スカイ、清明の寝込みを襲う
スカイは、清明に告げた。
キャラハンの相談相手として自分の母を引き合わせたいと、
清明は 大変 恐縮するとともに驚いた。
これまでスカイが 自分のを両親について口にしたことがほとんどなかったからだ。
◇
「あの その 大変光栄かつありがたいお話だとは思いますが
あまりにも唐突すぎやしませんか?」
スカイから公式に購入した転移陣を使って、キャラハンと一緒に コンコーネ領にある領主館の改装のために戻っていた清明は、
夜中に 突然 領にある清明の館の寝室に転移をしてきたスカイから その話を告げられた時に言った。
◇
(ちなみに この転移陣は大魔法使いであるスカイが製作したものである。
隣町に行く程度の一人用の転移陣ならば、最優秀の王宮魔法使いなら作れるかもしれない。
しかし、領境を超えるほどの遠距離、まして二人用の転移陣を作ることができるのは、
この王国内では 大魔法使いスカイ国王しかいなかった。
そして スカイも 普段は 転移陣を誰かのために作ったりはしない。
それこそ 一人に用立てれれば、我も我もと欲しがる者がでてきて終始が付かなくなるから。
ただ コンコン会開催中のみ、遠方の領主たちが 婚活目的に王都に来る助けとなるように、
自作の転移陣を販売することにした。
ただ たいていの人間は 転移酔いしてしまったので、
最初の1回をお試し利用(無料)をしたのち、再度使いたいと今度は大枚はたいて
高額料金を支払ってまで購入して使うことにしたのは清明とキャラハンだけであった。
❀ ❀
清明が 気前よく転移陣をまとめ買いしたおかげで、
コンコン会の会計係は大いに助かった。
なにしろ、コンコン会で出会った独身者達が幸せな結婚生活に至るようにと
会員への手厚いケアを行なった為、当初の見込みよりも出費がかなり膨らんだのだ。
しかし その予算超過分を補えるほどの金額を 清明が転移陣購入費として支払ってくれた。
しかも 転移陣は国王の無償奉仕により作られている!
なので、国王が熱心にコンコン会活動を推進しようと、
友人のコンコーネ領主に肩入れしようと
費用も時間も すべて スカイと清明が自前で補い、
さらにほかのコンコン会メンバーの為の諸費用まで負担してくれるので、誰も 文句を言わなかった。
確かに 担当者たちの仕事量は増えたけど、
それも結局 同僚である独身官吏たちの幸せな未来につながると思えば、許容の範囲である。
おまけに自分達が余分に働いた分には きっちりと残業手当がついたのだから、
これで文句を言えばバチがあたるってもんだ、というのが大方の意見であった。)
◇
「詳細は キャラハンが来てから話すよ。
それにしても 君の寝室、クラン館にある君の部屋とは ずいぶん雰囲気が違うね」
スカイは、物珍しそうに 清明の寝室を見回しながら言った。
「そりゃぁね、クランで割り当てられた私室は、充分な広さがあったとはいえ一人1室でしたし、
豪勢ではありましたが、クランの共同宿舎で実用優先であったことに変わりはありませんでしたから。
それに この部屋の内装は、私だけでなく うちの家人や キャラハンの考えも反映されてますから。
特に 寝具類やカーテンなど 布製のものの色やデザインを決めたのは、キャラハンです」
「なるほど、布団カバーのすっきりとした青系の縦じま、いかにも君らしい感じだけど、
これもキャラハンのお見立て?」
「はい。私はこのカバーが気に入ったのですが、
同じ柄を敷シーツにすると落ち着かなくてどうしようかと悩んでいましたら、
キャラハンが こちらの 少し濃い目の青系無地・端にライン入りのシーツを選んでくれまして。
洗い替え用には 緑と若葉色のセットもあるんです。
上掛けは 若葉色を基調に 森を上から見たような図柄が入っていて
敷シーツは 深みがった落ち着いた無地の四隅に 若葉色の葉のモチーフがついていて落ち着きます。」
といった会話を交わしながら、清明は お茶のセットを整え、
その一部をスカイに持たせて 夫婦共有の居間へと移動した。
◇
・王宮で国王として、書類仕事と折衝に明け暮れるスカイは どちらかと言えば遅寝・遅起き。
それに比べて コンコーネ領主として殖産興業に励んでいる清明と、宮廷官吏であり社長でもあるキャラハンは早寝・早起きだった。
なので スカイとしては、就寝前の自由時間を使った訪問と言った感覚だったが
清明たちにとっては 寝入りばなを起こされた状態であった。
なので、転移してきたスカイの気配で目覚めた清明は
すぐに、部屋に備え付けのベルセットを使って、
