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キャラハンと清明:結婚生活の準備編  作者: 木苺
   (その1)キャラハンの配下選び
15/33

ダドリー・シン

・ダドリーの祖父は王宮官吏で子爵だった。

二男一姫に恵まれ 幸せな生涯を送った。


その息子二人は凡庸だったので、王都近郊の地方都市の官僚として 平凡ながらも幸せな生涯を送った。


長女もまた 地元の商家に嫁ぎ、おかみさんとして辣腕をふるって一家を盛り立て

3人の息子を育てた。


この商家に嫁いだ娘が ダドリーの母であった。


平たく言えば、ダドリーは 王都では名の通った「口入くちいれ屋兼質屋&故買屋」の「入り屋」の末っ子であった。



・「入り屋」の家業は

 人材紹介業:求人と求職の仲介

 質草をとっての金貸業

 中古品の売買

である。


つまり金が要り用になったとき、雇い人が必要になったとき訪れる場所=「入り用になったら当店へ」という意味で「入り屋」を屋号としたのである。


ちなみに 入り屋では、基本的に質流れしそうな つまり借りた金を返せなさそうな人からは質草をとらない。


質入れで金を貸すのは、その場で具体的に 実現可能な返済計画を示した人物に対してのみで、それができないなら質入れはお断り、売却をとおすすめすることにしている。


たまに 「超高級品を持ってきて、今は売っても損になるからしばらくは これを抵当に入れて借金させてくれば、毎月の利息分は必ず支払うから、借金全額返済までは質入れさせてくれ、もしくは この品が高値で売れる時が来たら それを売って全額返済する」なんて客もいる。


そういうものについては、相場や品質、売れ筋・流行、借用者の人柄・能力などを見極めて、質草をとったりすることもある。


が、大型家具などを持ち込まれると 

「はっきり言って保管料を別額お支払いいただくか、いっそ リースに出されては?」と提案することもあった。


まあ たいていの客は、「リースに出すくらいなら、自宅などの不動産と一緒に抵当権をつけてくれ」と言い出す。


その辺は 各人各様の価値観・感情だ。


というわけで、「入り屋」の商売は、モノの目利きと相場観・人物評価力・交渉力などなど 各種の高い能力が必要とされる商売であった。


なので 従業員として各種専門要員を抱え、各種雑用係もおり、

店舗の大きさの割には 雇用者数は多かった。


ゆえに3人の息子たちも 家業については 有能な従業員たちからみっちりと仕込まれ鍛えられて育った。



・ダドリーの祖父は 官僚としての働きを認められたことによる一代子爵であり、その3人の子供たちは子爵位継承権さへ持たなかったが、

一応ダドリー達孫の代までは、貴族としての基礎教養を身に着け、その能力ありと認められれば子爵位を申請することはできた。


しかし、ダドリーの二人の叔父・伯父一家は地方官僚としての暮らしになじんで王宮官吏を目指す野心はなかった。そもそも それだけの実力すらなかった。

 仕事人間である父への不満を口にしつつ 父の稼ぎに依存する母に似た息子たち(伯父と叔父)と、そういう男に見合った女たち(おばさんたち)とその子ら(いとこたち)だった。



・一方 ダドリーの母は、有能な人ではあったが、実家の雰囲気に逆らってまで 王宮官吏としての出世の道をまい進する気にはなれず、むしろ 自分の実力を高く評価してくれた商家の嫁として、辣腕を振るう道を選んだ人であった。


なので ダドリーの両親は 実力主義で教育熱心な人たちであった。


しかしまた 人には向き不向きがあることもよくわかっていたので

子供に対しても 努力の必要性を説いても 能力以上の無理はさせなかった。そのあたりは 我が子に対しても シビアに その才能と可能性を見てとる人たちであった。


 言葉を変えれば 愛情も子育ての労も、惜しむことなく子供に注ぎ

できたことを誉め、努力を認めつつも、できなかったことについては現実的対応を促す冷静さをもっていた親であった。


・ダドリーの兄二人は、従業員たちからの期待も背負って 順調に家業を継ぐ方向にまい進していった。


しかし 3番目の末子ともなると、従業員たちからの期待も薄れ、むしろどっちかと言えば「坊ちゃん」扱いの甘い雰囲気が漂う中で子供時代を過ごすことになった。


その影響があったのかどうかは定かではないが、ダドリーは、兄二人が目を向けなかった方面にも広く関心をもって 幅広い一般教養と常識を身に着けた青年となった。


「高い鑑識眼と人当りの良さを持つ頭の回転の速い若者」それが ダドリーに対する近しい者達からの評価であった。



18歳になったとき ダドリーは 悩んだ。

 王宮官吏の道を目指すか否か。

家業は 兄たちがしっかりと切り回している。

両親も健在だ。


なので 自分が 一家の主として「入り屋」を切り回す未来は見えてこない。

分家として何かをやる余地についても考えたが

それらの案は 少年時代に 団らんの場で何気に口に出したものだから

すでに兄や両親たちに実行されてしまっていた。


何事にも時機というものがあるから、そういうアイデアを口にせず自分が抱きかかえていたとしても、将来 自分が実行したとしてそれでうまくいくかと言えばそういうものでもない、ということくらいは 当時の自分にも理解できた。


だから 子供の頃 何気に自分が口にしたアイデアを 家族が実現してしまい、

その結果 子供の頃の自分は褒められ 経済的に豊かな家庭生活をおくらせてもらっただけでなく 将来の家族年金(確定された相続財産のようなもの)を設定してもらえたことを 喜びすらすれ、文句を言ういわれのないことは きちんと理解していた。


ただ 残念なのは、自分が 兄たちのように 家業で一旗揚げる余地のないことであった。それくらいのことは しっかりと見えてしまっていたのだ、18歳のダドリーには。



・そこで 仕方がないので、王宮官吏になった。


一応 自分の家庭的経験も考えて、王宮では 財務・流通部門で働くことにした。


というのも やはり 自分としては モノを動かして富を生み出す(金を稼ぐ)ことにワクワク感を感じたからだ。


しかし 王宮官吏の花形は、子爵となって領主になるコースである。


だが この領主コースというのは、結局 「領民を働かせ、何かを作って売りさばいて金儲け、そして 次世代の領民を育てる」つまりは 育成系のお仕事なのだ。

いいかえるなら「じっくり・しんねり・地道にこつこつ・要領よく(時にはったりもあり)」の世界だ。


自分は どっちかといえば 短期決戦で 金とモノを動かし、パパッと成果を上げたいタイプ、なので 領主コースのお仕事ではなく、流通・販売部門で名を上げたいなぁと思っていた。


が、基本 官吏という仕事は、「国全体のバランスをとる=調和をとる」のが主目的なので、そんな 華々しく 花火を打ち上げるような業績を出せるものではない。

 もし「行政改革」なんて 打ち上げ花火が成功するならば

 それは 関係者による自作自演のショーでしかない、

それが 行政・官吏の実態なのだ。


というわけで、ダドリーは コツコツと仕事をして、周囲からの信頼を勝ち得ながらも 内心では 物足りない思いを抱いて日々を送っていた。


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