主任「イジメの噂もありますし、○○中学の指導はどうなっているのやら」
2年2組担任「彼、転校早々、やらかしたと聞きましたが」
2年3組担任「最初の挨拶は『イジメてくる奴とは戦う』でしたから、生徒も私もビビりましたよ。でもその後は問題ありません。性格も穏やかで、今はクラスに馴染んでいます」
1年2組担任「あの、一緒に転校してきた山科美南さんですが、なんでも、転校してきた戸田君と婚約しているそうです。そういう話には女子は敏感ですので。女子の間では、戸田君を見学するツアーがあると聞きました」
2年2組担任「戸田君は女子への興味が強すぎる様ですね。困った問題を起こす前に戸田君に指導が必要と思いますが」
1年2組担任「あの、プロポーズしたのは山科美南さんだそうです」
教務主任「戸田君は草食系ですかね。山科さんは肉食系ですか。まあ時代でしょうか。行き過ぎがないよう各先生には見守りをお願いします。では次の議題に移ります」
僕は努力の甲斐があって狙ったポジションを得られた。優等生だが、ちょっと凶暴な面を隠し持つ。普通に付き合えるが、どこか分からない場所に地雷があり、それを踏むと狂暴な面が発動するので注意深く接しないといけない奴。ちょっとうっとおしい設定だが、なめられてイジメにあうよりずっと良い。まあ、狙い通りである。中学生活が順調であることは重要だ。僕の使命、悪神ラド神を討伐するにも、生活の基盤が揺らいでは、討伐に全力を傾けることができない。
ラド神を監視するうえで、気になることがあった。ラド神を補佐していた神職に似た部活指導員が学校にいるのだ。その部活指導員は修験道部を指導していた。顔は記憶を辿っても似ているとしか言いようがない。広目の神力で、この指導員の経歴を探ったが、学校には経歴書が無かった。他の部活指導員の履歴書はあるのにである。今は神職に間違いないと思って監視している。ただ、悪神羅針にはこの神職は反応しない。ナビにも意見を求めたが、人間であることは確かなようだ。
もう1つ気になる点は悪神羅針で探るラド神の居場所がまったく移動しないことだ。マンションと思しき場所から、この2カ月まったく移動していない。このため、顔などを確認する手段が無かった。
【現世】 ゴミは不要
体育の授業で身体測定と体力測定があった。嬉しいことに身長がまた伸びていた。現在は163cm、体重51Kg。3カ月で7cmも伸びていた。どおりで学生服のソデが短いし、足もスソがクルブシの上にきている。中学2年生としては平均よりやや低いレベルになった。母さんに話したら、学生服の直しを店に予約してくれた。詰めた分を戻してもらう。今週の土曜日はショッピングセンターまで行くことになる。今回は僕1人で行くと言ったら、母さんと姉さんが付き添うと言ってきた。もう僕も中学生だ。いつまでも母さん、姉さんでは恥ずかしい。当然断った。
学生服の直しは早い時間が良いと言うので、ショッピングセンターには10時ちょうどに着くよう家を出た。服屋には1番で入り、学生服を渡した。11時には出来上がるというので、ゲーセンで暇を潰すことにした。ミナミちゃんと母さん、姉さんへのお土産、ぬいぐるみが欲しかった。前回、ぬいぐるみをクレゲーで釣った時はミナミちゃんと姉さんの分しか持って帰らなかった。それを知った母さんに拗ねられてしまった。今回は母さんの分まで釣り落とした。1回3百円なので出費は痛いが、母さんに拗ねられる方がもっと痛い。必要経費だと諦めた。結構良いのが3体釣れた。
11時に再度、服屋に行き、直してもらった学生服を試着したが、僕の身体にピッタリであった。店員さんからはもう1回、大きくすることができると教えられた。3年生の夏休み前までには達成したい。
僕はそのまま家に帰るのだが、僕は例の不良5人組の1人に後を付けられていた。その1人はゲーセンに居たようだが、僕は不良5人組の顔など覚えていなかった。彼らはあの後、僕を探していたようだ。僕は学校に通わず、ネットで授業を受けていたので、見つけられなかった。クラスメイトに聞こうにも、クラスメイトは集団失踪していて聞けない。そうこうするうちに、僕は転校して○○中学から消えた。転校した生徒の住所や電話番号など個人情報が守られている現代では調べるすべがない。僕の方も最初はゲリコイを試したくて期待していたが、もうすっかり忘れていた。
学生服を直した翌週の木曜日、ミナミちゃんと2人で学校から家に向かって自転車を走らせていた。田舎道のため、人や自動車はあまり通らない。帰宅時はいつもミナミちゃんと会話する決まりであった。突然100mほど先に人影が見えた。人影は2人だが、挙動がおかしかった。僕らを確認するとあわてて隠れたのだ。その行動を見て僕はピンときた。
僕「ミナミちゃん止まって」
ミナミちゃんは僕に合わせ自転車を止めた「なに?」
僕「前話した不良5人組が待ち伏せしてる。ミナミちゃん、危険だから先に帰って欲しい。少し戻って右の道、お寺回りの道は安全だから、その道で帰って」
ミナミ「え〜ミナミ怖い。ゆうちゃんも一緒に逃げてよ。それか百十番しようよ」
僕「奴らはヒツコイから何度でも待ち伏せしてくる。決着を付けないとミナミちゃんが危険なんだ。警察に電話しても逃げるだろうし、奴ら警察を誤魔化すの慣れてる」
ミナミ「ゆうちゃんが死んだらミナミ生きていけない。やだよ。一緒に逃げようよ」
僕「死なないよ。時間がない。じゃあ国道わきのコンビニで待ってて。あそこなら人がいつもいるから安全だ。ここから5分で行ける」
ミナミ「ゆうちゃん、やだよ。一緒に逃げようよ」
僕はミナミちゃんの頬を両手で包み、ちょっと強めに言った。
僕「ミナミ、お前は俺の女だろ。たったら俺を信じろ」
ミナミちゃんはようやく聞き分けてくれた。僕は自転車を降り、そして前にゆっくり進む。僕は浮かれてミナミちゃんを危険にさらしてしまった。ミナミちゃんの安全は絶対だったのに。ゲリコイなどとハシャイでいた自分が情けない。この問題はここで決着を付ける。そう覚悟を決めた。
30m前まで来たところで7人が顔を出した。これで全員だろう。2人増えている。僕が怖くて助っ人でも呼んだのかな。増えた2人はガタイが大きかった。180cmくらいありそうだ。風貌がいかにも狂暴そうであった。僕はゆっくりと7人に近づく。奴らは僕を逃がさないように横に間隔を開けだした。心配しなくても僕は逃げるつもりなどないのに。
僕をしっかり確認できたのだろう。やっと話しかけてきた。
不良「探したぜ。お前がこそこそ隠れるから時間がかかった」
僕「隠れてないんだけど」
不良「あの時の借りは返させてもらう。そんなに時間は掛からない。前歯全部もらう。それで許してやるよ」
僕「前歯?」
不良「ああ、全部折らせてもらう」
僕「痛そうだね」
不良「ああ、痛いぜ。歯を折った奴らはみんな『許してくれ』と泣き叫んでいたよ。血だらけの口でな」
僕「許したのかな」
不良「俺が許すと思うか。師匠、お願いします」
「こいつの折ればいいのか」
不良「はい、お願いします」
「1本1福だ」
不良「15福、用意しています」
隠語か。福は福沢諭吉、万札かな。15万用意して僕の前歯を折るつもりなんだ。日本は平和なのに、こんな世界があるんだ。金を脅し取ろうとして、返り討ちにあったことを逆恨み、歯を折ることで許す?、こんな連中、現世には不要だよ。僕が君達を現世から退場させてあげるよ。別段、痛いとかしないから安心しなよ、僕は優しいからね。不良の話を聞き、良心の呵責に悩む必要がなくなった。僕は安心して対処できる。
僕「ブービー7枚召喚、空間展開、発射」
僕は新しい十王曼荼羅ブービーを開発していた。ブービーは僕の受けた愚鈍の呪いの強化版だ。ブービーは徐々に思考力を退化させる。最初の2日で思考力は30%まで落ちるが、2日までに解除すれば思考力は元に戻る。それを過ぎると思考力は元に戻らない。1週間後には10%の思考力となる。10%では人間の尊厳は維持できないだろう。まさか、ブービーを使う機会がこんなに早く来るとは思わなかった。ナビの忠告を聞いて良かった。
不良+2人はブービーをくらったショックでふらふらになっている。僕は奴らに背を向け、自転車まで戻って行くが、不良たちは追ってこない。というか追って来れない。今の知能では、彼らは自分の家に帰ることすらできないだろう。
ゴミの処分が終わって、僕はミナミちゃんへの対応が気になってきた。急いでとはいえ、ミナミちゃんに強く言いすぎてしまった。僕はどうやってミナミちゃんの機嫌を直すか思案しながら、コンビニまで行くことになった。
【現世】 抜け殻
十月も半ばに入った。ラド神に変化があった。突然、動きが活発になったのだ。拠点のマンションから頻繁に移動する。平日は2日1回、ショッピングセンターに通っている。買い物ではなくヘルスゾーンに通っている。そこには、フィットネスクラブとかネイルサロン、その他美容のもろもろ、母さんも姉さんも通っていないので僕には知識の仕入れ先がないので細かいことはわからない。
動きがあった週末は遠出をしていた。三重の伊勢に行っていた。逃げてしまったかと心配したが、月曜には戻って来たので安心した。2週間ほど悪神の行動を観察した。その悪神の行動を元にナビと討伐の計画を練った。
僕「ここ3回、金曜の午後はフィットネスクラブに通っているね。フィットネスクラブの帰りを待とうか。時間も午後3時だし、ちょうどいい」
ナビ「土曜日の10時の外出も確定的ですが、時間の面では土曜の方が適しています」
僕「土曜はミナミちゃんが押しかけてくるじゃん。金曜日はミナミちゃん、音楽教室だからさ」
ナビ「わかりました。では知恵の宝珠が策定した討伐計画と、討伐が失敗した場合の撤退計画を説明します。次に計画の詳細をシミュレーションし、作戦への理解を深めます」
討伐は僕の影空間で行う。現世で討伐しようとすると悪神も暴れるだろう。現世に被害が出ては大変だ。影空間に移した後、電磁的な檻に閉じ込め、マナと電気を消費させ弱体化させる。最後は熱エネルギーを奪い、プラズマ状態から物質状態に転移させる。悪心を物質状態にした時点で討伐は完了だ。僕のマナ量と攻撃用の十王曼荼羅の数はナビに残数を管理してもらう。底をつく様なら撤退する。撤退時は悪神を宇宙空間に転移させる。宇宙空間に送った所で悪神が死ぬとは思えないが、再度、討伐を始めるまでの時間稼ぎになるだろう。
今日は金曜日、悪神ラド神を討伐する予定日だ。と言う訳で僕は学校からショッピングセンターに来た。時刻は午後3時、もうじき悪神はフィットネスクラブから出てくるだろう。僕は空影に潜み悪神が出てくるのを待った。悪神羅針が悪神の動きをとらえた。やはり、出てきたのはあの時の巫女だった。顔は記憶と違わなかった。悪神が立体駐車場方面に歩き出した。階段を登ろうとしていた。周りには人がいない。チャンスであった。僕は影から出る。
僕「シャドス召喚、空間展開、発射」
シャドスの十王曼荼羅が悪神に命中し、発動する。悪神が影空間に飛ばされる。
