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第五話「三歳差」8/1


 三歳下のその男は、他のどんな年上の男よりも頼もしい、異様なまでの落ち着きを纏った存在だった。



 約束通り火曜日の夜、一希は優利を晩飯に連れて行ってくれた。場所はカレー屋……ではなく、彼がよく行くらしい個室のある海鮮居酒屋だった。

 酒に弱い優利だが、居酒屋の雰囲気は嫌いではない。好きな料理を選んで食べられるし、“金銭感覚が違う”一希が通うような店は、そもそも料理自体のレベルが違う。

 メニュー表を見る限りはそれでもまだ庶民寄りであろう店の個室にて、四人掛けの席に向かい合って座る。とりあえず一希の分のビールと自分の分のジンジャーエールを注文し、残りは飲み物が来てから適当に決めてもらうことにした。

「お疲れさん。相変わらず、スーツの似合う男やな」

 くくっと欲望を隠すことなくそう言って笑う一希に、優利も「カズもお疲れ。お前こそ」と好意を余すことなく伝えてやる。

 仕事帰りにそのまま合流したので、お互いスーツのままなのだが、ビジネススーツの優利と異なり、一希のスーツ姿は確実にその筋の人ファッションだ。こんなところを仕事関係の人間に見られたら問題になるので、敢えて今日は一希に“甘えた”。

 一希とは説明の難しい関係だと思う。『悪友』『親友』と単純でそれなりに深い関係の呼び名はすぐに出てくるが、自分達が抱えている感情は、そのどちらにも当て嵌まらない。

 性欲を伴った友情、というのが一番近いのだろうか。愛情、とも言えなくもないが、純粋なる恋愛感情なのかと問われると、また違うような気がする。そんな感じだ。

「やべーぐらい、いい男」

 言葉にせずとも読み取ってくれる拓真とは異なり、一希は敢えて感情を『伝えられる』ことを喜ぶ。言葉でも行動でも、はっきりとした反応が好きなのだ。その証拠に普段の彼も、少ない口数のなかに好意や気遣いをいつも詰め込んでくれている。

「犯されたいくらい?」

 まだ、駄目? と、瞳と言葉、両方で犯されて、ゾクゾクした。その瞳で見下されながら、その言葉で愛を囁かれる。そんな“未来”を夢想してしまう。心ではネコ役なんてやりたくないのに、一希の前では従っていたくなる。そんな自分に“気付いた”のは、彼に『苗床』だなんて、いやらしい呼び名で呼ばれたからで。

――犯されたい。

 ストレートに性欲をぶつけられることに、抵抗がなくなってきている。今もその手に触れたくて、今尚優利を捉えて離さない鋭い瞳にねだるように視線を絡ませてやる。うん、と頷く仕草をすれば、それだけで興奮から唾を飲んでしまった。

「……」

 一希の口がいやらしく歪んだところで、注文していた飲み物が届いた。そのまま何事もなかったかのように一希が食べ物を注文し始める。何も相談なんてしていないのに、優利の好物ばかり頼んでくれているところに笑みが零れた。けっこう一希も腹が減っているようだ。

「この後、寄ってもええ?」

 店員が個室の扉を閉めるのを確認してから、一希が意味深にそう尋ねる。どこに、とも、なんで、とも返すことを許さない瞳。そんな目に今夜は、アルコールなんかよりよっぽど酔いそうで。

「朝まで、おる?」

「……俺の前だけでしか言うなよ」

 くくっと笑って乾杯し、二人共、何も言わずにスマホの電源を落とした。


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