彼女の寝室で眠るキャラハンに連絡を入れた。
「スカイ来訪 夫婦の居間に案内す」と。
・このベルセットは 壁の中に張り巡らした針金と 部屋の中側に取り付けられた端末を使って、物理的に振動を伝えるモールス信号機のようなものだ。
キャラハンも清明もまじめなので、婚約期間中は 同じ屋根の下で過ごしていても清い関係であった。
・さらに言えば、コンコーネ家の間取りは、 夫婦の寝室と居間をはさんで、清明の寝室・書斎と、キャラハンのパーソナルスペースが両端に分かれている。
なので、それぞれの部屋にいるときに 互いに連絡を取り合おうと思うと、それなりに歩かなければいけない。
(二人はまだ婚姻前なので、夫婦の寝室を使ったことがない)
これでは 緊急時の連絡を 互いの間で取りにくい。
というわけで 最初は 非常ベルをプライベート空間に取り付けようかという話も出たのだが、
「いや それならいっそ 一工夫して 伝送管のようなものをとりつけようよ」ということになって、
ベルセットを配線したのであった。
というわけで、清明からの信号でスカイの到着を知ったキャラハンは
急ぎ着換えて、夫婦の居間に向かった。
清明が スカイと雑談しながらお茶の用意を整えて 時間稼ぎをしてくれている間に。
・ちなみに清明とスカイは、お茶のセットをもって、一度清明の部屋から廊下に出て、
夫婦の居間に入った。
一方 キャラハンは、廊下に出ることなく 自分の部屋から夫婦の居間へと移動した。
というのも 清明の部屋から夫婦の移動に直で移動すると、夫婦の寝室を通り抜けねばならぬので
清明は スカイを連れて 廊下周りの移動コースをとったのであった。
◇
「夜分に 押しかけてしまってすまないね」
スカイは キャラハンにあやまった。
「よほどのことが?」キャラハン
「単純に 王としての仕事が終わって、ぼく個人の時間が取れるのが 今になったというだけ」スカイ
「そんなに 遅くまで 毎日仕事をしているのですか?」清明
「というか コンコン会がらみの雑事が多いんだよ。
まったく たんに出会いの場を用意すれば なんて思った過去の自分を殴ってやりたいよ。
はぁ~~~~ 今期が終われば あと10年くらいは国王主催のお見合い大会なんか開くのやめようっかなぁ」スカイ
「すみません。私も その手間のかかる会員の一人で」清明とキャラハンはそろって頭を下げた。
「あー 君たちの件は 僕のプライベート時間を使ってるから。
清明は僕の友達だし、今後は キャラハンさんとも 良いお付き合いをさせていただきたいと思っている。
清明の友人として、クラン仲間として、
彼のことを よろしく頼む」
スカイは 改めて キャラハンに挨拶した。
「こちらこそ いつも、王都とコンコーネ領の行き来に 転移でお世話になっております。
本当に 助かっております。感謝しております」
キャラハンも カーテシーで答えた。
「ゆったりとしたズボン姿でも 優雅に見えるね。
それに 足の形が見える分 カーテシーの美しさが際立つって言ったら ぶしつけかな」スカイ
「そういえば、王都では まだ 貴族女性のズボン姿は・・」清明
「僕は、王都でも田舎でも まだ見たことがないよ。
今 初めて見た」スカイ
「すみません。
コンコーネ領に来てから、いろいろと新しいデザインの着衣に挑戦していまして、
現在 女性の室内着として ゆったりとした長ズボン=パンタロンを
乗馬用にキュロットを試しています。」キャラハン
「キュロットというのは?」スカイ
「一見 スカートのように見えるシルエットの半ズボンです。
やはり 馬に乗る時は 横乗りよりもまたがる方が 体が安定しますから。
本当は 外での作業用に パンタロンほど幅をとらない長ズボンも使いたいところなんですが、それは さすがに スカート姿の女性しか知らない男性たちにとって刺激が強いのではないかとコンラッドさんから助言を受けまして」キャラハン
「へぇ コンラッドと そんな話もしているんだ」スカイ
「この間 お目にかかったときに たまたま」キャラハン
「ふーん」
(そういえば 赤ん坊の僕がコンラッドに預けられることになったのも
母上が コンラッドに頼んだからだった。
案外 あいつ 女性には 優しいんだな)スカイは心の中で思った。
「ところで 今日 僕がここに来たのはね、
君を 僕の母に紹介したいと思ったからなんだ。
僕は独身だから、今でも 王族女性や王宮に出入りする女性貴族・侍女に目を配っているのは母なんだ。
本当なら 母には のんびりとした暮らしをさせてあげなきゃいけないんだろうけど ついつい気が付いたら頼ってしまっていてね。