僕も影空間に移動する。悪神が倒れている。
僕「マグプリ召喚、空間展開、発射」
悪神の周りを電磁気の檻が包む。
僕「セミコン召喚、空間展開、発射」
悪神の持つ電気量を消費させる。
ここでナビは気づいた。悪神は動かない。シャドスで影空間に引き込んだはいいが、まったく動かない。
ナビ「優斗、攻撃を中断してください。悪神は反応しません。状況を確認する必要があります」
僕「うん。倒れたままピクリともしないね」
10分待ったが、悪神は全く動かなかった。
僕「どうしようか」
ナビ「十王様に電話を掛けましょう。困ったときの十王頼みです」
十王「我らの元に連れてまいれ」
天聞の宝珠を使用すると、何も話さなくても要件が伝わる。便利だがとても怖い。
僕は捉えた悪神と一緒に十王空間に転移した。十王堂の前で十王様たちは待っていた。転移したせいでマグプリもセミコンも解けていたが、それでも悪神はまったく動かなかった。
倒れている悪神の下に十王曼荼羅が現れた。僕が出したものではないので、十王様が出したものだろう。その十王曼荼羅は上に移動し悪神を通過して消えた。
十王「このおなごには魂が無い。魂に変わり、魂の台座には悪神の糸が絡みついている。お主の影空間には悪神の糸は伸ばせぬようだ。糸が切れたゆえ、悪神はこのおなごの制御を失った」
僕「だから動かなかったのですね」
十王「このおなごも不憫である。魂を食われ、生きながら死んでおる。望まぬ悪神の手先としての悪行、不本意であろう。このまま現世に返すと悪神がまた糸を伸ばす。魂を失った故、意志を持って生きることもできぬ。輪廻に戻すのが妥当であるが、案があるゆえ、ここにおいて行け」
僕「はい。分りました」
十王「お主に渡した悪神羅針、このままでは役に立たぬ。悪神は何処かに隠れ、魂を食らった人間に霊依し行動する。これでは、悪神の操り人形を探すことはできるが、討伐することはできまい。隠れておる悪神を捉える悪神羅針を作らねばなるまい。お主に渡した悪神羅針はここに置いて行け」
僕は影倉庫から悪神羅針を取り出し、十王様にお渡しした。
十王「新たな悪神羅針ができるまで、しばしの休息を取るが良い」
【現世】 十王様の力
十王様が歌われる。そして踊られる。
十王「さあ悪神の未来を閉じようぞ。このおなご(・・・)の過去へ、時を戻せ」
十王「時を戻せ、時を戻せ、時を戻せ・・・」
十王空間に時の音が木霊する。リーン、リーンと15回。1鳴り1年の時が戻る。
私は鈴木美咲、年齢は6歳。今日、家には私と妹2人の3人しかいない。今日、4人目の子供が生まれる予定だ。パパは病院からの連絡で、病院に行っている。バアバもパパと一緒に病院に行った。妹の桃と茜の2人の面倒は私が見ることになる。夕方6時までに生まれるようなら、パパから電話がある。私達も病院に行くことになる。赤ちゃんに会わせてくれるそうだ。もうじき6時だ。バアバが用意してくれた夕食をチンして準備をする。桃は4歳だからご飯は用意すれば自分で食べれるが、2歳の茜は自分で食べさせるとご飯で遊んでしまい、大変なことになる。私が食べさせる必要があった。7時にはバアバが帰ってくる。桃と茜のお風呂はバアバが入れてくれることになっている。
時計を見ると6時。ちょっと手間どってしまったが時間通りであった。
私「桃、茜、おいで、ご飯だよ。桃は自分で手を洗ってね。茜は私が洗ってあげるから」
子供3人での食事など初めてだった。新鮮だが少し緊張していた。
桃「ママの赤ちゃん、チンチン生えてるかな」
私「ママは男の子が良かったみたいだけど、今度も女の子だって」
茜「チンチン。チンチン」
私「桃、チンチンは言わない。茜がマネするからね。それにママの前で男の子と言っちゃダメ。ママ悲しむから」
桃「桃は女の子でもいいよ。でも男の子だとチンチンで遊べたのになぁ」
鈴木家は東北地方の一宮、その宮司の家系であった。女の子では宮司を継げない。ママが男の子を欲しがる気持ちは、妹たちには説明しづらい。今回も女の子であるため、私が婿を取る必要がある。宮司にふさわしい良識と私が満足する男の子を探す必要があるのだ。小さいながらも美咲は自分のレールを意識し、自分からレール上を走ろうとしていた。
桃「バアバ来ないね」
時刻は7時15分、電話もないのでもう車で向かっている所だろう。3人でテレビを見てバアバの帰りを待っていた。
玄関の方から車の音がする。バアバが帰って来たのだろう。立ち上がって玄関に向かおうとした時、目の前の景色が変わった。
あたり一面白いモヤが掛かっていた。目の前にお寺の小っちゃいのが見える。のそお寺から私を呼ぶ声が聞こえた。ママの声のようだが、違うのだろうか。私はお寺の扉を開けて中に入った。中に入ると中はびっくりするぐらい広かった。外見はホント小さいので不思議であった。
「よく来た。前へ、前へ」
そこには人形がいた。1、2、3・・、10。人形が10こ。背が私の半分くらい。こんな小さな人間はいない。お顔が可愛らしく、それでいて何だか凛々しい、友達の家で見た五月人形の様だった。
私「あの、呼んだ?」
「ああ、呼んだ。そなたに頼みがある」
私「頼み?」
私の前に女の人が現れた。横になって目を閉じている。よく見るとママにそっくり、でも違う。ママより若かった。それにうっすらと光っている。まったく動かない。外見は人なのだが、前にいる喋る人形より人形のようだ。死んでいるのかな。
私「誰?」
「そなただ」
私「そなた?」
「15年後のお前だ」
私「私なの?、死んでるみたい」
「ああ、心は無い。死んでいると同じよ」
私「私、15年で死んじゃうの」
「ああ、そうだ」
私「や!美咲、お婿を取らないと、神社が大変なの、死にたくない」
「お主の協力があれば生かすことができる。協力する気はあるか」
私「死ななくて済むの?」
「ああ、死なずに済む」
私「どうしたら良い?」
「今のお主の魂を少し、15年後のお主に分け与える」
私「痛い?」
「痛くはない」
私「ちょっとだけで良いの?」
「ああ良い」
私「じゃあ。良いよ」
「そこに座り目を閉じよ」
椅子もないので、私は地べたにぺたりと座る。言われる通り目を閉じた。
人形たちが歌いだす。興味がわいたのでズルをすることにした。薄目を開ける。こうすれば他人からはズルがバレない。薄目越しに人形たちが踊りだすのが見えた。楽しいのだがなんだか眠い。気が遠くなり、・・・・。
【現世】 羅針の宝珠
私は目を覚ました。いつから寝ていたのだろう。本当に長い間、寝ていたように思う。起き上がり周りを眺めた。ここは何処だろう。お寺の中のようだ。しかし、見覚えがあった。だが思い出せない。そう思ってさらに周りを眺めた。近くには人形が沢山置いてある。人形?数を数えた。1、2、・・、10体、そう思った時、突然、昔の記憶、小学校に上がる前、確か、萌が生まれた日、今まで1度も思い出したことのない、忘れていた記憶を思い出した。
私は急いで人形の前に向かった。
人形「久しいの」
私「あの、忘れていましたが思い出しました。助けてくれて、生き返らせてくれて、でも私、大変なことをしてしまいました。私、生きて良いのですか?」
「そなたの罪ではない。そなたに我らの手助けをさせる。協力せよ」
このお人形さんたちは私のやったことを知っているのだろう。そう直感した。
そう、私はラド神に殺された。ただ殺されただけならいい。殺された後、私はラド神に言われるまま250人も誘拐した。その人たちが何処に連れていかれたのか。生きているのかさえ知らない。それに、私は恋人と友達を殺した。誠、奈々子、島田君、ごめんなさい。
父さん、母さん、桃、茜、萌、みんなごめんなさい。私は皆の期待に答えられなかった。
名前も知らない沢山の人達、ごめんなさい。私は魂を奪い、肉体を奪い、そして利用した。きっとみんな私のことを恨んでる。それでもお人形さんは私に生きろと言うのだろうか。せっかく助けてくれたのに、ごめんなさいお人形さん。
お人形さんはあの時のように歌を歌いだした。
歌が終わったら、頼もう、死なせてくれと。そう、私は生きる資格がない。涙があふれてくる。泣いていると、いつの間にか歌は終わっていた。
「そなた、悪神ラド神の討伐に協力せよ」
私「討伐?」
「我が使徒が悪神ラド神を討伐する。そなた協力せよ」
このお人形さんはラド神を殺そうとしているのか。殺せるならラド神は殺すべきだ。でも、神なんて殺せるのだろうか。
私「討伐って殺すの?」
「しかり」
私「神を殺せるの?」
「しかり」
そうか、殺せるのか。私が死ぬのはラド神を殺してからでも良いだろう。
私「どう協力したらいいのですか」
「そなたには宝珠になってもらう。名を羅針の宝珠という。ラド神を見つける能力だ」
私「私、球になるの」
「宝珠は玉ではない。力、能力だ。よって宝珠のうちは身体を失う。ラド神の討伐が終われば、元の人の身に返す」
私はお人形さん達の提案を受けることにした。ラド神を殺そう。私が死ぬのはそのあとで良い。
【現世】 元は人間
お人形さん達の提案を受け、私は羅針の宝珠になった。宝珠になったが人間だった時の記憶もあるし、考えることもできる。ただ、肉体がないせいか、何かしたいという欲求はない。私は十王様の使徒に与えられた。使徒は戸田優斗君、14歳の中学2年生であった。今どきの中学2年生としては純朴な少年だ。私との因縁もある。彼から漏れる記憶を探ると私が襲った少女の弟であった。あの時、私は愚鈍の呪いを掛けたようだが、私が掛けた愚鈍の呪いは十王様が解除していた。先回の誘拐でもその対象者になっていた。誘拐した人が異世界に送られていたことを、戸田優斗君の記憶から初めて知った。ラド神の思考は私には伝わらなかった。ただ彼女の行動は覚えている。ラド神の目的などは、その行動から類推するより方法がない。
ラド神と違い戸田優斗君は宝珠、神力を完全に信頼していて、彼の記憶や思考を全く隠さない。プライベートなミナミちゃんや姉さんのことも隠さず伝えられる。私以外の宝珠神力は楽しんでいるようだが、私は恥ずかしくなる。
戸田優斗君には宝珠、神力合わせて10名の先輩がいた。彼らと話をして分かったが、彼らも私のように元人間であった。ただ私と違い、人生を終えていた。私達は寝る必要もないので時間が有り余っている。宝珠神力は皆優しい。私にいろいろなことを教えてくれた。あのお人形さんが十王様ということや、十王様は50億年以上存在しておられること、過去、現在、未来を生きる、時間を超越した存在であることを教わった。それに宝珠神力達は私の身の上を心配してくる。私の話を聞いてくれる。今まで孤独だった私は話を聞いてもらった。ただ聞いてもらうだけであるが、嬉しいし心も静まる。2年に及ぶ修羅の世界を抜けた先に、このように心穏やかになれる世界があるとは思いもよらなかった。十王様の依頼を受けて本当に良かった。
株式会社十王堂がホワイト企業だと思っていた時期が僕にもありました。十王様は確かに「しばしの休息を取るが良い」と僕に言われました。普通、しばしの休息ってどのくらいだと思いますか?
