第75話 引っ越しパーティー
庭の整備が終わり一週間が経過した。
テイマーギルドの協力もあり、荒れ果てていた庭は綺麗に整備され、新たに芝生が植えられている。
家庭菜園と、鶏小屋も用意して、バタバタしていた生活がようやく落ち着いてきたと感じていると……。
「ヤホー」
キャロルが唐突に現われた。セリアは出かけているし、呼び鈴がなった気配もなかった。
『ピエッ!?』
自分のテリトリーに突如現れた天敵に、フェニが飛び上がって驚く。
「どうやって入ってきたんだ?」
これでも、元は貴族の屋敷だ。壁が高く簡単に乗り越えられるものではない。
俺はキャロルに侵入経路について問いただした。
「パープルに迎えに来てもらった」
『…………♪』
すると、キャロルはあっさりと侵入手段を自白する。
パープルはハーブを食べている。どうやら食べ物でキャロルの送迎を請け負ったらしい。
「フェニ、何か嫌がってない?」
キャロルは顔を近付けるとフェニに探りを入れる。一度捕まると飽きるまで離してもらえないのでそのせいなのだが……。
『ピピピッ!』
翼をはためかせ首を横に振るフェニ。まるで猫に睨まれた鶏のような関係にみえる。
「あまりフェニを苛めるのは止めて欲しいんだが……」
本気で脅しているわけではないのだろうが、俺は注意をする。
「ところで、何か用事があったんじゃないのか?」
最後にあったのは屋敷の掃除の時以来だが、彼女がこうして訪ねてくるのは大抵なにか用がある。
「ん、マルグリッドから通達があった」
「依頼ならまだ受けられないと伝えてあるはずだが?」
屋敷の整備が済むまでは国家冒険者の依頼は受けなくていいと言われているはず。俺が首を傾げていると……。
「それとは違う。別件!」
続きを促す。
「貴族区に屋敷を構えた者は、引っ越して落ち着いたらパーティーを開催しなければならない」と。
「え?」
キャロルの言葉に、俺は固まるのだった。
「一体、どういうことなんですか?」
マルグリッドさんの指示に困惑した俺は、翌日彼の下を尋ねた。
「まだ引っ越してゴタゴタしてますし、国家冒険者の仕事も受けられていないというのに……」
屋敷の支払いなどで後手に回っていた。
「そのことに関しては申し訳ないのだが、実は妙な噂が出てきてな……」
「それって、従魔絡みですか?」
俺の問いにマルグリッドさんは首を横に振る。
「『クラウス家の整備を手伝った際に振舞われた肉が美味しすぎる。あの味が忘れられない』とね」
それは心当たりがありすぎる。
「テイマーギルドがクラウスの家の整備を手伝った話は貴族に流す予定ではあったが、その際についでに流れた話に貴族が食いついたのだよ」
マルグリッドさんは詳細を俺に話して聞かせた。
「レア素材の融通などであればこちらも跳ねのけるのは構わないが、貴族エリアに家を構えたのだからパーティーを開くのは当然だと要望をされては流石に無視することはできない」
それが暗黙のルールだと言われてしまうと仕方ない。
俺が住んでいた街でも慣習については無視できなかったからだ。
「貴族の食に対する執着心は甘くない。今回ばかりはパーティーを開いてもらうしかない」
彼がここまでキッパリ言うからには拒否権はないのだろう。
俺は冒険者ギルドを出ると、どうすればよいのか考えるのだった……。




