第92話 VSクリスタルコカトリス
森を抜けると、少し開けた場所に出た。
崖下から水が激しく流れる音が聞こえる。周囲に岩に囲まれており、先日の討伐場所にどこか似ている。
「皆さん、武器を抜いて注意して……」
嫌な気配が漂い、俺たちが岩を注目していると、その陰から一匹のモンスターが姿を見せた。
『コク……リコ?』
鳴き声をあげこちらを見ている。周囲に遮るものが一切なく、俺たちは正面から互いに睨み合っていた。
「何だ……こいつ?」
見た目はコカトリスと左程変わらないのだが、全身を覆う羽根は青く透明だ。
「コカトリスに似てるけど、全身がクリスタルでできている?」
「突然変異の亜種? 変異種は元のランクより二つは上と考えておいた方がいいわ」
つまり、A+ランク、エルダーリッチと同等ということになる。
「皆、決して油断しないように……えっ?」
忠告を飛ばしている間にも、変異種のクリスタルコカトリスが突進してきた。
――ギンッ!――
「くっ!」
初撃はどうにか防いだが、間髪いれず次の攻撃が来る。その攻撃は執拗で苛烈。俺はあっという間に防戦一方に追い込まれてしまう。
「全員散開! 死角から攻撃してクラウスを援護するんだ!」
リッツさんの号令で国家冒険者が散会し、それぞれの武器で攻撃を加え始める。
「なっ!」
だが、クリスタルコカトリスは俊敏な動きでその攻撃のいくつかを避けて見せた。
「まるで背後に目があるみたいな……」
ハンナさんの驚き声が聞こえる。
それと同時に、尻尾の蛇が口を開き牙をのぞかせた。
「そうか、蛇が……」
通常のコカトリスと同じく、鶏の身体に蛇の尻尾がある。それにキャロル並みの俊敏性を備えている上、クリスタル化の攻撃まで持っている。
『リコクリッ!』
そんな厄介なモンスターが執拗に攻めてくるのだから、脅威でしかない。
「だけど、俺だけに集中してくれるなら望むところだ」
もう誰も犠牲にしたくない。自分が負けなければどうにかできるというのは気が軽かった。
「キャロル、約束通り俺は一撃も受けることはないぞ」
意表を突かれて慌てたが、慣れてしまえばキャロルよりは遅い。
「凄い、あの猛攻を耐え抜いている」
「あれが……テイマーのクラウス」
「俺たちの武器じゃダメージを与えられない。クラウスが頼りだ!」
見かけ通り、クリスタルコカトリスの身体は超硬質のクリスタルでできているようで、国家冒険者が持つ武器で破壊することができなかった。おそらく、ダメージを与えられる武器を持つのは俺だけだろう。
クチバシ攻撃に蛇の噛みつき攻撃、離れたら風の刃を魔法で飛ばしてくるが、それすらも見切って避けてやる。
『コク……リコォ!』
次第に押し込み、クリスタルコカトリスを追い込んでいく。攻撃を受けていて気付いたのだが、このクリスタルコカトリスの行動には何らかの意思があるように思える。
明らかに俺を進ませたくない方向があるようで、そちらにフェイントをかけると面白いように引っかかるのだ。
「はあああっ【ヒートスラッシュ】」
太陽剣にフェニックスの炎の魔法を纏わせ斬撃を放つ。
――ギャンッ!――
鉱石と金属がぶつかるような音がして、クリスタルコカトリスが後ろに押される。
「見ろ! クリスタルコカトリスの身体が欠けたぞ!」
「今がチャンスだ!」
後ろに下がったクリスタルコカトリスに俺は技をどんどん叩き込んでいく。
『コク……リコォ!』
苦しそうな鳴き声が聞こえるが、ここで手を緩めるわけにはいかない。
あまりにも上手く行きすぎて、焦る気持ちがあったせいで完全に失念をしていた。
『シャアアアッ!』
「しまっ……」
クリスタルコカトリスは無抵抗で攻撃を受けることで俺を引きつけ、同時に蛇の攻撃をするために死角を作ったのだ。
避けられるタイミングはない。このままでは俺もクリスタル化されてしまう。一瞬、脳裏にキャロルの姿を思い浮かべると……。
『…………(憤怒)』
次の瞬間、ロックが蛇の口に飛び込んだ。
「ロック⁉︎」
蛇に噛まれたまま足をバタバタさせている。
『ジャアアアッ⁉︎』
『コク⁉︎』
思わぬ伏兵の登場に、鶏の頭も蛇も動揺している。
「今だっ!」
――ギギギンッ!――
『クコオオオオオオオオオオオオオッ!』
剣が翼の片方を落とす。
「いけるっ! あと少しだ!」
『クコオオオオオオオオオ!』
今のダメージでこちらが断然有利になったのだが、クリスタルコカトリスは俺から距離を取り始めた。
「もしかして、逃げるつもりじゃ?」
「ここで逃したらキャロルを救うことができなくなる!」
クリスタルコカトリスが走り出し、このままでは逃げられると考えた俺の頭にある情景が浮かぶ。フェニとパープルが力を合わせてエルダーリッチの魔法を吸収した技だ。
「そうか、あれなら……」
俺は二人のスキルをイメージし再現する。
『クリッ⁉︎』
クリスタルコカトリスの足元から虹色の炎が燃え上がり動きを止める。これだけでは足止めにならない。
「【吸魔の糸】」
魔力を制御すると虹色の炎は糸へと変化し、クリスタルコカトリスの動きを止める。
「よし、捕獲した!」
『リコー!』
クリスタルコカトリスがもがくが、魔力を吸われ力を失いつつあるので糸を切ることはできないだろう。どうにか逃げられる前に押さえ込むことができた。
「やったな!」
「そんな魔法まで使えるのね……」
リッツさんやハンナさん。他の国家冒険者も戦闘が終わったことを喜んだ。
「後はコイツの爪を剥がして錬金術師ギルドに持ち込めば……」
タバサさんとロレインならクリスタル化解除ポーションを作製してくれるかもしれない。
そんなことを考えながら、クリスタルコカトリスに近付くと……。
――ゾクッーー
背筋が凍りつくような恐怖が全身を支配した。
空が暗くなり、途轍もない威圧感が押し寄せる。
上空を見るとそこには、巨大なドラゴンが浮かんでいた。
レッドドラゴンのスカーレットよりも一回り大きな漆黒のウロコを身に纏ったブラックドラゴン。ルビーのような赤い瞳が輝いている。
「どうして……こんなところに……ドラゴンが?」
皆が息を呑む。先程までのクリスタルコカトリスとの戦闘など比較にならない。生物の頂点であるSランクモンスター、最強の幻獣が現れたのだ。
その場の全員が喉元に剣を突きつけられたかのように死を覚悟していると、ブラックドラゴンは口を開いた。
『ウオオオオオオオオオオオオオオ』
魔力を圧縮したブレスが放たれる。
『グリリイイイイ!』
その攻撃はクリスタルコカトリスを直撃し、崖が崩れ、クリスタルコカトリスは激流に呑まれて消えてしまう。
ブラックドラゴンは俺たちの存在に気付いてもいなかったのか、しばらくしてその場を飛び去っていった。




