離宮にて 母后との茶会
先週末をコンコーネ領で過ごし、そこで スカイから内示を受けたキャラハンは、
予定通り 月曜日の早朝に王都にもどり、出勤した。
そして 月曜の夜に 王都のタウンハウスに帰宅すると、
すでに、前王妃エリザベスからの正式な招待状が届いていた。
◇
実のところ キャラハンと婚約するまで、
清明はコンコン会の活動のために、転移陣を使って活発に王都と領地を行き来していた。
一方、婚約後は、キャラハンの方が コンコーネ領に居る清明のもとに通うことが増えた。
元々王都で暮らしていたキャラハンは、清明と婚約してから、コンコーネ領と王都との間を一人で転移陣を使って移動していた。
幸いにも 転移陣の費用は清明が負担してくれたのだけど。
「王都で生まれ育ち 今も王都で働いているキャラハンさんが
結婚後、コンラート領で暮らすための準備のために、
週末を使って 王都と コンラート領にある私の館との間を往復してくださるのだから、そのために必要な転移陣を私が用意するのは 当然のことです。
キャラハンさんが、 私同様 転移陣酔いに負けない人で良かったです」
転移陣の費用を折半したいというキャラハンに対して清明は言った。
「転移陣酔いに負けてはいられないくらい、用事がありすぎるのが問題なのです。
結婚したら 一つ所に落ち着きたいですが、そのための手配が大変で。」
溜息をつくキャラハン
「私たちの結婚祝いに、スカイからは転移陣を贈ってもらうつもりをしていますが
転移陣の数には限りがありますから、結婚後は ダーさんの騎乗練習をしてもらった方がいいかもしれませんね」清明
「うーん、そのような予定になっているとは、初耳ですが・・」キャラハン
「今 思いつきました」清明
再び溜息をつくキャラハン。
◇
いよいよ キャラハンが 参内する日が来た。
当日は 王都にあるキャラハンのタウンハウスまで迎えの馬車が来て、彼女を離宮まで運んで行った。
離宮につくと すぐに 温室に案内された。
「ここからは お一人でどうぞ」
案内してきた衛視に言われるままに、
キャラハンは一人で温室の中に入った。
扉を開けて中に入ると、そこはブドウ棚のアーチトンネルだった。
巨峰・ピオーネ・スチューベンと言った深みのある大粒の甘いブドウ
小粒で濃い味のデラウェア、さわやかなマスカット系、甘みが濃縮されたベリーエース、色や大きさも異なるブドウが植えられている。
そのブドウのアーチを抜けると ティーテーブルをしつらえた空間に出た。
そこに ゆったりと座っていたのが前王妃エリザベスだった。
いくら貧乏育ちのキャラハンと言えども、仮にも子爵位継承者、
前国王夫妻の絵姿は幼い頃より見て育っている。
なので 紹介されずとも、そこに座っている人が誰であるかは一目で理解した。
「本日は お招き頂きまして誠にありがとうございます。
キャラハン・テクノクラートと申します。
本日は、コンコーネ産の布を使った服飾類を持参致しました。
母后殿下の御前にまかり越す機会を与えられたことを 感謝いたしますとともに大変光栄にありがたく存じます。」
「スカイから あなたと清明のことは聞いております。
すでにお伝えしたように、ニューファッションで来てくれたことうれしく思います。
今日は無礼講。
まずはお座りになさい。
そして 安心してお話なさい。
ここでの会話は 私の胸一つに納めますから」
キャラハンが着席すると、エリザベスは 手ずから茶を入れキャラハンに勧めた。
「茶菓子も一緒にどうぞ」
キャラハンは、「お点前 頂戴いたします」とあいさつをして一礼ののち 一口頂いた。
茶菓子は 3段重ねのアフタヌーンティーセットだ。
といっても サンドイッチは キュウリではなくフルーツサンド
スコーンにつけるのは、クロテッドクリームではなく、はちみつ・クリームチーズ・ジャム
そしてペストリーはケーキではなく、透明なゼリー玉の中に新鮮なフルーツを閉じ込めたもの。
なので 紅茶も、甘いクリームをはさんだフルーツサンドには、渋めの紅茶、
こってりとしたはちみつやクリームチーズには すっきりとした済んだ味わいのウバ、
あっさり・さっぱりのフルーツゼリーには その繊細な味わいをひきたてるダージリンと3種類が用意されていた。
正式な王国式茶会というのは、3種類の茶菓子にあわせた紅茶を、主と客が互いに選びつつサーブしあうので、会話をあわせるだけでなく、食べる速度も合わせ、会話と同時進行で さりげなく新たなティーポットを交代で用意しなければならないという 高度なテクニックを要するものであった。
それができてこそ 貴族として一人前
言い換えるなら 貴族としての格を示すのが、正式な王国式茶会の目的であり 試練であった。
(さすが テクノクラート家の娘。
子爵位継承者として 恥ずかしくないだけの素養を身に着けているわね)エリザベス
(無礼講といいいながら この試練。
噂にたがわぬ 厳しいお方だこと)キャラハン
コース料理ならぬ 茶菓子一式を食べ終えたあと、母后は言った。
「あなたなら 公爵夫人としてやっていけそうね。
コンコーネ公爵との婚姻後に迎える 最初の王宮節句会を主担して、その実力を示しなさい。」エリザベス母后
(王宮節句会というのは、12節句にあわせて、王宮で開かれる貴族会のことである。
もともとは 女王もしくは王妃が主催し 伯爵以上の女性と公爵夫人が招待される貴族女性の定例会であった。
しかし王妃不在の現在は エリザベス母后の気が向いたときに 時々開かれる懇親会めいたものとなり、招待客の選択もその人数も 毎回変動している。
王宮節句会の主担に指名されるということは、女王もしくは王妃から、全女性貴族の中の最優秀者の一人として認められたということである。)
「栄誉あるお役目を賜り ありがとうございます。
ご期待を裏切らぬよう 全力を尽くしたく存じます。」
「そうね、コンコーネ公爵家の復活をはっきりと示すとともに
あなたが 貴族女性としての品格も教養も身に着けていることをはっきりと印象づけてやりなさい。
私、スカイ、公爵があなたを認めただけのことがあるとあなたの実力を示すのです。」
「かしこまりました。
ご配慮ありがとうございます。」
キャラハンは 深々と頭を下げた。
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