僕の常識では最低でも1カ月、優良ホワイト企業なら3カ月でしょう。たとえブラック企業でも1週間はあると思います。
僕はその日の夜10時に十王様に呼び出されました。休息を言い渡された時から6時間後でした。
十王「お主に悪神ラド神を探す宝珠を与える。羅針の宝珠である」
悪神の位置が常に分かる。加えて、悪神と霊依された人間の両方を同時に追跡することができる。広目の神力とコラボできるようになり、地図と連動して確認できるのも良い。使い勝手は悪神羅針より数段進化していた。さらに攻撃の十王曼荼羅ともコラボできるようになっていた。羅針の宝珠は攻撃系の十王曼荼羅に追尾機能を付加する。十王曼荼羅が自動追尾のミサイルのように使えるのだ。ちょっとワクワクする。僕は株式会社十王堂がブラック企業であることなど、どうでもよくなっていた。
僕「ありがとうございます。すごく便利になりました」
【現世】 ミナミちゃんのウインク
今日は火曜日、快晴、部活の最中だ。暑さも和らぎ運動にはもってこいの季節であった。僕は陸上で1500m走をメインに選択している。本日の練習メニューはいつものウオームアップ、続いて100mダッシュ3本、仕上げに1500m走1本の予定であった。それに今日は放送部の取材がある。ミナミちゃんがリポーターとしてやってくる。事前にミナミちゃんからそのことを教えられていた。ミナミちゃん達は2時半ごろ陸上部にやってきた。ディレクター1名、ビデオ係1名、リポーター1名の3人体制で取材し、ビデオを撮っていた。僕が1500m走に入ろうと準備していると、僕の所に取材班がやってきた。ディレクターから取材をお願いされたので、OKを伝えた。
ミナミ「本校の中距離走の星、戸田優斗君に話を聞きます。目標タイムを教えてください」
僕「今日は天気も良いし、気分が良いので4分30を切れるように走ります」
ミナミ「4分30というと優斗君の本気の走りを見れるのですね」
僕「はい。自己ベストが4分35なので」
ミナミ「応援しています」
そういってミナミちゃんはウインクしてくれた。ミナミちゃんは片目でウインクできない。ウインクしようとすると両目をつむってしまう。だから僕以外、ミナミちゃんがウインクしたことが分からない。可愛く目をパチクリしたように見えるのだ。まあ、そこが可愛いんだけどね。
僕はミナミちゃんの声援を受け、真剣に走った。時間は4分28。7秒も自己ベストを更新できた。部活終わりにミナミちゃんと帰宅途中、陸上部のビデオは2週間後の月曜お昼休みに放送されると伝えられた。ミナミちゃんは1500m走がカットされないようプッシュするそうだ。恥ずかしいので放送日は、早めに給食を終わらせ、教室を逃げ出すことに決めた。
下校途中はミナミちゃんと僕のダべリングタイムだ。喋るのはミナミちゃんで、僕は聞く係りなんだけどね。
いつもの様に僕らは自転車を走らせながらダべリングタイムを楽しんでいる。
ミナミ「それでさ、来週は金曜、金曜は校外取材だよ。校外取材の日は遅くなるので一緒に帰れないけど、ごめんね」
僕「校外か、何を取材するのかな」
ミナミ「修験道部、修験道部は学校山の合宿所で活動してる。だから合宿所まで自転車で行くんだよ。校外だから顧問の先生も一緒に行ってくれるって」
僕「放送部の顧問の先生ってだれ?」
ミナミ「高橋先生、体育の先生だよ」
僕「体育の先生は宮本先生しか知らないや。男の先生?」
ミナミ「大丈夫、高橋先生は女だから。それに皆で一緒に自転車で行くから危なくありません」
僕「違うよ。ちょっと気になっただけ」
ミナミ「そお? 焼きもちかなーて。ちょっと嬉しかったんだからね」
僕は立ち止まり、ポケットから願掛けのネックレスを取り出した。金の鎖、先にはマナ石のペンダントが付いている。小ぶりであるため女性が身に着けても様になる。この願掛けのネックレスには特別な十王曼荼羅が仕込んである。ミナミちゃんが危険に晒された時、僕にはそのことが分かるようになっている。さらに、広目の神力を使わなくても位置が分かるようにもなっていた。
僕「前から渡そうと思ってあんだけど、これ、願掛けのネックレス。ミナミちゃん用のスペシャル。いつも身に着けていてくれると嬉しい」
ミナミ「え〜初めてのプレゼント」
僕「高価じゃないけど、役に立つよ。もし怖い事や危険な目に会ったら、このネックレスに『助けて』ってお願いしてみて。助けてくれるから。ほんとだよ」
ミナミ「ホント?ゆうちゃんからのプレゼントだから大事にする」
僕「大事にするより、いつも身に着けていて欲しいんだ」
ミナミ「分かった。じゃあゆうちゃんが私の首に直接、着けてくれる」
【現世】 悪神の視点
私はミマト、この異世界でラド神様に仕える神官だ。ラド神様は王国を助けるべく、異世界に渡った。王国が帝国と争うための戦力となるスキルを確保するためである。始めにラド神様が異世界へ侵入した。2年前のことだ。次に私と同僚の神官が異世界に渡った。ただ、肉体を異世界に送るすべがないため、魂のみがラド神様の待つ異世界に送られた。
ラド神様は異世界で家畜を捕まえ、我ら2名の魂をその家畜に定着させてくださった。こうして私は異世界でラド神様に仕えることになった。異世界での活動、「異世界の計」の主な活動は定期的に家畜を王国に送ることだ。もう250匹を王国に送っている。異世界から現世に渡ると家畜は強力なスキルを獲得する。王国では家畜からスキルを取り出し、スキルオーブを作る。スキルオーブがあれば、スキルを持たない兵士でもスキルを使うことができ、能力は大幅に強化される。帝国からの侵略を防ぐにはスキルオーブを大量に獲得しなければならない。今のところ、「異世界の計」は順調であった。
ただ、ミマトは不安であった。自分の管理するこの地で不穏なことが立て続けに起きた。この地は狙われている。間違いなく帝国が刺客を送り込んでいるのだろう。ラド神様はこの地の豊富なマナに魅入られてしまわれ、この地に固執しすぎておられる。現世では帝国との戦いは膠着状態だ。急いで現世に家畜を送り込まなくても戦況は維持できるだろう。ここ異世界に我ら神官だけでなく、神官兵も送り込み、こちらの戦力を増強するのが得策だ。我ら神官では刺客の武力に対抗できない。もうじき定例のネット会議が始まる。ラド神様を説得できるだろうか。
ミマト「ラド神様、一時的にこの地を放棄すること、なにとぞお聞き入れください。この地は危険です。この地では帝国の攻撃を防ぐことはできません。もしも御身に危害が及べば、異世界の計どころか王国までも瓦解いたします」
ラド神「放棄などできるわけがなかろう。そなたの納める地は異世界で唯一、良質なマナが煙る地、それを放棄してなんとする。そなたらの戦いを畏怖する心根が今の王国の窮状を招いたと気づかぬか。我の王国を守るためにはミマト、その方の献身が必要なのじゃ。我を助けよ」
ミマト「しかし、しかし、いや、仰せのままに」
シンラ「先回の家畜転送への妨害、ラド神様の繁殖子の謀殺、ラド神様の躯体の消失。帝国の攻撃と見るのが間違いないでしょう。帝国を守護する神の一体がこの異世界に来ている可能性があります。ガンガ神、ロロア神、イム神のうちどの神でしょうか」
ラド神「ロロア、イムなど我の敵ではない。殺すのは簡単だ。しかしガンガは厄介だ。我ではてこずる。それを思うと繁殖子を殺されたこと、悔しい限りだ。繁殖子にはガンガを殺せる因子を植え付けてあったからな」
シンラ「良質なマナが煙る地でしかラド神様の繁殖子や躯体は作れぬ。喫緊の課題はラド神様の躯体だ。1体のみでは帝国の攻撃からラド神様を守ることは難しい。躯体となる家畜の選定状況は進んでいるか。ミマト神官」
ミマト「シンラ神官、用意はできております。緊急のため質は以前の躯体より落ちますが、ラド神様に気に入って頂けるレベルかと」
ラド神「今は緊急の時、贅沢は言わぬ。我に適合する家畜であれば良い。礼を言うぞ、ミマトよ」
ミマト「有難きお言葉、恐悦至極にございます」
シンラ「来週にはラド神様をその地にお連れする。木曜の夜には入れると思う。手配を頼んだぞ。ミマト神官」
ミマト「つつがなくお迎えできるよう手配いたします。ラド神様の到着、お待ちしております」
【現世】 ミナミちゃんの危機
私は藤原美香子、26歳、私立中学の教員をしている。担当は英語。3年まえから教壇に立っている。生徒を教えることは面白いのだが、そろそろ結婚して子育てをしたいとも思っている。24歳を過ぎたころから結婚願望が芽生え、今はピークを迎えている。相手を探した。見付けた相手は修験道部の指導員である三崎誠だ。大学で神道を学んでいた。体形は細身で長身、頭の回転は早い、性格は温和、知性と感性のバランスがいい、要は男として申し分ない。なぜこんな優良物件がまだ空き家なのか不思議であった。最初はそれとなくアタックしたが反応しない。機会あるごとにアタックするが全て不発であった。もう諦めていた。そんな時に山科美南が現れた。私のクラスに転校してきた生徒だ。今どきのぶりっ子娘だと思っていたが、とんでもないことが分かった。もう婚約していると言うのだ。13歳の小娘のくせに。最初はおままごとの延長とタカをくくっていたが、違う。本当に婚約しているようなのだ。26歳の私がダブルスコアの小娘に負けている。許せなかった。突然私の競争心に火が付いた。三崎誠攻略作成を再開した。もう前のように余裕をぶっこいている気はなかった。肉弾戦の覚悟も決めた。もし作戦が失敗したらこの身も傷つくが、それを恐れていては勝利はもぎ取れない。この作戦は私の一世一代の大作戦なのだ。
私の覚悟が天に通じたのだろう。三崎誠から食事のお誘いが来た。高級レストランではなかった。野外のBBQへのお誘いだった。気の合う仲間が集うようで、私も招待してくれた。酒も出る様で、合宿所の泊まりも誘われた。当日に結ばれる可能性は低いが、もし誘われても良いように準備はする。結ばれなくても次のデートの約束だけは是が非でも勝ち取る覚悟で望むつもりだ。今週の週末、金曜日が待ち遠しい。
今日は修験道部の取材だ。ディレクターで放送部の部長と私、ポンコツカメラマンの柴田先輩の3人で修験道部の修行先まで出張である。出張と言っても自転車で10分。学校の合宿所まできた。合宿所は山ごと学校の用地で、修験道部はここを拠点としている。1年生の5月には生徒皆で3日間の合宿があるのだが、私は転校してきたため体験していない。
ミナミ「今日は修験道部の活動に迫ります。初めに部長の吉住浩二さんに修験道部について説明してもらいます。ではよろしく」
