コンコーネ公爵家と清明の家人
一連のお家騒動の末、一時は爵位と領地が王家預かりとなっていたコンコーネ家。
それゆえ、一時期 行方不明扱いになっていた清明がコンコーネ公爵家を継ぎ、正式に領主として領地に赴任した際には、新たに家人を雇わねばならなかった。
というのも、清明は物心ついたときには すでに別宅で育てられていたので、本家勤めの者とは全く縁が無く、
別宅に居たお世話係達は、疫病が流行ったときに離散、その大部分は病死、運よく生き残ったごく少数の者も犯罪に走っていたからだ。
清明自身、行方不明扱いされていた間は、ドワーフギルドで護衛の仕事を請け負う旅がらすだったので、スカイやボロンと出会うまで、特に 誰かと深い付き合いをすることのない生活であった。
スカイとボロンがドラゴン・クランを立ち上げた時から、初期メンバーとして在籍していた清明は、
実家とのつながりをスカイ皇太子(当時)により確認してもらったのち、
いずれコンコーネ公爵家と領地を継ぐときに必要な、あれこれを学び始めた。
スカイや、すでにドワーフギルドでひとかどの人物であると認められていたボロンの薫陶を受けながら。
それゆえ、清明がいよいよコンコーネ領主として赴任する際には、
家人の採用に当たっては、スカイが人を紹介した。
また、領地運営には、しばしばドラゴン・クランの面々が協力したり、ドワーフギルドと提携していた。
◇
コンコン会に参加中の清明は、しばしば 王都にあるドラゴンクランが所有する「クラン館」で寝泊まりしていた。
この「クラン館」というのは、実は スカイの青年時代、まだ一介の王宮魔法使いと名乗っていた頃、前国王からスカイに下賜された館であった。
スカイが ボロンたちと出会い「ドラゴン・クラン」を結成した時に、
このスカイが王都に所有していた館と土地を、「クラン館」として登記しなおしたのであった。
このクラン館の敷地内に立ち入ることができるのは、クランメンバーのみ。
そこは スカイの魔法で 強力な結界をはって厳重に守られていた。
なので 王都に居るとき、清明は、このクラン館で寝泊まりしていたが
キャラハンと会う時には、屋外デートをするか、キャラハンが所有する王都のタウンハウスの一区画を訪問するより仕方がなかった。
そのタウンハウスは、複数の貴族が区分所有する共同住宅で、
キャラハンは そのタウンハウスの管理組合長でもあった。
もともと キャラハンは潔癖な性格であり、さらに厳格な管理組合長でもあった。
なので、当然 管理組合規定により、たとえ婚約者といえども 家族ではない人間を、タウンハウス内に寝泊まりさせたりしなかった。
婚約者の日帰り訪問受け入れは (状況により)ぎりぎりセーフのグレーゾーン扱いである。
というわけで 本日も、清明は 必要書類をもってキャラハンのお宅訪問をして
礼儀正しく要領よく、結婚に向けた必要事項の説明にこれ務めていた。
◇
清明は、コンコーネ公爵家の上級使用人の中でも、特に清明とかかわりの深い家人について説明した。
・カレー・スチュワード前子爵:家令
清明が「ご隠居」と呼ぶ、コンコーネ領全体の差配役
スカイ国王の紹介
元王宮財務部長・王都出身・50代
若い頃は 王国の領主たちの査察官として各地をまわる出張ばかり。
中堅になってからも 王宮で残業続きの毎日だったので
早期退職し、子爵位は長男夫婦に譲り、夫婦で遅ればせのハネムーンを楽しむために
清明の領主就任に合わせて コンコーネ領にやってきた。
コンコーネ公爵就任直後の清明を助けて、館の使用人を始め、領内の主な役職者の面接・採用人事を行なった。
今も 領内各地の書類監査を指揮し、領内の人事管理に目を光らせている。
また 夫婦旅行の際には、領内の視察も忘れない。
(けじめをつけるために 夫婦旅行は全額私費である)
・ヨハン・シュトラッセ:30代 執事
館の管理と男性使用人の人事・事務など
清明が 領主就任前研修のため1年間王都に居た時に知り合った元官吏・総務部出身
伯爵家の次男なので貴族教育はしっかりと受けている。
(王国では、新規に領主として赴任する者全員に、王都での就任前研修が義務付けられている。
ここで 実務から法令・社交に至るまで 領主として必要な素養をみっちりと仕込まれ、
最終試験に合格しなければ 領主として赴任することができない)
