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第十四話「嫉妬も背徳も永遠に」8/10(2)


【シード】→【レイド】

 【好きなところ】ほんまに大事なことしか言わんところ。理想の男像そのもの。

 【相手のことをかっこいいなと思ったエピソード】多少問題起こっても動じんとすぐ修正できるとこ。頭の回転早くないとできん。

 【自分だけが知ってる相手のカワイイところ】これ言ったら殺されそうなんやけど……持ってる小物がたまに可愛い。

 【相手からもらったプレゼント】腕時計。ほんまに全部お揃い。

 【相手にあげたプレゼント】ちょっとレア物のフィギュアコレクション。男の子やからな俺らも。

 【二人だけの秘密】本業でも共同プロジェクト温め中。

 【記念日】6/6

 【今だから言える出会った時の第一印象とかエピソード】出会い方は完全にナンパやった。お互いに筋肉褒めてるとか、今から考えたら笑える。

 【次のデートで行きたいところ】ええ雰囲気の料亭とか。いっつも飯連れてってもらってるから、たまには俺にご馳走させて。


 なんというか……覚悟はしていたが、やっぱりそれなりには妬いてしまう内容に、拓真はなんと感想を述べようか悩んでしまった。

 素直に妬けちゃうと甘えて言うか、それともこれくらい何にも思いませんよと余裕ぶってみるか、それとも……と悩んでいるうちに首元に絡まる腕の力が強まって、耳元に熱い吐息が掛かる。

「なー、どうしたん? 妬いてんの? 拓真可愛い。俺の前では他の男のことなんか考えんなよ」

 深いキスが差し込まれて、不安と一緒に蕩けさせられる。まるで優利にとっての恋人は自分だけのように錯覚させる激しい口づけは、嘘ばかりついている拓真にも充分に響くもので。

「ん……優利くん、聞いてもええ?」

「なーに?」

 首筋へとおりていくキスの勢いは止めないまま、優利は拓真の言葉を待つ。本当に、なんでも許してくれているその優しさは、きっと二人の年齢の差でもあるのだろう。本当に理想的な、年上の男。

「共同プロジェクトって何? あと、レア物のフィギュアも気になる」

「あー、フィギュアは俺の愛車のフィギュア。公式の抽選のやからなかなか出回らんやつな。んで、共同プロジェクトってのはまだ形にもなってない段階やから……固まってきたらちゃんと教えたる」

「ちゃんとした仕事なんやね? それなら安心やわー」

「お前こそ取引先で会ったって、どこでやねん? あいつが噛むようなとこ、取引しとったか?」

 拓真と優利はお互いに、業界は違えど営業マンという点は同じなので、定期的に情報交換は行っている。さすがに企業秘密なことをべらべらと教えることはしないが、お互いにとって“有益”な情報は、問題にならない程度には利用し合っていた。そのためお互いの大まかな取引先は知っているし、新規開拓の方向性だってわかっているのだが……

「まー、お互い今は言えんってことでー」

「へーへー」

 馬鹿みたいな探り合いは、自分達には必要ない。引き際を弁えている大切な彼氏は、こんな小さなことで気を悪くなんてするはずなくて。

「なー、たまにはさ……」

「スーツでシたいんやったら、優利くんも着て一緒にヤろうやー。オフィスでするみたいに、シよ?」

「マージ、エロいやっちゃな。パソコンの前、手ぇつけよ。一回抜いてから、な。俺も着たるし」

 そう言いながら優利の手が、拓真の腹を支えるように動いてチェアから立ち上がらせる。拓真もその動きに従って、言われたようにパソコンの前に手をついてやる。そのまま邪魔になったチェアは押しやって、優利が拓真を後ろから優しく抱き締めた。