吉住「そもそも修験道は仏教と道教が・・・・」
事前に1分以内でと釘を刺したのだが、聞いていなかったのか。ディレクターはカットのサインを送ってきているが、住吉は淀みなく話すので、カットインするタイミングがつかめない。ようやくカットできたが、5分後であった。ディレクターは打ち切りのサインを出した。たぶん部長の話はボツだろう。
ディレクターは修験道部での取材構成を事前に組み立てていた。構成のメインは九字護身法、通称九字切りで、リポーターであるミナミが修験道部員から九字切りを教わり、最後はカッコよく九字切りを決めるというものだ。
ミナミ「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前、できた!」
修験道部員「あの、ミナミさん。陣がちょっと違う気がします。そのー、陣はこうです。親指は伸ばしません。ゆっくりやります。俺の形を見ながらでいいですので、練習しましょう」
こいつ本気で私が九字切りを覚えようとしていると思っているのだろうか。私が「できた!」と言ったんだからできたのよ。おバカなの?あなた。ディレクターに助けを求めるが、続行のサインだった。取れ高が足りないのか。仕方ない、続けよう。
40分程習って九字切りを達成できたのだが、こんなの明日には完全に忘れている自信がある。修験道部ってほんと何がしたいんだろう。ディレクターからはハナマルのサインが出た。これで今日の取材もようやく終わる。時刻は午後3時だった。
放送部と取材の反省会をしていると、車が1台、合宿所に入ってきた。車から修験道部の指導員の三崎さんと男女1名が降りてきた。指導員の三崎さんは知っているが後の2人は初めて見る顔だ。誰なんだろう。学校の先生かな。3人と目があったので、「こんにちわ」と挨拶をした。三崎さんが高橋先生に話しかけた。横で機材を片付けながら聞いていたが、どうやら今日ここでBBQがあるようだ。学校にも許可を取っているようで、担任のミカたんこと藤原美香子先生も参加するという。そういえば、ミカたんが三崎さんに熱を上げているという噂があったが、噂は本当かもしれない。
今日、ミナミちゃんは取材で学外に出ている。ミナミちゃんからは先に帰ってと言われていたが、帰る気になれなかった。4時前には学校に帰るというのでミナミちゃんの帰りを待つことにした。2時間弱だが時間を有効に使いたい。僕は図書館で本を読むふりをして、影倉庫の整理を行っていた。いろいろな物を影倉庫にしまったため、昔に入れた物は忘れている物もあり、整理が必要だった。突然、ミナミちゃんに渡した願掛けのネックレスから緊急警報が発信されてきた。緊急警報はラド神がミナミちゃんに接触したか、ミナミちゃんが助けてと願った場合、僕に届く。ラド神がミナミちゃんに接触しているのだろうか。ぐずぐずしていられない。緊急事態だ。僕は自転車置き場に走った。
僕「ナビ、ミナミちゃんの位置を地図上に示して。羅針の宝珠でラド神の位置も」
ナビ「了!」
北東3.4Kmでミナミちゃんとラド神、そしてラド神の眷属2体の位置が重なっていた。
僕「どうしよう、ナビ。ミナミちゃんがラド神に襲われている」
ナビ「まだ間に合います。今は全力で向かいましょう」
僕「わかった」
僕は瞬動も発動し、自転車をこいだ。田舎道だったので爆走した。
ナビ「ミナミさんの位置がラド神たちと離れだしました。ミナミさんはこちらに移動しています」
僕「え!どういうこと」
ナビ「わかりませんが、ミナミさんは、後2分で目視確認できます」
僕はミナミちゃんの無事が知りたくて自転車を走らせた。
暫くすると道の向こうから自転車が4台、こちらに向かってくる。ミナミちゃんもその中にいた。僕は安心し、涙が出てきた。恥ずかしいので汗を拭くふりをして誤魔化した。
僕「ミナミちゃん、無事?」
ミナミ「ゆうちゃん、迎えに来てくれたんだ。もう帰ったと思ってた。高橋先生、迎えが来たのでこのまま帰って良いですか」
僕とミナミちゃんは学校に寄らずに帰ることができた。何があったのだろう。帰りに詳しく聞こう。
【現世】 痛恨の見落とし
ラド神「シンラよ、躯体に遊操はし込めたか?」
シンラ「仕込みました」
ラド神「そちの遊躁スキルといい、ミマトの選別スキルといい、我の助けになる。感謝だ」
シンラ「有難きお言葉」
ラド神「躯体ばかりか繁殖子の苗床までも見つかった。早々に繁殖子の植え付けが済むとは運がいい」
ミマト「もうじき躯体がきます。ラド神様、シンラ神官、人格調整をお願いします」
奈々子「わかった。三崎君。私、酒で酩酊した体はきらいだから、彼女にあまり酒は飲ませないで。真司、上手く遊操で意識を刈って頂戴」
真司「分かりました。旨く処置してみせます」
三崎君「ところで、躯体を手に入れた後ですが、奈々子と新たに手に入れた躯体、どちらを使用なさいますか」
奈々子「できれば奈々子を3カ月は休ませたい。このまま使い続けると壊れてしまう。もったいないですからね」
三崎君「私の拠点で奈々子の躯体は預かれますが」
奈々子「そうしてくれると助かります」
三崎君「ではそのように」
僕とミナミちゃんは自転車を並べ、いつもの様にダべリングを始める。僕はラド神たちと接触したミナミちゃんが心配であった。いつも話の主導権はミナミちゃんなのだが、今日は、僕が話を振った。
僕「ミナミちゃんさ、今日取材で変な奴に会わなかった?」
ミナミ「会ったよ。まあ、修験道部は全員変なんだけど、特に住吉部長。ディレクターが1分以内と3度も念押ししたのに5分も喋ってた。ディレクターが止めろってサイン出してくるし、普通、息継ぎで止めるんだけど、息継ぎしないんだよこの人。だから止められなかった。それにミナミに九字切りを教えた部員、手の形がちょっと違ってもダメだしするの。誰も手の形なんか見てないのにね、それに・・・」
僕の聞き方が悪かった。修験道部員は全員変態として除外すべきだった。
僕「ちょっと、修験道部員以外でさ」
ミナミ「修験道部員以外で?うん、会った。指導員の三崎さんが車で2人連れて来た。男の人と女の人。知らない顔だった。今日、合宿所でBBQやるんだって。それで来てたみたい。うちのクラスの担任のミカたんも参加するって」
指導員の三崎+2名で3名か、数は合う。1名はラド神、あと1名は眷属なのだろう。ミナミちゃんのクラス担任もいるのか。月曜に羅針の宝珠で悪神たちを探った時は近くにはラド神も眷属もいなかった。ミナミちゃんのクラス担任はラド神の仲間ではないだろう。
僕「ミナミちゃんのクラス担任って」
ミナミ「藤原美香子先生、でもみんなミカたん(・・・・)と呼んでる。ミカたんは三崎さんにお熱でさ、それで参加するみたい」
僕「三崎さんにあまり近づかないでね」
ミナミ「三崎さん良い男だもんね」
僕「そうじゃなくてさ、危険なんだよ」
ミナミ「冗談で〜す」
合宿所に現れた悪神ラド神たちを羅針の宝珠で、もう1度調べる。やはり3名しか見つからない。夜もう一度調べ、確認しよう。3名で全員とすれば、一度に討伐できるまたとないチャンスだ。この機を逃すとラド神達はまたこの地を離れてしまうかもしれない。藤原先生は眷属ではないので当然、討伐から除外する。とても邪魔だけど仕方ない。よし、今夜、悪神ラド神討伐を決行する。
【現世】 悪神の消滅
夜10時、僕は学校の合宿所に来ている。合宿所には4人、悪神ラド神と眷属2名、あと藤原先生だ。僕は影に潜み観察していた。焚火を前に4名は雑談をしていた。焚火でマシュマロを焼いている。僕は甘くて好きになれないが、BBQでは定番のデザートなのだろう。僕は悪神ラド神と眷属2名だけになるのを待っていた。藤原先生を巻き込むと面倒だ。だがなかなかチャンスは訪れなかった。
藤原先生「真司さんと奈々子さんは婚約されているのですか。うらやましい」
真司「俺も奈々子ももう少し独身を楽しみたいし、その貯金が少なくて、もう少し働いてからでも良いのかなと」
奈々子「子供が欲しくなったら結婚でいいのかな。後1年は仕事がメインですね」
藤原先生「三崎さんはどうなんですか」
三崎「僕はまだ相手もいないんで、そろそろ探さないととは考えています」
藤原先生「三崎はステキですから、その気になればすぐに見つかると思います」
三崎「藤原先生はどうなんですか」
藤原先生「私は子供が欲しいかな」
三崎「結婚より先にですか」
藤原先生「まさか。教師は止めたくないので。最初は結婚、次に子供の順を踏みます」
真司「あれ、月が出てる。見てください。今日は満月です。月がきれいだ」
藤原先生は空を見上げることなく、眠ったようにその場で崩れ落ちる。シンラは「満月」をキーワードに遊操を発動させた。
シンラ「ラド神様、遊操が掛かりました」
ラド神「シンラ、ミマトよ、儀式の準備に掛かれ」
その時、僕が放った十王曼荼羅のシャドスが4人を捉える。4人を影空間に引き込んだ。同時に僕も影空間に入る。
僕「スリープ召喚、空間展開、発射」
僕の4人を強制的に昏睡状態にする。そして4人に近づく。藤原先生を悪神たちから引き離す必要があった。藤原先生の下に空影の神力でベッドを作り、浮かせた。ベッドごと藤原先生を運んで悪神たちとの距離を作った。僕は3人を焼き灰にしてしまおうと考えていた。
僕「トースト召喚、・・」
ナビ「ストップ。優斗待ってください」
僕「ナビ、どうしたんだ」
ナビ「この3名を焼いてはだめです。彼らは羅針の宝珠の恋人と友人でした。殺せば羅針の宝珠は暫く力を発揮できなくなります。この後のラド神討伐ができません』
え〜、この3人、羅針の宝珠の恋人と友人だったの。?が3つ付くほど意味不明であったが、ナビの指示を無視なんてできない。
僕「3人はどうしたら良いかな。教えて」
ナビ「3人は影空間に放置でかまいません。藤原先生も同様です。ラド神の討伐が優先です。知恵の宝珠が立案したラド神討伐計画を実行しましょう」
僕「了解」
悪神ラド神は地下1000mに潜んでいる。元がプラズマとマナの生命体であるため、岩石の中でも隠れることができるようだ。地下1000mともなると温度が250度を超え灼熱と言ってよい。シャドスで岩石ごと影空間に取り込めるが、250度にもなる岩石を何千トンも影空間に取り込みたくなかった。
