もつれた糸 (清明の鬱憤)
コンコン会の窓口より、
キャラハンから、「二人の関係が婚約解消の方向に向かっている」という報告があったので、
その件に関する事情聴取をしたいから 一度 王都のコンコン会の窓口に来るようにと連絡を受けた清明は、ひっくり返った。
「な な 今頃になって
婚約解消の理由が 休日を 私と一緒に過ごしたくないからって
おかしくないですか?」
清明は、自分からキャラハンに婚約解消を言い出したことを忘れ、 思わず、刀を手にした。
(なにしろ あの時は 激高していたので、気が収まったときには、
自分が腹立ちまぎれに何を言ったのか、つまり婚約解消を最初に言い出したのは清明自身であったことを、すっかり忘れていたのだ)
しかし キャラハンと出会ってから 何かと領内の竹やぶで居合切りをしてはストレス発散をしていたので、もはや 彼が憂さばらしにぶった切ることのできる竹林は 残っていなかった。
はっきりって 領内で消費される物干し竿は 向こう10年分くらい備蓄されていた。
これ以上清明が竹をぶった切ると コンコーネ領の竹資源が枯渇して
来年度からは たけのこの収穫が無理になると、領内の農業組合からは厳重注意を受けている状況である。
しかたがないので、清明は 最近 ミューズから教えてもらった拳法の型けいこをした。
突き・蹴り、飛び蹴り・連打、
素早さと集中力・持久力・パワーなど あらゆる要素が高度に要求される拳法は
真面目に取り組むると 結構精神統一に役立つのである。
それから 龍の庭に行って ミューズとコンラッドに泣きついた。
◇
さすがの二人も この問題に関しては お手上げした。
「仕事と夫婦の時間と個人の休養時間のバランス。
これは 夫婦それぞれが違う仕事を持つカップルにとっては
わかりやすい対立点だよね」ミューズ
「どういう意味です?」清明
「つまりさ、キャラハンが結婚してからも管理会社の社長を続けることを
君は 積極的に進めたろ、婚約時に」ミューズ
「はい」
「その仕事は 土日がメインだ。
それもわかってたよね」ミューズ
「そうです」
「ならば 土日は キャラハンの仕事日。
君との個人的お付き合いは無理
そういうことじゃないか」ミューズ
「でも 結婚したら夫婦の時間を持ちたいじゃないですか
それができないなら なんのための結婚ですか?」
「キャラハンは お主の希望に沿って 週に5日の日没後から翌日の朝食まで お主のために彼女の個人的時間を捧げるではないか!」コンラッド
「それは 私も同じです
夜を共に過ごすのは 夫婦の務めではありませんか?」清明
「ならば 週に2日 キャラハンが 自分の仕事に時間を使うことに文句を言うべきではないな」コンラッド
「ですが 毎週1日くらい一緒に過ごす日が欲しいというのは
夫婦として当然の欲求では?」清明
「そのために キャラハンの仕事日を消費する必要はあるまい
夫婦で一緒に過ごす日が欲しいなら、 月~金の間にとればよいではないか」コンラッド
「私にも領主の仕事があります」清明
「キャラハンは 領主婦人の仕事をお主のために引き受け、そのために月~金を充てておる。
領主と領主婦人が ともに月~金まで 領地経営のための仕事を分担して働いているのだから、領主夫妻がともに楽しむ日を、月~金のいずれかの間でねん出すればよい」コンラッド
「それに もともと会社を売却するつもりだったキャラハンに、
婚約が内定した時に会社を継続するように強く勧めたのは 君じゃないか!
その結果 婚前契約には、キャラハンが 王都で会社経営を継続するためにキャラハンが最低限必要と考えたことが記載され、それを 君も確約して契約書が作成された。 違うかい?
つまり、婚前契約書には キャラハンの社長業は 土日がメインであり、社長業の差配に君は口を出さないと明記されてるよね。」ミューズ
「だから 私も譲歩して 月に最低1度のデート日をと言っているのです!」清明
「その結果 キャラハンは 月に1度予定していた自分の休養日が取れなくなると怒っているのだ。
そもそも お主は 領主仕事は月~金、つまり週に2日の土日は自分の休養日のつもりであろうが。
それに対して キャラハンは、お主の要望に応えて 本来売却するつもりであった会社を維持するために土日も働き続けて、自分の休息日の予定すら自分で組むことが許されない状況に陥っておる」コンラッド
「だったら 何も会社経営を続けなくてよい!
と私が言ったら、キャラハンは 結婚しないと言い出したんです!」
とふくれっ面での清明
「ずいぶん ひどいこと言ったんだね。
もし 僕がキャラハンの親なら、娘を振り回すのもたいがいにしろ! って怒るよ」
それまで、清明が持ってきたコンコン会からの通知書を読みながら、静かに 3人のやり取りを聞いていたボロンがぼそりと言った。
「私は振り回してなんかいません!
ただ キャラハンが、私のために会社経営を続けることにしたとか
会社を経営する以上 コンラート領の名誉だの私の名声だのを守るためにきちんと仕事をする必要があるだのと、恩着せがましいことを言ったのが勘に触って
彼女にとったら、業績とか信用の維持の方が、夫婦で過ごす時間よりも大切なんだと思ったら悔しくて・・」清明
「もしかして 君の方から婚約解消って言ったんじゃないのか?」ボロン
「なぜ そうも私を悪者にしたがるんですか! あなたは!!」清明
「だって、君は直情的だけど
キャラハンって 自分の感情を押さえてでも 相手の気持ちや場の和やかさを保つことを優先するタイプだから。
それにさ、この通知書には、「キャラハンからの報告が『二人の関係が婚約解消の方向に向かっている』であったこと、
キャラハンが 君からの結婚生活への要望に沿えない点が列挙されているだけで
彼女から君に婚約解消請求をしているとは一言も書いてないよ。」ボロン
「えっ どこどこ」
今度はミューズが コンコン会からの通知書を手に取った。
「あ ほんとだ。」ミューズ
「でも 彼女は泣いたんです。
そんな 泣くほど 私と一緒に過ごす時間が嫌だなんて!!」清明
ボロンとミューズとコンラッドの3人は 思わず顔をみあわせた。
「どっかで 話がずれている」ボロン
「もしかして 清明が なにかの思い込みに走っているのでは?」ミューズ
「これは 一度 精査する必要があるな」コンラッド
3人は ひそひそとささやきあった。




