第97話 クラウスが欲しい物
「欲しい物……ですか?」
俺は首を傾げる。
「使いきれない富や広大な領地、王家の血筋の者との婚姻。貴族ならこれらを欲する」
富はフェニやパープルの素材や国家冒険者の依頼を受けて稼ぐので十分だし、領地をもらったところで何をしていいかわからない。王家の血筋……すなわち王女様との結婚というのは物語ではよくある展開だが、好きでもない相手と結ばれるのは抵抗がある。
「特に欲しい物はありません」
結果、俺は正直な意見を彼にのべた。
両親は健在で、可愛い妹がいて、可愛い従魔たちに囲まれて自分がやりたい仕事に就いている。同僚や友人にも恵まれていて毎日が楽しく、これ以上を望むのは強欲すぎる。
「……なるほど、これは確かに手強い。お前たちが苦労するわけだな」
俺の返答にキングス四世はアゴに手を当てるとこの場の皆に話を振る。その場の全員が苦笑いを浮かべていた。
「クラウスは本当に欲がありませんゆえ」
マルグリッドさんがそう呟く。俺の答えが想像していた通りだったからか口元が緩んでいる。
「テイマーたる者、俗世の価値に目を奪われるなどあってはならぬこと。当然ですな」
ダグラスさんはいつも通り口元を引き締めそう言った。
「しかし、この国で一般的に評価するとなると何もいらないでは周囲が納得しません」
「富や名誉でなびかない姿勢は立派だが、国としては扱い辛い」
「後見人になる際、クラウスに何かを強要するようなことはしないと約束しているが、それでも権力なきものが力を持つ危うさを知って欲しいと思う」
ニコラスさんとエグゼビアさんとドワイトさんが次々に忠告をしてくる。
どうやら「何も欲しくない」という発言は彼らにとって不都合なもののようだった。
「あの、発言よろしいでしょうか?」
俺はおそるおそる手を挙げると、キングス四世に許可を求めた。
「許す」
「どうして私が欲しい物というのが重要なのでしょうか?」
会話の流れからして俺に何か褒賞を与えようとしているようなのだが、なぜそのようなことを考えているのかがわからなかった。
彼らは俺を見ると一様に頷き、キングス四世が答えてくれた。
「それはだな、クラウス。お前を貴族にすべきだとここにいる皆で判断したからだよ」
「はっ? えっ?」
あまりにも突飛な答えに頭が混乱する。
「俺が……貴族?」
思わず素の言葉が出てしまったが、彼らはそれを咎めることすらなく俺をじっと見ていた。
「御冗談を……」
結果、からかわれていると判断する。きっと場を和ませるためにありえないことを言ったのだろうと……。
「冗談などではないぞ?」
だが、この場の誰も笑ってはくれない。それどころか、キングス四世は真剣な瞳を俺に向けてくる。
「いや、ただの平民が……。国家冒険者になって半年も経っていないんですよ! 貴族になるなんてありえないでしょう!」
「クラウス、言葉に気をつけろ!」
我を忘れてこの国の国王に発言する俺に、マルグリッドさんが注意した。
「あっ……申し訳ありません。その……私が貴族になど……信じられない内容だったので……」
俺は頭を下げると椅子に座り直した。国王を見下ろすなど不敬な行為だった。
「確かに、異例のことではあるが前例がないわけではない」
ところが、キングス四世は気を悪くした様子もなく会話を続ける。
「そこにいるボイル伯爵家も百年前に他国の侵攻を退けたことによって叙勲したのだし、手柄を立てた者を厚遇するのは国家として当然だ」
「で、ですが……。私は特に手柄を立てたということはないのでは?」
おそるおそる彼に向かって発言をする。
「フェニックスやレインボーバタフライの鱗粉により国内のポーションの生産効率を格段に引き上げ、エルダーリッチやクリスタルコカトリスなどA+ランクモンスターを討伐して国民の平和を守っております」
ニコラスさんが俺の功績を読み上げる。
「だけどそれは、国のためにやったことではなく、商売としてであったり、任務の一環で行ったことですよ?」
金銭で雇われて対価を得ただけにすぎず、それを国から手柄として認めてもらうと言うのは乱暴な話ではなかろうか?
それがまかり通るというのなら、誰でも簡単に貴族になれてしまう。
「今挙げたのはどちらかというと他の貴族に対する大義名分だ。実際、貴族になれるかどうかはここからが本題だ」
マルグリッドさんはそういうと国王を見た。
「さて、クラウスよ。余としては……いや、我が国としてはどのようなことをしてもお前をこの国に取り込みたいと考えている。その理由はわかるか?」
俺は首を横に振る。
「お前が近い将来脅威となる可能性があるからだよ」