知恵の宝珠が立てた計画は地中で大規模なマナ爆発を起こし、悪神ラド神を一気に地上に追い出すというものだ。マナ爆発にはマナボムの十王曼荼羅を使用する。知恵の宝珠が予め計算した地点にマナボムは配置する。そして配置した全部のマナボムを同時に発動する。マナボムの爆発する圧力でラド神が地中に隠れていられないようにする。地中から逃げ出たところで、檻に閉じ込める。次に冷やしプラズマを相転移させ固体化し捕まえるというものだ。この計画は十王曼荼羅を地中の特定位置に配置し、遠隔で操作する羅針の宝珠の能力なしには実現できない。
僕「ナビ、マナボム10枚召喚、空間展開、位置注入、発射」
召喚し、空間展開したマナボムの十王曼荼羅が地中に沈んでいく。1分で計画位置に到達し、発動を待機することになる。
ナビ「優斗、全てのマナボムが指定の位置に到達しました。ラド神を地中から追い出しましょう」
僕「了解。マナボム発動」
あたり一面が揺れた。
僕「地震が起きちゃった。震度4くらいありそう。町の人起きないかな」
ナビ「マナの波動です。物理的な揺れではないので、マナを持たない人間には感知できません」
僕「そうか」
ナビ「ラド神が浮上してきました。後30秒で地表に到達します。準備を」
僕「出る場所は分かる?」
ナビ「右前方30mです」
ラド神が地上に出る。姿は人間ではなかった。見た目は白い火の玉のようであった。ラド神からブーンという音が聞こえた。プールの殺菌剤のような匂いもした。僕はラド神を追尾するように設定したマグプリを発射する。
マグプリの十王曼荼羅は10mの球状に広がり、白い火の玉をを包みこむ。白い火の玉はマグプリに捕らえられ、籠の虫状態になった。白い火の玉が籠に近づくとバチッという音とともに弾かれる。白い火の玉はマグプリの外に出ることができない。
僕「フリーザ召喚、空間展開」
L版十王曼荼羅のフリーザを影倉庫から召喚する。召喚したフリーザを空間に拡大転写する。
その時、目の前にミナミちゃんの顔が一瞬浮かんだような気がした。何なんだろう。
一瞬気が緩んだが、気を引き締めて最後の仕上げに入る。
僕「発射」
フリーザの十王曼荼羅はマグプリに弾かれることなく通過し、ラド神に命中発動する。命中した瞬間、白い火の玉の火が消えた。火は白いもやとなる。羅針の宝珠で確かめると、ラド神の反応はなかった。悪神ラド神の討伐は完了したようだ。僕はマグプリを解除した。マグプリの解除跡を調べたが、白い粉のようなものがうっすらと積もっていた。これがラド神の亡骸なのだろうか。雨か風が吹けば簡単に消え去るだろう。確認を終え立ち去ろうとした時、白い粉からもやのような浮遊霊が湧き上がる。僕の魂魄の神力が発動しその浮遊霊を取り込んでしまう。僕は久々に自分のステータスを確認することにした。
優斗のステータス
レベル 9
HP 40
EP 48000/48000
MP 350/350
エナ力 2000/2000
マナ力 70/70
攻撃力 32
守備力 38
持久力 51
精神力 28
知力 36
体力 45
俊敏 34
器用 92
顕精の宝珠 2200億
スキル 瞬動(6.3)
なんか顕精の宝珠が大変なことになっていた。
時刻は11時、いつもなら寝ている時間だが、興奮していて眼が冴える。僕は悪神ラド神の討伐を十王様に報告しようと天聞の宝珠で電話した。
十王「すぐ参れ」
まあ、報告は顔を合わせてするものだよね。僕は十王空間に転移した。
【現世】 討伐完了の報告
僕は十王曼荼羅で十王堂にきた。十王堂の前には十王様たちが並んでいた。僕は十王様のところまで進み、膝まづいた。
僕「悪神、ラド神を討伐しました」
十王「悪神、ラド神の討伐、確認した。これで悪神、ラド神の未来は閉じた。お主の働きは見事であった。褒美は何を望む」
僕「僕とミナミちゃん、姉さんは十王様に命を助けて頂きました。それだけで十分です。褒美は要りません」
十王「欲のない事よ。天晴なり、我が使徒よ。天晴なり、天晴なり・・・」
十王様はいつもの様に歌を歌われる。今日は歌だけでなく踊りも踊られている。僕は暫く十王様の歌と踊りを楽しんだ。十王様は踊り終わると僕に声を掛けてくださる。
十王「お主の使徒働き誠に天晴れなり。その功徳を持ってお主を我ら十王の眷属としよう。受けるか」
僕は正式に家来になったのだろうか。まあ僕は株式会社十王堂の社員のようなものだ。まあブラックだが十王様が社長なら一生付いていく覚悟はできている。身分が明確になった方が福利厚生のお願いもしやすいだろう。
僕「謹んでお受けします」
十王「我らとお主の縁は結ばれた。過去、現在、未来、お主は我らの眷属なり。眷属の証として眷属名を送ろう。『空時』と名乗るがよい」
新しい名前をもらった。まあ、現世でこの名前を名のる必要があるのかな?ちょっとめんどくさい。ミナミちゃんに言うと絶対笑われる。ミナミちゃんが大人になるまでこのことは秘密だ。
僕「あの〜、前からの名前、戸田優斗があるのですが」
十王「我らからはお主を空時と呼ぶ。現世での名前はそのままで良い」
僕「分かりました。あと、悪神の体と悪神の眷属2名は影空間で寝かせています。いかがいたしましょう」
羅針の宝珠の件もあり、僕では判断できない。十王様に丸投げでいこう。何とかしてくださるだろう。
十王「空時に与えた羅針の宝珠であるが返してもらう。悪神の操りしおなごと眷属2名は我らが引き取る。他の宝珠神力はそのまま持っておれ」
僕は「はい」と言って、悪神の体と眷属2名を影空間から十王様の前に出した。3体は微かに光りだし、宙に浮くと十王堂の中に移動していった。僕の中から羅針の宝珠の気配が消えた。悪神ラド神の討伐は羅針の宝珠の働き抜きでは達成できなかった。やはり仲間を失うのはどこか寂しい気分になる。ありがとう羅針の宝珠。君のことは忘れないからね。
僕は戦闘から保護するため影空間に取り込んだ藤原美香子先生をどうしようか悩んでしまう。
僕「ナビ、藤原先生どうしよう。十王様に頼むのは不味いかな」
ナビ「藤原先生だけでなく、指導員の三崎や合宿所の件も含め、広範囲に人の記憶を調整しないと騒ぎになります。今の優斗の能力では無理があります。ここは社長の十王様に甘えましょう」
僕「十王様、お願いがあります。悪神が操った人間とその眷属を拉致しました。悪神退治の邪魔になる人間も保護しました。記憶をそのままにすると騒ぎになります。僕の能力では調整できません。十王様にお願いできないでしょうか」
十王「空時の申し出、聞き届けよう。保護した人間も預かろう」
十王様は先生も預かってくれた。もう12時を回っている。アドレナリンが出たせいかまだ目は冴えているが、明日は土曜日、10時にはミナミちゃんが家に来る。寝不足ではミナミちゃんのパワーに負けてしまう。早く家に帰ろう。
【現世】 絶望と希望への道
おかしい。10時になってもミナミちゃんが僕の家に来ない。今日はお昼まで一緒に学校の予習をし、昼からは姉さんも一緒にショッピングセンターで食事を予定していた。30分待ったがこないので、ミナミちゃんの家に電話するが留守電になっていた。ミナミちゃんの家は自転車なら5分で行ける。僕は自転車でミナミちゃんの家まで自転車を飛ばした。家のインターフォンを鳴らすが留守だった。仕方なく僕は家に帰った。
家に帰ると父さんが家の前で待っていた。
父「優斗、いまから病院に行こう。美南ちゃんに会いに行こう。車に乗りなさい」
車には母さんと姉さんが乗っていた。母さんと姉さんは泣いていた。なぜ泣いているんだろう。ミナミちゃんに何かあったのか。そう思うと心臓の音が聞こえだす。息ができないくらい苦しい。「ミナミちゃんに何かあったの?」その一言を僕は怖くて聞けなかった。
車に乗ると母さんと姉さんが僕を抱いてくれた。
父「早朝、美南ちゃんは病院に運ばれた。しかし、手当の甲斐なく美南ちゃんは亡くなったそうだ」
病院までの15分、僕は一言も話さなかった。病院に着くと叔父さん達が病院の霊安室に案内してくれた。ミナミちゃんはそこで横たわっていた。顔には白い布が掛けられていた。布を取り顔を見たが白く精気のない顔があった。ミナミちゃんに似ているが別人に思えた。叔父さんや叔母さんの話では、ミナミちゃんは朝起きてこないので見に行くと既に昏睡状態であった。救急車で病院に運ばれたが、意識が戻ることなく亡くなったそうだ。亡くなった時刻は朝の9時だという。その時僕は何をしていたのだろう。思い出せない。
僕はミナミちゃんとできるだけ一緒にいたかった。午後3時にはミナミちゃんを自宅に運ぶというので、それまではミナミちゃんと一緒に居させて欲しいと叔父さん達にお願いした。
僕は泣くことができなかった。泣いたら本当にミナミちゃんとお別れになりそうに思えるのだ。ミナミちゃんの顔を眺めていると、ミナミちゃんとの楽しい思い出がとめどなくあふれだす。愚鈍の呪いを受けた僕の唯一の友達、夏休みの思い出、浜辺での散歩、一緒に勉強したこと、異世界で拉致られたこと。そこまで思い出に浸っていた時、ふと疑問に思った。
ミナミちゃんの浮遊霊はどうしたのだろう。人も動物も死ねば浮遊霊が浮かぶ。しかし、ミナミちゃんには浮遊霊が浮かんでいなかった。
僕「ナビ、ミナミちゃんの浮遊霊がいない。僕は魂魄の神力を使っていない。なぜ?」
ナビ「わかりません。ミナミさんのご遺体を調べます。広目の神力発動」
頭が焼けたかと思えるほど熱い。普段の十倍ほどの時間が過ぎたがまだ終わらなかった。ナビが念入りに調べているようだ。終わったのは30分程経ってからであった。
ナビは結果をどう伝えようか悩んでいた。ミナミには悪神の疑似生命体が埋め込まれていた。その疑似生命体が頭の中で暴走した痕跡がある。暴走した疑似生命体はミナミの魂を食らいつくしている。ミナミに浮遊霊がいないのは疑似生命体に魂が食われたため、浮遊霊が発生しなかったと考えるのが妥当だろう。昨日、悪神とミナミが接触した時点で、悪神により疑似生命体が植え付けられた。悪神とのリンクが切れた疑似生命体は危険を察知して緊急回避行動を取った。ミナミの魂を食らい強制的に自己を成長させ逃げ出した。疑似生命体はもうミナミの頭の中にはいない。
優斗の精神はミナミが死んだことでどん底の状態だ。さらにこの事実を知って、優斗の精神は耐えられるだろうか。優斗は十王様にミナミさんの再生をお願いするだろう。しかし、十王様が魂と肉体が死んだ人間を生き返らせることはない。それを知れば、優斗の精神が崩壊する危険がある。ナビは悩む。優斗がすがれる希望が欲しい。何かないか考えよう。我ら宝珠神力の腕の見せ所だ。
ナビ「今からミナミさんを調べた結果をお話ししますが、話の前にお伝えすることがあります。希望があります。忘れないでください」