・ヨハンの妻リリアンヌもまた、ある伯爵家の長女としてしっかりとした教育を受けて育っていた。
ヨハンと結婚後は王都で 一家を切り回していたが、
夫とともにコンコーネ領に来てからは、
コンコーネ公爵家の家政婦長として 差配をふるっている。
・ハリー :30歳 バトラー
清明の秘書(主に商売関係の事務)兼身の回りの世話係
清明が用心棒だった頃、よく利用していた旅籠の次男。
経理にも明るく、気が利き、清明の身の回りの世話や 接客・取次にも慣れている。
田園地帯で子供をのびのび育てたいというあこがれにより 夫婦で引っ越してきた
・ミッシェル 40歳 :厩舎長(獣医)
ミッシェルの祖父は、元コンコーネ家の厩舎長。
いずれ ミシェルの父も祖父の後を継いで厩舎長になるはずだった。
なので 一人娘のミッシェルは王都で獣医学を学び、郷里に戻った。
父や祖父たちは 先代のコンコーネ家と運命を共にしたが、
ミッシェルは お家騒動中のコンコーネ家とは一切かかわることなく
領内で獣医として独立していた。
しかし ミッシェルの息子が 王都で獣医師の資格を取ってコンコーネ領に戻ってきてからは、
母親であるミッシェルをないがしろにし始めたので、
ミッシェルは ドワーフギルドの獣医採用試験に応募して、新たな人生を切り開こうとした。
たまたま同時期に清明が、新たにコンコーネ公爵として領主就任前研修を受けつつ、自分の家臣となる者を探し始めた。
清明は、領地の産業としてダーさんや伝書鳥の飼育も考えていたので、ドワーフギルドにその方面に明るく コンコーネ領で働く人材はいないかと問い合わせた。
ミッシェルは、人間が飼育する家畜に詳しい獣医師であり、長年 コンコーネ領で 牧畜指導をしてきた実績もある。
さらに ドワーフに対する偏見もこだわりもない。
ドワーフギルドの獣医採用に応募するために、ドワーフ達が使うダーさんや伝書鳥についても学んでいた。
ドワーフギルド/コンコーネ支部としても、自分達が採用を検討していたミッシェルを、新領主の厩舎長として紹介することにより、新たな縁が広がるのは好ましい。
(清明が 子供の頃暮らしてしていた公爵家の別邸は、コンコーネ領外にあったので
お世話になったドワーフギルドも コンコーネ支部とは別の所である)
清明はミッシェルと面談し、彼女ならば 従来の家畜を世話する人間も、
領主として新たに導入するダーさんや伝書鳥の飼育指導員として 招く予定のドワーフ達とも、
うまく付き合い 全体をまとめていけると判断し、彼女を厩舎長として採用した。
ミッシェルは女性であるが、職制においては 従来通り家令・執事とならぶ厩舎長(男性枠)採用である。
◇
ここまで説明した時に、キャラハンは言った。
「そろそろ 役職によっては、男性枠・女性枠という性別分業を見直してはどうかしら」
「実情にあわせて なし崩に緩めていくいくということではいけませんか?
家令・執事・庭師や厩舎長の場合、力仕事をこなす男達を率いる力量のある女性でなければ務まりませんから、当面は 従来通り男性枠でも良いのではないでしょうか。
いずれは その枠の名称から 性別イメージをとりのぞくことができれば良いのでしょうが、さしあたって これと言った名称も思いつきませんし」清明
「たしかにねぇ。
家事・事務・調理など 性別と関係なく職務能力しだいでこなせる職種においても、従来の感覚の延長上で、女性がリーダーシップをとりやすい職種とそうでない職種はありますものねぇ。」キャラハン
「じっさい、うちでは 調理場で働く男たちは、女性料理長の下、
女性使用人側の列に並びますからね」清明
「じゃあ 将来的には、女性庭師や厩務員は 男性側の列に並ぶのかしら。」キャラハン
「もちろんです。
今後 あなたが 我が家の家令・執事やその配下の者達とどのようにかかわっていくかによっても 変わっていく部分はあると思います」清明
「どのように変化していくのか楽しみですわね」キャラハン
◇
(ものごとって、静かに じわじわっと ゆっくりと いつの間にか変化していくものなのですね。
特に何かを 大きく変えようとしたわけでもないのに・・。)
清明は 婚約期間中の二人の会話を思い出し、現状と照らし合わせて思った。
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