「立ちバックとか久しぶりちゃうー? めっちゃ興奮するー」

「もっと興奮させたる。ほら、見てみ?」

 ぐっと後ろから伸びた手に顔を正面に向けられた。拓真の正面にはパソコンの画面があって、そこにはずっと【一問一答】の答えが表示されていて。


 【グルー】→【シード】

 【好きなところ】見た目も内面も全部好きー。

 【相手のことをかっこいいなと思ったエピソード】一緒にいる時はどんなことしててもかっこいい。間抜け面で寝ててもかっこ可愛いから。

 【自分だけが知ってる相手のカワイイところ】ペアものめっちゃ喜んでくれる。

 【相手からもらったプレゼント】約束の指輪。なんの約束かは秘密。

 【相手にあげたプレゼント】細かいものはちょくちょくいろいろ。一番大きいものは、僕の気持ち、かも。

 【二人だけの秘密】永遠に一緒って、言ってくれた。

 【記念日】5/12

 【今だから言える出会った時の第一印象とかエピソード】絶対男なんて興味ないって思ってた。間違ってはなかったけど。

 【次のデートで行きたいところ】ベッタベタのデートコース巡りたい。水族館に観覧車に、お祭りとかも行きたーい。


「永遠に一緒って、嬉し過ぎて秘密にしとけへんかったん?」

 そう囁く本人が一番嬉しそうにしている。こんな反応をされてはもう、拓真も白状せざるを得ない。下半身を這う手の動きに、ゾクゾクと芯が疼いて仕方がない。

「う、ん……」

「ずっと一緒やで拓真。ずっと、永遠に愛してる」

 自らが送った文面に目を犯されて、同時に愛する恋人の声に耳を犯される。

「僕、も……愛して、る……っ!」

 遠慮なく突き込まれるご褒美に、心も身体も優利に埋め尽くされる。優利にしては珍しく理性が飛んでしまったような早急な行為が、彼の余裕のなさを伝えてくる。嬉しい、幸せだ。

 互いの指輪を重ねるように、指を絡めて愛を伝える。この言葉に嘘はない。それだけは伝えたくて、拓真は後ろを振り返ろうとして……パソコンの画面に映る優利の、愛のこもった視線に捕まった。

 一定時間操作をしなかったためにパソコンの画面が暗くなっていた。その黒に染まった瞳から目が逸らせなくて、そんな自分に更に興奮が高まって……

「っ……」

「! お前、キーボード壊れるやろが……こんなに零して……」

 言葉とは裏腹に満足気にそう言う優利のことが愛しくて、拓真は背後を振り返ろうとする。だが、すぐに再開された動きにガクガクと震える腰が止まらなくなる。

「べったべた」

「優利くん……好き」

「ん……俺も好き。今日は寝れんな」

 咄嗟に押さえようとして汚れた手を再び絡めて、優利の激しい愛を深く深く受け入れる。



 翌朝の仕事なんて忘れたように、優利の言葉通り、結局明け方まで愛を交わしてしまった。出社の前に一度自宅に戻りたい拓真は、重たい身体を無理やり動かして、ほとんど徹夜状態の頭で眠気覚ましのエナジードリンクを飲みながらタバコに火をつける。深夜のうちに昨日のスーツに着替えている。想像以上に盛り上がってカピカピの汚れがついた部分は、クリーニングで綺麗に取れれば良いのだが……

「あー、盆前やのに、何してんねん俺ら……」

 同じくタバコを吹かしながら、優利も換気扇のスイッチを入れて拓真の隣に座ってくる。先程まで絡まり合っていたベッドに二人で腰掛けて、大きなため息を同時につく。

「ほんまそれー。ちょっとは寝るつもりやったのにー。優利くん今日のスケジュールは?」

「事務所戻れるんがおそらく十九時やな……昼飯食いながら距離稼がんとあかん」

「僕なんて鹿と戯れに行かなあかんし……あー眠ー」

「盆前でみんなピリピリしとるやろし、事故らんように気ぃ引き締めていくぞ」

「へーい。はー、行ってきまーす」

 ため息と一緒にタバコを片付け立ち上がり、飲み終えたエナジードリンクの缶を流しに置いて片手を振る。すると後ろからついてきた優利が「行ってらっしゃい」と、唇に軽くキスをしてくれた。あー、なんだか新婚さんみたい。

「へへ、幸せー」

「稼いでこいよー」

「優利くんも、がんば」

 ぎゅっと抱き合ってから、玄関からまだ暗い外に出る。明け方の空気は真夏の熱に炙られたように生温く、一瞬でべたりと身体に張り付くシャツが不快だ。

――そういやカズから優利くんへの【一問一答】、結局読んでへんな……ま、盆明けには見る余裕できるか。

 ぐっと伸びをしてから思考を仕事モードに切り替える。お盆休み前の最終稼働日――表向きは、の話で“休日”出勤は確定している――である今日は、おそらくイレギュラーも滑り込む忙しい一日になるだろう。優利が忠告してくれたように、運転には気をつけていかなければならない。

 スマホが震える。通知画面にはつい先程まで一緒にいた相手の名前が浮かんでいて、『会えて嬉しかった。愛してる』と完璧な言葉が送られていた。

「っしゃー。頑張んでー」

 近所迷惑にならないように小声でガッツポーズをしてから、拓真はコインパーキングに停めていた愛車に乗り込み、結局は近所迷惑となるエンジンを掛けるのだった。


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