僕はナビから悪神がミナミちゃんに植え付けた疑似生命体のことを聞いた。悪神とミナミちゃんが接触した時点で疑似生命体が植え付けられていた。姉さんと同じだった。僕が悪神を討伐したことがミナミちゃんの死につながってしまった。過去の自分の迂闊さが憎い。ナビは希望があると言ってくれた。それだけが僕の救いだった。
僕「ミナミちゃんを救うことができるの?教えてナビ」
ナビ「はい。魂を失い、肉体が死んだ人間を生き返らすことはできません。十王様でもできません。まず、ミナミさんの死んだ未来を閉じましょう。そのためにはミナミさんが死なずに済むよう過去を変えます」
僕は我慢できず口をはさんでしまった。
僕「過去を変えることができるの?」
ナビ「はい。できます。原因があるから結果があります。逆に結果があるから原因があるのです。原因を変えれば未来の結果は変わります。同様に、結果を変えれば過去の原因が変わります。過去は変えられますが人の知性はそれを知覚できません。結果を変えれば原因が変わるのですが、変わった原因が人の記憶には残らないのです。知覚できない故、人間は過去を変えられないと考えてしまいます」
僕には難しすぎた。ただ、ナビが言うからには正しい。過去を変えよう。ミナミちゃんが死なない過去に。僕はナビに続きを聞かせてもらった。
十王様でもない限り過去を大規模に改変することは難しいが、僕のような人間でも過去の情報を操作することはできるそうだ。ナビの提案は過去の優斗に現在の優斗の持つ記憶を送ることで、過去の優斗にミナミちゃんを死なせない選択をさせるというものだった。
僕「じゃあ108枚の十王曼荼羅で過去の僕に天聞の宝珠を使い、今の僕の記憶を送れば良いんだね」
ナビ「はい、現在の優斗の記憶を悪神ラド神を捕まえる前の優斗に、天聞の宝珠で送ります。優斗であれば受け取った未来の記憶からミナミさんが死なない未来を選択します」
僕「僕もそう思う」
ナビ「しかし、現在の優斗はミナミさんが死んだ因果の道の上にいます。この事実は変えられません」
僕「うん、それも理解している。しかし、僕の行動でミナミちゃんの死なない世界が生まれるんだよね。であれば構わない。ミナミちゃんが幸せに生きる世界が膨らんで不幸な未来を駆逐すれば良い」
ミナミちゃんの通夜と葬式を済ませた僕は108枚の十王曼荼羅の作成に取り掛かった。両親に無理を言い学校は1週間休みをもらった。十王様にもこの件は報告済みだ。十王様からはミナミちゃんから抜け出した悪神ラド神の疑似生命体を討伐するのであれば、好きにして良いとのことだった。
僕は十王曼荼羅を初日に50枚、次の日には58枚書いた。十王曼荼羅の用意は終わったので3日目、記憶の過去転送を行う。場所は僕の部屋では狭いので国道沿いの河原までやってきた。まだ午前中のせいか、河原には人影はなかった。天気も晴天で空に雲はなく青く澄み渡っていた。
僕はナビのガイドに従い、十王曼荼羅を空間に配置していく。10分程で108個の十王曼荼羅の配置を終えた。
僕「中心の十王曼荼羅の上に立って天聞の宝珠を使うんだよね。時刻は悪神ラド神討伐の3時間前、じゃあ行くよ」
僕はナビと会話しながら中心の十王曼荼羅の上に立った。そして、天聞の宝珠を発動した。
僕の記憶、とどけ、過去の僕に。そう念じた瞬間、108枚の十王曼荼羅が一瞬、強く輝き、そして消えた。
【現世】 未来の記憶
僕は悪神ラド神討伐の準備をしていた。時刻は午後8時を少し回った所だ。午後9時には部屋を抜け出し、学校の合宿所に向かう。ラド神討伐用のL版十王曼荼羅の数の確認や配置をナビと確認していた。
突然、強い違和感が僕を襲う。そして未来が見えた。
僕「ミナミちゃんが死んだ。どうしようナビ。やだよ。やだ!やだ!」
ナビ「落ち着いてください。この記憶は未来の記憶です。優斗の行動次第で変えることができます。まだミナミさんは死んでしません」
僕「そうか。ミナミちゃんは悪神討伐の影響で死ぬんだ。まだ助けられる」
ナビ「はい。ミナミさんを十王様にお願いしましょう。走れば5分でミナミさんの家まで行けます」
僕は天聞の宝珠でミナミちゃんのことを十王様にお願いし、ミナミちゃんの家まで走った。瞬動も発動したので2分と掛らずミナミちゃんの家に着いた。僕はミナミちゃんにスマホから電話した。スマホはナビが作ってくれたものだが今日初めて電話として使った。
僕「ミナミちゃん、遅くにごめんね。まだ寝てないよね」
ミナミ「うん、寝てない。寝ようとしたところ。ゆうちゃんから電話って初めてだよね」
僕「大事な話があってね。今からミナミちゃんの部屋にいっていいかな」
ミナミ「え〜、部屋に?パジャマだけど、大丈夫?」
僕「ミナミちゃんが良ければ」
ミナミ「うん、大丈夫」
僕は空影の神力でミナミちゃんの部屋の外まで上り、部屋に入った。当然靴は脱いだよ。土足でミナミちゃんの部屋に入ったら嫌われちゃうからね。ミナミちゃんの驚いた顔と黄地にウサギ柄のパジャマが可愛かった。僕はできるだけ真剣な真顔を作り、ミナミちゃんに話しかける。
僕「こんな時間に来たのには訳がある。今から話すことは突飛で変な話に聞こえるけど、ホントの話なんだ。異世界に行ったミナミちゃんなら理解できると思う。
ミナミちゃんの頭に悪神が悪さをした。悪神はね、今日あった部活指導員の三崎と友人2人。ミナミちゃんは記憶を操作され覚えてないと思う。それでね、その悪さを取り除きたいんだけど僕じゃできない。十王様なら取り除ける。姉さんもミナミちゃんと同じように悪神から悪さをされた。その時助けてくれたのも十王様なんだ。今からミナミちゃんを十王様の元に連れていく。良いかな」
ミナミ「ミナミ、パジャマだよ。着替えないと失礼じゃないかな、十王様に。十王様って誰?」
僕「大丈夫、僕が見ほれるくらい可愛いから。十王堂にに居るお方たち、とっても偉いお方だよ」
ミナミ「ミナミ、怖い。ゆうちゃんも一緒に行ってくれるんだよね」
僕「うん、一緒に行く」
ミナミ「じゃあ、良いよ」
僕はミナミちゃんの腰に手を回し、L版の転移十王曼荼羅を召喚し、空中に展開した。
ミナミ「わぁ、綺麗、これなあに?」
僕「見えるの?十王曼荼羅っていうんだ。色々種類があるけど、これは十王様の所へ行く用のやつ。じゃあ転移するよ」
僕は召喚した十王曼荼羅にエナを込めた指先を触れた。
景色が変わり、十王堂が目の前に見える。僕はミナミちゃんをうながし、十王堂に入った。いつもの様に十王様が並んで出迎えて下さった。
僕「十王様、ミナミを連れてきました。悪神の悪さの解除をお願いします」
「分かった。ミナミとやら、今から悪神の種子を取り除こう。そちの意識を奪うが許せ』
十王様がそう言うとミナミちゃんの返事を待たなかった。ミナミちゃんは空中に浮き、意識を失ったように項垂れた。そしてベッドに寝ている状態に徐々になる。
十王「おなごは我らが預かった。既に悪神の種子は凍結した。もう心配は要らぬ。後の処置は我らに任せよ。お主は悪神の討伐に戻るがよい。悪神を討伐してもおなごに影響はない。手加減は無用ぞ」
僕「ありがとうございます。ミナミをお願いします。では、悪神の討伐に戻ります。討伐が終わったらこちらに来たいのですがよろしいでしょうか」
十王「うむ。待っておる。それまでに療術は終わらせておこう。武運を祈ろうぞ」
十王様は僕を自分の部屋まで移動させた。時刻は午後8時半、今から行けば9時には合宿所に着く。僕は影に潜りジョギングで合宿所に向かった。
【現世】 もう一度討伐
夜10時、僕は学校の合宿所に来ている。合宿所には4人、悪神ラド神と眷属2名、あと藤原先生だ。僕は影に潜み観察していた。焚火を前に4名は雑談をしていた。焚火でマシュマロを焼いている。僕は甘くて好きになれないが、BBQでは定番のデザートなのだろう。悪神と藤原先生の行動は僕の未来の記憶と一致している。討伐に動くのは夜11時少し前になるはずだが、違う可能性もある。僕は油断せず4人を見守った。
記憶で見たように悪神の眷属の1人が藤原先生にスキルを仕掛けるはずだ。10時45分、眷属の1人がマナの淡い赤い光を放った。僕は待機させていたシャドスを4人に向け発射する。羅針の宝珠の加護付きのためシャドスが外れることはない。
シャドスは4人を捉え、影空間に引き込んだ。同時に僕も影空間に入る。
僕「スリープ召喚、空間展開、発射」
僕の4人を強制的に昏睡状態にする。そして4人に近づく。藤原先生を悪神たちから引き離す必要があった。藤原先生の下に空影のベッドを作り、浮かせた。ベッドごと藤原先生を運んで悪神たちとの距離を作った。
僕の未来の記憶では悪神と眷属2人を焼き灰にしてしまおうと考え、トースト召喚したがナビから止められたようだ。
僕は影空間を抜け出した。
僕「悪神ラド神の討伐計画は未来の記憶と一緒かな」
ナビ「はい。一緒です」
僕「了解、じゃあ説明は要らない。マナボムを地中に仕掛ける。マナボムを召喚するから到達位置の注入をお願い」
ナビ「了解」
記憶通り悪神ラド神は地下1000mに潜んでいた。マナボムと羅針の宝珠のコラボで地中機雷を投下する。
僕「ナビ、マナボム10枚召喚、空間展開、位置注入、発射」
マナボムの十王曼荼羅が地中に沈んでいく。マナボムは1分で計画位置に到達し、発動を待機する。
ナビ「優斗、全てのマナボムが指定の位置に到達しました。ラド神を地中から追い出しましょう」
僕「了解。マナボム発動」
あたり一面が揺れた。マナの息吹から悪神ラド神が苦しんでいる様子がうかがえた。
ナビ「ラド神が浮上してきました。後30秒で地表に到達します。準備を」
僕「出る場所は何処?」
ナビ「右前方30mです」
ラド神が地上に出る。姿は人間ではなかった。見た目は白い火の玉のようであった。ラド神からブーンという音が聞こえた。プールの殺菌剤のような匂いもした。僕はラド神を追尾するように設定したマグプリを発射する。
マグプリの十王曼荼羅は10mの球状に広がり、白い火の玉をを包みこむ。白い火の玉はマグプリに捕らえられ、籠の虫状態になった。白い火の玉が籠に近づくとバチッという音とともに弾かれる。白い火の玉はマグプリの外に出ることができない。
僕「フリーザ召喚、空間展開、発射」
フリーザの十王曼荼羅はマグプリに弾かれることなく通過し、ラド神に命中発動する。命中した瞬間、白い火の玉の火が消えた。火は白いもやとなる。羅針の宝珠で確かめると、ラド神の反応はなかった。悪神ラド神の討伐は完了したようだ。僕はマグプリを解除した。マグプリの解除跡を調べたが、白い粉のようなものがうっすらと積もっていた。これがラド神の亡骸なのだろうか。雨か風が吹けば簡単に消え去るだろう。確認を終え立ち去ろうとした時、白い粉からもやのような浮遊霊が湧き上がる。僕の魂魄の神力が発動しその浮遊霊を取り込んでしまう。僕は久々に自分のステータスを確認することにした。
