離宮にて ニューファッションのお披露目
離宮にある温室での茶会は、正式なコースがおわったあとも続いた。
今は 各々が 手酌で自分の好みの茶を飲み、おまけの軽食をつまんでいる。
エリザベス母后は禁酒&カロリー制限中なので、スカイ特性の各種の花の香を抽出して茶葉に移したアイスティーを飲みながら言った。
(尚 このお茶は 作るのに手間暇がかかるので スカイは母君の為にしか作っていない)
「これからの王国では、王族と貴族は 文化と伝統の継承者として
儀礼や作法を正しく身に着け 当代の者達に規範を示し、のちの世にしっかりと伝えていかなくてはなりません。
これまで 殖産興業につながる経済活動とそれを支える社会的枠組みの維持管理構築は、官吏登用とあわせ 才ある者を国王が認め叙爵するとともに、領主任免を能力主義にすることで推進してきました。
その結果 貴族家の存続と血統による爵位継承に揺らぎが生じる一方、
かつて王家と共に文化と伝統の保持を担ってきた公爵・伯爵家の中に、その意義を忘れその責を果たせぬ者が居座ろうとすることが増えてきたました。
あなたはテクノクラート伯爵家の一員にふさわしく、しっかりとした教養と知識を身に着けていますね。
さらに 不遇な境遇にあっても しっかりと子爵位継承者としての立場を守りぬいてきました。
ですから これからは、あなた自身が叙爵するにふさわしい存在であると人々の前で示しなさい。
そのために まずは 私が推したいと思えるほどのものを持っているのなら
今からそれを見せなさい」
◇
というわけで、離宮の中の一室に移動して、
キャラハンが持参したコンコーネ領特産の反物やそれらを使った衣服を披露することになった。
キャラハンが 次々と広げる反物を見たエリザベスは、侍女たちを呼び寄せた。
彼女たちは皆しっかりとした後見人を持ち、良家の子女も含まれていた。
エリザベスは、コンコーネ産の反物を使って、侍女たちにサリーの着付けを行なうようにキャラハンに命じた。
エリザベスが呼び出した侍女たちは 年齢・体形も含めた外観がバラバラであった。
キャラハンは 母后にお伺いをたてた。
「まとう方の個性ではなく 外観が引き立つ布合わせに致しましょうか?
それとも まとう方の個性を引き立てる着付けにしましょうか?」
「そうねぇ、侍女長 あなたはどちらが良いですか?」
キャラハンは年配の女性に問いかけた。
「せっかくですから 見た目でインパクトを与えてみたいですね」
「では 全員にそのように」エリザベス
そこで キャラハンは、彼女達の体形や肌色・髪・目の色などに合わせた布を選び、着付け方をアレンジし 持参した小物をあしらった。
「まあ 皆 個性的に美しくなったこと!
それに コンコーネ領では このように多様な布が作られているなんて、興味もかき立てられますね。」エリザベス
キャラハンが 軽く目礼した。
「皆は どう? 着心地は?
少し動いてみて」
母后に促され、女性達は 歩き回ったり、腕をグルグル回してみたり
椅子にこしかけてみたりと 様々な動作を試した。
「案外 動きやすいですね」
「恐れていたほど ずれないので安心しました」
「着崩れの心配なく 体も締め付けず 思ったよりも軽く」
と言いながら 軽くステップを踏んだり クルリと回った侍女長は言葉をつづけた。
「これなら 夜会に出ても 恥ずかしくない見た目ですね」
侍女長の言葉を受けて 若い娘が二人、手を取り合って踊り始めた。
「うーん さすがに 男性的に歩幅の広い踏み出しは恥ずかしいですけど、女性的な動きをする分には ダンスも大丈夫かな?」踊ってみた感想
「あら、ちらりと見える足にときめく男性もいるのではなくて」見ていた女性の一人
「このデザインだと 足が見える心配はないけれど
そういう刺激的なデザインもあるといいわね」
「上品な勝負服ね」
「なんということを言うのです。
品位とは あくまでも内面の美を指すのです。
女性なら 品位・品格で殿方を引き付けなさい!」侍女長
「あら、能力主義になって 教育の機会均等とか言って 下層階級の者の成り上がりを認めた結果
女性を 自らの欲望を満たす存在としか考えない男たちと その子女が貴族階級にはびこってきて
私たち 品位・品格を重んじる生粋の貴族女性の婚活に差しさわりが生じている現状を、
侍女長もご存じでしょう」
「だからと言って 自らの品格を落としてはなりません」侍女長
笑いながら 二人が躍るのを見ていた女性達の会話である。
「それでは 今度は 着る人の要望に合わせた着付けをお願いするわ」
とエリザベスが言ったとき、チッチが入って来た。
「なんだか 楽しそうだから 私も仲間に入れて」
チッチは 母后の前で軽くカーテシーをしたあと、砕けた口調で言った。
「ほんとに 仕方のない子ね」
チッチに声をかけたエリザベスは、キャラハンに向かって軽くうなづき言った。
「この子の希望に合わせた服も何かあるかしら」
「私 馬にまたがりたいのよ。横座りではなく。
品位を崩さず 馬にまたがる服ってあるかしら?」チッチ
そこで さっそく キャラハンは 乗馬用の服一式を取り出した。
(実は、事前に、スカイを通して チッチ用の乗馬服セットを仕立てて持ってくるように言われていたのだ。
そのために必要なサイズ表も受け取っていた。)
そこで、チッチには、
ひざ下まであるロングブーツ
ウェストをキュッと絞った黒のカッタウェイジャケットから覗く
フリル襟のホワイトシルクのブラウス
グレーチェックのキュロットスカートは一見 裾長のフレア―スカートのよう
これは 下に履くジョッパーズ(またずれを防ぐための詰め物の入ズボン下)を覆うように作られている
を渡した。
それらを一式身に着けたチッチを、女性達は取り囲んだ。
「それなら 足の形をあらわにせず馬にまたがれそうね」
母后と侍女長はうなづきあった。
「座ったときに 横からお尻の形が見えないように ふんわりとジャケットの裾がうまく隠してくれる上に、
キュロットのプリーツの入れ方や生地の厚みを部分的に変化させることによって、脚の形もあらわにならず、扇のようにスカートの裾の広がりが生まれているのが素敵」
チッチが 簡単な造りの実用椅子にまたがるように座ってみせたの見て
若い女性達は言った。
「これなら あの苦しくて危なっかしい横乗りから解放してもらえるかしら?」
チッチは 母后にお伺いを立てた。
「とりあえず あなたが騎乗するところを見てから考えましょう」
というわけで、一同そろって 馬場に移動することになった。
(チッチが来たことで、サリーの着付けパート2は 次回への持ち越しとなったのは、残念だけど仕方がないわね)エリザベスは心の中でつぶやいた。
(これから 度々 キャラハンに離宮まで来てもらいましょう。
彼女が 立派に公爵夫人を務められるように、
そのためには 彼女が幸せな結婚生活が送れるように
そのための準備を応援することは、先輩女性としても、
前王妃であり 未婚の現王の母后としても 当然の務めですから。)エリザベス
※厳密にいうと スカートのように見えるパンツは 裾の長さにより
スカンツ:七分丈~マキシム
スカーチョ:七分丈前後
キュロット:短い丈
と呼び分けるようだ。
本文では 丈の長さがアバウトなので、「スカートのように見えるパンツ=キュロット」として扱っています。 すみません。
※ 土日祝休日は 朝8時
平日は 朝7時の1回投稿です