そして 現在 我が国では 公爵夫人の暮らし方について助言できる人がいるとしたら
それは 前王妃であり今も実質王族女性のトップに立っている母上しかいない。
なので 一度 僕の母といろいろ相談方々話してみたらどうかと思う。
逆に言えば 形だけでも「母と相談の上決めた」ってお墨付きをもらえば
あとは 清明だろうと誰だろうと 君の決定にいちゃもん付けたりできなくなるから。
身びいきかもしれないけど、母は聡明で進取の気取りもあるから
君たち二人の共通の話題ができるかもしれないし
互いに気が合わなくても、彼女が君の邪魔になることはないから
会って損はないと思う。
僕としては 母との会談がきっかけとなって、少しでも君の負担を減らせることにつながればいいなと 思うんだけど、
ぼくは 女性の気持ちに疎いから
こうした点に関しては、ごめん よくわからないんだ。」スカイ
「忌憚のないお言葉 ありがとうございます。
私としても 貴族生活に詳しい年長の女性に相談できればと思うことが多々ありますので、ご紹介いただくのは 非常にありがたく思います。」
キャラハンが 言葉の後にお辞儀をするとき
清明も一緒に頭を下げた。
「一応、公式には、
僕の友人であるコンコーネ公爵清明の婚活に関心を示した母上に、
”清明は、コンコーネ領の布製品を使って 婚約者が新しいファッションを作り上げた”と
清明が 僕に嬉しそうに話していたと伝えたところ、
母が、『あなたをお茶に招待したい、
その際には コンコーネ領の布を使ったサリーを着て来てほしい、
さらに、君がデザインしているほかの衣装の見本も持ってきてほしい』と言った。
と発表する予定だ。
だから、改めて招待状を送るから、そんな感じで来てくれるかな。」スカイ
「ありがたいお言葉でございます。
ただ キュロットやパンタロンのデザインは、私のオリジナルではなく
ミューズさんから頂いたアイデアなのです」
「あっ そうか。そうなんだ。
じゃあ もし アイデアの出どころを聞かれたときには
清明から引き合わせてもらった ドラゴン・クランの仲間との雑談の中から生まれたものだと言えばいい。
どっちみち 君たちの結婚式には、クラン仲間を招待するんだろう?」スカイ
「私はそのつもりですが、まだ そこまでの確認というか打ち合わせまでは進んでません」清明
「うん だから 個人を特定するほどの詳細を話さず、「仲間との雑談」ってぼやかしといてくれたらいいよ。
クラン関係の話って 結構 気を遣わなければいけないんだ。」
スカイは キャラハンに説明した。
「はい そのように清明さんからもうかがっています。
実際 私も ほとんど何も聞かされていません。
必要最小限のことしか。
それでも その限られたかかわりの中でも、本当に助けられてばかりです。」キャラハン
「それだけ 清明は 君のことを大切に思っているんだよ。
そして 僕たちにとっても 清明が 大切な仲間なんだということを
今は しっかりと覚えておいて欲しいな。」スカイ
「はい。」
キャラハンは 軽く目礼し
清明は 嬉しそうな表情でスカイに眼をやった。
「ところで キャラハン、君のオリジナルのデザインの服はないの?」スカイ
「サリーは 清明さんにも伝えましたが、古い文献に載っていたものを再現・アレンジしたものです。
今は、女性が馬にまたがって騎乗するときの乗馬服を思案中です。
そのう 騎乗のしやすさだけではなく、
男性の視線が気にすることなく、これまでの横乗りを見慣れた方からも違和感なく受け入れられるデザインを考えています。」
「それが完成したら チッチと母上が喜びそうだなぁ。」スカイ
このときスカイが見せた柔らかい表情に 清明は驚いた。
これまで見たことの無い表情だなと。
(スカイにとって 母君とチッチさんは ほんとに大切な人なのですね)清明は心の中でつぶやいた。
「茶会が成功するといいね。
そしてなによりも、君自身が必要としている援助が得られることを 僕は願っている。
だから無理して 一度に成功させようとなんて思わなくていいから。
君に無理をさせると、今度は僕が清明から叱られるから」
そう言ってスカイは笑った。
「ありがとうございます。
くれぐれも キャラハンさんのこと よろしくお願いします」
清明は スカイに向かって 深々と頭を下げた。
そんな清明に 胸を熱くしつつ、キャラハンも スカイに頭を下げた。
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