優斗のステータス
レベル 9
HP 40
EP 48000/48000
MP 350/350
エナ力 2000/2000
マナ力 70/70
攻撃力 32
守備力 38
持久力 51
精神力 28
知力 36
体力 45
俊敏 34
器用 92
顕精の宝珠 2200億
スキル 瞬動(6.3)
時刻は11時、悪神ラド神の討伐完了を天聞の宝珠で電話した。
十王「すぐ参れ」
僕は十王空間に転移した。
【現世】 ミナミちゃんは僕の宝物
僕が十王堂につくと、十王堂の前には十王様たちが並んでいた。僕は十王様の所まで進み、膝まづいた。
僕「悪神、ラド神を討伐しました」
ナビ「悪神、ラド神の討伐、確認した。これで悪神、ラド神の未来は閉じた。お主の働きは見事であった。褒美は何を望む」
僕「僕とミナミ、姉は十王様に命を助けて頂きました。僕はそれだけで十分です。もし褒美を頂けるのであれば、未来にミナミを失った僕がいます。その僕に褒美を与えていただけないでしょうか」
ナビ「良き案よ、我が使徒よ。その心根天晴なり、その働き天晴なり、天晴なり・・・」
十王様はいつもの様に歌を歌われる。今日は歌だけでなく踊りも踊られている。
僕はミナミちゃんのことが気がかりで、周りを目で探したがいなかった。十王様に聞きたいが、歌と踊りの最中だ。十王様の踊りが終わるまで待つことにした。
僕「十王様、お預けしたミナミはどうなったでしょうか」
ナビ「療術は終わった。すこし煩かったゆえ、時を止めておる。今、時を進めた故、飛び出してこよう」
ミナミちゃん、十王様に失礼なことをしたのかな。十分な説明もなしに十王様に会わせてしまったが、時間がなかったから仕方ない。十王様には僕から謝っておこう。そう思っていると、十王堂の扉がバタンと音を立てて開いた。
扉からミナミちゃんが泣きながら飛び出してきた。
ミナミ「ばか〜、ゆうちゃんのばか〜、一緒に居るって言ったのに〜」
そして一直線に僕を目掛け、走り込んできた。僕は飛び込んできたミナミちゃんを受け止めた。ミナミちゃんほどの体重でも、突撃で受けた衝撃は大きかった。衝撃を受けたことでミナミちゃんの無事が実感できた。
僕「ミナミちゃん、十王様にお礼は言った?」
ミナミ「まだ言ってない」
僕「じゃあ、一緒にお礼を言おう」
ミナミ「うん」
僕「十王様、ミナミを助けて頂き、ありがとうございました」
ミナミ「その、ゆうちゃんがいなかったんで、驚いて暴れちゃってごめんなさい。あと、助けて頂きありがとうございます」
十王「反省の色は確かなり。ミナミ、そなたの謝罪を受ける。許そう」
そうか、暴れちゃったのか。十王様が許して下さり助かった。
後は僕の記憶通り、僕は十王様の眷属となり、褒美の名前をもらった。名前は「空時」。あと羅針の宝珠をお返しした。戦友の羅針の宝珠とのお別れはやはり辛かったが仕方ない。他の宝珠神力はそのまま持っていて良いそうだ。
悪神の体と眷属2名も十王様にお預けした。保護中の藤原先生も十王様にお願いした。悪神退治の次の仕事のことを聞いたが、今はないそうだ。「しばしの休暇」を与えられたが、前の経験からいつまでがしばし(・・・)なのか不明だ。
時刻は12時を回った頃だろう。今日はミナミちゃんが一緒なので早めに家にミナミちゃんを送りたかった。
僕「家に帰ろうと思います。よろしいでしょうか」
十王「我が送ろう」
そういって十王様は僕とミナミちゃんをミナミちゃんの部屋に転移させた。
僕「あす、10時だよね。待ってるからね」
ミナミ「うん。その時でいいから十王様のこと、教えてね」
僕「分かった。じゃあ明日」
僕は空影の神力を発動し、ミナミちゃんの部屋を出た。僕も寝よう。でないとミナミちゃんのパワーに負けてしまう。
「空時は良き器なり、空時の神力の片りんを見せた」
「すぐに曼荼羅に頼らずとも空時の力を発揮できよう」
「良き時空の器に成長した」
「空時の力、大切に育てよう」
「ミナミの才も見逃せぬぞ、魅惑の宝珠を作れるやもしれぬ」
「魅惑の宝珠の器か試そう」
「我儘が過ぎるのではないか?」
「我儘は魅惑の宝珠の特性故、必要不可欠。まだ子供、成長を待とう」
「良きかな、良きかな・・・・」
「さてさて、最後の始末を付けようぞ」
「ミナミの情報は記憶の宝珠に写したか?」
「全て映し終えておる」
「記憶の宝珠から生命の宝珠へ」
「新たな命を生み出そう」
「生命の宝珠から育成の宝珠へ」
「新たな命を生み出そう」
「育成の宝珠から自我の宝珠へ」
「新たな命を生み出そう」
【現世】 ミナミちゃんがいない世界
気が付けば今日は金曜日だった。僕は過去改変に夢中で時間や日付、曜日をまったく気にしなかった。ミナミちゃんを助けるという目標は達成できただろうか。僕には確かめる術がない。もうやることがないので何もやる気が起きない。ミナミちゃんのいない世界などどうでもよかった。
午前中、僕は自分の記憶を過去の自分に送った後、家に帰りベッドの上で横になってミナミちゃんのことを考えていた。
過去の自分はミナミちゃんを守るだろう。その世界ではミナミちゃんが無事に成長し、大人になり、子を産み、年老いて死んでいくはずだ。ただ、僕はその世界には触れることも感じることもできない。ナビの説明では、僕はミナミちゃんが死んだ因果の道にいる。ミナミちゃんが生きている因果の道とは決して交わらない。もう何もやる気が起きない。
僕がベッドでうつらうつら考えこんでいると、姉さんが部屋の外から声を掛けて来た。
姉「ゆう、学校の人が来てるよ。話があるって」
学校の人?誰だろう。僕は重い体を起こし、部屋を出た。姉さんと学校の人の会話が聞こえた。学校の人は女性のようだ。藤原先生かな、ミナミちゃんの担任だったし、そんなことを思いながら階段を降りた。
玄関にはやはり女性がいた。姉さん越しに顔を見て、僕は咄嗟に瞬動を発動させた。巫女がいた。悪神ラド神の巫女だ。
巫女だけを処理できない。巫女の立ち位置は姉さんの影だし、それに距離が近い。二人共影空間に取り込み、それから処理しよう。僕はシャドスを召喚する。しかしL板は召喚できなかった。
ナビ「彼女は羅針の宝珠です。攻撃してはいけません」
ナビがシャドスの召喚を解除した。
ナビ「天聞の宝珠を使ってください」
僕「巫女に?」
ナビ「はい」
僕は巫女に天聞の宝珠を使った。彼女の記憶全てが僕に伝わる。悪神に殺されたこと、手先として使われたこと、羅針の宝珠として優斗の中にいたこと、自由の身になったこと、恋人や友達を殺した悲しみを忘れられないこと。
彼女も僕と同じだった。この世に未練を残していない。
「鈴木美咲と言います。学校からの依頼で来ました。臨床心理士をしています。お話できないかなと伺いましたが、来週から学校に来て頂けるとお姉さんから聞きました。少し元気が出てきたようで安心しました。優斗君、今から話をしませんか。話をして、心のもやもやを吐き出すと心が健康になります」
僕「じゃあ、僕の部屋で話したいです。姉さん良いかな」
姉「リビングも空いてるよ」
僕「ミナミちゃんの話をすると泣いちゃいそうで恥ずかしい」
姉「分かったよ。鈴木先生、上がってください」
巫女はミナミちゃん専用折りたたみ飯台の前に座った。ミナミちゃんが僕の部屋に来たときはいつもその飯台の前にちょこんと座ってた。
美咲「人間として会うのは初めてね。鈴木美咲です。羅針の宝珠のことも伝わっているよね」
僕「羅針の宝珠が人間だったとはびっくりだよ。それも悪神ラド神だもんね、さらにびっくりだよ」
美咲「まだその件は終わってないでしょ。美南さんから逃げ出した繁殖子がこの世にいます。まだ人間を使えるレベルじゃないけど、直ぐに成長しちゃうから、早めに処置しないと私みたいな犠牲者が出るからね。私がサポートするから優斗君、頑張って討伐よろしくね」
僕「はい。どうやってサポートしてくれるのかな。また僕の中に戻ってくれるの」
美咲「私はもう人間です。優斗君の中には入れません」
僕「じゃあサポートって、何をしてくれるのかな」
美咲「一緒に行動して、繁殖子の位置を教えます。ちなみに今いる位置は北11.321Km、東8.679Km、標高85.26mです。こんな感じで教えます」
僕「えぇ〜、前は地図に示せたのに、不便じゃん。じゃあ一緒に繁殖子を追ってよね」
美咲「始めが肝心だから言います。私は体力がありません。それに山とかの高いとこ、暗いとこ、暑いとこ、寒いとこ、虫がいる所はダメだからね。一緒に行くのは楽な所だけだよ。行く代わりに待っててあげるから。討伐は優斗君の仕事だから、頑張るんだよ」
僕は来週末に繁殖子の討伐の予定を入れた。美咲の話では繁殖子はランダムに移動しているが、ここら一帯から外には出て行かないようだ。自転車で移動できる範囲なので有難い。繁殖子の大きさも分かっていて、今は体長32cm位だという。まあ、野生のリス程度の大きさを想像すれば良いだろう。
美咲「じゃあ、来週の金曜日に学校に行くから、午後2時に保健室で打ち合わせしましょうね」
美咲こと羅針の宝珠と話して、僕は心のもやが晴れ、心が少し軽くなった。
僕「ありがとう。美咲と話して心が晴れたよ。さすが臨床心理士だけあるね」
美咲「プラシーボ効果だよ。私、本当の臨床心理士じゃないから。そういう設定。でも役に立てて嬉しいよ」
そういって美咲は帰って行った。
【現世】 ミナミちゃんだよね
翌週になり、僕は中学に通いだした。行きや帰りはいつもミナミちゃんと自転車のタンデム走行だったので、一人で自転車を走らせることがこんなに寂しいことだとは思わなかった。授業にも部活の陸上にも気が入らない。ミナミちゃんの存在がいかに大きかったか思い知らされる。僕の関心事は悪神の繁殖子の討伐のみで、後のことはどうでもよくなっていた。
金曜の授業も終わり、僕は保健室に行った。美咲は保健室で待っていてくれた。
美咲「今日と明日、車用意したから。優斗君のアッシーになったげる。でも免許取ってから一度も運転してないから運転は下手だからね」
僕「10km圏内なら自転車にしようか」
美咲「私、体力無いって教えたでしょ。大丈夫、私には十王の加護があるから。事故の方が避けてくれます」
僕「今、奴の場所は分かる?」
美咲「ちょっと待って。西6.324Km、南4.805Km、標高34.2mです」
僕「ナビ、地図で示して」
