初めての対立
(前回の話し合いから1週間たった週末のこと)
最近 いつもキャラハンに譲ってばかりだなぁと感じている清明としては
今回は 少し 押せ押せで臨むことにした。
というわけで、今回の逢瀬では、新婚生活への夢を語ることにした。
「結婚後は、毎週2日は 二人で一緒に過ごしたいですね。
平日は 領内の仕事がありますから、土日の2日間は 完全に二人で過ごす日と決めましょう。
そして平日も、夕食から翌日の朝食までは2人で過ごす時間に決めます!
いいですね♡」
ニコニコしながらも きっぱりと言い放つ清明。
「ちょっと待ってください。
平日の夜を 二人で過ごすのは良いと思います。
私も妻として 領主仕事でお疲れの旦那様を癒して差し上げたいと思います。
でもね、私も 領主婦人としての務めを平日は行っているわけですから、
土日くらいは、私が経営する会社の仕事に集中したいです。
それに 月に1日くらいは、私の完全休養日として独りで ゆっくりと寝て過ごしたいです!」
気を引き締めた表情で応えるキャラハン。
「確か、官吏退職後 しばらくは王都に残って、ダドリーの実地研修を王都で行うって言ってませんでしたっけ??
それって、あなたの会社の運営をダドリーに任せる為ですよね。
なのに なぜ 結婚後も あなたは土日をご自分の会社運営のために使いたいっていうのですか?」
詰問口調になる清明
それに対して キャラハンは穏やかに応じる。
(彼女は いつだって 意見が対立するときほど 穏やかな表情と声で話し出すんだ)と清明は思った。
「ダドリーを試験採用することは決めましたけど、まだ 業務をどれだけどのように任せるかまでは決めていません。
それに 管理会社は 私の会社であり、管理会社の評判はそのまま私の信用につながり
結婚後は コンコーネ家の評判にも関わってきます。
だからこそ、手を抜くことはできません。
そもそも 私は、王都から一番遠いコンコーネ領で暮らしながら、
王都のタウンハウスを管理する会社を経営することは困難だから、売却すると言ったのに
あなたが 反対したんじゃないですか。
その時に 管理会社を続ける場合、あなたは 会社の経営に一切口を挟まないこと、
そして私が会社経営するために必要と判断したことには 全面的に協力すると約束しましたよね。
約束は 守ってください。」キャラハン。
「わかりました。
私のために 管理会社の運営を続けるというのなら、売却してください。
私は、あなたの為を思って、
あなたのこれまでの人生を尊重したいと思って、
あなたの名を冠した「キャラハン タウンハウス管理会社」を保持することを進めたんです。
なにも コンコーネ領の名誉のためじゃありません」清明
「あなたが 私の為を思って言ってくださっていると感じたらからこそ、
あなたの助言に従ったのに
その結果生じることが あなたの気に入らないからって、
急に反対しだすだなんて!
それこそ 私の生き方に口を出して、あなたの思い通りに動かそうとしていることにほかなりません。
そんな あなたにふりまわされた私がバカでした。」
思わず 涙を浮かべて抗議するキャラハン。
「私が あなたを振り回したわけではありません。
私は あなたのことを思うのと同じだけ
結婚生活への思いれがあるのです。
休日を妻と一緒に過ごしたいと願うことのどこが悪いというのですか!
あなたにとっては、結婚して 夫婦の時間を過ごすことよりも
ご自分の仕事とか 業績とか 信用の維持とかの方が大事なんじゃありませんか!?
だったら 私と結婚してくださらなくても結構です。
心配しなくても コンコーネ産の布地の商品開発と販売の仕事は
私と結婚しなくても 請け負わせてあげますから。
あなたにとっては、結婚生活も 所詮は ビジネス、
夫婦の時間よりも 会社の信用の方が大事なのだということが良くわかりました!」清明
キャラハンは 唖然とした。
(なぜ 話が飛ぶの?
夫婦の時間の持ち方について話し合っているはずだったのに
私が 清明さんとの結婚を 自分の事業欲のためにだけに利用してるって話に飛躍してる。
でも この指摘を口にしたら逆効果になる)
と、キャラハン これまでの人間関係の経験から判断した。
(激高している人を前に 誤解だと言っても 火に油を注ぐだけだもの)
「あなた それ 本気で言ってます?」 キャラハン
「100% 本気です」 清明
「そうですか。
私は 今後 一切コンコーネ領とは関わりたくありません!
バカにしないでください。
明日は コンコン会の定時報告の日ですから、婚約解消の方向に向かっていると伝えておきますね。
それでは 今夜はこれでお帰り下さい。」
キャラハンは、清明を 二人が話し合っていた自分のタウンハウスから追い出した。
◇
キャラハンは 衝撃のあまり 何も考えられなくなった。
あまりにもショックで 自分の感情が激しく動き、手足が震えていることには気が付いたけど
その感情の中身が何なのかもわからなかった。
ただ 激高のあまり頭痛が起き始めたので、
(このままではまずい、 文字通り体を壊す)と過去の経験から判断し、ひたすら気を静めるよう心掛けた。
禅の精神である。
キャラハンは これまでも孤軍奮闘してきたので、
一人で精神的危機を乗り越えるためには 己の力で冷静さを取り戻さないと
感情的危機は ダイレクトに己の肉体破損につながり 社会的対応の遅れにつながると、イヤというほど苦い経験をしていた。
対人関係のストレスが 己の許容範囲を超えると 途端に一気に入院が必要なほどの体の不調(=臓器関係の疾病)を引き起こし、院を命じられる状態が発生していたのだ。
だから、平常時には禅の修行を行ない、
精神的危機に対する対応力を高めてきたのであった。
そして こういう時は寝るに限る、不眠なんて贅沢は 一人暮らしの人間には許されないからと ベッドにもぐりこんだ。
◇ ◇
一方 清明は、転移陣を使ってコンラート領に戻り、館の一角ある竹林に入って、竹を片っ端からぶった切った。
この竹林は、清明の居合切りの練習用に 育成していたものである。
1本残らずたたっ切ったあと、 清明は 心穏やかに 眠りについた。
翌朝、執事は、
根本で水平切りにされた竹、「これは 物干しざおになりますね」
節の下を水平に切られた 短い竹の棒、 「これは 一輪挿しや物入れに使いましょう」
唐竹わりにされた切片
「はぁ どうせなら もっと細かく割って下れば 竹箸や竹ひごになるのですが・・
日を改めて お願いしましょうか。
どっちみち もう 旦那様が居合切りできる竹は残ってませんから」
とつぶやきながら 清明が 叩き切った 竹の残骸を回収してまわったそうな。