ナビ「はい。場所は展望公園内です。グラウンドからアスレチックコースに続く道の左側です。地図に位置を図示します」
美咲「展望公園なら車で10分くらいだよ。行こうか」
僕「美咲はナビの声が聞こえるのか」
美咲「当たり前でしょ。私は人間ですが宝珠でもあるのです。ナビが示した地図も見えるからね」
僕は美咲の運転する車で展望公園まで来た。公園に来て、もう一度美咲に繁殖子の位置を確認してもらったが、奴は移動していない。僕と美咲はナビが地図で示した奴のいる場所に移動した。
美咲「ここから西45m、北10m」
僕「ここからは僕一人で戦う。美咲はこの位置で待機でお願いね」
美咲「了解。負けそうだったら粘るんだよ。私が逃げる時間を稼いでね」
僕は繁殖子が隠れている低木の茂みに注意しながら近づいていく。距離は40m。アスレチックの道沿いを進む。広目の神力で付近200mに人間がいないことを確認した。討伐場所の安全は確保できている。距離30mまで近づく。僕はシャドスを召喚して手持ちにした。
その時、茂みが揺れた。僕は反射的にスキル瞬動を発動させた。茂みが揺れると同時に中から光る物が飛び出し、ビョンピョンと跳ねながら僕に向かってきた。シャドスを空間展開し、発射しようとした。
光るなにかが、僕に話しかけてきた。
「ゆうちゃ〜ん、探したよ〜。会いたかったよ〜」
僕はそれを聞いて固まってしまって、シャドスを発射できなかった。それは光るミナミちゃんだった。それも身長35cmの。
服も来ていないマッパの姿で僕に向かって飛び込んできた。僕は泣きながら飛び込んでくるミナミちゃんを受け止めた。軽いし小さいが触ることのできるミナミちゃんのミニチュアだった。
僕「ミナミちゃんだよね。小さくなちゃったね」
ミナミ「そうなんだよ。気が付いたら知らない場所にいた。それに小さくなってた。ついでに光ってた。家に戻ろうとしたんだけど、お家が何処にあるか忘れちゃってた。ゆうちゃんの家に行こうと思ったけど、それもどこだか忘れちゃってた。父さん、母さん、兄ちゃん、ゆうちゃんを探したんだけど、いなくって、それに裸だから人に助けてって言えなかった。泣いてたら猫や変な動物に追いかけられて、何処かわからない所に来ちゃった。ミナミはもう泣くしかできなくて、ここで泣いてた。寂しかったよ〜、ゆうちゃんに会いたかったよ〜」
僕「ここで会えて良かった。僕が見つけたから、もう大丈夫。ミナミちゃん安心して」
ミナミ「うん」
僕「寒くない、僕の上着の中に入らない?」
ミナミ「うん、入る」
僕は上着のボタンを外し、胸との隙間にミナミちゃんを入れた。これで人が近づいて来ても首をひっこめれば隠れることができる。
背中越しに美咲が僕に近づいてきた。ミナミちゃんに敵意を向けたら許さない。そう思い美咲に警告をした。
僕「この子は僕が面倒を見る。討伐はさせないからな」
美咲「討伐は私の仕事じゃないし、それよりその子、裸でしょ。服を作ってあげるから」
そう言って美咲はポーチから小さめのハンカチを出した。ミナミちゃんの身長を計り、ハンカチを折り曲げて長さを調整する。そのハンカチをバスタオルのようにミナミちゃんの胸の周りに巻き付けた。風呂上がりのような感じになる。ミナミちゃんも服ができて嬉しそうに微笑んでいる。
ミナミ「お姉さん、服、ありがとうございます」
美咲「どういたしまして、優斗君に会えて良かったね」
美咲「優斗君、この子は間違いなく悪神の繁殖子よ。優斗君一人では解決できないから、必ず十王様の元へ行きなさい。人間を宝珠に変えたり、宝珠を人間にすることができるお方だから、この子も人間にできるかもよ。私の役目は終わったから帰るわね。来週の金曜日は保健室にいるから、どうなったか結果を教えてね。じゃあね」
僕「送ってくれないのかな」
美咲「あのレンタカーは2人乗りだから、3人は乗れないの。ナビ、優斗君を十王様の所に必ず行かせなさい」
そう言って美咲はさっさと歩いて行ってしまった。
僕は覚悟を決めた。やはり十王様に頼るしかない。もし、十王様がミナミちゃんを殺すと言うなら、僕もミナミちゃんと一緒に死ぬ。ミナミちゃんのいない世界で、生きていこうとは思わない。そう決めたので僕には何も怖いものがなくなった。
僕「ミナミちゃん、これから十王様のところへ行こうか。十王様はとっても偉くて賢いお方だよ。ミナミちゃんがどうするべきか十王様に相談しようね」
ミナミ「十王様?、十王堂の?」
僕「そうだよ」
僕「ナビ、十王様に電話お願い」
ナビ「了解」
【現世】 十王様の使徒として
僕は十王様にお願いをしている。討伐を命じられた悪神の繁殖子は姿や大きさは違えど、ミナミちゃんで間違いない。僕にはミナミちゃんを殺すことはできない。もし、どうしてもミナミちゃんを殺さなければならないのであれば、僕はミナミちゃんと一緒に死ぬ覚悟だ。
僕「十王様、悪神、ラド神の繁殖子はミナミでした。僕にはミナミを殺すことはできません。お願いします。ミナミを生かしてください。ミナミは僕が責任を持ちます。ミナミを僕に預けてください」
十王「空時よ、ミナミの魂は人間であるが、体は悪神である。悪神は人間を餌とする。それは承知か」
僕「いいえ、知りませんでした。では僕とミナミを一緒に殺してください」
十王「空時よ、そなたは我の眷属だ。我の眷属を殺すはずがなかろう」
僕「僕はどうしたら良いのでしょうか?十王様、道をお示しください」
十王「ミナミよ、我らの前に進み出よ。そなたの罪を調べる」
僕「ミナミを殺さないでください。ミナミを殺すならば、僕は自殺します」
十王「心配するな。ミナミは殺さぬ。罪の軽重により、道が異なる。罪を調べねば、ミナミの道は示せぬ」
僕はミナミちゃんを懐から出し、十王様の目の前に行く。そして不安で震えるミナミちゃんに天聞の宝珠で僕の気持ちを伝えた。もし、ミナミちゃんが地獄に行くのであれば僕も行く。もう一人にはさせない。二人で進めば地獄だって楽しい所になる。そんな気持ちを伝えた。天聞の宝珠で僕の気持ちが届いたのか、ミナミちゃんは落ち着いてきた。
僕はミナミちゃんを地面に下し、一歩下がって控えた。
ミナミちゃんの足元から十王曼荼羅が浮かび上がる。十王曼荼羅は光りながら垂直に上昇し、ミナミちゃんの体を通過した。
十王「ミナミよ、そなた何も食らっておらぬのか。ひもじいであろう、これを飲め」
ミナミちゃんの目の前に、ミナミちゃんサイズの湯飲みが現れた。
ミナミちゃんは飲んでも良いか聞きなおし、湯飲みの口を付けた。おいしかったのか2杯目のお替りもお願いしている。
十王「ミナミに罪はない。魂は清浄である。悪神の影響も無い。魂の浄化も必要ない故、再生を与えよう」
僕「ミナミちゃんはどうなるのですか」
十王「ミナミには再生を施す」
僕「助けて、ナビ。十王様の言っていることを僕にわかるように教えて」
ナビ「十王様がミナミさんを人間に戻してくれます。死ぬ前の状態にしてくれるということです」
僕「十王様、ありがとうございます。ミナミちゃん、人間に戻れるよ。また一緒に学校に行けるね。十王様にお礼を言おうか」
ミナミ「十王様、人間に戻してくれてありがとうございます」
十王「ミナミよ、そなたの運は強い。悪神の種子が生まれたてであったが故、魂の主導権を奪うことができた。それに加えて、いまだ命を食らっておらぬ。それ故魂が穢れずに済んだ。後1日、命を食らわなければ餓死していたであろうに。よくぞヒモジさに耐え我慢したな」
ミナミ「あの、ミナミ覚えていません」
十王「良い。ミナミよ、暫く眠れ。次に起きた時は人間となっていようぞ」
ミナミちゃんは眠ってしまった。僕は眠ってしまったミナミちゃんを十王様にお預けした。
十王「空時よ。ミナミが死ぬ因果の道は閉ざす。ミナミの死ぬ因果の道は改変して、ミナミの生きている因果の道に合流させる。調整にはしばし時間が必要だ。1カ月程待つが良い」
僕は日課のトレーニングの早朝ランニングを終えて家に帰った。時刻は午前7時、我が家の朝食の時間だ。
母「ゆうちゃん、さっき叔父さんから電話があったわよ。日曜日、ミナミちゃんが短期留学から帰って来るから一緒に空港まで行かないかって。車は叔父さんが出すって。返事はどうする」
僕「うん。一緒に連れてって返事をしといて。出発する時間も聞いといて」
僕にはミナミちゃんが死んだ記憶があるが、いつの間にかミナミちゃんは死んでいないことになっていた。死ぬ代わりに1カ月の短期留学に行っていることになっている。十王様がミナミちゃんの死んだ世界を調整し、死んでいない世界に合流するための調整をしているようだ。僕の記憶も3週間前からの、それ以前の2週間の記憶が曖昧になりつつある。何はさておき、早くミナミちゃんと再会したい。日曜日が待ち遠しく、学校など行く気分ではないが、仕方なしに学校へ向かった。
今日は金曜日なので部活はない。美咲が来る日なので、保健室に行き、美咲と話をした。
僕「十王様が因果を調整しているみたい。ミナミちゃんが死んだ記憶も曖昧になってきた。明日には忘れちゃいそうだよ」
美咲「そんなの忘れればいいじゃない。死んだ記憶なんて何の役にも立たないわよ」
僕「そうかなぁ。早くミナミちゃんに会いたくて、どうにかなっちゃいそうだよ」
美咲「日曜には会えるでしょ。たかが2日後よ。勉強か運動、仕事をすればあっという間に過ぎるわよ」
僕「仕事か。美咲は十王様から新しい仕事を請け負った?」
美咲「休暇をもらったよ。まあ、優斗君とこうして週一で話すことが仕事かな」
僕「十王様の『休暇』は信用しない方が良いよ。前、『しばしの休暇』をもらって6時間後に呼びだれた。株式会社十王堂はブラック企業だよ」
美咲「あんた、十王様のお気に入りだからじゃない。私にとっては超ホワイトだよ」
僕「え、僕だけブラックなの。やはりそうか。でも十王様には世話になりっぱなしだし。僕はブラックでも良いかな」
ナビ「優斗、十王様がお呼びです」
僕「美咲、十王様様から呼び出し受けちゃった。行くね」
美咲「頑張ってね」
次はどんな仕事だろうか。まあ、行けばわかるだろう。僕は転移用の十王曼荼羅を召喚し、十王空間に転移した。
僕は一生、十王様の使徒として生きていく。もちろんミナミちゃんと一緒にね。
僕の最初の目標は自分の家族くらい守れる男になることだ。十王様から申し付けられる仕事を通して自分を鍛えるつもりだ。
そして家族くらい守れる男になったら、ミナミちゃんをお嫁にもらう。子供は最低でも二人欲しい。
僕はまだ14歳、ミナミちゃんと一緒に後70年は現世を楽しめるだろう。楽しみだな。
終わり